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汐
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しお
ふりがな文庫
“
汐
(
しお
)” の例文
櫛形
(
くしがた
)
の月が空にかかっていた。天福寺の本堂が影絵のように見え、風はないが海が近いので、空気に
汐
(
しお
)
の香がかなりつよく匂っていた。
あすなろう
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
汐
(
しお
)
ふきだのというおかしい面をかぶった者がありますが、そのうちであの口のとんがった汐ふきそっくりの顔をしていたのです。
怪塔王
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
この
汐
(
しお
)
に、そこら中の人声を
浚
(
さら
)
えて
退
(
の
)
いて、
果
(
はて
)
は
遥
(
はるか
)
な
戸外
(
おもて
)
二階の
突外
(
とっぱず
)
れの角あたりと覚しかった、
三味線
(
さみせん
)
の
音
(
ね
)
がハタと
留
(
や
)
んだ。
伊勢之巻
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
汐
(
しお
)
さきをみてなんてことでなしにズバリとそうあたまから若宮一座というものを押し立てゝしまおうとかゝっているんだ。
春泥
(新字新仮名)
/
久保田万太郎
(著)
ベートーヴェンが万人の悩みに代って苦しんだと思われるその苦渋の芸術が、岸壁を洗う夜の
汐
(
しお
)
のように、ひたひたと我らの胸を打つではないか。
名曲決定盤
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
、
野村長一
(著)
▼ もっと見る
汐
(
しお
)
くさい旅客と肩をあわせながら、こんなところまで来た私の昨日の感傷をケイベツしてやりたくなった。昨夜の旅館の男衆がこっちを見ている。
新版 放浪記
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
両人「なアに勿体ねえ、少しぐらい
汐
(
しお
)
が入っても此の場合だ、飯と聞いちゃア食わずには
居
(
い
)
られねえ、
何
(
ど
)
うか下せえな」
後の業平文治
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
万葉の中には「田子の浦ゆうちいでて見れば真白にぞ
不尽
(
ふじ
)
の
高嶺
(
たかね
)
に雪はふりける」「わかの浦に
汐
(
しお
)
満ちくれば
滷
(
かた
)
をなみ
蘆辺
(
あしべ
)
をさしてたづ鳴きわたる」
人々に答ふ
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
わしは
檣頭
(
マストヘッド
)
から
汐
(
しお
)
を
噴
(
ふ
)
いている鯨のやつらをちゃんと見たのだから、君がいかに
頭
(
かぶり
)
を横にふっても、そりゃあ駄目だ
世界怪談名作集:09 北極星号の船長 医学生ジョン・マリスターレーの奇異なる日記よりの抜萃
(新字新仮名)
/
アーサー・コナン・ドイル
(著)
隅田川は、いま上げ
汐
(
しお
)
である。それがほぼ八分の満潮であることは「スカールの漕ぎ手」室子には一眼で判る。
娘
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
東京が
大分
(
だいぶ
)
攻め寄せて来た。東京を西に
距
(
さ
)
る唯三里、東京に依って生活する村だ。二百万の人の海にさす
潮
(
しお
)
ひく
汐
(
しお
)
の余波が村に響いて来るのは自然である。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
そのうちに
汐
(
しお
)
がさして来て、岩の上が狭くなったから、どこかへ泳いで行くつもりで、
父
(
とっ
)
さんの耳に口を当て、「待っておいで……
讐敵
(
かたき
)
を取ってやるから」
爆弾太平記
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
おとらが
汐
(
しお
)
を見て、用事を
吩咐
(
いいつ
)
けて、そこを
起
(
たた
)
してくれたので、お島は
漸
(
やっ
)
と父親の傍から離れることが出来た。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
王
(
おう
)
婆もまた、もちろん今日の寸法は呑みこんでいる。いい首尾を作るにも、男の
逸
(
はや
)
り気を
撓
(
た
)
め、女の待ち
汐
(
しお
)
を見、そこの
櫓楫
(
ろかじ
)
の取り方は
媒
(
なかだ
)
ち役の腕というもの。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
船体は波の下に沈んだまま、
汐
(
しお
)
に引かれるように西のほうへ流れている。波と風の中でその日も終った。
呂宋の壺
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
「あれはたしか、
長唄
(
ながうた
)
の
汐
(
しお
)
くみでしたっけかねえ。あの踊りはいいねえ、——
相逢傘
(
あいあいがさ
)
の末かけて……」
旧聞日本橋:09 木魚の配偶
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
蟹
(
かに
)
はこうして箱のまま汽船の
甲板
(
かんぱん
)
に積み込まれ、時々
汐
(
しお
)
につけられ、時々
蓋
(
ふた
)
を少しあけては古臭いコプラを喰べさされました。そこには夜もなく、昼もありません。
椰子蟹
(新字新仮名)
/
宮原晃一郎
(著)
己
(
おれ
)
は海岸に立ってこの様子を見ている。
汐
(
しお
)
は鈍く緩く、ぴたりぴたりと岸の石垣を洗っている。市の方から塔へ来て、塔から市の方へ帰る車が、己の前を通り過ぎる。
沈黙の塔
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
『叔父さんまだ起きていたの、今
汐
(
しお
)
がいっぱいだからちょっと浴びて来ます浅いところで。』
置土産
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
船と船とが、すれ違いになったとき、方船は黒船の
舷側
(
げんそく
)
にぴったりと吸付いてしまった。いや、吸付いたとみたのは、
汐
(
しお
)
のために、
舷々
(
げんげん
)
相
(
あい
)
摩
(
ま
)
したのだ。方船の生残者たちは
怪奇人造島
(新字新仮名)
/
寺島柾史
(著)
その中に上げ
汐
(
しお
)
の
川面
(
かわも
)
が、急に闇を加えたのに驚いて、ふとあたりを見まわすと、いつの間にか我々を乗せた
猪牙舟
(
ちょきぶね
)
は、一段と
櫓
(
ろ
)
の音を早めながら、今ではもう両国橋を後にして
開化の良人
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
珠運
(
しゅうん
)
馬籠
(
まごめ
)
に寒あたりして熱となり旅路の心細く二日
計
(
ばか
)
り
苦
(
くるし
)
む所へ吉兵衛とお
辰
(
たつ
)
尋ね
来
(
きた
)
り様々の骨折り、病のよき
汐
(
しお
)
を見計らいて
駕籠
(
かご
)
安泰に
亀屋
(
かめや
)
へ引取り、夜の間も寐ずに美人の看病
風流仏
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
案外、これが
汐
(
しお
)
どきというものかもしれない。彼は、手の中で、いたずら書きの紙きれをまるめた。まだ窓に翅をぶつけている蛾を眺めながら、その紙きれを勢いよく屑籠にほうりこんだ。
非情な男
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
そうです。お嬢さまとお信という女中が見付かりません。もうあげ
汐
(
しお
)
という時刻だのに、やっぱり沖の方へ持って行かれたと見えます。そのお信というのは
家
(
うち
)
の親方の姪ですから、家でも気を
半七捕物帳:53 新カチカチ山
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
彼は
大波止
(
おおはと
)
の海岸の方へ向かって、浜から来る
汐
(
しお
)
臭い秋風にふるえながら歩いた。いつもそこを通るごとに癖のように引きずられて立ち寄るシナ店の前をも彼は今気がつかずに通り越していた。
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死――
(新字新仮名)
/
長与善郎
(著)
朝
(
あした
)
は山、夕べは磯、木を運んだり
汐
(
しお
)
を汲んだり、まめまめしく働くうちに、庄屋のお嬢さんに可愛がられ、お嬢さんの頼みで、鋸山は保田山日本寺の、千二百羅漢様の、御首を盗んだばっかりで
大菩薩峠:18 安房の国の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
たとえば、『
座頭
(
ざとう
)
』とか、『
傾城
(
けいせい
)
』とか、『
汐
(
しお
)
くみ』とか、『鷺娘』とかというふうのものは、読む詩としてもある情調を印象するには相違ないが、「叙情詩」として優れたものと言えるであろうか。
日本精神史研究
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
わが国の気候は、
汐
(
しお
)
どきにぴたりとは行きませんですな。
桜の園
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
橋の名も柳がもとのつくだぶねかけて
四
(
よ
)
ツ
手
(
で
)
をあげ
汐
(
しお
)
の
魚
(
うお
)
江戸芸術論
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
汐
(
しお
)
さだまらぬ外の海づら 州
俳句への道
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
はや くれ方のみち
汐
(
しお
)
原爆詩集
(新字新仮名)
/
峠三吉
(著)
細おもてに
無精髭
(
ぶしょうひげ
)
が少し伸びて、
汐
(
しお
)
やけのした顔に賢そうな眼が光っていた。古タオルで鉢巻をし、仕事着に半長靴をはいていた。
青べか物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
階段のかげにうずくまっている一
箇
(
こ
)
の人影——こっちへ顔を出したところをみればそれは例の
汐
(
しお
)
ふきそっくりの怪塔王の顔でありました。
怪塔王
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
と蘆の中に池……というが、やがて
十坪
(
とつぼ
)
ばかりの
窪地
(
くぼち
)
がある。
汐
(
しお
)
が上げて来た時ばかり、水を湛えて、真水には
干
(
ひ
)
て
了
(
しま
)
う。
海の使者
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
茶店の裏はすぐ神田川ですが、少しばかりの
崖
(
がけ
)
になって、折からの上げ
汐
(
しお
)
が、ヒタヒタと石垣を洗っております。
銭形平次捕物控:031 濡れた千両箱
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
「私
真実
(
ほんとう
)
にそう思うわ。明けるともう二十五になるんだから、これを
汐
(
しお
)
に綺麗に別れてしまおうかと……。」
新世帯
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
遥
(
はるか
)
に
川面
(
かわも
)
を見渡すと前岸は模糊として煙のようだ。あるともないとも分らぬ。燈火が一点見える。あれが前岸の家かも知れぬ。
汐
(
しお
)
は今満ちきりて
溢
(
あふ
)
るるばかりだ。
句合の月
(新字新仮名)
/
正岡子規
(著)
ハツラツとした男の体臭が
汐
(
しお
)
のように部屋に流れて来て、学生好きの、八重ちゃんは、書きかけのラヴレーターをしまって、両手で乳をおさえてしなをつくっている。
新版 放浪記
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
波打ぎわから
咽
(
む
)
せあがる
汐
(
しお
)
の香が白く煙っている。洋館の屋根の風車は勢いよく
旋
(
まわ
)
っていた。
かんかん虫は唄う
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
雨上りの夜の天地は
濃
(
こ
)
い
墨色
(
すみいろ
)
の中にたっぷり水気を
溶
(
とか
)
して、
艶
(
つや
)
っぽい
涼味
(
りょうみ
)
が
潤沢
(
じゅんたく
)
だった。
下
(
さ
)
げ
汐
(
しお
)
になった
前屈
(
まえかが
)
みの櫓台の周囲にときどき右往左往する
若鰡
(
わかいな
)
の背が星明りに
閃
(
ひらめ
)
く。
渾沌未分
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
汐
(
しお
)
の流れでもあるのか、水の中に沈んだ船体の
偏揺
(
かたゆれ
)
につれて、帆柱が大きく傾く。そのたびに何人かが海にこぼれ落ち、二、三度、
藻掻
(
もが
)
いただけで、あっけなく波に
嚥
(
の
)
まれてしまう。
呂宋の壺
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
初音町の家を出るまで、
苛立
(
いらだ
)
つようであった純一の心が、いよいよこれで汽車にさえ乗れば、箱根に
行
(
い
)
かれるのだと思うと同時に、差していた
汐
(
しお
)
の引くように、ずうと静まって来た。
青年
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
細おもてに
無精髭
(
ぶしょうひげ
)
が少し伸びて、
汐
(
しお
)
やけのした顔に賢そうな
眼
(
め
)
が光っていた。古タオルで
鉢巻
(
はちまき
)
をし、仕事着に
半長靴
(
はんちょうか
)
をはいていた。
青べか物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
それは質のいい生ゴムでつくられてあり、例の
汐
(
しお
)
ふきのような顔になっており、そして生ゴムの表面は渋色に染めてあった。
怪塔王
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
「何ね、時刻に因って、
汐
(
しお
)
の干ている時は、この別荘の前なんか、岩を飛んで渡られますがね、この節の月じゃどうですか、晩方干ないかも知れません。」
悪獣篇
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
結婚の話を持ち出す
汐
(
しお
)
を失い、銀子に
爪弾
(
つめび
)
きで
弾
(
ひ
)
かせて、歌を一つ二つ
謳
(
うた
)
っているうちに時がたって行った。
縮図
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
海は漫々として広く空は一面に晴れわたりたる処に、海の真中に鯨
汐
(
しお
)
を噴けば、その鯨の真上ばかりに
一塊
(
いっかい
)
の雲ある処を描き出だして、それが天然の景と見え可申候や。
人々に答ふ
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
国から
汐
(
しお
)
の香の高い蒲団を送って来た。お陽様に照らされている縁側の上に、送って来た蒲団を干していると、
何故
(
なぜ
)
だか父様よ母様よと口に出して唱いたくなってくる。
新版 放浪記
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
焼蛤
(
やきはまぐり
)
の
汐
(
しお
)
のかおりに、
龍宮城
(
りゅうぐうじょう
)
の
蜃気楼
(
しんきろう
)
がたつといわれる
那古
(
なこ
)
の
浦
(
うら
)
も、今年は、焼けしずんだ兵船の
船板
(
ふないた
)
や、
軍兵
(
ぐんぴょう
)
のかばねや、あまたの矢や
楯
(
たて
)
が、
洪水
(
こうずい
)
のあとのように浮いて
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
少年は痩せたすばしっこそうな躯つきだし、色こそ
汐
(
しお
)
やけで黒いが、おもながの顔は眼鼻だちが際立っていて、美少年といってもいいだろう。
青べか物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
汐
漢検準1級
部首:⽔
6画
“汐”を含む語句
汐干狩
血汐
汐時
汐留
上汐
引汐
汐風
汐干
汐入
汐汲
夕汐
出汐
潮汐
汐路
初汐
汐鳴
藻汐
汐合
朝汐
一汐
...