天秤てんびん)” の例文
すると、その中へ、ほうり出すように、荷担にないの水桶をおいて、肩の天秤てんびんをはずすやいな、両手をひろげて、一同をさえぎった者がある。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しな天秤てんびんおろした。おしなたけみじか天秤てんびんさきえだこしらへたちひさなかぎをぶらさげてそれで手桶てをけけてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あの可憐で純潔な処女と、このみだりがましき年増としま女とを、心の天秤てんびんにかけるとは、お前は何という見下げ果てた堕落男なのだ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼はむしろ冷やかに胸の天秤てんびんを働かし始めた。彼はお延に事情を打ち明ける苦痛と、お秀から補助を受ける不愉快とを商量しょうりょうした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
婿一人の小遣こづかい銭にできやしまいし、おつねさんに百俵付けをくくりつけたって、からだ一つのおとよさんと比べて、とても天秤てんびんにはならないや。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
もう一ツ小盥をかさねたのを両方振分にして天秤てんびんで担いだ、六十ばかりの親仁おやじやせさらぼい、枯木に目と鼻とのついた姿で、さもさも寒そう。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「白じらしいことを云うな、それじゃあなんだな、おれとこちらの旦那と金の天秤てんびんにかけて、そろそろ牛を馬に乗替える気になったのだな」
明暗嫁問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
老商はひとりごとをいいながら、黄金メダルを天秤てんびんの皿からおろし、こんどはそれを店の飾窓かざりまどの中にあるガラス箱の棚の一つの上にのせた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
宝瓶宮ほうべいきゅう磨羯宮まげつきゅう、射手座、天蠍てんけつ宮、天秤てんびん座、処女座、獅子宮、巨蟹きょかい宮、両子宮、金牛宮、白羊座、と、この十二の名で呼ばれることになった。
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
木の根や草株の取りのけなど比較的軽いものは天秤てんびんに、泥運びは中荷を両端で担いあげていた。雨水を除く溝も平行して掘り進められているのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
たとえば、いろは四十七文字を習い、手紙の文言もんごん、帳合いの仕方、算盤そろばんの稽古、天秤てんびんの取扱い等を心得、なおまた進んで学ぶべき箇条ははなはだ多し。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
思想の状態はあたかも天秤てんびんの両方の皿に同じ重さの分銅を載せたときのごとくに互いにつり合うて、よく極端の空論に走ることを防ぐこともできよう。
生物学的の見方 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
女房の手前をつくろつてまでも!———これは明かに、猫と女房とを天秤てんびんにかけると猫の方が重い、と云ふことになる。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そしてそうした大きな鯉の場合は、家から出てきた髪をハイカラにった若い細君の手で、すくい網のまま天秤てんびんにかけられて、すぐまた池の中へ放される。
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
それと同じようにいかなる科学者でもまだ天秤てんびんや試験管を「見る」ように原子や電子を見た人はないのである。
化け物の進化 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その中に厚硝子張あつガラスばり樫材オークざいの固定薬品棚、書類、ビーカー、レトルト、精巧な金工器具、銅板、鉛板、亜鉛板、各種の針金、酸水素瓦斯ガス筒、電気鎔接ようせつ機、天秤てんびん
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
逃して宜いものか。——でも、俺は小夜菊の方が餘つ程罪が深いと思ふよ、閻魔えんまの廳の天秤てんびんは、ピンとあがるぜ、まあ呑むが宜い。まだ酒は殘つて居るやうだ
小さい石ころをとって、普通の棹秤さおばかりで測ると、六四グラムと出る。天秤てんびんで測ると、六五・二八グラムと出る。精密化学天秤で測ると、六五・二八三五グラムと出る。
科学の限界 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
みねは三すけきしめて、さてもさても世間せけん無類むるい孝行かう/\おほがらとても八歳やつ八歳やつ天秤てんびんかたにしていたみはせぬか、あし草鞋わらじくひは出來できぬかや、堪忍かんにんしてくだされ
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかし、彼の乗せられている天秤てんびんの皿は、恭一のそれとは、いつも反対の側についていたのである。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
溜塗ためぬりのお粗末な脇差を天秤てんびん差しにし、懐から手先を出して、へちまなりの、ばかばかしくながい顎の先を撫でながら、飽きたような顔もしないでのんびりときいている。
顎十郎捕物帳:04 鎌いたち (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
精密な天秤てんびんをつかって、物質の変化を数量的に測ったことにあるということを、すでにお話ししましたが、この点をよく心にとめて彼の仕事を見てゆかなくてはなりません。
ラヴォアジエ (新字新仮名) / 石原純(著)
といって天秤てんびんを肩へ当るも家名のけがれ外聞が見ッともくないというので、足を擂木すりこぎ駈廻かけまわッてからくして静岡藩の史生に住込み、ヤレうれしやと言ッたところが腰弁当の境界きょうがい
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
天秤てんびんにかけられたような、底のない空虚に浮んでいるような不安がお前を襲って来るのだ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
有名なアニのパピルスにオシリス神(冥界の判官)の命により、アスビス神死人の心臓と正識の印たる直な羽とを天秤てんびんで懸け、その傍に怪物アームメットが居る処の絵あり。
自由意志と宿命とに関らず、神と悪魔、美と醜、勇敢と怯懦きょうだ、理性と信仰、——その他あらゆる天秤てんびんの両端にはこう云う態度をとるべきである。古人はこの態度を中庸と呼んだ。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
金と女を両天秤てんびんにかけて、こんなあくどい狂言をうったんだ。手先に使っておったあの五人の川船頭が、漏らしてならねえ秘密を漏らしそうになったんで、荒療治をやったのよ。
リヤカーに白米を積んだのや、天秤てんびんでつっかけたざるに、味噌とか野菜とかを入れた百姓女達、中には赤いネルの腰巻をたらした娘なぞもじって、毎朝のように群をなして通る。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
高を雇い入れてから半月ほどの後に、遼陽りょうよう攻撃戦が始まったので、私たちは自分の身に着けられるだけの荷物を身に着けた。残る荷物はふた包みにして、高が天秤てんびん棒で肩にかついだ。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ラートナのふたりの子、白羊と天秤てんびんとに蔽はれて、ひとしく天涯を帶とする頃 一—三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
七八町の距離というのは当時の戦には天秤てんびんのカネアイというところである。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
天秤てんびんにかけて、どっちをるとですか? どっちが、可愛いとですか?
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
長卓二台、椅子四脚、香炉と燭台一対ずつ、天秤てんびん一本。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
盤台を天秤てんびんにして勢いよく河岸へ走る土地の勇み。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やがて足駄あしだ歯入はいれ鋏磨はさみとぎ、紅梅の井戸端に砥石といしを据ゑ、木槿むくげの垣根に天秤てんびんを下ろす。目黒の筍売たけのこうり、雨の日にみの着て若柳の台所を覗くもゆかしや。
草あやめ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
手桶てをけ一提ひとさげ豆腐とうふではいつものところをぐるりとまはれば屹度きつとなくなつた。かへりには豆腐とうふこはれでいくらかしろくなつたみづてゝ天秤てんびんかるくなるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
充分気をつけていたつもりだが、何しろ、二刻もつづくと、腰の骨が持ち耐えられなくなって、また誰かの足元へ、ドサッと、天秤てんびんを落してしまった。
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
にもかかわらず、お題目とおそっさまに対する祈念が、主として母親の本復を六ちゃんのほうで乞い願っているところに、天秤てんびんの狂いのようなものがあった。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
天秤てんびんの先へ風呂敷ふろしきようのものをくくしつけ肩へ掛けてくるもの、軽身に懐手ふところでしてくるもの、声高こわだかに元気な話をして通るもの、いずれも大回転の波動かと思われ
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
だが、彼はあくまで「やり直し」を主張する勇気もなく、気拙きまずい顔で沈黙してしまった。屈辱と命と天秤てんびんにかけて見て、やっぱり命の方がおしかったのであろう。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この種の記事が一般読者の心に与える悪い影響とを天秤てんびんにかけてみた時に、どちらが重いか軽いかという事は少し考えてみればだれにもわかる事ではあるまいか。
一つの思考実験 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
中身を小さいさじの上にすくいとってみたり、天秤てんびんの上に白紙を置いてその上に壜の内容全部をとりだしてはかったり、また封の切ってないものは封緘ふうかんを綿密に検べたり
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
三分の一失うと昏睡こんすいするものだと聞いて、それにわれとも知らずさいの肩に吐きかけた生血なまち容積かさを想像の天秤てんびんに盛って、命の向う側におもりとして付け加えた時ですら
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
実験結果の詳しい話は『北極の氷』に書いておいたので、ここでは略するが、アメリカの連中も「グリーンランドの研究も、もうショベルと天秤てんびんの時代は過ぎたなあ」
白い月の世界 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
大がらとても八歳やつは八歳、天秤てんびん肩にして痛みはせぬか、足に草鞋くひは出来ぬかや、堪忍かんにんして下され、今日けふよりは私もうちに帰りて伯父様の介抱活計くらしの助けもしまする
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「いや、お葉は佐野松と杵太郎の兩天秤てんびんをかけて、良いほどに扱つてゐたのだ。若い杵太郎は、二人の逢引を知つてゐて、我慢が出來なくなつたんだらう。ありさうなことぢやないか」
それにはわずかの重さの相違をも見分けることのできる精密な天秤てんびんが必要なのであって、これを実際につくって数量的な研究を進めてゆかなければ、学問の正しい進歩は実現しないのです。
ラヴォアジエ (新字新仮名) / 石原純(著)
十六夜いざよい清心せいしんが身をなげた時にも、源之丞げんのじょう鳥追姿とりおいすがたのおこよを見そめた時にも、あるいはまた、鋳掛屋いかけや松五郎が蝙蝠こうもりの飛びかう夏の夕ぐれに、天秤てんびんをにないながら両国の橋を通った時にも
大川の水 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
前と後ろにおけに二十五ずついれて、桶半分くらい水を張っておかないと、こんにゃくはちぢかんでしまうから、天秤てんびんをつっかって肩でにないあげると、ギシギシと天秤がしまるほどだった。
こんにゃく売り (新字新仮名) / 徳永直(著)
天秤てんびんを相手に明かし暮らすよりほかに楽しみがないようになった。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)