せがれ)” の例文
一にも二にもせがれのおかげだと言って喜んでいるのが江戸では評判で、それを見聞きするほどのものが、ゆかしがらぬ者はないという。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
農林学校出身の、地主のせがれ欣之介きんのすけは毎日朝早くから日の暮れるまで、作男の庄吉を相手に彼の整頓せいとんした農園の中で余念なく労働した。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
さて、その次に来た弟子は日本橋馬喰町の裏町に玉村という餅菓子屋がありましたが、その直ぐ隣りの煎餅屋せんべいやせがれ長次郎という若者でした。
「じつは、せがれのいっている戦地せんちから、ラジオでむこうのようすがわかるというので、ぜひききたいとおもってやってきました。」
夜の進軍らっぱ (新字新仮名) / 小川未明(著)
心の闇に迷いまして一通りの間違いではない、原丹治と密通をいたし、現在の娘をそゝのかしておのれ密夫みっぷせがれ丹三郎と密通させ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「子供だと思って私をなぶるのはよして下さい。私は百姓のせがれで、こんな長者の内の婿になるような者ではありません。」
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
麹町こうじまち住居すまいいたす法月一学のせがれ。江戸ではかねて御高名を承っておりましたが、お目にかかるのは初めてにござります」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藤崎道十郎と更めて居たりしが妻お光は當年三歳に成しせがれの道之助をふところにして店請人赤坂傳馬町治郎兵衞店に小切商こぎれあきなひを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
房氏銀三十両を結納金に貰うて衛氏に改嫁し、更にその金を結納としてせがれ可立のために呂月娥てふ十八歳のよめを迎えた。
「実は御国の御母おつかさんがね、せがれが色々御世話になるからと云つて、結構なものを送つてくださつたから、一寸ちよつとあなたにも御礼を云はうと思つて……」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
せがれと嫁の絶えない争論いさかいめかあらたに幾本目かの皺がおもてにはっきり刻まれていたが、でも彼女はだまんざら捨てたものではないと独りで決めていた。
目撃者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
が、母は私を信じている上に、せがれの大事な嫁としてナオミに対しても慈愛を持っていたことは、二三日してから手許てもとに届いた返辞を見ても分りました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「あんな不孝なせがれや、わがままの嫁は、惜しくはない。それよりかお前は早く家へ帰って、早く金をこしらえて、わしの大事な財産を買いもどしてくれ。」
珊瑚 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
ちょうどさいわい小山さん御夫婦がせがれの事を御心配下さるから小山さん御夫婦にお願い申したらよかろうとこういう発議ほつぎで外の人もそれまで打破る事が出来ず
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
左衞門はさもありなんと打點頭うちうなづき、『それでこそ茂頼がせがれ、早速の分別、父も安堵したるぞ、此上の願とは何事ぞ』。『今日より永のおんいとまを給はりたし』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
彼女あいの事じゃ、わたしも実に困いましたよ。銭はつかう、せがれとけんかまでする、そのあげくにゃ鬼婆おにばばのごと言わるる、得のいかン媳御よめごじゃってな、山木さん——。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
それを他人の家の猫を借りて来たような変哲もない芸妓を貰い込んでしまったので、わたしに対する熱意は薄らいだが、なおせがれに日本一になって貰う事には未練がある。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そんな金持ちであるからこそ様様に服装をかえたりなんかしてみることもできるわけで、これも謂わば地主のせがれ贅沢ぜいたくの一種類にすぎないのだし、——そう考えてみれば
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
今年はせがれに任しときましたから、彼奴あいつはまたどんな風にするか……私の時には昔からそうでした
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ウィンパーの一行は登る時には、クロス、それから次に年を取った方のペーテル、それからそのせがれが二人、それからフランシス・ダグラスきょうというこれは身分のある人です。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これは本當ほんたうです、げんわたくし一人ひとりせがれも、七八ねん以前いぜんことわたくしせつめるのもかで、十ぐわつたゝり家出いへでをしたばかりに、つひおそろしい海蛇うみへびられてしまいました。
「出るかの。直ぐ出るかの。せがれが死にかけておるのじゃが、間に合わせておくれかの?」
(新字新仮名) / 横光利一(著)
かれのいふ所によると、これでももとは「大政たいまさ」ともいはれた名たたる棟梁のせがれである。
もつれ糸 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
一ヶ月程たって、東野南次の収入の総計は、んと金一円五十銭也と、干しいもが三きれ也、これはビルディングの小母おばさんに頼まれて、北海道にいるせがれへ書いた手紙のお礼だったのです。
折々老人などがせがれの教育のために何千円ついやしたというを聞くことがある。かく何事も金で計算する。人の働きはいうまでもなく、人格さえも金額で計るようになりはせぬかと思われる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
馬車から行李を運ばせたりしているうちに、頼んで置いた嘉代吉(老猟師嘉門次のせがれ)も、仕度が出来て待っているというので、単衣ひとえを洋服に着換えるやら、草鞋わらじを引きずり出すやらで
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
親がその名であったからせがれも差支えないことと思い、隣村の地主がそれであったから自分もそれにしようくらいに、だんだん自分で勝手につける事になってしまって、三万の太郎左衛門
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「……せがれあ監獄さ行くだし婆あと来ちゃ気い違うだ」老人は深く溜息をついた。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
母はせがれの心尽くしですから、魚もきらいな人がこれだけは喜んで食べ、味噌みそ醤油しょうゆにつけなどしてたくわえて食べたりしました。
吹雪ふぶきがやんでしあわせです。せがれ出征しゅっせいしていますので、わたしも、お見送みおくりさせてもらいます。」と、おじいさんは、みんなのなかくわわりました。
夜の進軍らっぱ (新字新仮名) / 小川未明(著)
の春見は清水助右衞門のせがれ重二郎がいう通り、利子まで添えて三千円の金を返したのは、横着者おうちゃくものながら、どうか此の事を内聞ないぶんにして貰いたいと
ばた/\と馳來はせくる人音ひとおとに越前守せがれしばしと押止おしとゞめ何者なるやと尋ぬれば紀州よりの先觸さきぶれと呼はりける越前守是を聞き先觸さきぶれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
二十四の盛りで、三ツのせがれに家督を譲りたい、それは悪い了簡以上の図々しさだと、主膳が呆れて次を読むと
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
といって優しくいても黙って返事をしなかった。そこへ呉が遊びに来た。母親は呉にせがれの秘密をそっと聞いてくれと頼んだ。そこで呉は王の室へ入っていった。
嬰寧 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
れば小松殿も時頼をすゑ頼母たのもしきものに思ひ、行末には御子維盛卿の附人つきびとになさばやと常々目を懸けられ、左衞門が伺候しこうの折々に『茂頼、其方そちは善きせがれを持ちて仕合者しあはせものぞ』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
せがれがモー学校を卒業しましたから安心だというが学校を卒業したのは社会に対する初声うぶごえげたので、まだう事も立つ事も出来ない人間を野放しに置かれてまるものでない。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
せがれ=六つでした=がこうやすんでいますまくらもとで書き置きを書いていますと、悴が夢でも見たのですか、眠ったまま右の手を伸ばして「かあさま、行っちゃいやよ」と申すのですよ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
その時弥勒仏生まれて成道じょうどうし、くだんの聖王そのせがれ九百九十九人と弟子となって出家し一子のみ出家せずに王位をぐ。弥勒世尊、翅頭末しとうまつ城外じょうがい金剛荘厳道場こんごうしょうごんどうじょう竜華菩提樹下りゅうげぼだいじゅげで成道する。
また父が達者でいる間にせがれの太郎が成人して、世間の交際つきあいを初めるようになると、仕方がないから家柄の家でも、区別するために太郎太郎ともいえぬから小太郎、新太郎などといっております。
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
母親おふくろは源を休ませて置いて、炉辺で握飯をこしらえました。父親も不幸なせがれの為に明日履く草鞋わらじを作りながら、深更おそくまで二人で起きていたのです。度を過した疲労の為に、源もおちおち寝られません。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
以て紀州表きしうおもてへ調方につかはし候ひしが今朝やうや歸府きふ仕つり逐一相糺あひたゞし候處當時八山に旅宿りよしゆく致し居天一坊といふはもと九州浪人らうにん原田嘉傳次と申者のせがれにて幼名えうみやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
本多西雲君は深川ふかがわ木場きばの人。鹿島岩蔵氏の番頭さんのせがれで、鹿島氏の援助で私のもとへ来て稽古し一家をした。
わたくしは文治郎の母でございますが、生憎今日は他出致しましたが、誠に年を取って居りますからせがれ余所よそ様でお交際つきあいを致しましたお方は一向存じませんから
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
やよせがれ、今言ひしは慥に齋藤時頼が眞の言葉か、幼少より筋骨きんこつ人に勝れて逞しく、膽力さへすわりたる其方、行末の出世の程も頼母しく、我が白髮首しらがくび生甲斐いきがひあらん日をば
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
せがれよ、おまえのために、わたしまでがはなたかいぞ。」と、老人ろうじんは、こころなかでいうのでした。
夜の進軍らっぱ (新字新仮名) / 小川未明(著)
小翠は美しいうえにまたひどくりこうであった。能くしゅうとしゅうとめの顔色をつかえた。王夫妻もなみはずれて小翠を可愛がった。それでも二人は嫁が馬鹿なせがれを嫌いはしないかと思って恐れた。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「こういわれてみるとせがれの言う所も無理はない」と両眼を閉じ腕をこまぬきて黙然たり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
死んだ親父もこいつのためにはどのくらい苦労をしたか、死んで、せがれの方ではガッカリシタの一句で片づけているが、相当に無常を感じたことは、何モイヤニナッタの自暴やけ半分の言葉つきでもわかる。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
日本橋通り一丁目の須原屋茂兵衛すはらやもへえの出版した『江戸名所図会ずえ』を専門にった人で、奥村藤兵衛さんのせがれの藤次郎さん、……これがその東雲という方なんで
自然の移り変りを数えて三年みとせの月日を数えてきたが、今年六歳になったと思っていた幼いせがれが、わしが家を出る時、「いっしょに行く」といってきかないのを