強請ねだ)” の例文
河岸へ行く度に、子供はそれを言出して、復た船に乘りたいと強請ねだりましたが、今日は止さして、一緒に柳並木の下を歩きました。
「今度私磯野さんに芝居をおごって頂きましょう。ねえお庄ちゃんいいでしょう。」お増は帰りがけに、甘い調子で磯野に強請ねだった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「でも貴女、貴女が、そんなにお気がつくんですもの。可うございます。貴女がおっしゃいませんでも、私からお強請ねだり申しましょう。」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今にも母の首にしがみ付いて頬のあたり接吻せっぷんしそうに、あまえた強請ねだるような眼付で顔をのぞかれ、やいやいとせがまれて、母親は意久地なく
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
わたくしに交渉して来た他の男は、わたくしにすがり寄りわたくしに被負おぶさり、わたくしに何か強請ねだりごとをする乞食臭いところがありました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
小婢こおんな一人留守して居る処に来ては、茶をくれ、飯をくれ、果てはお前の着て居る物を脱いでくれ、と強請ねだって、婢は一ちゞみになったことがある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いまのがふるくつてだなんて強請ねだれんで、何時いつでもわしおこるんでがすが、お内儀かみさんとこへも不義理ふぎりばかりしてそんなところぢやねえつてつてかせても
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「そりゃ大いにごもっともだ。厭なものを強請ねだるなんて卑怯な兄さんじゃない。糸公の威信にも関係する。厭なら厭と事がきまればほかに捜すよ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いえ、赤坂も赤坂ですが、あなたが御承知のことだけは今こゝで聴かせて頂きたいもんですが、如何でしょう。」と、わたしは子供らしく強請ねだった。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
轎夫きょうふが分からぬことをいって賃銭ちんせん強請ねだったり、この旦那だんなは重いとか、が多いとか、かごの中で動いて困るとか、雨が降るとか、橋がないから御免ごめんとか
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
案内者が頼みもしないに錠をけていろんな所を見せた。中二階の様な所へもあがらせて高い壁画や天井画に接近させたが、出る時に一フランを強請ねだつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
さればお客に対しても悪く物を強請ねだったり、故意にたくらんでだますような悪辣な処は少しもなかった。その代り無責任の事はまた想像意外といってもよい。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「欲しければお前、こんな花なんか、わたしに強請ねだらなくても、いくらもお前の手で取ればいいじゃないか」
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
時々暗い個所ところで駕籠を停めて前棒が闇黒やみに隠れることがあったが、酒代さかてでも強請ねだりに客を追うのだろうくらいに考えて、辰は別に気にもとめなかったというが
で、家に入るや否や、お利代に泣き附いて何か強請ねだつてゐる五歳の新坊を、矢庭に兩手で高く差上げて
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
それから繻珍しゆちん夏帶なつおびとおめし單衣ひとえ綾絹あやぎぬ蝙蝠傘かふもりがさとを強請ねだられてはせられたが、これは彼の消極的經濟せうきよくてきけいざいに取ツて、預算よさん以外の大支出だいししゆつで、確に一だい打撃だげきであツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
一体富豪かねもちひと招待せうだいするのは、何か見せつけ度いとか、何か強請ねだり度いとかいふ時に限る事で、もしかお客が一かう物に感心しなかつたり、何一つ持合もちあはせの無い男だつたら
勇は秀子の豊満な腕をつかんで、母親に物を強請ねだる子のように打ち振りました。秀子はそうされ乍らも、小娘のように、シクシクと泣いて居たのです。あの勝気の秀子が——
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「イヤ、イヤ、坊やも一緒に行く。」と足摺あしずりをしながら、黒ちやんは強請ねだりました。
熊と猪 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
六つになる弟の亀吉が、何処からか餞別と言う言葉を覚えて来て、斯う強請ねだり出した。
黒い地帯 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
それも一度ならず二度も三度も強請ねだらるるままにやるものですから大いに心服して
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
晩の米が無いから、明日の朝食べる物が無いから——と云つては、その度に五十錢一圓と強請ねだつて來た。Kは小言こごとを並べながらも、金の無い時には古本や古着古靴などまで持たして寄越した。
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
麥畑のこみちを小池が散歩してゐると、お光があとからいて來て、小池が麥の穗を拔いてこしらへた笛を強請ねだり取り、小ひさな口に含んで吹いてみても、小池が鳴らすやうには鳴らぬので、後から/\と
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
その代りに仏具のような強請ねだられっこない品物は特に入念にゅうねん吟味ぎんみして
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
礼ちゃんが新橋の勧工場かんこうばで大きな人形を強請ねだって困らしたの、電車の中に泥酔者よっぱらいが居て衆人みんなを苦しめたの、真蔵に向て細君が、所天あなたは寒むがり坊だから大徳で上等飛切とびきりの舶来のシャツを買って来たの
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「貴様、また何か強請ねだるつもりだな」
嫁取り二代記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「お澄さん……私は見事に強請ねだったね。——強請ったより強請ゆすりだよ。いや、この時刻だから強盗の所業わざです。しかし難有ありがたい。」
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それらの或者は、お島のあとからまつわり着いて来そうな調子で恵みを強請ねだった。お島はどうかすると、蟇口を開けて、銭を投げつつ急いで通過とおりすぎた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ですから母はとき/″\父に強請ねだっていた臨時の費用を詰めさえしたら、たいした不自由を感じない様子でした。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
言葉尻ことばじりに力を入れて強請ねだるようにするその母親のない子供の声は、求めても求めても得られないものを求めようとしているかのように岸本の耳にこたえた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
貴夫人などは貞操ていそう招牌かんばんにかけ、むろんポチだの報酬だのをおっとより受くべきはずはないが、しかし随分それを強請ねだろうと思い、衣服を買ってもらいたいがために
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
じつを云ふと、二百円は代助に取つて中途半端ちうとはんぱたかであつた。是丈これだけ呉れるなら、一層いつそ思ひ切つて、此方こつち強請ねだつた通りにして、満足を買へばいゝにと云ふ気もた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
で、家に入るや否や、お利代に泣付いて何か強請ねだつてゐる五歳いつつの新坊を、矢庭に両手で高く差上げて
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「ううむ。」と子供のように首を振り、「パトロンの家よ。来月は十二月でしょう。今から攻め掛けてやらないと間に合わないから。強請ねだるのも容易じゃないわよ。」
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
文学者や画家ゑかきとこへは、何ぞと言つては書いた者を強請ねだりに来るてあひが少くない。とりわけそれに幾らかの市価があるといふ事になると、色々の手段てだてを尽して引出しに来る。
めかけのお吉は、多分の手當てを強請ねだつて行方不知ゆくへしれず、もう一人の若い妾のお袖は、身一つで母の許に歸りましたが、間もなく、あらゆる物を振り捨てた彦太郎が、お袖の長屋へ訪ねて行つて
晩の米が無いから、明日の朝食べる物が無いから——と云っては、その度に五十銭一円と強請ねだって来た。Kは小言を並べながらも、金の無い時には古本や古着古靴などまで持たして寄越した。
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
究竟つまりは無心の小児こどもむかって菓子をるとからかった為に、小児こどもは本気になって是非れろと強請ねだって来たような理屈である。対手あいてが世間を知らぬ小児こども同様の人間だけに、うなると誠に始末が悪い。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「今度八丁堀のわっしの内へ遊びに来ておくんなせえ。一番ひとつ私がね、嚊々左衛門かかあざえもんに酒を強請ねだる呼吸というのをお目にかけまさ。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分に似合いそうなスタイルをえらんでいたが、一つ気に入ったのがあったので、特に庸三に強請ねだって裂地きれじボタンなどをも買い、裁断に取りかかっていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「父さん、お舟——父さん、お舟——」と強請ねだるようにする子供の声をこの下座敷でよく聞いたばかりでなく、どうかすると机はひっくりかえされて舟の代りになり
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
実を云うと、二百円は代助に取って中途半端なたかであった。これだけくれるなら、一層いっそ思い切って、此方こっち強請ねだった通りにして、満足を買えばいいにと云う気も出た。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平生私の遊び仲間であつた一歳二歳ひとつふたつ年長の子供等が、五人も七人も一度に学校に上つて了つて、淋しくて/\たまらぬ所から、毎日の様に好人物の父に強請ねだつた為なので
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
強請ねだられるままに出入の若い女優にくれてしまっていたからそこらに影を見せなかった。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
五十円ならばきっとやれますと立派に約束したそのそばから、殊には引く時前借の始末や引越ひきこしその他の物入をかけた後の事とて、そう手軽く月々の手当の増額を強請ねだるわけにも行かないと思うと
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私がいつもの通りに無遠慮に強請ねだりはじめると、老人はすこしく首をひねって考えた後に、面白いか面白くないか知りませんけれども、まあ、こんな話はどうでしょうね、とおもむろに口を切った。
半七捕物帳:44 むらさき鯉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「何だ、そのくらいの強請ねだりごとか。僕が骨折って儲けた金じゃなし、金で役に立つなら、いくらでも御用命仰せつけ下さいだが、その代価というわけじゃないが、僕が嘗て蝶ちゃんにもとめた一期の望みなるものも蝶ちゃんは忘れないで欲しいな」
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「ほんの蝋燭おてらしだ、旦那だんな。」さて、もつと難場なんばとしたのは、山下やました踏切ふみきりところが、一坂ひとさかすべらうとするいきほひを、わざ線路せんろはゞめて、ゆつくりと強請ねだりかゝる。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「どうか漬物を少し。」などと、腕まくりした年嵩としかさの青年が、裏口から酔っぱらって来てお銀に強請ねだった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
宗助そうすけ同僚どうれう高木たかぎとかをとこが、細君さいくん小袖こそでとかを強請ねだられたとき、おれは細君さいくん虚榮心きよえいしん滿足まんぞくさせるためかせいでるんぢやないとつてけたら、細君さいくんがそりや非道ひど
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)