)” の例文
よした方がいい——と云おうとして杜はそれが多勢の生徒の前であることに気づき、出かかった言葉をグッとのどの奥にみこんだ。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
僕は頭痛のはじまることを恐れ、枕もとに本を置いたまま、○・八グラムのヴェロナアルをみ、とにかくぐっすり眠ることにした。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
埋伏の毒をます——という意味は、要するに、甘いものに包んだ劇毒を嚥み下させて、敵の体内から敵を亡ぼそうという案である。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見物も此の場の成行きに固唾かたづんでなりを沈めて居るものゝ、そろ/\舞台に穴があきさうになつて来るので気が気でなくなつて来た
(新字旧仮名) / 喜多村緑郎(著)
ごはん粒が納豆なっとうのように糸をひいて、口に入れてんでもにちゃにちゃして、とてもみ込む事が出来ない有様になって来ました。
たずねびと (新字新仮名) / 太宰治(著)
でたジャガ芋二つの朝食をみこんで海岸の家を出ると、ぼくは六時二十九分の汽車で上京して、品川から四谷塩町行の都電に乗る。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
先刻さっき、僕が恋愛曲線製造の順序と計画を語り終ると、彼女は喜び勇んで、多量のモルヒネをんだのだ。彼女は再び生き返らない。
恋愛曲線 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
すると、その瞬間レヴェズ氏に、衝動的な苦悶の色がうかび上ったが、ゴクリとつばみ込むと、顔色をもとどおりに恢復して云い返した。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
またこれより以上の、夢を追ふ馬鹿者が、口當りのいゝうそ滿喫まんきつし、毒をまるで甘露かんろかなんぞのやうにんだりした例はない、と。
満場の聴衆はみな息をんで聴きすましている。伴蔵とその女房の対話が進行するに随って、私の頸のあたりは何だか冷たくなってきた。
ソクラテスは鴆毒ちんどくおわったち、暫時の間は、彼方此方あちらこちらと室内を歩みながら、平常の如くに、門弟子らと種々の物語をして
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
他の子供たちは咽喉へみ下すのもまどろこしいようにせっせと食べ放って、遊び半ばで置いて来た応接間の方へ駆け出して行きました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一錢ひやくもねえから」と卯平うへいはこそつぱいあるもののどつかへたやうにごつくりとつばんだ。かれしわ餘計よけいにぎつとしまつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
まるで山羊のような声だと思いながら……その時に山羊髯はヤッと咽喉のどに絡まったたんみ下して、蚊の啼くような声を切れ切れに出した。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ゆうべ一睡もしなかったので、彼はふらふらとめまいがして、まるで何か甘ったるい睡眠剤でもまされたような状態だった。
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「僕なら、それを抱いてやるよ。僕の肉体はますます温くなるのだ。灼熱しゃくねつするまでにすべてのものをみこむのだ。その上で僕は出発する」
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
と、女は水洟みずばなをすすると一緒に唇からみ入る涙をぐっとみこんだらしかったが、同時に激しくごほんごほんとせきむせんだ。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
また仏領コンゴーの土人は、最初男色を小蛇が人をむに比し、全然あり得べからぬ事と確信した(デンネットの『フィオート民俗篇』)。
と念仏を唱へながら、眼をつむつてぐつと一息にくだした。客が何のためにお念仏を唱へたかは記者の知つたことではない。
満場の聴衆はみな息をんで聴きすましている。伴蔵とその女房の対話が進行するにしたがって、私の頸のあたりは何だか冷たくなって来た。
寄席と芝居と (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
姫たちも、みな、よく働くで、気のいい男にもたれこみ、自在に、みこんだり吐きだしたりするそうな。心得までに言って聞かせるのだが
奥の海 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「それに、口のあたりに、猛烈な巴丹杏はたんきょうの匂いが残って居ります。これは小栗さんは、かなり多量の青酸をんだ証拠です」
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
私は子供たちの真似まねをしてそれを一つずつこわごわ口に入れてみた。なんだかっぱかった。私はしかしそれをみんな我慢がまんをしてみ込んだ。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
私がついこの間から始めた此の日記のやうなものは、中味をんだあとの薬包紙をまるめずにとつて置いて百合さんの万年筆で書いてゐるのだ。
恢復期 (新字旧仮名) / 神西清(著)
この町へ帰って来てしばらくしてから吉田はまた首くくりの縄を「まあ馬鹿なことやと思うて」んでみないかと言われた。
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
で、今度は、彼女の様子は、道の長さをくぎりくぎりのどへ押し込むようにして、苦しげにみ込んでいくとでも言おうか。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
それをたまの方からみ下さなければならない。十二指腸から胆汁をとる療法だがこのゾンドなるものをかけられる時は一種悲しき芸当の感じだ。
一九二九年一月――二月 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
胃袋へくだしたところで足長蜂や蜜蜂であったなら、間もなく往生しようが、大きな熊蜂であると、軽くは死なぬ。
魔味洗心 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
そこに劇薬をんだらしい銀三が、かすかな微笑さえ浮かべて、石の如く凍って倒れていた——結婚の饗宴にでも出かけるような燕尾服を着て……。
凍るアラベスク (新字新仮名) / 妹尾アキ夫(著)
彼女の意識はだん/\不明瞭になつたが、それでも咯血する度毎たびごとにその血を吐き出さずにみこんだ。而して激しくむせた。頭の毛をかきむしつた。
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
そしてそこへんでしまふんです。神樣かみさま、どうしてこんなにみたいんでせう。どうかしてみたいさけをやめることは出來できないもんでせうか
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
そして長いあいだの習慣になっている食後の胃の薬を、四畳半の机の抽斗ひきだしから持って来て、茶碗ちゃわんの湯でみ下した。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
雪が溶けた頃になって、一里も離れている「隣りの人」がやってきて、始めてそれが分った。口の中から、半分みかけている藁屑わらくずが出てきたりした。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
どうかすると、わが家の食事のときに、そんな景色を想い出して、急に喉がつまり、涙の味のする飯のかたまりを、無理にみこんだような記憶がある。
庶民の食物 (新字新仮名) / 小泉信三(著)
母から来る手紙は兄の身体が非常に衰えてこの頃は少量のモルヒネをむようになったということを伝えていた。
三等郵便局 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
三人の兄弟は、会議を開く前に、集って茶をんだ。その時実はって行って、戸棚とだなの中から古い箱を取出した。塵埃ほこりを払って、それを弟の前に置いた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今にも階上で格闘が始まり、凄い物音の起こるであろう事を予期して、階下では皆身構えて固唾かたずんでいた。
僕は証拠品と共にこの手紙をむ。そして拳銃ピストルへ実弾をめる。舞台の上で僕が射殺されれば、必ず警察で手入れをするだろう。その他にもう手段はない。
劇団「笑う妖魔」 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
其故それゆゑあいちやんは其菓子そのくわし一個ひとつみました、ところがぐにちゞしたのをよろこぶまいことか、戸口とぐちからられるくらゐちひさくなるやいなうちからして
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
み込んだ食べものを口に出して反芻はんすうする見苦しい男の癖に、反射心理といふのか、私のご飯の食べ方がきたないことを指摘し、口が大きいとか、行儀が悪いとか
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
古、ところの漁夫、そぞろ好奇のこころにかりたてられ、洞窟のきはまるはてを探らむとおもひ、一日舟を進め入れたりしなり。冥界の大魔がみくだす潮の流は矢よりも疾し。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
私は大きに勇気をふるっていく皿かの料理を試みたが、実に腹がへっていたのにかかわらず、み込むことが出来たのはたった一つで、それはスープの一種であった。
モンセーニュールは非常に多くのものをやす々とくだすことが出来たので、少数の気むずかし屋には、フランスをまでずんずん嚥み下しているのだと想像されていた。
あらゆる感覚は冥府めいふへ落ちる霊魂のように、狂おしい急激な下降のなかにみこまれるように思われた。そのあとはただ、沈黙と、静止と、夜とが、宇宙全体であった。
落穴と振子 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
そうして俺はこの「死」を嚥下えんかしたかのように、——それは精神を錯乱させながら、おもむろに生物の生命を毒殺するアルカロイドをみ込んだかのように、感じさえした。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
と調子はおっとり聞こえたが、これを耳にするとひとしく、立二は焼火箸やけひばしんだように突立つッたった。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある時の彼は町で買って来たビスケットの缶をひるになると開いた。そうして湯も水もまずに、硬くてもろいものをぼりぼりくだいては、生唾なまつばきの力で無理にくだした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
顔をしかめたり、自分で調合した薬をんだりしていたのであったが、それでも、山の畠に、陸稲おかぼの落ち穂を拾いに行くのだと言って、嫁のおもんがめたにもかかわらず
山茶花 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
梯子段はしごだんを登り来る足音の早いに驚いてあわててみ下し物平ものへいを得ざれば胃のの必ず鳴るをこらえるもおかしく同伴つれの男ははや十二分に参りて元からが不等辺三角形の眼を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
鼠股引氏は早速さっそくにそのたまを受取って、懐紙かいしで土を拭って、取出した小短冊形の杉板の焼味噌にそれを突掛つっかけてべて、余りの半盃をんだ。土耳古帽氏も同じくそうした。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)