和尚おしょう)” の例文
あるまちはずれのさびしいてらに、和尚おしょうさまと一ぴきのおおきな赤犬あかいぬとがんでいました。そのほかには、だれもいなかったのであります。
犬と人と花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
和尚おしょうさんのお部屋へやがあんまりしずかなので、小僧こぞうさんたちは、どうしたのかとおもって、そっと障子しょうじから中をのぞいてみました。
文福茶がま (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
浄楽寺の和尚おしょうはこの界隈の書家と見えた。およそ街道の右左に立つものは、石でも木標でも一つとして同じ筆にならぬものはない。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
また同じ二十九日には、菩提所ぼだいしょ円同寺に石水和尚おしょうを訪ねて、自分の法名を乞い、見竜院徳翁収沢居士とつけられたということです。
謎の女は和尚おしょうをじっと見た。和尚は大きな腹を出したまま考えている。灰吹がぽんと鳴る。紫檀したんふたを丁寧にかぶせる。煙管きせるは転がった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あんな和尚おしょうを番になんぞ、つけて置きはしないけれど、だから、かえって、一生、おまえさんの目はおてんとさまを見られないのさ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
和尚おしょうに対面して話の末、禅の大意を聞いたら、火箸ひばしをとって火鉢の灰を叩いて、パッと灰を立たせ、和尚はかたわらの僧と相顧みて微笑ほほえんだが
我が宗教観 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
そのかわりにわか和尚おしょうに頼んで手紙を夫人のもとへ送り、その返書を得て朝晩にそれを読みながら、わずかに恋恋れんれんじょうを慰めていた。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
喜三郎はその、近くにある祥光院しょうこういんの門をたたいて和尚おしょうに仏事を修して貰った。が、万一をおもんぱかって、左近の俗名ぞくみょうらさずにいた。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
時たま寺に郵便でもあるときには、庫裡くりに上り込んで和尚おしょうさんのザルの相手になっては日の暮れるのをも忘れることもあった。
なぜならば仰天ぎょうてんして迎えに出た和尚おしょうも左右の者までが、余りに何の設備もない小寺に過ぎないことをくどく言い訳するからだった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
越前永平寺えちぜんえいへいじ奕堂えきどうという名高い和尚おしょうがいたが、ある朝、しずかに眼をとじて、鐘楼しょうろうからきこえて来るかねに耳をすましていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
本堂の机の上には乱れ髪、落梅集らくばいしゅう、むさし野、和尚おしょうさんが早稲田に通うころよんだというエノックアーデンの薄い本がのせられてあった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
すると、この時に背後うしろの方に人の足音がしたので、僕は吃驚びっくりして振り向いた。和尚おしょうさんだろう。背の高い恐い顔をした坊さんが立っていた。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
年も丁度七十歳に達したので、前年んで知り合ひの西福寺の和尚おしょうに頼んで生きとむらひを出してもらひ、墓も用意してしまつた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
鶴のようにせたお身体からだに、眉とひげが、雪のように白く垂れ下がった、それはそれは、有り難いお姿の、和尚おしょう様で御座います。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
昔の事は知りませんが、私が始めて逢いました時は、そんな山気やまっけのある人のようでもなく、至って柔和な、人の好さそうな和尚おしょうさんでしたわ。
むかでの跫音 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
白隠和尚はくいんおしょうはその檀家だんかの娘が妊娠して和尚おしょう種子たねを宿したと白状したとき、世人からなまぐさ坊主ぼうずと非難されても、平然として
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その時に露西亜ロシアは盛んな宗教国であるから、御寺では神に祈祷をし、軍隊の前には十字架を以て和尚おしょう達が臨んで祈祷した。
吾人の文明運動 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
老寄としよりどもも老寄どもなり、寺の和尚おしょうまでけろりとして、昔話なら、桃太郎の宝を取って帰った方が結構でござる、と言う。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし半蔵はそれを穿うがち過ぎた説だとして、伯耆ほうきから敦賀を通って近く帰って来た諏訪頼岳寺すわらいがくじ和尚おしょうなぞの置いて行った話の方を信じたかった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
当時の巨頭桃川如燕、つるつる頭で赤ら顔の和尚おしょう然たる老人、軽からず重からず、程よく上品な口調、「曾我物語」が得意で御前講演の栄を得た。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
納豆売りをしていた少年の母のことを寺の和尚おしょうが薄々知っていたのとで、案外早く話がついて、その夜のうちに埋葬してしまうことになったのだ。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
けえたにしても、これほど小さかねえですよ。——ね、和尚おしょう、豆大将、おまえさんそれでも息の穴が通っているのかい
かれらはこれを同じようなもったいらしさと、行儀ぎょうぎよさをもって、寺小姓てらこしょう和尚おしょうさんにかしずくようにしていた。
菩提寺からは和尚おしょうや寺男が、警察からは、署長を始め二三の警官が、その他急を聞いた菰田家縁故の人々は、まるで火事見舞かなんぞの様に、次から次へと
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「じゃあ、このあいだ和尚おしょうさんの一件のあったお寺だな。そこで、その仏さまはお前さんが落したのかえ」
半七捕物帳:25 狐と僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
和尚おしょうさんは、ころもをぬいで、ろばたで、おぜんにすわって、ざぶざぶと、お茶づけをながしこみはじめました。正観しょうかんは、おみやげのだんごを、ひろげました。
のら犬 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
またノンキなトウサンの歴然たる亜流の「ノンキ和尚おしょう」やら、また、「セッカチピンチャン」という自分ながらわけのわからぬヤケクソの題の連載漫画やらを
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私は事のついでに峨山がざん和尚おしょうのお師匠に当たる滴水和尚の逸話をもここに簡単にしるしておこうと思う。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
ガンマ和尚おしょうとテッド隊長の会見は、劇的な光景をていして、隊員たちをいやがうえにこうふんさせた。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
このころいくさがあッたと見え、そこここには腐れた、見るも情ない死骸しがいが数多く散ッているが、戦国の常習ならい、それを葬ッてやる和尚おしょうもなく、ただところどころにばかり
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
「これですよ。日本唯一つという珍品は。円長寺の和尚おしょうが遺言をして、私に送り返して来たのです」
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ええ那様そんな事なら訳はないです。それじゃ明朝あしたかく行って、しらべてみて直しますが、そう云う事は長念寺の和尚おしょうところへも行って、次手ついでにおはなしなすったらいでしよう。
□本居士 (新字新仮名) / 本田親二(著)
梟のお父さんは、首を垂れてだまっていていました。梟の和尚おしょうさんも遠くからこれにできるだけ耳を傾けていましたが大体そのわけがわかったらしく言いえました。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
和尚おしょうは朱筆に持ちかえて、その掌に花の字を書きつけ、あとは余念よねんもなく再び写経に没頭ぼっとうした。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「ある和尚おしょうに君の事を話したらば、維摩経を見ろといわれ、借りてきて見てるがわからんよ。」
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
良寛和尚おしょうが、「死ぬ時には、死んだ方がよろしく候」といったのは、まさしくこの境地です。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
やさしい京の御方おかたの涙を木曾きそに落さおとさせよう者を惜しい事には前歯一本欠けたとこから風がれて此春以来御文章おふみさまよむも下手になったと、菩提所ぼだいしょ和尚おしょう様にわれた程なれば
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
漢学者兼編纂へんさん者としての三宅嘯山、元禄研究者古書翻刻者としての蝶夢和尚おしょうもあります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
天台てんだいの或る和尚おしょうさんが来られて我病室にかけてある支那の曼陀羅まんだらを見て言はれるには、曼陀羅といふものは婆羅門バラモンのもので仏教ではこれを貴ぶべきいはれはないものである
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
妓のおもかげと酒とが三昧境をかれの前に展開する。好いここちに浸り切った花袋がそこにある。単に花袋と呼ぶよりも花袋和尚おしょうと呼んでみたい。酔態の中にも一種の風韻がある。
そのラマというのはシナの和尚おしょうに似たような者であるがそれよりもまだえらい。本当の坊さんと見えて毎日二食、それも日中(正午)を過ぎては少しも喰わない。それに肉食をしない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
隣りの部屋から呼んだ和尚おしょうの声に、ぴりッと身体をふるわせて、あたかも、恐ろしい夢から覚めたかのように、彼はその眼をえた。そうしてしばらくの間、返答することはできなかった。
死体蝋燭 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「乗る舟は弘誓ぐぜいの舟、着くは同じ彼岸かのきしと、蓮華峰寺れんげぶじ和尚おしょうが言うたげな」
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その夜、上野介は天英和尚おしょうの点ずる茶を喫したあとで、歌をつくった。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
かつて彼女の写真を見るに、豊頤ほうい、細目、健全、温厚の風、靄然あいぜんとしておおうべからざるものあり。母の兄弟に竹院和尚おしょうあり、鎌倉瑞泉寺の方丈ほうじょうにして、円覚寺の第一坐を占む、学殖がくしょく徳行衆にぬきんず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
六十近い和尚おしょうと、先夫の子だという十六七の娘と、たった一人の弟子坊主を意のままに動かしているしっかり者で、自分の目から見れば世間馴ない夫婦を、指導してやろうとする心持が露骨だった。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
そしてそれを村の焼場で焼いたとき、寺の和尚おしょうさんがついていて
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
道成寺和尚おしょう 妙念
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)