傷痕きずあと)” の例文
それは迷信に発したにもせよ、確かにスパルタ式の訓練だった。このスパルタ式の訓練は彼の右の膝頭へ一生消えない傷痕きずあとを残した。
「これ、こんなに後足あとあし傷痕きずあとがあります。」とさけびました。おかあさんも、ねえさんも、みんなそばにきて、それをて、びっくりしました。
おじいさんの家 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼は弟の頭をでようとして、そこにも深い傷痕きずあとを感じ、自分の痛い所へでも触れたような顔をしたが声だけは明るく云った。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
どちらも人相のよくない男である、三十がらみの人足は髭だらけの頬に大きな傷痕きずあとがあり、そこだけ髭をったようにみえる。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ただそのこしに大きい傷痕きずあとが見られたのは、前日タンナリーがロボがりにきたとき、その猟犬りょうけんがかみついたあとと知られた。
もうすっかりよくなったつもりでも、土を踏んで歩いてみると、左の脚の刀痕とうこんがまだいたむ。腕にうけた傷痕きずあとにも、山風がみ入るここちがする。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして頑丈がんじょうな手足、その手や足の上には、剣の傷痕きずあとである黒い筋と弾丸の穴である赤い点とが、そこここに見えていた。
こらえつつ春琴の門に通っていたところある日撥で頭を打たれ泣いて家へげ帰ったその傷痕きずあとぎわに残ったので当人よりも親父おやじがカンカンに腹を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その男の手の甲に、はすかけに、傷痕きずあとらしい黒いすじのあったのが、いつまでも、いつまでも、私の目に残っていました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
趙はすごい目つきでにらみつけた。——あごのところに生々しい傷痕きずあとがあった。巡警は気味悪さにすこしひるんだが
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「格子縞の鳥打帽をぶかにかぶって口を曲げてものをいう傷痕きずあとの男」も、「誘拐されてくる社長の令嬢」も
煙管きせる雁首がんくびでおちになつた傷痕きずあとが幾十と数へられぬ程あなたがた御兄弟の頭に残つて居ると云ふやうなことに比べて、寛容をお誇りになるあなたであつても
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
少し離れて南辻橋のたもとに立っていた、頬に古い傷痕きずあとのある遊び人風の男が、どこやらと合図を交しているのが、物に馴れた平次の眼には、実によく判るのです。
と、蛇は尻尾しっぽの切れた青くなまなました傷痕きずあとを見せながら姿を消してしまった。武士は気がいたようにひげったあとあおあおとした隻頬かたほおに笑いを見せながら歩いた。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それから、医師の検案書によると、後頭部と肩胛骨けんこうこつの部分とにひどい打撲傷があるばかりで、火器や刃物の傷痕きずあともなければ毒殺の形跡もまったくないというのです。
五階の窓:02 合作の二 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
「喜劇役者ですよ。ニュウヨーク座の。けれどもヒルガードには眉間にあんな傷痕きずあとがありません。」
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
単に溺死できしした場合にあるようなあわは出ていなかった。細胞組織の変色はなかった。咽喉のどのあたりには傷痕きずあとと指の痕とがあった。両腕は胸の上に曲げられ、硬くなっていた。
と忘れていた軽い傷痕きずあとがうずきでもするように、忠相は寂然じゃくねんと腕を組んで苦笑をおさえている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そして君は頭を振ったろう。君はその時たしかに、悲しさと恐ろしさと、それから人生の淋しさを感じていたに相違ないんだ。君の手は君の古い傷痕きずあとのほうへのびていった。
入院患者 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
バーテン君は感心したようにうなずいて、(その首には瘰癧るいれきかなんかの傷痕きずあとがあった。)
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
月日つきひともきず疼痛いたみうすらぎ、また傷痕きずあとえてく。しかしそれとともくゐまたるものゝやうにおもつたのは間違まちがひであつた。彼女かのぢよいまはじめてまことくゐあぢはつたやうながした。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
潸々さんさんと涙をながしている女囚のひとたちの深い傷痕きずあとがおもいやられて来るのです。
大きな赤ら顔で、ほおあごとに紫色の傷痕きずあとがあり、赤い口ひげやし、髪を平らになでつけて横の方で分け、金の鼻眼鏡めがねをかけ、シャツの胸には金ボタンをつけ、太い指に指輪をはめていた。
そうして私の過去の傷痕きずあとも、実は、ちっともなおっていはしないのである。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
よく気をつけてみると、毛髪もうはつの下の皮膚が、うすく襞状ひだじょうになっているのが見えないこともないが、それが見えたとて、誰もそれを傷痕きずあとと思う者がないであろう。じつにおどろくべき手術の進歩だ。
脳の中の麗人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小鬢こびんの所に、傷痕きずあとのある浅黒い顔が、一月に近い辛苦で、少しやつれが見えたため、一層凄味すごみを見せていた。乾児も、大抵同じような風体ふうていをしていた。が、忠次の外は、誰も菅笠を冠ってはいなかった。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
黒眼鏡をとると瞼がめくれこんで癒着した傷痕きずあとのあいだから
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
そしてレールのあつくなったからだやして、その傷痕きずあとあらってやりながら、「まあ、かわいそうに……。」と、あめはいいました。
負傷した線路と月 (新字新仮名) / 小川未明(著)
暗灰色の空に突きたっている山岳の斜面へ、傷痕きずあとのようにつけた赤黒い鉱山道でうごめいていたのは、荷をつけた駄馬と小さな人間の行列だった。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
甲斐は肌着をひろげ、「くびじろ」の角にかけられた傷痕きずあとを見せた。おくみはまあ、といって、いたましそうに眉をひそめながら、顔をそむけた。
大きな大八車が一つ、車軸を上にして横ざまに積まれて、紛糾した正面に一つの傷痕きずあとをつけてるかのようだった。
主人の與兵衞はようやく繃帶を取つたばかりの、生々しい傷痕きずあとを殘した、左の頬を見せ乍ら續けるのでした。
月代さかやきに十字の傷痕きずあとまげにマリヤの笄を刺された孫兵衛は、まったくひとつの呪縛にかかりました。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし口数の少い彼は、じっとその考えを持ちこたえていた。それだけに、一層戦友の言葉は、ちょうど傷痕きずあとにでもれられたような、腹立たしい悲しみを与えたのだった。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その白蝋はくろうのようなからだのうちに、ただ一か所美しくないところがあった。蘭子を殺したものは、美しくない部分であった。のどのところにパックリと口をあいた赤黒い傷痕きずあと
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
摂津大掾せっつのだいじょう亡き後の名人三代目越路太夫こしじだゆう眉間みけんには大きな傷痕きずあとが三日月型に残っていたそれは
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
苦しまぎれに水を呑みに流し許まで来たが、煮えくり返っていた鉄瓶の湯を被って、それが落命の直接の原因となったらしかった。勘次は俯伏しの死骸を直して傷痕きずあとを調べようとした。
そして、急に左の腕をまくり、太いみゝずれの縦に長い傷痕きずあとをみせて
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
平生も眉間みけんかんざしをさげているので、気をつけてみると眉間に傷痕きずあとがあります、聞きますと、三つの歳に乳母うばに抱かれて市中を歩いていて、狂賊に刺されたといいますから、乳母の容貌を聞きますと
盛りあがった傷痕きずあと
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
まだ若い貧相な男で、右の高頬に長さ二寸ばかりの古い傷痕きずあとがある、そのためにうっかりした者が見るとどすのきいた顔にみえるが、そして彼自身も
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「ボンは後足あとあし傷痕きずあとがあったはずだから、そんならしらべてみればわかるでしょう。」と、ねえさんはいいました。
おじいさんの家 (新字新仮名) / 小川未明(著)
顔はほとんど黒く頭髪はほとんどまっ白で、額からほおへかけて大きな傷痕きずあとがあり、腰も背も曲がり、年齢よりはずっとけていて、手にはすきかまかを持ち
やせッこけた手足、緑がかった青い皮膚、額から鼻のあたりまで酷い傷痕きずあとがあって、両眼がつぶれている。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
年恰好も四十そこ/\、ひげの跡が青くて、左の頬に色は薄くなつてゐるが、確かに古い傷痕きずあとがある
二つに斬れた銭の数枚が、やいばの両側へバッと飛び、しかも欄干には傷痕きずあとも残さなかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
背中一面、点々とむしり取ったようになって、頸筋くびすじの一とえぐりが致命傷らしく見えた。決してみつかれたのではない。何かしらするどいつめのようなものでひっかれた傷痕きずあとだ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
若松屋惣七は、眉間みけん傷痕きずあとをふかくして、顔をしかめた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そのときの傷痕きずあとふるびてしまって、みきには、雅致がちくわわり、こまかにしげった緑色みどりいろは、ますます金色きんいろび、朝夕あさゆうきりにぬれて、疾風しっぷうすりながら
しんぱくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
何でも、ポンマリーとかモンペルシーとか……言っていました。確か剣で切られた大きな傷痕きずあとがありました。