小豆あずき)” の例文
それはまだらに赤や青の着色があって、その表面には小豆あずきを二つに割った位の小さな木の実みたいなものが一面に貼り着けてあるんです。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
大小というが、その大なるも三分立方はなく、以下順次四粒、中なると小なるはそれに準じて、小豆あずきに似たような代物しろものまであります。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
朝夕に燈明と、水と、小豆あずきと、洗米あらいごめを供えてまわるのが私の役目とされていた。だから今でも私は燧石ひうちいしから火を得るすべは心得ている。
格子がいて、玄関に、膝をついて出迎える女中たち。揃って、小豆あずきっぽい唐桟柄とうざんがらに、襟をかけ、黒繻子くろじゅすの、粋な昼夜帯の、中年増だ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ひげの跡青く、受け口にて、前歯二本欠け落ちたり。右耳朶みみたぶ小豆あずき粒ほどの黒子ほくろあり。言葉は中国なまり。声小にして、至って穏やかなり——
小豆あずき色の十徳に、投げ頭巾をかぶり、袖口から小田原挑灯ぢょうちんをぶらさげて一閑は歩いている。人品のいい、かない気性の老人に思われた。
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甥に脚気の出たとき、笹村はお銀にいいつけて、小豆あずきなどを煮させ、医者の薬も飲ませたが、脚がだんだんむくむばかりであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「船に乗ってるとこういうものは、とても食べられないね」などといって、彼は「鹿」の小豆あずきを歯でかみとったりしていた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
しかもあでやかな、薄いワンピースを着た若い女性らしく、その藤色というよりも小豆あずき色に近い色調が、陽の照りかえしのように眼にみた。
地図にない島 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
祭や祝ごとの日には、特に小豆あずきや菜のあえもの、塩辛やたこなどを入れてこの団子をこしらえることもあった(頸城郡誌稿)。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
小豆あずきを板の上に遠くでころがすような雨の音が朝から晩まで聞えて、それが小休おやむと湿気を含んだ風が木でも草でもしぼましそうに寒く吹いた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
短躯肥満、童顔豊頬にして眉間に小豆あずき大のいぼいんしたミナト屋の大将は快然として鉢巻を取りつつ、魚鱗うろこの散乱した糶台ばんだい胡座あぐらを掻き直した。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
朝から小豆あずきを洗ったり、米をといだりしてようやく昼前に釜の下を引いたかやは、やれやれといいながら茶の間へ上った。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
と、私たちの小舟は小豆あずき色のひろびろとしたの浅みに沿って、いきれたつあしすすきのあいだにすれすれと横になってとまった。四季の里である。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「栄三郎どのか、ちょうどよいところへ戻られたナ。あがらんうちに、その足で小豆あずきをすこしうて来てもらいたい」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ある乾物屋かんぶつやでは、こんなときにこそ、小舎こやをそうじして、平常ふだんちているまめや、小豆あずきなどをひろあつめて、ってしまわなければならぬとおもったのです。
ごみだらけの豆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
小豆あずきあらひと云ふ変化へんげを想はせる。……夜中に洗濯の音を立てるのは、小流こながれに浸つた、案山子かかし同様の其の娘だ。……
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「何でもありませんよ。たゞ茶を入れて煮た粥です。それに麦を交ぜたのを麦茶粥といいます。小豆あずきを入れたのが小豆茶粥、芋を入れゝば芋茶粥です」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
小豆あずきかね。あいた、もう眼がはっきり見えないよ。息子のピエエルが眼鏡めがねを買ってくれるといいんだけど……」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
だいたい同じような割合に交じり合うのであるが、この状況を写した映画のフィルムを逆転する場合には、攪拌かくはんするに従って米と小豆あずきがだんだんに分離して
映画の世界像 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
次に玉蜀黍とうもろこし、馬鈴薯、南瓜かぼちゃを作り、小豆あずき、白黒二種の大豆、大麦、小麦と土地の成長にれて作物の種類を増して行った。併し、そうなるまでが大変だった。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
二、三日の後、晴れた日に彼らは別れの宴のようなものを催したが、赤の飯をこうとしてもその年の虫の害は、畑に小豆あずきというものが一粒も実らなかった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
雑穀屋が小豆あずきの屑を盆の上で捜すように、影を揺ってごらんなさい。そしてそれをじーっと視凝みつめていると、そのうちに自分の姿がだんだん見えて来るのです。
Kの昇天:或はKの溺死 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
正面には清澄な空気をつんざいて、噴火山が濃い小豆あずき色に聳え立っていた。頂の煙が、揺がず立ち昇っている。煙草畑、矮樹林わいじゅりん、そうかと思うと、また煙草畑。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
... 全体芋章魚と言うのは箸でちぎって見て孰方どちらが章魚だかお芋だか分らないように柔くなければ本式でありません」妻君「そうですかねー、章魚を煮るとき小豆あずきを ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
人間の生地きじはこれだから、これで差支さしつかえないなどと主張するのは、練羊羹ねりようかんの生地は小豆あずきだから、羊羹の代りになま小豆をんでれば差支ないと結論するのと同じ事だ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
野菜物を千住せんじゅの問屋へ送って来たのだと云って、おせんにも土の付いた牛蒡ごぼうや人参や漬菜などをぜんたいで二貫目あまりと、ほかに白い餅や小豆あずきや米なども呉れた。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこで僕は色々と聞きあつめたことを総合して如此こんなふうな想像を描いていたもんだ。……先ず僕が自己の額に汗して森を開き林を倒し、そしてこれに小豆あずきく、……
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それから『想山著聞奇集』に、武州で捕えた白蛇の尾尖おさきに玉ありたりとて、図を出す。尾尖に大きな小豆あずき粒ほどの、全く舎利玉通りなる物、自ずから出来いた由見ゆ。
おどろおどろ神々の怒りの太鼓の音が聞えて、朝日の光とまるっきり違う何の光か、ねばっこい小豆あずき色の光が、樹々のこずえを血なま臭く染める。陰惨、酸鼻さんびの気配に近い。
犯人 (新字新仮名) / 太宰治(著)
と仰りながら私につかませました。夜のことですから、紫縮緬ちりめん小豆あずき色に見えました。私は目を円くして、頂いてよいやら、悪いやらで、さんざん御断りもして見たのです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
他は云うに足りない。此の九月十日の合戦こそ甲越戦記のクライマックスで、謙信が小豆あずき長光の銘刀をふりかぶって、信玄にきりつくること九回にわたったと言われている。
川中島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
刑事の一人が頓狂な声を立てたので、驚いてその方を見ると、外へ開け放たれたドアの下から、ニョロニョロと、小豆あずき色の、小さなまだら蛇が、這い出して来るのが眺められた。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
烏貝ムウル売り、憲兵、人足、小豆あずき拾い、火夫、人さらい、トーマス・クックの通弁、……そういったやからが、材木、小麦、椰子やしの実、古錨、オーストラリヤの緬羊、瀝青グウドロン、鯨油の大樽と
いつもよく例の小豆あずき色の矢絣やがすりのお召の着物に、濃い藍鼠あいねずみに薄く茶のしっぽうつなぎを織り出したお召の羽織を着てやって来たのだが、今日は藍色の地に細く白い雨絣の銘仙の羽織に
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
呉服屋では、番頭さんが、椿つばきの花を大きく染め出した反物たんものを、ランプの光の下にひろげて客に見せていた。穀屋こくやでは、小僧さんがランプの下で小豆あずきのわるいのを一粒ずつ拾い出していた。
おじいさんのランプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
疣というのは辞書を引くと、『皮膚上に、筋肉の凝塊ぎょうかいをなして、飯粒ぐらいの大きさに凸起せるもの』とありますが、野呂のは飯粒よりももっと大きい。ゆで小豆あずきぐらいは充分にあります。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
非道にも谷川へごろ/\/\/\どんと突落し、餞別に貰いました小豆あずきひえは邪魔になりますから谷へ捨て、のりを拭って鞘に納め、これから支度をして、元来た道を白島村へ帰って来ました。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ある年は、小切れをもらってお手玉をつくる小豆あずきを、お盆の上でっていた。ある年はお手習いしていた。またある年は、燈心を丸めて、紙で包んだまりを、色糸で麻の葉や三升みますにかがっていた。
人通りのない夕暮れ近い空気に、広いようようとした大河たいかを前景にして、そのやせぎすな姿は浮き出すように見える。土手と川との間のいつも水をかぶる平地には小豆あずきや豆やもろこしが豊かに繁った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
たのしみは小豆あずきの飯のひえたるを茶づけてふ物になしてくふ時
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
藪入りの寝るや小豆あずきの煮えるうち
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
無残にも小豆あずき大の赤黒い痘痕あばたが、籠釣瓶かごつるべの佐野次郎左衛門で、会員達の好奇心も一ぺんにさめて、思わず顔をそむけることも少くはありません。
法悦クラブ (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
米俵か小豆あずきか、とにかく裕福な檀家だんかの贈りものとみえ、牛車に山と積まれてゆく俵の上には、木札が差し立ててあり
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
是を小豆あずきとともに煮たものをアヅキボウトウとも謂っている。三河の渥美あつみ半島では三十年余り以前、私も是をドヂョウ汁と謂って食わされて喫驚びっくりした。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それでも火の気が便りだから、横坐りに、つまを引合せて肩で押して、灰の中へあらわなひじも落ちるまで、火鉢のふちもたれかかって、小豆あずきほどな火を拾う。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たとえばわれわれの世界ではおけの底に入れた一升の米の上層に一升の小豆あずきを入れて、それを手でかき回していれば、米と小豆は次第に混合して、おしまいには
映画の世界像 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
さっそく正子にいって、五目ずしをつくらせたり、闇の砂糖を買ってきて汁粉の小豆あずきをかけさせたりした。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
これはそのままじゃおけません、わたしはこれを神棚へ捧げます、そうしてこれから買物に出かけます、小豆あずきの御飯を炊いて、お頭附かしらつきでお祝いをしましょう。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「これは大変だな。命がけだな。」と笑っていると、つい傍にH夫人が小豆あずき色のコートをつけて、タオルで頬かぶりの、鼠いろの眼鏡をかけて、ちらと愛嬌笑いをした。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)