)” の例文
勘作は背後うしろからそっと往って、今にも飛び込もうとしている女をしっかと抱き止めた。女は勘作の手をはなして飛び込もうとする。
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と、背すじへのぞんで、助広の白光はっこうを一りなぎつけたが、崖に等しい傾斜であり、灌木の小枝に邪魔されて、行き方少し軽かったか
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
アミエルの言ったように、腕だめしに剣をってみるばかりで、一度もそれを実際に使わないようなことになっては、たいへんだと思う。
校正後に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
御者はこの店頭みせさきに馬をとどめてけり。わが物得つと、車夫はにわかに勢いを増して、手をり、声をげ、思うままに侮辱して駈け去りぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
代々算筆で立っていた、脇田家に生れた一子藤之介、——いま現在の一松斎も、父を打たれた当座は、刀をるさえ、腕に重かったのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「もうい/\。」森久保氏は百姓のやうなこはつぱしい掌面てのひらを鼻先でり廻す。そして直ぐ説経祭文せつきやうさいもんのやうな節であとの文句を読み続ける。
熊の皮の胴服の男は、口汚くののしると、山刀をり、たぎり返る激怒のやり場に困ったらしく、側の手頃の立樹の幹を、発止はっしと切り落します。
と吉野は落着いた声で言つて、小供の両足を持つて逆様に、小い体を手荒く二三度ると、吐出はきだした水が吉野の足に掛つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と片手ながらに一揮ひとふりれば、さや発矢はつしと飛散つて、電光たもとめぐ白刃しらはの影は、たちまひるがへつて貫一が面上三寸の処に落来おちきたれり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
と助七は才槌をり上げ、力に任せて何処という嫌いなく続けざまに仏壇を打ちましたが、板にきずが付くばかりで、止口とめぐち釘締くぎじめは少しもゆるみません。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
頃日このごろ渋江保さんはわたくしのために志村氏を原宿におとづれ、柏軒在世の時の事を問うた。渋江氏は初見の挨拶をしたが、主人は手をつて云つた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いくら冷淡と薄情とを信条として多勢の抱妓かかえ采配さいはいっているこの家の女主人にしても物の入りわけはまた人一倍わかるはずだと思ったのであった。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
カピ長 えい、けんぢゃといふに。いあれを、モンタギューの長者ちゃうじゃめがをって、おれよがしにやいばりをる。
もしこの場合平等性もいいといって一同茶の間へ集って家事の采配をったら一家は立ち行かなくなるでしょう。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
面白可笑しくこの世を過ごされることをただ一つの目あてに、ああしてお刀をるっていられるに相違ない……。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
我がをぢは、面にやさしげなる色を見せて、帽をり動しなどすれど、人々その前をばいたづらに過ぎゆきて、かの盲人の何の會釋もせざるに、錢を與へき。
がんじょうそうな小柄な男である。肌脱ぎの中腰になって、体を左右にゆすぶりながら、右の手に持ったおうぎあおるようにしてって、しきりに何やらわめいている。
察した刹那にサーッと一り! 縄を真ん中から切り払った。力に負けたというのでもあろう、縄の端を握って立っていた敵が、ヨロヨロとよろめいて前へ出た。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その時の余は印気インキの切れた万年筆まんねんふでの端をつまんで、ペン先へ墨の通うように一二度るのがすこぶる苦痛であった。実際健康な人が片手でかしの六尺棒を振り廻すよりもつらいくらいであった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
之を見ると、ミハイロは急にはしやして、えへら/\笑つたり、遠方だから声は届かなかつたが、其方を向いて何か大声にわめいたり、帽子をつたりする……ブレーキの処に居た車掌が尖り声で
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
良人おっと沼南と同伴でない時はイツデモ小間使こまづかいをおともにつれていたが、その頃流行した前髪まえがみを切って前額ひたいらした束髪そくはつで、嬌態しなを作って桃色の小さいハンケチをり揮り香水のにおいを四辺あたりくんじていた。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
男はこの時気のついたように徳利をって見て
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
と、女は鳥居の方へ一足ひとあし折れながらり返った。細面ほそおもての女の顔には大きな長い舌がだらりと垂れていた。政雄はわっと叫んで逃げ出した。
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「さ、これでし。皆様みなさん、あちらで。」と手をってのたまうを汐時しおどきと、いずれもするするはらはらともすそさばきて御引取。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
媼さんはかぶりつた。智慧の持合せの少かつたのを、六十年来使ひ減らして来たので、頭の中では空壜あきびんるやうな音がした。
と続いてり込んで来た前後左右の乱刀をも、しばらくバラバラと蜘蛛手くもでに受け払っていたが、すッくと岩から立ち上がるが早いか、手当り次第に帯
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「主人が縛られて、内儀が寢込むと、あの家は采配さいはいるものが無いから、娘の存分になるやうで、近頃は隱居所へ運ぶ三度の膳も大した御馳走ですよ」
さくの柱のもとに在りて帽をりたりしは、荒尾がことばの如く、四年の生死しようし詳悉つまびらかにせざりし間貫一にぞありける。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
殿しんがりとなった松浦民弥、数人を斬った血刀をり、返り血かそれとも負傷した血か、全身に血汐を浴びながら、追い縋る敵を斬り払い斬り払い、一方味方を盛り返すべく
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
友の介抱に餘念なき姫は、詞のあやもしどろに、疾く往き給へといひて、手をりたり。姫は往き給へと繰反したり。われは心もそらに再び、友なりしか我なりしかと叫びたり。
石は灌木の間を穿うがってがけの下へちた。純一はステッキをって帰途に就いた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
松五郎殿が其のまきぬすんでくような次第と云わざるべからざる義だから、恐入り奉る訳ではない、なれど白刃はくじんって政府かみお役人の集会を蒙むるような事に於ては愍然びんぜんたる処の訳じゃア無いか
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
母にむかってやいばることはならぬ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
雪之丞は頭をって見せて
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
友なみだれ手をりて
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と、そのあとからわかい男が血に染まった白刃しらはりながら追っかけて来た。謙蔵は恐れて半町はんちょうばかりも逃げ走って、やっと背後うしろり向いた。
指環 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
野道でたま/\赤い爪をり上げた蟹にでも出会でくはすと、兵庫頭はぶるぶるふるへて、いきなり馬を引き返して逃げ出したものださうだ。
大言壯語といふものは、口から外へ出しては、兎角ゆかしげのないものであるが、百姓は、り下ろす鍬の下に
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
(や、なぐり込みに来やがったな、さ、殺せ、)というと、椅子を取って引立ひったてて、脚をつかんでぐンとった。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
汝が讀むべき詩は、その外にはあらじ。斯く勸めらるゝに、われは手をりてうべなはざりき。ベルナルドオ語を繼ぎていふやう。さらば汝はえ讀まぬなるべし。我にその詩を得させよ。
それから切符を切つて歩場プラットフォームへ入るまで見えなかつたのじやが、入つて少し来てから、どうも気になるから振返つて見ると、そばの柱に僕を見て黒い帽をつとる者がある、それは間よ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こう云い放すと甚五衛門は再び本陣へ駒を返し、サッと采配をったのである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
竹が台所から出て来て、饂飩の代りを勧めると、富田が手をって云った。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
主翁はもう奇怪な書生に対する恐れもなくなっていた。書生はすごい笑顔を見せたのちに右の手をあげて何も云うなと云うようにそれをった。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
博士は胸算用むなさんようをしながら、やけ洋杖ステツキりまはした。洋杖ステツキが何かに当つたやうに思つてよく見ると、それは電信柱であつた。
とばかり、てつも切るような一刀、一念のめくらとなってから、それは一そうすさまじいするどさをもって、まえなる人のあり場をねらって、りおろした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
毎日同じ時刻に刀劍に打粉うちこを打つて拭く。體を極めて木刀をる。婆あさんは例のまま事の眞似をして、其隙には爺いさんの傍に來て團扇であふぐ。もう時候がそろ/\暑くなる頃だからである。
ぢいさんばあさん (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
千斎は手をり、顔色を変えたが
高島異誌 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
煙管きせるって、遮るごとく
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は立ちどまった。女も私に気がいたのか、ななめに後をり返った。その顔の輪廓りんかくから眼のあたりが、どうしてもお八重であった。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)