大儀たいぎ)” の例文
ある日も私は近所の子供と附近の土手下で遊んでいると、そこへ母がひょっくりと大儀たいぎそうな足どりでやって来て、私を呼びとめた。
何もかも大儀たいぎじゃ、目をあけるのも、お前の声を聞くのも——とでもいうように、静かな、途絶えがちな呼吸をしてこんこんと眠っている。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
だからと言って、それを探しに出かけるのも大儀たいぎだと言うので、困ったなァ、と思って、悄気しょげていたところだったのです。
蕗の下の神様 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
その人がね、年を老って大儀たいぎなもんだから前をのぼって行く若い人のシャツのはじにね、一寸ちょっととりついたんだよ。するとその若い人が怒ってね
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
大儀たいぎな足を引き摺って長い橋を渡って、飲みたくもない茶を飲みに来たのは、自分ながら馬鹿ばかしいようにも思われた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ことにこの特長の発達している私には食後の大儀たいぎなこと、客人きゃくじんの前の長時間などは、つくづくこの女子にのみ課せられた窮屈きゅうくつ風習ふうしゅうりてます。
女性の不平とよろこび (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
臥ているよりか大儀たいぎなものだ。のどが乾いたから湯を一杯持って来いとお島を追払って、乃公は歌さんの室へ行った。引出の中に写真が沢山あった。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「あの泥棒は逃がしてやった。それにわしはすっかり腹がくちくなって、指一本動かすのも大儀たいぎじゃったからなあ」
少将はちょいとうなずいたのち、濃いハヴァナの煙を吐いた。それからやっと大儀たいぎそうに、肝腎かんじんの用向きを話し始めた。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
李聖学は返事をしなかったが、やがて将棋をかき集めて、竹筒の中に入れ、しぶしぶと、大儀たいぎそうに立ち上った。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
本堂のほかに三つばかり小ひさな堂やお宮のやうなものがあるのを、二人は大儀たいぎさうにしながら一々見て𢌞はつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
矢野は細面手ほそおもての色黒い顔に、こしゃこしゃした笑いようをしながら、くたびれたような安心したようなふうで、大儀たいぎそうに片手に毛布と鞄との一括ひとくくりを持ち
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
Bは大きな頭を振って、歩いて見たが、もはやこの身体が自分のものでないように運ぶのが大儀たいぎであった。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
此間このあひだからくつてつてることつてるのよ。だけど、にいさんもあさ夕方ゆふがたかへるんでせう。かへると草臥くたびれちまつて、御湯おゆくのも大儀たいぎさうなんですもの。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
なるほどこの少年はこれであろう、身体からだは沢庵色にふとっている。やがてわけもなく餌食えじきたいらげて湯ともいわず、ふッふッと大儀たいぎそうに呼吸いきを向うへくわさ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は何だか口を利くのも大儀たいぎになっていた。二人は長い間、一言も云わないで顔を見合せていた。
D坂の殺人事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
兵達は、皆のろのろと大儀たいぎそうに立ち上った。疲労がそうさせるのか、皆一様な単純な表情であった。考える力を喪失した、言わば動物園のおりのけもののようであった。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
「きょうは雨になったで出かけるのが大儀たいぎだ。昼には湯豆腐でもやって寝てくれようか」
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
夜業よなべでもした方がよほど増しだ、と思い出すと、もう、とても大儀たいぎで、其所へ坐っていることが出来ず、とうとう中途で、挨拶もせず、こそこそとその部屋へやを逃げ出して帰って来て
昼のうち頭重つむりおもく、胸閉ぢ、気疲劇きづかれはげしく、何を致候も大儀たいぎにて、けて人に会ひ候がうるさく、たれにも一切いつせつくち不申まをさず唯独ただひと引籠ひきこもり居り候て、むなしく時の候中さふらふうちに、此命このいのちの絶えずちとづつ弱り候て
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
れるよほどこゝろなら、ほんに苦勞くろでも大儀たいぎでも、つぼみはならさずに、どうかかせてくだされよう……」熟練じゆくれんしたこゑ調子てうしが、さうでなくても興味きようみつてる一どうみゝにしみじみとひゞいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
餘計よけいひてつて、大聲おほごゑわらひ、高調子たかてうし饒舌しやべるのでるが、かれはなしにはもう倦厭うんざりしてゐるアンドレイ、エヒミチは、くのもなか/\に大儀たいぎで、かれると何時いつもくるりとかほかべけて
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「疲れたであろう。大儀たいぎ大儀たいぎ。ゆっくり休息なされたがよい」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼は、いくらか大儀たいぎになったらしく、尻尾しっぽを振らない。
返辞するさえ大儀たいぎそうに、彼女は黙って立っていた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大儀たいぎ、大儀」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
男は妻の顔を見たまま、無遠慮に大きい欠伸あくびをした。それからさも大儀たいぎそうに、ハムモックの上へ体を起した。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「そうですねえ。思いのほか、重くはないんだけれど、なんだか動くのが大儀たいぎですね。どうもはたらきにくい」
大宇宙遠征隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
遠方ゑんぱうまでわざ/\出迎でむかへをけて、大儀たいぎであつた。何分なにぶん新役しんやくのことだから、萬事ばんじよろしくたのむ。しかしかうして、奉行ぶぎやうとなつてれば、各々おの/\與力よりき同心どうしんは、のやうにおもふ。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
豚がまだ承知とも、何とも云わないうちに、むちがピシッとやって来た。豚は仕方なく歩き出したが、あんまり肥ってしまったので、もううごくことの大儀たいぎなこと、三足で息がはあはあした。
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それにご覧なさいまし、お辞儀一ツいたしますさえ、あの通り大儀たいぎらしい。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余計よけいいてって、大声おおごえわらい、高調子たかちょうし饒舌しゃべるのであるが、かれはなしにはもう倦厭うんざりしているアンドレイ、エヒミチは、くのもなかなかに大儀たいぎで、かれると何時いつもくるりとかおかべけて
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
男の顔は、光線の加減か土色つちいろに見えた。ひどく大儀たいぎそうだった。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
起きて働くどころか足を持ち上げることさえ大儀たいぎだった……。
『それは大儀たいぎだツた。どうだな能登守殿のとのかみどの御病氣ごびやうきは。』と、但馬守たじまのかみかたちたゞしてうた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
第二の幽霊 (これもやはり大儀たいぎさうに、ふはりと店へはひつて来る。)おや、今晩は。
LOS CAPRICHOS (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
まくらもとの煙草盆たばこぼんなんか、むすめさんが手傳てつだつてと、……あゝ、わたし大儀たいぎだ。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ツェねずみが出て来て、さも大儀たいぎらしく言いました。
ツェねずみ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
下人は、大きなくさめをして、それから、大儀たいぎそうに立上った。夕冷えのする京都は、もう火桶ひおけが欲しいほどの寒さである。風は門の柱と柱との間を、夕闇と共に遠慮なく、吹きぬける。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それ御覧ごらんなさいまし、お辞義じぎひとツいたしますさい、あのとほり大儀たいぎらしい。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「あのね」とさも大儀たいぎそうに云った。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「お手代てだい大儀たいぎぢや。」
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大儀たいぎぢや』
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)