御蔭おかげ)” の例文
御蔭おかげられた品物しなものまたもどりましたよ」とひながら、白縮緬しろちりめん兵兒帶へこおびけた金鎖きんぐさりはづして、兩葢りやうぶた金時計きんどけいしてせた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかし彼は二週間の余裕をった御蔭おかげで、東京の方では書けなかった手紙も書き、急いだ旅の支度したくまとめることも出来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
桑港サンフランシスコから雉猟きじりょうに来ておりました藤波(この遺書の保管者にて小生の旧友)氏の御蔭おかげで、煙の中に打ち倒れている妻子が救わるる事に相成りました。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
是がかなり忠実に守られていた御蔭おかげに、単なる民衆生活の描写としても、彼の文芸はなお我々を感謝せしめるのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その御蔭おかげで、何人に一台という自動車が行き渡り、食物も栄養価の高いものを、全国民が十分にることができる。
日本のこころ (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
一面に於てその御蔭おかげを蒙っていることを否む訳にはいかない——から絶えず圧迫を受けながらも、あたう限りの保護と愛惜とを加えて居るこの雪の宝殿が
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
それは神木しんぼくである御蔭おかげじゃ。わしほかにこの銀杏いちょうには神様かみさま御眷族ごけんぞく多数おおぜいいてられる。しいささかでもこれに暴行ぼうこうくわえようものなら、立所たちどころ神罰しんばつくだるであろう。
おのれを以て人を推せば、先祖代々土の人たる農其人の土に対する感情も、其一端いったんうかがうことが出来る。この執着しゅうちゃくの意味を多少とも解し得るかぎを得たのは、田舎住居の御蔭おかげである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
さては我をみちびきたる也と熊のさりし方を遥拝ふしをがみかず/\礼をのべ、これまつたく神仏の御蔭おかげぞとお伊勢さま善光寺ぜんくわうじさまを遥拝ふしをがみうれしくて足の蹈所ふみどもしらず、火点頃ひとぼしころ宿へかへりしに
私などが今日でも電気の話をきいおよそその方角の分るのは、全くこの写本の御蔭おかげである。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
まずこういう風で当時の改進党も梓君の御蔭おかげで円満に発達した。河野敏鎌こうのとがま君の如き初めは我輩等に反対の行動を採っておったものであるが、この時から同主義の下に交わりを結ぶこととなった。
東洋学人を懐う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
のが漸々やう/\我家へ歸りてむね撫下なでおろし誠に神佛の御蔭おかげにてたすかりたりと心の内に伏拜ふしをがみ吉之助には火事にて驚きたりといつはり彼の八十兩の金は戸棚とだなすみに重箱有りける故其中へいれおきすでやすまんとする時表の戸を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
悲惨といえば悲惨のいたりですが、我我婦人はこの大勢に対し、さいわいな事には教育の御蔭おかげで一千年以来失っていました智慧と勇気とを恢復かいふくし、「我も人である」という自覚の下に女子の職能は単に妻として
女子の独立自営 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
これは隈本先生の御蔭おかげかも知れない。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
代助は学校を卒業する前から、梅子の御蔭おかげで写真実物色々な細君の候補者に接した。けれども、ずれも不合格者ばかりであった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
絹商は倫敦ロンドンまで行く人で外国の旅に慣れていた。御蔭おかげと岸本は好い案内者を得た。高い崖に添うて日のあたったみちを上りきると、古い石造の寺院の前へ出た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
震災の御蔭おかげで第二の職業を知った職業婦人の多数と、まだ第一の職業しか知らぬ新米の職業婦人の多数とは、こうしてゴッチャになって東京の復興に努力し始めた。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
次に製粉器械としての石臼の普及であるが、是は石工の技芸進歩と、その数の増加の御蔭おかげであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いつかゆっくり会って、御蔭おかげで重役になり損ねましたと言おうか、御蔭様で生涯没頭してくいない面白い仕事にありつきましたと言おうかと思っているうちに、その人はもう亡くなってしまった。
宗助そうすけ福岡ふくをかから東京とうきやううつれるやうになつたのは、まつたこの杉原すぎはら御蔭おかげである。杉原すぎはらから手紙てがみて、いよ/\こときまつたとき、宗助そうすけはしいて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「どうしてどうして。叔父さんの御蔭おかげでこんな好い家へ越せたなんて、しきりにお前に感謝してる」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これが古い日本の遊戯法を引継ひきつぎやすく、また忘れがたくした一つの力であって、御蔭おかげでいろいろの珍しいものの伝わっていることをわれわれ大供おおどもも感謝するのである。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
……しかし、かく申す私だけは、専門家ではありませんが、警察の連中に欠けている医学上の知識を持っている御蔭おかげで、この事件の真相をタヤスク看破する事が出来たのです。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
御蔭おかげで三年の後半期の試験の方は滅茶めちゃ苦茶になってしまって、随分成績も悪かったらしい。講義なども半分近く失敬したようである。この方は先生に知れるとしかられるので、なかなか苦心をした。
断片的にせよしもに述べるだけの事をあなたに報道し得るのがすでに私には意外なのであります。全く偶然の御蔭おかげなのであります。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
前に信濃川しなのがわ流域のスヂ俵について一言したように、是ただ一筋の伝承の明らかに尋ね求められる御蔭おかげに、ひとり農民の理論なき保守主義が、一通り解説し得られるのみでなく
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
けれども仕合わせと白髪小僧の御蔭おかげで危い命を拾ったが、これが縁となって美留女姫は白髪小僧をへ連れて来て、両親を初め皆の者に白髪小僧と自分との身の上に起った
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
森成さんの御蔭おかげでこの苦しみがだいぶ退いた時ですら、動くたびに腥いおくびは常に鼻をつらぬいた。血は絶えず腸に向って流れていたのである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日本の医学は吾輩の努力の御蔭おかげで、今日の隆盛をきたしているんだ。しかも吾輩は国家に何物をも要求しない。毎日毎日この通りのボロ一貫で、みちに落ちたものを拾って喰ってるんだ。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
空気銃の御蔭おかげで、みんながまた満遍まんべんなく口をくようになった。結婚が再び彼らの話頭にのぼった。それは途切とぎれた前の続きに相違なかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
永々御厄介をかけましたが御蔭おかげで都合よく実験を終りまして感謝に堪えませぬ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私は御承知の通りよほど神経のにぶくできた性質たちです。御蔭おかげ今日こんにちまで余り人と争った事もなく、また人を怒らしたためしも知らずに過ぎました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
行きつけの居酒屋「樽万たるまん」で銘酒「邯鄲かんたん」の一本がキューと行ける筈なのに、要らざる処を通りかかって要らざる用事を引受けた御蔭おかげで、千里一飛ひととび、虎小走り一直線に大学へ行かねばならぬ。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ああ、布団だけはここへ買って来たが、御蔭おかげで大変遅れてしまったよ」と包みのなかから八丈はちじょうまがいの黄なしまを取り出す。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
代助はなお返事をしなかった。彼は今まで父に対して己れの四半分も打ち明けてはいなかった。その御蔭おかげで父と平和の関係をようやく持続して来た。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うぐいすは身をさかしまにして初音はつねを張る。余は心を空にして四年来のちりを肺の奥から吐き出した。これも新聞屋になった御蔭おかげである。
入社の辞 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうしてその鋭利な点はことごとく彼の迂濶な所から生み出されていた。言葉をえていうと、彼は迂濶の御蔭おかげ奇警きけいな事を云ったりたりした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助が福岡から東京へ移れるようになったのは、全くこの杉原の御蔭おかげである。杉原から手紙が来て、いよいよ事がきまったとき、宗助ははしを置いて
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ハハハしかし御蔭おかげで谷から出られたよ。君が怒らなければ僕は今頃谷底で往生してしまったかも知れないところだ」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
父の御蔭おかげで、代助は多少この道に好悪こうおを有てる様になっていた。兄も同様の原因から、画家の名前位は心得ていた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
倫敦ロンドンで池田君にったのは、自分には大変な利益であった。御蔭おかげで幽霊の様な文学をやめて、もっと組織だったどっしりした研究をやろうと思い始めた。
処女作追懐談 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「これもお父さんの御蔭おかげさ」と兄が答えた。その時兄のくちびるに薄い皮肉の影が動いたのを、母は気がつかなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自然天然しぜんてんねんに芝居をしている。あんなのを美的生活びてきせいかつとでも云うのだろう。あの女の御蔭おかげの修業がだいぶ出来た。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「全く御前の御蔭おかげだよ。大いに感泣かんきゅうしているさ。感泣はしているようなものの忘れちまったんだから仕方がない」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あれもね、御蔭おかげさまでようやく学校だけは卒業しましたが、これからが大事のところで、心配でございます。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
余の大連でしゃべらせられたのは全くこの男の御蔭おかげである。しかも短い時日のうちに二遍もやらせられた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「はあ、御蔭おかげさまで」と云う顔は何となくやつれている。男はちょっと真面目になった。女はすぐ弁解する。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
我々日本人が仏蘭西フランスの自然派はこう発達したの、独乙ドイツの自然派は今こんな具合だのという事を承知したのは、全くこの歴史研究の御蔭おかげ至極しごく結構な事と思います。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
したがって洋杖ステッキ御蔭おかげこうむっているのか、いないのかも判然しなかった。床の中で前後をくり返した敬太郎には、まさしくその御蔭を蒙っているらしくも見えた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御蔭おかげで、岩で骨が痛んだり、泥で着物がよごれたりする憂いがないだけ、惨憺みじめなうちにも、まだ嬉しいところがあった。そうして、硬く曲った背中を壁へたせた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)