“何処:どこ” の例文
父 今度もまた落ちてしまつたとさ。すると如何いかにもはづかしさうに長いを垂らしたなり、何処どこかへ行つてしまつたとさ。
虎の話 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
『オヤそう、如何どんな顔をして居て? 私も見たいものだ。』と里子は何処どこまでも冷かしてかゝった。すると母はすごいほど顔色を変えて、
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
驚いた私の前へ、続いて現れたのは、ガッチリ捕縄ほじょうを掛けられた、船員らしい色の黒い何処どことなく凄味のある慓悍ひょうかんな青年だ。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
軽井沢の町だって、いまは大抵の店は何処どこかへ店ごとそっくり荷送されでもしそうな具合に、すっかり四方から荷箱同様の板を釘づけにされている。
雉子日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
どこへ行く、などと呼びかけても、娘の影は見返りもしなかった。それは風に吹きやられる木の葉のように、何処どこともなしに迷って行くらしかった。
雪女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さす手が五十ばかり進むと、油を敷いたとろりとしたしずかな水も、棹にかれて何処どこともなしに波紋が起つた、其の所為せいであらう。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
したがって珍らしいものではなく、たくさん作られるもの、誰もの目に触れるもの、安く買えるもの、何処どこにでもあるもの、それが民藝品なのです。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
寿美子は呆気に取られました。その女のため、姉の由紀子が命を縮めたことを考えると、卓二の言葉は何処どこまで信じて宜いかわからなかったのです。
それは愛情が極まったくやしさもあれば、もう何処どこにも行かない、あなた様のおそばよりほかに行くところがないというあかしでもあった。
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
主人「本所達磨横町というのは何処どこだえ、慥か此所こゝらかと思うが、あの酒屋さんで聞いて見な左官の長兵衞さんというお方がございますかッて」
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「イヤ、そうは脱けさせない。自分は隠しじるしをして置いた、それが今何処どこにある。ソンナあまい手を食わせられる自分じゃない」という。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ハテ何処どこにてか会いたるようなと思いながら身を縮まして恐々おそるおそる振り仰ぐ顔に落来おちくその人の涙の熱さ、骨に徹して
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
仲がよくなくなったといわれた亡夫の意志を、何処どこまでもいで名声を持してゆこうとするのには、どれ位人知れぬ苦労があったか知れはしない。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
『行っても、行っても、青い壁だ。行っても、行っても、青い壁だ。何処どこまで行っても青い壁だ。君、何処まで行ったって矢張やっぱり青い壁だよ』
火星の芝居 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
一度何処どこか方角も知れない島へ、船が水汲みずくみに寄つた時、浜つゞきの椰子やしの樹の奥に、うね、透かすと、一人、コトン/\と
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
心のすみ何処どこかにだ残ってる政治的野心の余燼よじん等の不平やら未練やら慚愧やら悔恨やら疑惑やらが三方四方から押寄せて来て
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
黒縮緬くろちりめんの羽織の着こなしと云ひ、丸髷まるまげの似つかはしさと云ひ、何処どこの奥さんであらう、私さへも見それるほどめかしてゐた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
安油の悪臭が襲うようにき出してくる出入口をくぐると、何処どこという事なく竈虫かまどむしのぞろぞろい廻っている料理場である。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さういふミユンヘン新聞の手がかり以外に、伯林ベルリンの友人からも何処どこからも何等事件の真相を知るべき手がかりが全く杜絶してしまつてゐる。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
橋の上は人の足音も絶えました。何処どこからともなく、風の無いのに桜の花片はなびらが飛んで来て、この敗残の二人男の上に降りそそぎました。
男気が無いと見定めたからの事でしょうが、優形やさがたで、無類の美男と言われた千代之助は、何処どこへ行っても無礼な仕打で通って来たのでした。
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「あなたのような人がわれらの家ではたらいて下さるということは、まるでゆめを見ているようなものじゃ、あなたは何処どこから見えられたのか。」
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
 初雪が降ることは降つたが余り少量故何処どこも降るといふわけには行かず、ただ比叡山ひえいざんの上ばかりに降つたといふことなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
また日本国民全体は何処どこまでも自由競争のもとに、列国共同の利益の下に、この絶東の文明を開発してその富を増進することを希望するのである。
東亜の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
日耳曼ゲルマン文明の優秀なるものは破壊され、過去の思想家は勿論もちろん、現在の思想家オイケンの如きも何処どこかへ吹飛されてしまった。
大戦乱後の国際平和 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「節電で何処どこの風呂屋も突拍子もない時間にやるのよ。竹の湯は夜の十一時半から二時までだと云うから、今日、初めて行って見ようと思ったの」
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
けれども彼はだ其自然を自認することが出来ず、何処どこまでも自分を以前の父のごとく、僕を以前の子の如く見ようとして居るのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
太守は実におどろいた。彼はにわかに劉の前にかしらをすり付けて、無礼の罪を泣いてびると、劉は黙って何処どこへか立ち去った。
ひげ多く、威厳のある中に何処どことなく優しいところのあるなつかしい顔を見ると、芳子は涙のみなぎるのをとどめ得なかった。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
私が広島で暮したのは半年足らずで顔見知も少かったが、嫂や妹などは、近所の誰彼のその後の消息を絶えず何処どこかから寄せ集めて、一喜一憂していた。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
それも決して座成的ざなりてきのものでないと見え、何処どことかへ代議士が集った席でも話出て感心しきりだったと、中村啓次郎氏から承った。
松屋まつのや筆記』にくぼの名てふ催馬楽さいばらのケフクてふ詞を説きたるとかんがえ合せて、かかる聯想は何処どこにも自然に発生し
線でいうと、ほかの人の文章が直線で出来ているのに反して、あなたのは何処どこ婉曲えんきょくな曲線の配合で成り立っているような気がします。
木下杢太郎『唐草表紙』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
機会さえあらば、何処どこかの温泉地でなりと旦那を見、お新にもわせ、どうかして旦那の心をもう一度以前の妻子の方へ引きかへさせたい。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私はヴェランダの床板ゆかいたに腰かけたきり、爺やがまた何処どこからか羊歯を運んで来るまで、さまざまな物思いにふけりながら待っていた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
しかし翌朝になってみると、そのふしぎな魅力は夜の蛾のようにもう何処どこかへ姿を消してしまっていた。そうして彼は何となくさわやかな気がした。
ルウベンスの偽画 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
『マア聞き給え。その青い壁が何処どこまで続いているのか解らない。万里ばんり長城ちょうじょう二重ふたえにして、青く塗った様なもんだね』
火星の芝居 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
汚れた萌黄もえぎ裁着たッつけに、泥草鞋どろわらじの乾いたほこりも、かすみが麦にかかるよう、こころざして何処どこく。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つ天の星の如くきまった軌道というべきものもないから、何処どこで会おうかもしれない、ただほんの一瞬間の出来事と云ってい。
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なアにだれがあんな所へくもんか、まアきみ一緒いつしよたまへ、何処どこぞで昼飯ひるめし附合給つきあひたまへ。
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
それまでは、何処どこやら君の虚偽を感じてはいてもはっきり君を憎むという心もなかったが、その時から僕は君を憎み始めて、君から遠ざかるようにした。
私は時おり寂しくなると表へ出た。秋近くなってから道路に静かなしめりが行きわたって、何処どこか清涼な気があった。ふじ子は学校からかえると、よく、
或る少女の死まで (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「日本という国はいい国だ。街の一番下層の労働者が、外国人を見た時、もしもし西洋の旦那とよぶような国は、世界中何処どこにもない」というのである。
日本のこころ (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ともかくも歌の言葉があまりに古風なものだから、何処どこでもそれを知っていた女たちはみんないなくなって、近年の採集にはもれたものと思われる。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
『——道理で、何処どことなく、浪人くさい男じゃと思ったら、あれが岡野治太夫のせがれか。それでまだ、親のあかが抜けておらぬのじゃな』
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「私はつくづく愛想を尽き果てたよ。幸い飛込んだお前さんは、私の為には渡りに舟さ、迷惑だろうけれど、何処どこへなと連れて逃げておくれ、ね欽さん」
芳年写生帖 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「何? 寿美子さんが来たというのか、それは珍らしい——何処どこだ、玄関? そんな他人行儀なことをしてはいけない、ず中へ通すのだ」
千種は庭を横切って、花房探偵の方へ近寄って行きました。かなり宏壮な庭園で、此辺へ来ると、何処どこからも人に見られる気遣いはありません。
悪魔の顔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「親分、お新はあれっ切り、何処どこへ行ったかわかりませんよ、あの話の始まる少し前まで、鼻唄なんか歌って、お勝手で働いていたそうですが」
蔵王山と限らず、冬山へ行くと、何処どこでも多少の差こそあれ、雪が白く樹の枝に凍りついて、美しい真白な花が咲いたようになっていることがよくある。
樹氷の科学 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
九「昨晩お嬢さんがおいでになりましたから、わたくし何処どこへでもお逃し申すようにするゆえ、金子かねの才覚をして来い」
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おれはとうの杖を小脇にして、火の消えた葉巻をくはへながら、別に何処どこへ行かうと云ふあてもなく、寂しい散歩を続けてゐた。
東洋の秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
仕付しつけたとほめらるゝ日をまちて居るに、何処どこ竜宮りゅうぐうへ行かれて乙姫おとひめそばにでもらるゝ事ぞと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「わが出動飛行隊は、暴風雨にさえぎられ、ついに怪塔ロケットにもあわず、貴官の飛行機にもあわなかった——その孤島は何処どこかわかるか」
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
といって雨が降りやんだからとて、その日運動会が催うされるはずはないし、もう何処どこの学校でも子供は帰したからと、誰がいっても先生はきかなかった。
私は赤い帯を、こま結びにしたまま寝たり起きたりして、この不満が何処どこから来たものか、どうしたらいやされるかと、うつらうつら持て扱っていた。
桃のある風景 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
影か、骨か、何かがひとけた足りなくて、あのいたずらに高い北欧の青空の下に何処どこか間の抜けた調子で立ち並んでいるのであった。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私には年とった彼女が私達の居心地いごこちのいい家にいないで、何処どこかよその家に行っているのが、何んだかかわいそうな気がしてならないのだった。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
何処どこで買ったかと聞いたら、町の新店にこんな絵や、もっと大きな美しいのが沢山に来ている、ナポレオンの戦争の絵があって、それも欲しかったと云う。
森の絵 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
然しそのお話を聴いてゐると、常々私共の行きたい/\と思つてる処——何処どこですか知りませんが——へ段々連れて行かれる様な気がします。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
気の弱い男だったらあがってしまうだろうな。と、その個性の高い香気を讃美しながら、ひきつける魅力の本尊は何処どこかと、彼女の眼を見た。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
母は、娘を、非凡な才智をもつものと見ている。それは、雪深い国では、何処どこにもちょっと見当らない、かおりの高い一輪の名花だった。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
暫く話を途切らしたんで、少し調子がおかしい……何処どこまで話したっけ……さよう……この前の話の処でまず一段落附いたことになっていた。
『お前も一杯やってみるか』と言った父の言葉が頭の何処どこかをかすめた。そこで、ただ何となく『飲んでみるか』と軽く考えたのである。
酒渇記 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
庭の踏石を伝つて真直ぐに行き、それから左へ曲つて門へ出るのであるが、それを甚五郎先生、真直ぐに何処どこまでも行つたので、忽ち池の中へ飛び込んだ。
硯友社と文士劇 (新字旧仮名) / 江見水蔭(著)
人が死んでく時はんなものか、肉体にくたい霊魂たましひはなれる時は霊魂たましひ何処どこきますか
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
弥吉は、鞍ヶ岳の池のまわりで、そよりと立った鷹狩の、児太郎の可憐かれんな姿を、いまは何処どこにもみることができないのに気が附いた。
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「それは意義のあることだ。是非うけたまわり度い。あのレコードは何処どこの国語か知らないが、望月君の翻訳で聴くのも一段ではないか」
近所のお神さんに聞くと、孝行娘の納豆売は、母親が死んだので金持の伯父おじに引取られ、人力車に乗って何処どこかへ連れて行かれたということでした。
してみると、伝馬町で買つたなどと云つたのは、万一の用心のために出鱈目でたらめをならべたので、実は何処どこで買つて来たのか判らない。
赤膏薬 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「勇、一杯つき合わないか、ガード下のお光っちゃんは、怨んで居たぞ、——近頃早坂さんは、何処どこか良い穴が出来たんじゃないかって——」
笑う悪魔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
いまだに住人すみてのさだまらで、ぬしなき門の柳のいと、むなしくなびくもさびしかりき、家は何処どこまでも奇麗にて見こみのければ
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
我輩は君主の命令に従い、法律の命令に従う以上、如何なる権力も我輩の個人の自由を制限する力は世界何処どこにもないのである(ヒヤヒヤ)。
〔憲政本党〕総理退任の辞 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
が、何処どこともなく、柳に暗い、湯屋の硝子戸がらすどの奥深く、ドブンドブンと、ふと湯のあおったようなひびきが聞える。……
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
愛が完うせられた時に死ぬ、即ち個性がその拡充性をなし遂げてなお余りある時に肉体を破る、それを定命の死といわないで何処どこに正しい定命の死があろう。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
権勢と奢侈とでゑたやうな其姿の中には、何処どことなくう沈んだところもあつて、時々盗むやうに是方こちらを振返つて見た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それまでというもんだけれど、何処どこいたにとぐろでも巻いている処へ、うっかり出会でっくわしたら難儀なんぎだろう。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
宴会の席で受けた色々の感動が頭の中で chaosカオス を形づくっているので、何処どこへ行く車か見て乗るという注意が、覚えず忘れられたのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
何処どこの山から来た木の葉か?——今日けふの夕刊に出てゐたのでは、木曾きそのおんたけの初雪も例年よりずつと早かつたらしい。
わが散文詩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
何処どこの山から来た木の葉か?——このにほひいだだけでも、壁をふさいだ書棚の向うに星月夜の山山が見えるやうである。
わが散文詩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
実は、前章の末に書いた鼠小僧のくだんの中に、神田和泉町と書いたのは何処どこかに目に残っていた文字をそのまま書いてしまったのだった。
冬になると、林もなにも裸になって、何処どこもかもすっからかんと見透せるものですから、人に見つからないようにあとをつけて行くのは容易ではありません。
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
簡素な木造の、何処どこ瑞西スイスの寒村にでもありそうな、朴訥ぼくとつな美しさに富んだ、何ともいえず好い感じのする建物である。
木の十字架 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
何処どこへ下りましたぞのうし。」「アソコに木が二本あるネー。あの西の方に桑があるだろう。あの下あたりのようだ。」要太郎は黙って堤を下りて行った。
鴫つき (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
何処どこぞで白桃しろもゝはなながれるのを御覧ごらんになつたら、わたしからだ谷川たにがはしづんで
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ここに二十二銭茂吉薬代とあるのは、僕が絵具に中毒して黄疸わうだんになつたとき、父は何処どこからか家伝の民間薬を買つて来てくれた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ワァーッ! という声が何処どこかの——確かに向う側の監房の開いた窓から、あがった。向うでも何かを云っている。俺の胸は早鐘を打った。
独房 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
新富町しんとみちょうの新富座の芝居茶屋おちゃやに——と、いっても、震災後の今日こんにちでは、何処どこのことか解りようがない。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「やってもらえるか、もらえないか。この音が、何処どこまで響くか——出来る出来ないより、きこえないようなものが弾いたってしようがないというのです。」
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
モルガンは、此処へ着くと急に、お雪が、昔のお雪の面影おもかげを見せて、何処どこか、のんびりとした顔つきをしているのが嬉しかった。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その時私は、腸が床の上に見つからなかったので、何処どこへ行ったかと思って見まわすと、彼の首筋の後ろのえりの間に、とぐろを巻いて載って居ました。
三つの痣 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
同じ拗者仲間の高橋由一たかはしゆいちが負けぬ気になって何処どこからか志道軒しどうけんの木陰を手に入れて来て辻談義つじだんぎ目論見もくろみ
いや、馬鹿ばかはさみは使ひやうだ、おまへきらひだが、おれすきだ……弥吉やきち何処どこつた、弥吉やきちイ。
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は叔母の亭主といふ人が心からきらひであつた為めに、仕立屋に再び行くほどならば何処どこか他の商店に奉公したいと父に云つた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
「おおむぞやな。な。何ぼがいだがな。さあさあ団子だんごたべろ。食べろ。な。今こっちを焼ぐがらな。全体ぜんたい何処どこまで行ってだった。」
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「アイゴ! こんげ怨めしいことがあるだか、一体何が悪えだよ。わたしにこんな乞食ざまをさせるのあ一体何処どこ何奴どいつだよ……アイゴオオオ」
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
人々よろこび近所一同山へ走り行くに、ふもとに行きつくころまではその声がしたが、登ってみるとはや何処どこにもいなかった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「兄さん、何を其様そんなに考えているんです、何処どこか悪いんでありませんか。え、兄さん。僕は昨夜不思議な夢を見たから話そうと思って来たんです。」
迷い路 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こちらはまた南海は何処どこなぎさにも、あの美しい宝貝がころころところがっているもののように、思っている人だらけなのだから
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
砧の木立の中の家へも、幾度か行って見ましたが、六ヶ月前まで貸した人は何処どこか遠いところへ行った相で、近頃ではまるっ切り違った人が入って居ります。
法悦クラブ (新字新仮名) / 野村胡堂(著)