不在るす)” の例文
平素ふだん女房かないにいたぶられてゐる亭主は女房の不在るすに台所の隅で光つてゐる菜切庖丁なきりばうちやうや、葱の尻尾に触つてみるのが愉快で溜らぬものだ。
仕方がないからシャブズン・ラマに渡そうとしたところが、ラマもネパールのカトマンズの方へ寺詣りに行かれてお不在るすであった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
今君のお不在るす中に僕はお登和さんから二十銭弁当やら二、三十銭の西洋料理やら色々有益な事を伺って追々実行せんとする所だ。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
父が其時居りさえしたら、どんなにか手頼たよりになったでしょう。その時父は公用のため英国へ渡って居りまして、不在るすだったのでございます。
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
丁度主人は不在るすだつたので彼等は細君を對手に手酷く談判に及んだ折も折、今度はまた米屋の手代が、これも同じく
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
武は不在るすでございましたが、今に帰るだろうから帰ったら橋まで送らすからと申しますのでしばらくぐずぐずしていますと、武が帰って参りました。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
げんただいま命様みことさまにはなにかの御用ごようびて御出おでましになられ、乙姫様おとひめさまは、ひとりさびしくお不在るすあずかってられます。
今年十八で、眉の可愛い、眼の細い下女のお菊は、白子しろこ屋の奥へ呼ばれた。主人あるじの庄三郎は不在るすで、そこには女房のお常と下女のお久とが坐っていた。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
是は暫時耳聾つんぼになる譯でも何でも無い。耳に在つて聲を聞く所以のものが一寸不在るすになつて居るからなのである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「マンドリンを弾くのが聞えたなんて、それは貴郎あなたのお気のせいよ。衣川さんはいつもマンドリンを弾いていらっしゃるけれども、昨夜はお不在るすのようでしたわ」
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
阿關の事なれば並大底で此樣な事を言ひ出しさうにもなく、よく/\らさに出て來たと見えるが、して今夜は聟どのは不在るすか、何か改たまつての事件でもあつてか
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
格子こうしを開ける時にベルが鳴ってますます驚いたとか、頼むと案内を乞うておきながら取次とりつぎに出て来た下女が不在るすだと言ってくれればよかったと沓脱くつぬぎの前で感じたとか
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さあ、何ですか、主人が不在るすでわかりませんが、……そういえば兄は昨日帰ってから、そんなことを
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
見るに胸先づ迫き来れど、大事のところとしとやかに案内を乞ひつるに。目ざす人は不在るすなりしかど、もと下宿し居たまへし家の娘といふに、奥様も心ゆるしたまひてや。
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
一日内にとじもっているよりもと思って出かけていったが、一週間ほど不在るすといいおいていって、まだ三、四日にしかならぬのであるから、老婦人はまだ帰っていない。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
学校はがらんとして、小使もいなかった。関さんも、昨日浦和に行ったとて不在るすであった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
してみれば、ここはいつぞや金蔵が話した通り、その親たちがはじめた温泉宿である。金蔵は今も見えないし、役人の来た時も出て来なかったから、たぶん不在るすなのでありましょう。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
関如来氏の談によれば、ある日朝から一葉が半井氏をたずねたことがある。彼女の声が、訪れたということを格子戸こうしどの外から告げられると、二階に執筆中の半井氏は不在るすだと言ってくれと関氏に頼んだ。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そして自分が不在るすの間に、日本の土地が護謨毬ごむまりで造り更へられでもしたかのやうに、注意ぶかい、歩きぶりをして、港の埠頭はとばに下りてゐた。
お定まりの嫉妬から或日の事、主人の殿が不在るすを幸いに、右のお住を庭前へ引据えて散々に折檻し、その半死半生になったのをそのままに捨て置いた。
お住の霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一文貰ひに乞食が来ても甲張り声に酷く謝絶りなどしけるが、或日源太が不在るすのところへ心易き医者道益といふ饒舌坊主遊びに来りて、四方八方よもやまの話の末
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
その時僕を大関に見立てて下宿屋へ呼びによこしたが不在るすで残念だといっていた処で是非僕にも仲間入をしろ
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
阿関おせきの事なれば並大底でこんな事を言ひ出しさうにもなく、よくよくらさに出て来たと見えるが、して今夜は聟どのは不在るすか、何か改たまつての事件でもあつてか
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
どうもダージリンへ行ったところが、サラット・チャンドラ・ダース師は国(インド)の方へ帰って居られてお不在るすであったから、行際ゆきしなに手紙を渡すことが出来なかった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
和尚おしょうさんは戦地から原杏花はらきょうかが帰るのを迎えに東京に行ってあいにく不在るすなので、清三が本堂に寄宿しているころ、よく数学を教えてやった小僧さんがお経を読むこととなった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
江戸えどからている小供こどもはそれがうらやましくてたまらなかったものでございましょう、自分じぶんではおよげもせぬのに、女中じょちゅう不在るすおり衣服きものいで、ふか水溜みずたまりひとつにんだからたまりませぬ。
自分の不在るすを知らせずに、つまり彼女は依然として城中大奥にいるものと城中の者に思わせておいて、しかも一人だけこっそりと抜け出す方法はあるまいかと、その工夫にふけったものである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
うしたわびしい心持の時に限って思出されるのは、二年ぜん彼を捨てゝ何処どこへか走ったグヰンという女であった。彼女は泉原の不在るすの間に、銀行の貯金帳をさらって行方ゆくえくらまして了ったのである。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
不在るすの間に子を捕られて、それを取戻そうとつとめたけれども、そのかいがないために、親鷲が憤って、山の上で羽風を鳴らすために、急に天候がこう変って、風が吹きすさんで来たもののように
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ある夏の事、御多分に洩れぬ幸堂得知かうだうとくち氏が夫人の不在るすねらつて無駄話に尻を腐らせてゐると、表を鰯売が通つた。幸堂氏は急に話をめた。
客の小山も退屈しけん「お登和さん、中川君は大層お手間が取れますね。子爵がお不在るすでしょうか」お登和嬢
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
阿關おせきことなればなみ大底たいてい此樣こんことしさうにもなく、よく/\らさにたとえるが、して今夜こんやむこどのは不在るすか、なにあらたまつての事件じけんでもあつてか
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
心こゝにあらざれば、聞いて聞えず、なのであるから、いつか人の談話を聞く氣になつて居られないで氣が外へ散る、其の爲に耳の働きが不在るすになつて仕舞ふのである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
その日も荻生さんはたずねて来たがやっぱり不在るすだった。行田の母親からも用事があるから来いとたびたび言って来る。けれど顔を見せぬので、父親は加須かぞまで来たついでにわざわざ寄ってみた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
松島の家へ帰り着いてみると、息子の小太郎こたろうは我が不在るすの間に病んで死んだのであった。夢かとばかり驚き歎いていると、象潟からは約束の通りに美しい娘を送って来たので、掃部はいよいよ驚いた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして女が両側の店を覗き覗き、きよろ/\してゐるやうだつたら、その女は屹度うつだから、とて不在るすがちな海員の女房には出来かねる。
そうすると嫁にいって三日目にたった一人の下女が急に病気になって宿へ下がりました。良人やどは社へ出て不在るすですし、晩になっても御飯の副食物おかずこしらえる事が出来ません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
お吉、十兵衞めがところに一寸行て来る、行違ひになつて不在るすへ来ば待たして置け、と云ふ言葉さへとげ/\しく怒りを含んで立出かゝれば、気にはかゝれど何とせん方もなく
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
三郎さぶろうさまと申のなり此頃このごろたまひしは和女そなた丁度ちやうど不在るすときよ一あしちがひに御歸宅ごきたくゆゑらぬのは道理どうりひかけてお八重やへかほさしのぞき此願このねがかなはゞ生涯しやうがい大恩だいおんぞかしくどうははぬこゝろこれよとはすうれしきいろはあらはれたり
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
夫人が出鱈目でたらめを言つたに少しの不思議もない。なが不在るすに女は男を忘れてゐたに過ぎないのだ。尤もカツレツだけは機関長もよく食べさせられた。
お代先生も大原君と婚礼すれば立派な貴夫人にならなければならんから大原君の不在るす中に東京でしっかり勉強をしたらよかろう、貴夫人になるのはそれぞれの学問がなければならん
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
十兵衛めがところにちょっと行て来る、行違いになって不在るすば待たしておけ、と云う言葉さえとげとげしく怒りを含んで立ち出でかかれば、気にはかかれど何とせん方もなく
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「あんなに約束までしておいたのに、二日も不在るすを続けるなんて、しからん。」
長閑気のんきで斯して遊びに来るとは、清吉おまへもおめでたいの、平生いつも不在るすでも飲ませるところだが今日は私は関へない、海苔一枚焼いて遣るも厭なら下らぬ世間咄しの相手するも虫が嫌ふ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
... のぞいている。早く入らんか」大原ようやく内にいりて座敷へ通り「中川君、昨日きのうは大きに御馳走だった。時にお登和さんは」主人「今不在るすだ」大原「オヤオヤ何処へお出掛だね」主人「今日は小山君の所へ年始にった」大原「それは残念」と失望顔。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
長閑気のんきでこうして遊びに来るとは、清吉おまえもおめでたいの、平生いつも不在るすでも飲ませるところだが今日は私はかまえない、海苔のり一枚焼いてやるも厭ならくだらぬ世間咄せけんばなしの相手するも虫が嫌う
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「君もひどい男だね。約束しておいて二日も不在るすを食はすなんて。」
第十七 お不在るす
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
親方の不在るすにこう爛酔へべでは済みませぬ、姉御と対酌さしでは夕暮をおどるようになってもなりませんからな、アハハむやみに嬉しくなって来ました、もう行きましょう、はめをはずすと親方のお眼玉だ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)