吉原よしわら)” の例文
唯一筋に思いつめたが最後白柄組の付合にも吉原よしわらへは一度も足踏みをしたことがない。丹前風呂でも女の杯は手にとったことがない。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
瓦斯の入来したのは明治十三、四年の頃で、当時吉原よしわらの金瓶大黒という女郎屋の主人が、東京のものを一手に引受けていた時があった。
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
円朝えんちょうのちに円朝は出なかった。吉原よしわらは大江戸の昔よりも更に一層の繁栄を極め、金瓶大黒きんぺいだいこくの三名妓の噂が一世いっせの語り草となった位である。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
だれにいうともない独言ひとりごとながら、吉原よしわらへのともまで見事みごとにはねられた、版下彫はんしたぼりまつろうは、止度とめどなくはらそこえくりかえっているのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
もっとも、二分と云っても、その頃吉原よしわらの一流のおいらんの揚代が二分であった。だから、おいそれとは、誰もかしてくれないわけである。
奉行と人相学 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
吾夫うちでも好きな道と見えましてね、運座でもありますとよくその方の選者に頼まれてまいりますよ。昨晩の催しは吉原よしわらの方でございました。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
五丁町ごちょうまちはじなり、吉原よしわらの名折れなり」という動機のもとに、吉原の遊女は「野暮な大尽だいじんなどは幾度もはねつけ」たのである。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
もうヘベレケに酔っ払った吉原よしわら帰りのお店者たなものらしい四五人づれが、肩を組んで調子外れの都々逸どどいつ怒鳴どなりながら通り過ぎた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
縦縞の長ばんてんにぎはぎだらけの股引ももひき。竹かごをしょい、手に長いはしを持って、煮しめたような手拭を吉原よしわらかぶり。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
文一郎はすこぶ姿貌しぼうがあって、心みずからこれをたのんでいた。当時吉原よしわら狎妓こうぎの許に足繁あししげく通って、遂に夫婦のちかいをした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
当時の名所というのがまず第一に道灌山どうかんやま、つづいては上野山内、それから少しあだっぽいところになると花魁おいらん月見として今も語りぐさになっている吉原よしわら
一つ吉原よしわら這入はいって行って売って見ようと、非常門から京町へ這入ると、一丁目二丁目で五、六本売り、江戸町の方へ行くまでに悉皆しっかい売り尽くしてしまいました。
島原が秀吉から許された天正十七年は、江戸の吉原よしわらが徳川から許された元和げんな三年より三十年の昔になる。
その養子も隠居して新右衛門しんえもんと云うのに名跡を継がしたところで、二代目の喜兵衛は吉原よしわらへ通うようになり、そのうちに遊び仲間が殺された罪にまきぞえになって
四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのそばには最も可憐かれん吉原よしわら五徳が置かれてあった。土地では「鉄きょう」という。品物を見ると、どれもこれも一つの共通した特色があって、他の品とはあきらかに違う。
思い出す職人 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その頃江戸川べりに住んでいた私は偶然川畔かわべり散策ぶらついていると、流れをりて来る川舟に犢鼻褌ふんどし一つで元気にさおをさしてるのが眉山で、吉原よしわら通いの山谷堀さんやぼりでもくだ了簡りょうけん
諸芸の取締り兼、酌のとりかたを教える師匠番によばれたのが、吉原よしわらくるわからおよしさん(現今は某氏夫人である)と、品川から常磐津のおしょさんのおやすさんの二人。
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
著流きながしのじゃらじゃらと、吉原よしわら遊里の出入などということも、看方みかたによっては西洋的な分子の変型であるかも知れないから、文化史家がもし細かく本質に立入って調べるような場合に
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
幕の間から、お揃いの手拭を、吉原よしわらかぶりにしたり、米屋かぶりにしたりした人たちが「一本、二本」とけんをうっているのが見える。首をふりながら、苦しそうに何か唄っているのが見える。
ひょっとこ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
吉原よしわらです。それも日本堤の交番から知らせがあったので、実は昨日小夜子さんと一緒に身元を証明して引き取って来たんですけれど、使い方が乱暴なので怪しいとにらまれたらしいんです。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
これは友人のはなしだ、ある年の春の末、もう青葉の頃だったが、その男は一夜あるよ友人に誘われて吉原よしわらのさる青楼せいろうあがった、前夜は流連いつづけをして、その日も朝から酒を飲んでいたが、如何いかにも面白くない
一つ枕 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
「ハハハ日本堤分署と云うのはね、君ただの所じゃないよ。吉原よしわらだよ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
店先きへ吉原よしわらの如くめかし込んで並ぶのである。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
主人「吉原よしわらへ行ったと云うのか」
菖蒲しょうぶいて元吉原よしわらのさびれやう
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
吉原よしわら
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その正面に当ってあたかも大きな船の浮ぶがように吉原よしわらくるわはいずれも用水桶を載せ頂いた鱗葺こけらぶきの屋根をそびやかしているのであった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
吉原よしわらだといやァ、豪勢ごうせいびゃァがるくせに、谷中やなか病人びょうにんらせだといて、馬鹿ばかにしてやがるんだろう。伝吉でんきちァただの床屋とこやじゃねえんだぜ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「あゝそう/\、吉原よしわらの附近が、光景になっている小説ですか、それなら私も読んだことがある。坊さんの息子か何かがいたじゃありませんか。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
元園町と接近した麹町四丁目には芸妓屋げいしゃやもあった。わたしが名を覚えているのは、玉吉、小浪などという芸妓で、小浪は死んだ。玉吉は吉原よしわらに巣を替えたとか聞いた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あとから紅殻格子べにがらごうしが威勢よくあくと、吉原よしわらかぶりがとび出して来る。どうもえらいさわぎだ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
山村仁兵衛という小舟町の砂糖問屋、同所堀留大伝(砂糖問屋)、新川新堀の酒問屋、吉原よしわらでは彦太楼尾張、佐野槌、芸人では五代目菊五郎、市川小団次、九蔵といった団蔵だんぞう
しかも、出るといっしょにその目ざした方角は、意外や吉原よしわらの大門通りです——。
徳川期では、吉原よしわら島原しまばらくるわが社交場であり、遊女が、上流の風俗をまねて更に派手やかであり、そして、女としての教養もあって、その代表者たちにより、時代の女として見られた。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
六十九人もの破戒僧が珠数じゅずつなぎにされて、江戸の吉原よしわらや、深川ふかがわや、品川新宿しんじゅくのようなところへ出入ではいりするというかどで、あの日本橋でかおさらされた上に、一か寺の住職は島流しになるし
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「へええ、そうですかねえ。時に吉原よしわらはどうしたんでしょう?」
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それはその前夜吉原よしわら小格子こごうしで知った女の名であった。
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
此頃の吉原よしわら知らずとりいち
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
わが髪の白くなるのも打忘れ世にいう悪所場あくしょばをわがの如く今日は吉原よしわら明日は芝居と身の上知らず遊び歩いていたその頃には
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
吉原よしわら出来事できごと観音様かんのんさま茶屋女ちゃやおんなうえなど、おそらくくちひらけば、一ようにおのれの物知ものしりを、すこしもはやひとかせたいとの自慢じまんからであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
吉原よしわらかぶりにしていた手拭を、今はパラリと取って二つ折り、かたにかけています。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「昔、吉原よしわらで女郎をしておったとかいうことだけは知っておりますよ」
吉原よしわらがえりだろうよ、朝がえりだね、ふられて帰る果報者ってね。」
大地震の区域は伊勢いせの山田辺から志州ししゅう鳥羽とばにまで及んだ。東海道の諸宿でも、出火、つぶなど数えきれないほどで、みや宿しゅくから吉原よしわらの宿までの間に無難なところはわずかに二宿しかなかった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
道行く若いものの口々には早くも吉原よしわら燈籠とうろううわさが伝えられ、町中まちなかの家々にも彼方此方かなたこなた軒端のきばの燈籠が目につき出した。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
半日に一枚の浴衣ゆかたをしたてあげる内職をしたり、あるおりは荒物屋あらものやの店を出すとて、自ら買出しの荷物を背負せおい、あるよい吉原よしわら引手茶屋ひきてぢゃやに手伝いにたのまれて、台所で御酒のおかんをしていたり
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「へえい。吉原よしわら蛸平たこへい様とおっしゃる幇間たいこもちのかたでござりました」
長吉は第一に「小梅の伯母さん」というのはもと金瓶大黒きんべいだいこく華魁おいらんで明治の初め吉原よしわら解放の時小梅の伯父さんを頼って来たのだとやらいう話を思出した。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
自由なる社交場として吉原よしわらや島原のくるわが全盛になった。
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
深川ふかがわの湿地に生れて吉原よしわらの水に育ったので、顔の色は生れつき浅黒い。一度髪の毛がすっかり抜けた事があるそうだ。酒を飲み過ぎて血を吐いた事があるそうだ。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)