摺寄すりよ)” の例文
さやさやとむぐらを分けて、おじいどうした、と摺寄すりよると、ああ、宰八か助けてくれ。この手を引張ひっぱって、と拝むがごとく指出した。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
せめての申訳というではないが、何やら急に清岡の事が恋しくなって、君江は歩きながら摺寄すりよって人通りをもかまわずその手を握った。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「復讐……。山𤢖やまわろが……。一体どんなことをました。」と、市郎も思わず摺寄すりよると、安行は今更のように嘆息した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
正太は恐る恐るまくらもとへ寄つて、美登利さんどうしたの病気なのか心持が悪いのか全体どうしたの、とさのみは摺寄すりよらず膝に手を置いて心ばかりを悩ますに
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
是誠に天道の引合せ給ふ處成べしと云つゝ潜然ほろりと目に涙を浮めけるにぞお花は怪みてそば摺寄すりより此方の事のみ云て御國許の樣子は如何にや其方が私共の行衞ゆくゑ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
常の如く番頭さんが女の方へ摺寄すりよって来るとき、女の方で番頭の手へ小指を引掛ひっかけたから、手を握ろうとすると無くなって仕舞うから、まるで金魚を探すようで
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
男勝りと言はれたほこりをかなぐり捨てて、冷たい娘の頬に、自分の頬を摺寄すりよせてひた泣きに泣くのでした。
そばには続いて彼を尾行ける為めであろう、箕島刑事も先に降りて茫然と手持無沙汰に立って居た。彼は切符を渡す時、黒服赤襟の女車掌の耳元へ口を摺寄すりよせた。
乗合自動車 (新字新仮名) / 川田功(著)
『まア、なんといふうれしいことでせう、つたのねえ!』つて公爵夫人こうしやくふじん可愛かあいさのあまり、かひなかひなれるばかりに摺寄すりよつて、二人ふたりは一しよあるいてきました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
それに返答をしないのみか、こうして摺寄すりよって来ても見向きもしませんでした。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と白らけた声を出して、手を出しながら、摺寄すりよッて来る。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
女は僕に摺寄すりよつて
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
鶴子はこの時胸にある事は何ももこの老人だけには打明けてしまいたい気になって、すがるようにその足下に摺寄すりよ
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
むかしから男女おとこおんなの影法師は憎いものに数へられてゐるが、要次郎とおせきはその憎い影法師を土の上に落しながら、摺寄すりよるやうにならんであるいてゐた。
正太しようたおそる/\まくらもとへつて、美登利みどりさんうしたの病氣びようきなのか心持こゝろもちわるいのか全體ぜんたいうしたの、とのみは摺寄すりよらずひざいてこゝろばかりをなやますに
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
『おうら……』とひざいて、摺寄すりよつて緊乎しつかいて、ふだけのこと呼吸いき絶々たえ/″\われわすれて嘵舌しやべつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たがいに死を争いながら平左衞門の側へ摺寄すりよりますと、平左衞門は剛刀ごうとうをスラリと引抜ひきぬ
せよとかたはらへ摺寄すりよればお粂はとくより心得居し事ゆゑ一向おどろかずアイサ私しは盜賊たうぞく山賊さんぞくの類でなく又狐狸こりにても候はず大願だいぐわん有て當山へこもりし者なり本社拜殿はいでんは女人禁制きんせい故此茶屋ちややにて通夜つや
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あんまり摺寄すりよって来て、肩から首筋へかけた手を十分に深くして、下に置いてある絵をのぞき込むものだから、兵部の娘は、負うた子に髪をなぶらるるようにうるさがって、首を振るのを
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すると最前からまばたきしていた石燈籠いしどうろうの火も心ありにはたと消えるを幸い、二人の男女は庭の垣根に身を摺寄すりよせて互の顔さえ見分けぬほどなやみの夜をかえって心安しと
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
(何をするんです!)と摺寄すりよったわ。その時の形相のすさまじさは、ま、どの位であったろうと、自分でも思い遣られるよ。言憎いいにくいことだけれど、真実ほんとうにもう旦那を喰殺してやりたかったわね。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
米友は何か知らず、力を入れてうなりました。女は、米友の近くへ摺寄すりよって
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「それがね、姉さん。」と、お由はうしろを見かへりながら摺寄すりよつた。
とだん/\お菊の側へ摺寄すりよりました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おし開き立出たるは別人成ず彼の番頭ばんとうの久八なれば千太郎は大いにおどろかき置手早くうしろへかく素知そしらぬふりして居る側へ久八はひざ摺寄すりよせ是申し若旦那わかだんな暫時しばらくまち下さるべし如何にも御無念は御道理然共こゝせく時ならずさきより私し失禮しつれいながら主人の御容子ようす唯事たゞごとならずと心配しんぱいなしてふすまの彼方に殘らず始終しじう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もっともベンチは三、四台あって、いずれも密会の男女が肩を摺寄すりよせて腰をかけていた。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
片手かたてで、ほつよく、しかと婦人ふじんつたまゝ、そのうへこし椅子いす摺寄すりよせて、正面しやうめんをしやんとつて、いは此時このとき神色しんしよく自若じじやくたりき、としてあるのは、英雄えいゆう事變じへんしよして、しかるよりも
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
竜之助は、近く摺寄すりよって、その生首をつくづくとながめます。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いて突立つッたったその三味線を、次のの暗い方へそっ押遣おしやって、がっくりと筋がえた風に、折重なるまで摺寄すりよりながら、黙然だんまりで、ともしびの影に水のごとく打揺うちゆらぐ、お三重の背中をさすっていた。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
医師せんせいは横を向く。小松原は、片手を敷布の上、隣室となり摺寄すりよる身構えで
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お兼は顔の色も沈んで、滝太郎にひしと摺寄すりよりながら
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と甘たれた声を揚げて、男に摺寄すりよつたのはわかい女で。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と泰助と顔を見合せ、亭主は膝下ひざもとまでひたと摺寄すりよ
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
退すさって、僧にせな摺寄すりよせながら
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と調子を低めて、ずっと摺寄すりよ
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とあの人が、摺寄すりよって
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と膝で摺寄すりよる。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)