夜業よなべ)” の例文
とうとう我慢がしきれずに、お松は夜業よなべをしている与八のところへ来てホロホロと泣きました。仕事の手を休めて聞いていた与八は
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おじいさんは、また、自分じぶんからはたらいて、さけわねばならなくなりました。そこで、よるはおそくまで、夜業よなべをすることになりました。
こまどりと酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
仕事はしていないがふいごの囲いには赤い火が燃えさかっていた。そして、一人の女房が焔に背を向けて夜業よなべに布を打っているのだった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
闇夜やみよだった。まだよいの口だ。開墾地に散在している移住者の、木造の小屋からは、皆一様に夜業よなべの淡い灯火あかりの余光が洩れていた。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
何心なく頑是なしに走って参り、織場へ往って見ますると、おくのは夜は灯火あかりけて夜業よなべようと思い、襷掛たすきがけに成って居るうしろへ参り
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
北の窓をあけて見ると、大通りの空は灯のひかりで一面に明るい。明治座は今夜も夜業よなべをしているのであろうなどとも思った。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
靜かな伊賀の山里の、村人は皆午睡の夢をむさぼつてゐるのに、文吾の母だけは、夜業よなべをしても足らぬ賃仕事の絲紡ぎにかゝつてゐるのであつた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
夜業よなべをやっていながらふとした粗相で傍に置いてあった揮発きはつの大罐に火が移って、三人とも頭からその爆発を浴びてしまったというのであった。
生不動 (新字新仮名) / 橘外男(著)
死んだ女房が夜業よなべに縫つてくれたらしいしまの財布の中には、青錢が七八枚と、小粒で二分ばかり、それに小判が一枚入つて居るではありませんか。
山家育やまがそだちの石臼いしうす爐邊ろばた夜業よなべをするのがきで、ひゞや『あかぎれ』のれたいとはずにはたらくものゝいお友達ともだちでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ほだの煙は「自然の香」なり、篠田の心は陶然たうぜんとして酔へり、「私よりも、伯母さん、貴女あなたこそ斯様こんな深夜おそくまで夜業よなべなさいましては、お体にさはりますよ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
一度たべる樣に致てすこしにても母樣の御口に適物を調へてあげんと思へども夫さへ心の儘ならずされどもうなぎあげたらお力も付ふかと存夜業よなべに糸をくりし代にて鰻を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
日に増し寒さが厳しく、お酉様とりさまの日も近づくと、めっきり多忙いそがしくなるので、老人は夜業よなべを始め出す。私もそばで見ている訳にいかず自然手伝うようになる。
「いえ、その方ならば大丈夫でごぜえます。ほら、あれを御聞きなせえまし、夜業よなべでもしておりますものか、あの通りつちの音が聞えますゆえ、棟梁達とうりょうたちの首は大丈夫でごぜえます」
蟹田がんだなる鍛冶かじ夜業よなべの火花闇に散る前を行過ぎんとして立ちどまり、日暮のころ紀州この前を通らざりしかと問えば、気つかざりしとつち持てる若者の一人答えていぶかしげなる顔す。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ほおけて夜業よなべ仕事に健康もすぐれず荊棘いばらの行く手を前に望んで、何となし気が重かった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
伸餠のしもち夜業よなべまないたちやまでして、みんなでつた。庖丁はうちやうりないので、宗助そうすけはじめから仕舞しまひまでさなかつた。ちからのあるだけ小六ころく一番いちばんおほつた。そのかは不同ふどう一番いちばんおほかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
お店の人の内密食ないしょぐい、そのほかは、夜長の、夜業よなべをしまったあとで時折買うものだと、大問屋町の家庭では下女たちまで、そんなふうに堅気にしこまれていたので、大所おおどころの旦那さんの天ぷらの立食は
六十のおばアさんまでが牛に牽かれて善光寺詣りで娘と一緒にダンスの稽古に出掛け、おさんどんまでが夜業よなべ雑巾刺ぞうきんさしめにして坊ちゃんやお嬢さんを先生に「イット、イズ、エ、ドッグ」を初めた。
夜業よなべはせぬのか……わら細工なぞ……」
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「今夜は夜業よなべをしますか。」
聖家族 (新字新仮名) / 小山清(著)
それで、夜業よなべに、こうしてわらじをつくって、これをまちりにゆき、かえりにさけってくるのをたのしみにしていたのであります。
こまどりと酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこに一軒の鍛冶小屋があって、今夜も夜業よなべ槌音つちおと高く、テ——ン、カ——ン、テ——ン、と曠野こうやの水に、すごい木魂こだまを呼んでいました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
死んだ女房が夜業よなべに縫ってくれたらしいしまの財布の中には、青銭が七八枚と、小粒で二ばかり、それに小判が一枚入っているではありませんか。
このお長屋のうちで、ただ一軒だけ燈火あかりをつけて夜業よなべをしていたのが、思いがけなく外から呼ばれて驚きました。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夜は夜で、夜業よなべもしねで、教員の試験を受けっとかなんとかぬかして、この夜短かい時に、いつまでも起きてがって、朝は、太陽おてんとさま小午たぼこになっても寝くさってがる。
緑の芽 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
年齢とし二十七だが感心なもので、亭主の借金をぽつ/\内証で返す積りで働きまするのだが、夜業よなべを掛けても、一反半織るのは、余程上手なものでなければ出来ませんのを
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お婆さんはわざ/\式に間に合はせる積りで夜業よなべまでして仕立て直して呉れたのでしたが、到頭私は強情を言ひ張つて、その羽織を着るだけは許して貰つたことが有りました。
夜業よなべでもした方がよほど増しだ、と思い出すと、もう、とても大儀たいぎで、其所へ坐っていることが出来ず、とうとう中途で、挨拶もせず、こそこそとその部屋へやを逃げ出して帰って来て
それゆえ手すきの夜業よなべにと、みなの衆にもお集りを願い、ぜひにもまた今宵お借りせねばならぬのじゃ! 神意は広大、御神罰もまた御広大、崩れた垣のままでいち夜たりとても棄ておかば
伸餅のしもち夜業よなべまないたを茶の間まで持ち出して、みんなで切った。庖丁ほうちょうが足りないので、宗助は始からしまいまで手を出さなかった。力のあるだけに小六が一番多く切った。その代り不同も一番多かった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それにしても気がくので、お光は夜業よなべで裁縫に取りかかった。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
兄の定綱は、父秀義にも劣らない、矢をぐ事の上手であったが、ある夜兄弟して、夜業よなべに矢をはいでいるのを、頼朝が見て
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これからよるながくなるから、夜業よなべをするのにすこしでもおおいほうがありがたい、晩方ばんがたちょっといってえばいいのだ。
火を点ず (新字新仮名) / 小川未明(著)
生憎あいにく久治は叔母のお紺と家にいたに違いはないし、板倉屋の若旦那の幸吉は、番頭の忠助と月末の帳合に忙しく、亥刻よつ(十時)近くまで夜業よなべをしていたそうです」
毎晩の囲炉裏ばたを夜業よなべの仕事場とする佐吉はまた、百姓らしい大きな手につばをつけてゴシゴシとわらいながら、たぬきの人を化かした話、はたけに出るむじなの話、おそろしい山犬の話
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
矢張やはり旦那様がおせわしくって、日々にち/\御出勤になりましたり、夜もお帰りは遅し、お留守勝ですから夜業よなべが出来ようかと存じますが、何だか矢張やっぱりせか/\致しまして、なんでございますよ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
色紙や懐紙に歌を書いたとて、それは足しにもならないし、大きな寺院から写経の仕事をひそかにもらって、筆耕に等しい夜業よなべをしたりしていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さけさえあれば、おじいさんは、さむ夜業よなべまでしてわらじをつくることもしなくてよかったので、それからよるはやくからとこにはいってねむることにしました。
こまどりと酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
生憎あいにく久治は叔母のお紺と家にゐたに違ひはないし、板倉屋の若旦那の幸吉は、番頭の忠助と月末の帳合に忙がしく、亥刻よつ(十時)近くまで夜業よなべをしてゐたさうです」
食後に、半蔵は二階へも登らずに、燈火あかりのかげで夜業よなべを始めたお民を相手に書見なぞしていたが、ふと夜の空気を通して伝わって来る遠い人声を聞きつけて、両方の耳に手をあてがった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まア是ア詰らんもんでございますけれども、私が夜業よなべ撚揚よりあげて置いたので、使うには丈夫一式に丹誠した糸でございます、染めた方は沢山たんとえで、白と二色ふたいろ撚って来ました、誠に少しばいで
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
老母を囲んで夜業よなべの手内職をしている兄妹はらからがある。物質には極端にめぐまれていない代りに、秀吉や家康の家庭にはないものをお互いが持ち合っているらしい。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「店番をしながら、夜業よなべの亭主の帰りを待って、八方へ眼を配っているんで」
むすめは、夜業よなべはたる。
お江戸は火事だ (新字新仮名) / 小川未明(著)
藤を持たない藤娘のようなのが不意にこういって入ってきたので、行燈あんどんと蚊やりを寄せ、夜業よなべに絵の具をなすッていた半斎、びッくりして鼈甲べっこうぶちの眼鏡めがねを上げた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、起き出して、おつみと共に、よいから仕残してある夜業よなべ仕事を、炉のそばで、せっせとやりだした。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「でも、家の者は、母さんはじめ——餅一つ祝うでなし、こうして寒々、夜業よなべして暮してるに」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暗くなるまでの一日仕事をおえて帰るにも、手ぶらでは帰らない、腰の曲った体のかくれるほど、春蚕はるごの桑の葉を背負いこんで、なお、夜業よなべ飼蚕かいこでもやろうというくらいなおすぎ婆あさんであった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……これは、母上が、御自分の手で、夜業よなべいて下された黍粉だ。勝手元の下婢おんなにあずけて、粗末にせぬよう、団子だんごになとして、時折わしに喰わせてくれ。……幼い時からわしはそれが好きでなあ。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)