人足ひとあし)” の例文
つい、そのころもんて——あき夕暮ゆふぐれである……何心なにごころもなく町通まちどほりをながめてつと、箒目はゝきめつたまちに、ふと前後あとさき人足ひとあし途絶とだえた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
皚々がい/\たる雪夜せつやけいかはりはなけれど大通おほどほりは流石さすが人足ひとあしえずゆき瓦斯燈がすとうひか皎々かう/\として、はだへをさす寒氣かんきへがたければにや
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
土手の人足ひとあしは至って疎らですが、川面は夜桜見物の船が隙もなく往来し、絃歌と歓声が春の波を湧き立たせるばかりです。
狐、しし小熊こぐまの生けるをおりに飼って往来の目をひく店もあり、美々びびしい奇鳥のき声に人足ひとあしを呼ぼうとする家もある。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうせ縁日物えんにちものだから、大した植木がある訳じゃないが、ともかくも松とかひのきとかが、ここだけは人足ひとあしまばらな通りに、水々しい枝葉えだはを茂らしているんだ。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこの広い四辻よつつじを境にして人足ひとあしはマバラになっていた。紋三は池の鉄柵のところに出ているおでん屋の赤い行燈あんどんで、腕時計を透して見た。もう十時だった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一日の雑沓ざっとうと暑熱に疲れきったような池のはたでは、建聯たてつらなった売店がどこも彼処かしこも店を仕舞いかけているところであったが、それでもまだ人足ひとあしは絶えなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
小さいながら定小屋もあって、軽業かるわざ、奇芸の見世物まで、夜も人足ひとあしを吸い寄せているのであった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
まだ若い丈夫そうな馬商人は、小馬を三頭ひっぱって、奈良田の方からここへ来かかりましたが、この暁方、この人足ひとあしの絶えたところで、犬のしきりに吠えるのが気になります。
「だが、あすこは人足ひとあしの絶えないところだ。どうも取り出すに困る」と、獄卒は言った。
ある唐物屋たうぶつやうちからは、私のきらひなものゝ一つである蓄音機ちくおんき浪花節なにはぶしが、いやに不自然ふしぜんこゑを出して人足ひとあしをとめようとしてゐましたが、たれもちよいとりかへつたまゝでそゝくさ行き過ぎるのが
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
シカシ人足ひとあしの留まるは衣裳附いしょうづけよりはむしろその態度で、髪もいつもの束髪ながら何とか結びとかいう手のこんだ束ね方で、大形の薔薇ばら花挿頭はなかんざしし、本化粧は自然にそむくとか云ッて薄化粧の清楚せいそな作り
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
こめかみがじんじんと痛み出して、泣きつかれのあとに似た不愉快な睡気ねむけの中に、胸をついてさえ催して来た。葉子はあわててあたりを見回したが、もうそこいらには散歩の人足ひとあしも絶えていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
除夜の集会あつまり人足ひとあしまれなるも道理ことわりなりけり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
人足ひとあしくらい江戸町えどまち
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
まだ卯刻むつ半(七時)過ぎ、火事場帰りの人足ひとあしようやまばらになって、石垣の上は、白々と朝霜が残っている頃です。
夫人は公園の入口のやや人足ひとあしのまばらになった所へ来ると、いきなり紋三の方を振向いて妙なことを尋ねた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
笛や太鼓が、山風にこだまを呼んで人足ひとあしもいよいよここへ流れ集まっては来るが、神楽殿にはまだ、静かに、灯影ととばりが揺れているのみで舞人ぶじんはあらわれていなかった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その老人としよりは、年紀とし十八九の時分から一時ひとしきり、この世の中から行方が知れなくなって、今までの間、甲州の山続き白雲しらくもという峰に閉籠とじこもって、人足ひとあしの絶えた処で、行い澄して
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それとは知らない二人づれの墓参りは、やがて墓の前を辞しておもむろに以前入って来た木戸口を出て、魔術の小屋へ吸い寄せられる人足ひとあしに交り、相撲茶屋を横に見るところへ来ると
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
はまだけねどふりしきるゆき人足ひとあし大方おほかた絶々たえ/″\になりておろ商家しやうかこゝかしことほ按摩あんまこゑちかまじいぬさけびそれすらもさびしきを路傍みちばたやなぎにさつとかぜになよ/\となびいてるは粉雪こゆき
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その時分には、もう日がくれかけて、人足ひとあしもまばらになり、覗きの前にも、二三人のおかっぱの子供が、未練らしく立去り兼ねて、うろうろしているばかりでした。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
昼下がりの花川戸の往来は、暑さにしばらく人足ひとあしも絶えて、何となくヒッソリしております。
ええ、ござりますとも、人足ひとあしも通いませぬ山の中で、雪の降る時白鷺しらさぎが一羽、疵所きずしょを浸しておりましたのを、狩人の見附けましたのが始りで、ついこの八九年前から開けました。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娘は往来の人足ひとあしがとだえるのを待って
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ですが、らつしやらないでもいんですか。お約束やくそくでもあつたんだと——うにか出來できさうなものですがね、——また不思議ふしぎ人足ひとあし途絶とだえましたな。こんなことつてないはずです。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
人足ひとあしが絶えるとなれば、草が生えるばっかりじゃ。ハテ黒門の別宅は是非に及ばぬ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……夜あかしだと聞く怪談には、この時刻が出盛でざかりで、村祭のなわてぐらいは人足ひとあしが落合うだろう。くるまも並んでいるだろう、……は大あて違い。ただの一台も見当らない。前の広場も暗かった。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どれ、連中におっつこうと、宿はずれへ急ぐと、長閑のどかな霞のきれ間とも思われる、軽く人足ひとあしの途絶えた真昼の並木の松蔭に、容子ようすい年増が一人、かたちいやしからぬのが、待構えたように立っていて
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先へ出た女中がまだそこを、うしろの人足ひとあしも聞きつけないで、ふらふらして歩行あるいているんだ。追着おッついてね、使つかいがこの使だ、手をくようにして力をつけて、とぼとぼりながら炬燵の事も聞いたよ。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
われら附添って眷属けんぞくども一同守護をいたすに、元来、人足ひとあしの絶えた空屋を求めて便たよった処を、唯今ただいま眠りおる少年の、身にも命にも替うるねがいあって、身命を賭物かけものにして、推して草叢くさむら足痕あしあとを留めた以来
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とほりものでもするらしい、人足ひとあし麻布あざぶそらまで途絶とだえてる……
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)