居士こじ)” の例文
鉄腸居士こじを父とし、天台道士を師とし、木堂翁ぼくどうおうに私淑していたかと思われる末広君には一面気鋒の鋭い点があり痛烈な皮肉もあった。
工学博士末広恭二君 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
泥足どろあしのままおくするところもなく自ら先に立って室内へ通った泰軒居士こじ、いきなり腰をおろしながらひょいと忠相の書見台をのぞいて
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
竹童ちくどうはふしぎな顔をして、もとのところへ帰ってきてみると、いつのまにか、ほんもののクロが居士こじのそばにちゃんとひかえている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俳諧の月並みにしたのは、——そんなことは今更弁ぜずとも好い。月並みの喜劇は「芭蕉雑談」の中に子規居士こじも既に指摘してゐる。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
というとサラット居士こじは「必要はあったところで到底成就しない事に従うのは詰らんじゃないか。行けばまあ殺されるだけのだ」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
此時このとき堂上だうじやうそう一齊いつせい合掌がつしやうして、夢窓國師むさうこくし遺誡ゐかいじゆはじめた。おもひ/\にせきつた宗助そうすけ前後ぜんごにゐる居士こじみな同音どうおん調子てうしあはせた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
町内第一ちやうないだいいち古老こらうで、こんしろ浴衣ゆかた二枚にまいかさねた禪門ぜんもんかね禪機ぜんき居士こじだとふが、さとりひらいてもまよつても、みなみいて近火きんくわではたまらない。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
当時の一般読者が『あいびき』の価値をほぼ了解してツルゲーネフを知り、かつ二葉亭の訳文の妙を確認したは忍月居士こじの批評があずかっておおいに力があった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
私は当時まったく超然居士こじで、怒らぬこと、悲しまぬこと、憎まぬこと、喜ばぬこと、つまり行雲流水の如く生きようという心掛であるからビクともしない。
風と光と二十の私と (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
いやいやそれどころではなく、こう厖大ぼうだいな全集物が氾濫はんらんしては、評判のやかましい名作も、ツンドク居士こじの蒐集の目的物でおわることも少なくはないであろう。
しかも、ひょいと中をのぞくと、新しい白木の位牌いはいが二枚あるのだ。——一枚は新帰元泰山大道居士こじという戒名。他は同じく新帰元円明貞鏡大姉とあるのです。
初秋の風に竹がサラサラ鳴る暁、ひつぎは出てゆくのだった。戒名は硫黄居士こじと私がつけたが、親類の望みで二字に離してくれというので、硫石黄竹居士になった。
とつけておだててくれたから、悉皆すっかり決心が固まってしまった。もしこれが自殺なら飛び込もうとしているところを押してくれたのだから、居士こじは確かに責任がある。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
学海桜痴両居士こじが活歴劇流行のころうた鳴物なりもの並にゆかの浄瑠璃はしばしば無用のものとして退けられたり。彼らは江戸演劇を以て純粋の科白劇かはくげきなりと思為しいしたるが如し。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
百樹もゝき曰、芭蕉居士こじは寛永廿年伊賀の上野藤堂新七郎殿のはんに生る。(次男なり)寛文六年歳廿四にして仕絆しはんし、京にいでゝ季吟きぎん翁の門に入り、しよ北向雲竹きたむきうんちくまなぶ。
私が、浜辺に立って熱心に写生を試みていますと、一人の居士こじが来ていいますことには、田山さん、あなたこの波の音を聞いてどう思いますか……と、こう問われたのです。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
去年より今年(明治二十四年)にかけては、忍月居士こじの評やうや零言瑣語アフオリスメンの姿になりゆき、不知庵の評は漸く感情の境より出でゝ、一種の諦視ていししがたき理義の道に入りはじめたり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
古池の句については子規居士こじがかつて「古池の句の弁」なるものをホトトギス第二巻第一号の紙上に書いて、この句の天下に高名なのはこの句の絶対的価値によるのではなくて
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
昔仏王舎城おうしゃじょうおわせし時、六群比丘、獅虎豹豺あぶらを脚に塗り象馬牛羊驢の厩に至る。皆その脂臭を嗅いで覊絆きはん托拽たくえい驚走す、比丘輩我大威徳神力ある故と法螺ほら吹き諸居士こじこれを罵る。
軍人で出先きをふさがれた腹癒はらいせを禅学にぶち込んだ程あつて、胡椒のやうにひりゝとした禅機の鋭さにかけては、その頃の居士こじ仲間の随一であつたが、ある時その居士の玄関へ立つて
天稟てんぴんの美しい情緒を花袋はもっている。それを禅に参ずる居士こじが懐くような自負心でおおうている。実際のところ、かれの情緒はその自負心によって人生の煩累から護られていたのである。
八畳の壁には、巌谷一六居士こじの書いた、新婚を祝つた幅物がかけてあつた。其頃、山人はまだ二十七八位であつた。私は一躍して大家となつた山人の幸福な生活を羨まずには居られなかつた。
紅葉山人訪問記 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
彼奴あいつを一番大にやってやろうじゃないかと一工風ひとくふうして、当人の不在のあいだにそのすずりに紙を巻いて位牌いはいこしらえて、長与の書がうまいから立派に何々院何々居士こじと云う山田の法名ほうみょうを書いて机の上に置て
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
明治二十五年六月以来、新聞『日本』に掲げられた「獺祭書屋俳話だっさいしょおくはいわ」が、翌二十六年五月に至り「日本叢書」の一として日本新聞社から刊行された。これが子規居士こじの著書の世に現れた最初である。
「俳諧大要」解説 (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
でも、だんだん道場の生活に慣れるにしたがって、短い時間を利用する事も上手になって来るだろう。僕はもう何事につけても、ひどく楽天居士こじになっているようでもある。心配の種なんか、一つも無い。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
羽織は○○居士こじこしらえてくれるはずなり。
貧を記す (新字新仮名) / 堺利彦(著)
「遠いぜ」と居士こじが前から云ふ。余は中の車に乘つて顫へてゐる。東京を立つ時は日本にこんな寒い所があるとは思はなかつた。
京に着ける夕 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あっけにとられて見ていた竹童は、居士こじにいいつけられたまま、岩のあいだから、こんこんときいでている泉をすくってきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は大いにこの事を希望してまんものであると説き、それからセイロンのダンマパーラ居士こじから、インドのブダガヤの金剛道場の菩提樹下において
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
百樹もゝき曰、芭蕉居士こじは寛永廿年伊賀の上野藤堂新七郎殿のはんに生る。(次男なり)寛文六年歳廿四にして仕絆しはんし、京にいでゝ季吟きぎん翁の門に入り、しよ北向雲竹きたむきうんちくまなぶ。
因テコレヲ以テ序トナス。嘉永己酉孟春もうしゅん。試灯ノ節。枕山居士こじ大沼厚。下谷ノ凞凞きき堂ニしるス。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それは或る年の春休みか夏休みかに子規居士こじが帰省していた時のことで、その席上には和服姿の居士と大学の制服の膝をキチンと折って坐った若い人と、居士の母堂と私とがあった。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
その居士こじが、いや、もし……と、莞爾々々にこにこと声を掛けて、……あれは珍らしい、その訳じゃ、茅野ちのと申して、ここから宇佐美の方へ三里も山奥の谷間たにあいの村が竹の名所でありましてな
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
チョビ安はまるい眼をキョトキョトさせて、作爺と泰軒居士こじへ、交互たがいに問いかけた。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
公園事務所長は初代が福地桜痴ふくちおうち居士こじ、二代目が若い方の金兵衛さんだときいた。
同時に又かう云ふ批評家のない時代の如何に寂しいものであるかを知つた。若し明治時代の批評家を数へるとすれば、僕は森先生や夏目先生と一しよに子規居士こじを数へたいと思つてゐる。
しのぎます。一名ホルモン居士こじというんですから、推して知るべしでしょう
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
私はナーニとその時は思いましたね、波の音にまで、そんな線香くさい響きがするものかと、その時は頭からばかにしてかかると、その居士こじがいいましたよ、田山さん、あなたは水が生きている
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私は単純な、感激居士こじなのかも知れません。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
居士こじ大姉たいし11・9(夕)
この時堂上の僧は一斉いっせい合掌がっしょうして、夢窓国師むそうこくし遺誡いかいじゅし始めた。思い思いに席を取った宗助の前後にいる居士こじも皆同音どうおんに調子を合せた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もとより鞍馬山霊くらまさんれいの気をうけたような怪童子かいどうじ、あやぶむことはあるまいが、居士こじ口吻こうふんからさっしても、ことなかなか容易よういではないらしい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
サラット居士こじがチベットに入った時このお方についてほんのわずかの間チベット仏教を学んだそうです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
わか世捨人よすてびとな、これ、坊さまも沢山たんとあるではないかいの、まだ/\、死んだ者に信女しんにょや、大姉だいし居士こじなぞいうて、名をつけるならいでござらうが、何で又、其の旅商人たびあきうど婦人おんな懸想けそうしたことを
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
桜痴居士こじは、現今の歌舞伎座を創立し、九代目団十郎のために、いわゆる腹芸の新脚本を作り、その中で今でも諸方でやる「春雨傘はるさめがさ」が、市川家十八番の「助六」をきかせて、蔵前くらまえ札差ふださし町人
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
鼠小僧ねずみこぞう治郎太夫ぢろだいふの墓は建札たてふだも示してゐる通り、震災の火事にも滅びなかつた。赤い提灯ちやうちん蝋燭らふそく教覚速善けうかくそくぜん居士こじがくも大体昔の通りである。もつとも今は墓の石を欠かれない用心のしてあるばかりではない。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と子規居士こじは振りかえりました。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
車はかんかららんに桓武天皇の亡魂をおどろかしたてまつって、しきりにける。前なる居士こじは黙って乗っている。うしろなる主人も言葉をかける気色けしきがない。
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
中里介山かいざん居士こじの武術神妙記、史林その他の雑誌に掲載の断片、古事類苑こじるいえんの兵事部、国書刊行会本の武術叢書、井芹経平講話筆記など、机の高さにして三側ぐらいはすぐ積まれる。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新しい弟子の静枝も、学海居士こじが名づけたのだった。
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)