こご)” の例文
しきいのところに立って、こごえたような眼でキャラコさんをにらみつけていたが、そのうちに、鶏の鳴くようなけたたましい声で叫んだ。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
まあ寝ましょうとしますけれども、なかなか火があっても背中が寒かったり腰の辺がこごえて来たりするからやはり睡られない。それで
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
蒼くこごえた空に刺すばかりの星で、庭のくぼみに張った氷が草履の下に鋭くくだけた。井戸は庭から道路へ降りる坂の中途にある。
和紙 (新字新仮名) / 東野辺薫(著)
山下へ出た時は、手も足も寒さにこごえて千断ちぎれそうな気がしたので、とある居酒屋が見つかったのを幸い、そっと暖簾のれんをくぐった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
六根清浄ろっこんしょうじょう、六根清浄、そうして、人生の嶮路けんろを互に手をとり合ってきた道づれが、途中でこごえてしまったようなさびしさを感じた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
来年らいねんはるまではいてやるぞ。だが、今夜こんやこの野原のはらでふたりがこごにをしてしまえば、それまでだ。おれは、もう、もう一足ひとあしあるけない。
百姓の夢 (新字新仮名) / 小川未明(著)
風と雨とにたたかれ怒濤にもてあそばれ、おまけに冬のような寒気がおとずれ、手足がきかなくなり、こごじにをしそうになった。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし太陽がかがやいて地上をいくら温めても、前日のこごえからすっかりそれをよみ返らせられないような、高原の冬の日々だった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
彼は、自分だけの闇を払いのけようとする。またぞろ、氷の塊りができてきた。なんのことはない、彼は、以前どおり、こごえつきそうだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ことに冬の寒い時に酒を飲むのは非常の害があるので一時は寒気をしのぐようでもそのあとが一層寒気を感じてこごえたり病気を起したりします。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
発電所は八分通り出来上っていた。夕暗にそびえる恵那山えなさんは真っ白に雪をかぶっていた。汗ばんだ体は、急にこごえるように冷たさを感じ始めた。
セメント樽の中の手紙 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
遮莫さもあれおれにしたところで、いとおしいもの可愛かわゆいものを残らず振棄てて、山超え川越えて三百里を此様こんなバルガリヤ三がいへ来て、餓えて、こごえて
いや黒くひとり堪へたり。雨まじり霙ふる日も風まじり雪の飛ぶ夜も、こごしくもこごえ立ちたり。親しくも立ちて堪へたり。
矢車草の葉包がかれて、昼のものが腹に入った。空は、もう泣き出しそうになって、日の眼を見ないから、手がこごえる。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
お竹は邪慳な母お鶴の病いを癒さんと夜詣りをして雪中にこごえていると、地蔵菩薩に助けられて地獄をめぐって生き返る。
仇討たれ戯作 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「いくらきちがいだってお前、この寒いのに井戸側いどばたへ、水をかけて置きっ放しにしたんじゃこごえ死んでしまうじゃねえか」
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
このころ僕は、街頭で、これらのうらぶれた廃人が、飢えと寒さにこごえて茫然ぼうぜんと虚空をみつめている姿をよく見かける。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
「私、たいへん寒いんですの。もうこごえ死にしそうですわ。いえいえ決して、あなたがたの敵ではございませんから」
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
指がこごえ、硬直して、しかもその指で鉄梯子てつばしごをつかむと、まるで氷の棒をじかにつかむように、鉄棒はさらにつめたく冷えきっているのだった。……
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
亭主は無言のまま会釈えしゃくし、酒場のドアを指さした。その合図に従った。寒さにこごえていたし、人間に会いたかったからだ。ところが、ひどく落胆した。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
もう五週間のあいだ、私はその考えと一緒に住み、いつもそれと二人きりでおり、いつもその面前にこごえあがり、いつもその重みの下に背を屈めている。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
「倒れておいで、ひゅう、だまってうつむけに倒れておいで、今日はそんなに寒くないんだからこごえやしない。」
水仙月の四日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
傾きやすき冬日の庭にねぐらを急ぐ小禽ことりの声を聞きつつ梔子の実をみ、寒夜孤燈の下にこごゆる手先をあぶりながら破れた土鍋どなべにこれを煮る時のいいがたき情趣は
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こうやっといたら、えもこごえもしようけれど、けだものでござりますから今に長い目で御覧ごろうじまし、此奴こいつはもう決してひもじい目に逢うことはござりませぬから。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身体からだ中の血がこごえて終うかも知れないのであるが、そこは藍丸王は平気な者で、かえって珍しそうにニコニコ笑いながらその前へ近寄って、火の上に手をかざした。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
けれどもそれをことわれば、悪魔の子はきっと飢え死にかこごえ死にかするに違いありません。いくら悪魔だからといって、そんなに頼むのを見殺しにも出来ません。
天下一の馬 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
それらの話から考えると、かれは寒さしのぎに燗酒をしたたかに飲んでの前後不覚に酔い倒れて、とうとうこごえ死んでしまったのではあるまいかと半七は判断した。
半七捕物帳:17 三河万歳 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのうちしかしもうまったつかれきってしまい、どうすること出来できずにぐったりとみずなかこごえてきました。
父はひらりと、エレクトリークにまたがったが、こごえきった馬はいきなり後脚でって、一丈あまりも前へはねた。……だが父は、じきに馬をしずまらせた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
で、身体からだひどこごえてしまったので、詮方せんかたなく、夕方ゆうがたになるのをって、こッそりと自分じぶんへやにはしのたものの、夜明よあけまで身動みうごきもせず、へや真中まんなかっていた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
彼はこごえついた交通路を、けもののように這い続けながら、戦争と云う事を考えたり、死と云う事を考えたりした。が、そう云う考えからは、寸毫すんごうの光明も得られなかった。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
関西では寒の入りに油ものを食べぬとこごえるというだけだが、東北は一般にこの日を油しめといって、始めて種油をしぼらせ、それを使っていろいろの食物をこしらえる。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
何故かと云えば、風のない国の家屋は大抵少しの風にも吹き飛ばされるように出来ているであろうし、冬の用意のない国の人は、雪が降ればこごえるに相違ないからである。
津浪と人間 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
立ち上がらんとするに足のこごえたれば、両手にてさすりて、ようやく歩みうるほどにはなりぬ。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
なんでも一人の旅人が飢えこごえてやって来て、暖めてくれと頼んだものだから、この聖者は旅人を自分の寝床へ入れて抱きしめながら、何か恐ろしい病気で腐れかかって
人足すべてこごえ死なんばかりに苦しみ、ようようあちこちから不平のつぶやき声が起って来た。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「しかしこのままにして放って置いたら、風邪かぜを引くだろう、寒さでこごえてしまうだろう」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「夜通し、這入っていると、こごじにに死ぬのですよ、もう水の中が冷いですからね。」
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
吐き出す呼気がこごって、防寒帽の房々した毛に、それが霜のようにかたまりついた。
渦巻ける烏の群 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
「私はこれを持って、毎日市へ出てまいりまして、毎日幾等かの金を取って、それであわを買って、一家十余人がえずこごえずにくらしております。これにうえ越す宝がありましょうか。」
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
冬空にこごえる壁、洋燈、寂しい人生。しかしまた何という沁々とした人生だろう。古く、懐かしく、物のにおいのみこんだ家。赤い火の燃える炉辺ろへん。台所に働く妻。父の帰りを待つ子供。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
「なぜ何にも言はないの? なぜそんな冷たい表情をするの? その顔はお月様の光にこごえついてしまひさうな顔つきだ。花ちやんは随分やせたね。かうして見てゐると眼の下の骨が見えるよ。」
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
その昔、母常盤のふところに抱かれ、伏見の里にて雪にこごえしを、汝が情を
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それを二度繰り返すと、指はこごえたが、眼がさっぱりとさめ、顔や衿がこころよくほてってきた。彼はさらに一と握りの雪を口に含み、手拭で濡れたところを拭きながら、寝袋の脇に腰をおろした。
ただただ永年夜食として食べ慣れたどぜう汁と飯一椀、わしはこれを摂らんと冬のひと夜をしのぎ兼ねます。朝までに身体がこごしびれる。わしら彫金師は、一たがね一期いちごです。明日のことは考えんです。
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
小禽のこごえるやうなもそれに交る。そのなかから、ひと色、かなかなかな、——茅蜩ひぐらしのこゑ。……真冬の雪の夜に、はてな、それは雪を透して、脳の芯に、きりもみをいれるほどにつんと澄んで鳴る。
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
「家がなくて、往来で寝るんで、こごえ死にをするわけか」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
こごえそうなほどにも寒かった。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こごる霜の夜明け
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
こごえてつる雲のもと
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)