さば)” の例文
十五日の中元には荷葉飯かようめしを炊き、刺しさばを付けるのが習わしである、おせんも久しぶりに庖丁ほうちょうを持って鯖を作り、膳には酒をつけた。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さばの背のような海洋を長く区切る半島線の一端に、白壁、石垣、やぐらなどの、末森城の影を、指呼しこする距離に、望み得るであろう。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さば食った伊右衛門やいと、口々に唱えたという話だが、これはいつでもそういう習わしで、神様ことに天狗は最も鯖が嫌いだから
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「一、魚の序文。二、魚は食べたし金はなし。三、魚は愛するものにあらず食するものなり。四、めじまぐろ、さばかれい、いしもち、小鯛こだい。」
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
しかも呼込まれる先々が大抵レコが留守だすケニ間違いの起り放題で、又、間違うてやりますと片身かたみの約束のさばが一本で売れたりします。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
小売店で、高野山一覧を買ひ、直接にさばを焼くにほひをぎながら、裏通にまはつて、山下といふ小料理店にも這入はひつて見た。
仏法僧鳥 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「そんな法螺ほらを吹かないで四十二手観音といっても、無い御利益に変りはないじゃないか。宗教や文学はどうもさばを読むから気に入らない」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
おおい気競きおう処もあって——(いわしさばあじなどの幾千ともなく水底みずそこを網にひるがえるありさま、夕陽ゆうひに紫の波を飜して、銀の大坩炉おおるつぼに溶くるに異ならず。)
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
背中一ぱいに青い波がゆれて、まっかな薔薇ばらの大輪を、さばに似てくちばしの尖った細長い魚が、四匹、花びらにおのが胴体をこすりつけて遊んでいます。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
... 今の問題に魚の事もあったが白い肉の魚とあかい肉の魚との区別は何だろう」中川「紅い肉の魚とはさけとかますとかさばとかまぐろとか松魚かつおとかいうものだ。 ...
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
と一道のさば色の光が、月の光を奪うばかりに、燦然としてほとばしり出たが、ほんの一瞬間に消えてしまった。碩寿翁が箱の蓋をかぶせたからである。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これを落ち鮎、さば鮎、芋殻いもがら鮎などといって、奥山から渓水と共に流れきたった落葉と共に、やなへ落ち込むのである。
季節の味 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
鮎の背越しもよいが、鰺の沖膾は先づ夏の珍味の一つであらう。もちろんさばなどもやつて見るが、シマアヂに限る。
夏と魚 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
さば血合ちあいの一切れでもやるとそれをくわえるが早いか、だれもさわりもしないのに例のうなり声を出しながらすぐにそこを逃げ出そうとするのである。
ねずみと猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
魚類ではさば青刀魚さんまいわしの如き青ざかな、菓子のたぐいでは殊に心太ところてんを嫌って子供には食べさせなかった。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「百合子はん一寸来て見てつかわせ」何だろうと行って見ると室積ではさばが十何万疋とれてこれから又広島へそれを運ぶ、一寸よってお昼をたべているのだが
さばまぐろいわしなどが、水をぶっかけられて青い背中をいきいきと光らせているのを見て、あれはいかにもうまそうだと自分の眼を光らせるその瞬間、その青い色が
乳と蜜の流れる地 (新字新仮名) / 笠信太郎(著)
図171は料理番の簡単な写生図である。鶏の雛は一羽数セント、さばに似た味のいい魚が一セント。私は何でもが安いことの実例として、これ等の価格をあげる。
もし手前の坂の左側にある小さい魚屋の店先に閃めく、青いあじやもっと青いさばがなかったら加奈子は夢を踏んでその向う坂の書割の中に靴を踏み込めたかも知れない。
豆腐買い (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ひとつおめえさんに聞いてもらいてエのは、わっしゃあ性分で、さばア見るのがきれえだってのに、かかあの奴やたらむしょうにあの鯖てエ魚がすきでごぜえやしてね。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
実際此処ではさかなと云えば已に馳走で、鮮否は大した問題では無い。近所の子供などが時々真赤な顔をして居る。酒を飲まされたのでは無い。ふるいさばや鮪にうたのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「うなぎやさばを店さきで見ていると、さかなやさんに捕まって、売られてしまうぜ。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
かれらは常にふかさめのような獰猛の性質を発揮して、かの象牙のような鋭いくちばしでたらさばのたぐいを唯ひと突きに突き殺すばかりでなく、ある時は大きい鯨さえも襲うことがある。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「左様でござるな、この海岸で名物といっては、大洗に磯節というのがござり、海では、さんま、かつおさばといったものが取れ、山には金銀を含むのがあり、土では、こんにゃくも取れ申す」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
昆布こんぶなどの海草がしげり、赤い星のような人手が、岩のあいだによこたわっているところで、人魚はいっぴきのさばをとらえました、それまで、海中に群れていた多くの魚たちは人魚が突進してくると
人魚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
山「何でもさ、目張めばるでもさばでも、鯖なぞは造作もなく釣れるよ」
さばしゅん即ちこれを食ひにけり
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
「馬鹿ア言ってやがら、化物じゃあるめえし、一人で蕎麦切そばきり三十ぱいに笹屋のさばずしを四十五なんて、食える理窟があるもんか」
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
沖で引っかかったさばなら鯖、小鯛こだいなら小鯛をば、穫れたられただけ船に積んでエッサアエッサアと市場の下へ漕ぎ付けます。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
取り出したのは小箱であったが、真に美しいさば色の光が、小箱の中から射るように射して、部屋を瞬間に輝やかした。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さばのくさったのを食べてげろを吐いたようなもンだ……。おっかさんは私に抱きついてすやすやおやすみだ。時々、雪風が硝子戸に叩きつけている。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「なんだ、しめさばじゃないか」父親は鼻をうごめかし、唇を手で横撫よこなでにして云った、「これはおまえ塩と酢でしめてあるんだ、これはきみ生ま物じゃないよ」
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
面當つらあてがましくどくらしい、我勝手われがつて凡夫ぼんぷあさましさにも、人知ひとしれず、おもてはせて、わたしたちは恥入はぢいつた。が、藥王品やくわうぼんしつゝも、さばくつた法師ほふしくちくさいもの。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
第四十五 さば鮨 も上手に出来るとなかなか結構なものです。鯖はぐされというほどに腐りやすいものですからこれには極く新しい魚を用いなければなりません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
直径五寸ほどの真紅の薔薇ばらの花を、さばに似た細長い五匹の魚がとがったくちばしで四方からつついている模様であった。背中から胸にかけて青い小波さざなみがいちめんにうごいていた。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
芝日蔭町しばひかげちょうさばをあげるお稲荷様があるかと思えば駒込こまごめには炮烙ほうろくをあげる炮烙地蔵というのがある。頭痛を祈ってそれがなおれば御礼として炮烙をお地蔵様の頭の上に載せるのである。
また、さばの背のように青ぐろい鎌の刃渡りには、宍戸ししど八重垣流とってある文字もあざやかに読まれるのだった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同時に漁獲がメキメキと増加して、総督府の統計に上るさばだけでも、年額七百万円を超過するという勢いだ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「だめだね、このさばはいかれてるよ、この皮を見な」京太は皿の煮魚を箸で突つきながら云う
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
六尺ぐらいの異国神の像で、左の一眼がさば色の光を、燈明の火に反射させていた。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さばを、さば三番叟さんばそう、とすてきに威勢ゐせいよくる、おや/\、初鰹はつがつをいきほひだよ。いわし五月ごぐわつしゆんとす。さし網鰯あみいわしとて、すなのまゝ、ざる盤臺はんだいにころがる。うそにあらず、さばぼらほどのおほきさなり。あたひやすし。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
お魚のグレーと申してたいとかすずきとかさばとかぼらとかかれいとか比良目ひらめとか川魚かわうおならばこいとかますとかやまめとかさけとかいうようなもので肉に膠分にかわぶんの多い種類を択びまして海魚うみうおならば背から開いて骨を抜いて塩胡椒を
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
さばの背みたいな青黒い海の色が、一瞬、ものすごく目に映ったかと思うと、バラバラッと、痛いような大粒の雨!
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あがた赤魚あかえ月丸つきまるさば小次郎こじろう、お小夜さよの六人である。お小夜だけが女である。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
返事に躊躇ちゅうちょをなすったのはこの時ばかりで、また、それは猪だとか、狼だとか、狐だとか、頬白だとか、山雀だとか、鮟鱇だとか、さばだとか、うじだとか、毛虫だとか、草だとか、竹だとか
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
高梨の妻君が蓄膿ちくのう症で鼻を切開せねばならぬと、さばの味噌漬を馳走して呉れた。推敲十枚した。今日は終日暴風だった。夜に入ってからは激しい驟雨がそれに加わった。十時頃高梨が訪ねて来た。
鯖鮓さばず 秋付録 米料理百種「日本料理の部」の「第四十五 さば鮨」
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ただ、小倉や門司もじを隔てて、一衣帯水の海門の潮流が、さばの背のように、蒼黒あおぐろく、暮れかけているだけだった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしがものをいて、返事へんじ躊躇ちうちよをなすつたのは此時このときばかりで、また、それはいぬしゝだとか、おほかみだとか、きつねだとか、頬白ほゝじろだとか、山雀やまがらだとか、鮟鱇あんかうだとかさばだとか、うぢだとか、毛虫けむしだとか、くさだとか
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
喰べたくないときにやる弁当の礼で、このあいだはさばの味噌煮とり豆腐と、菜の胡麻ごまよごしだったけれど、あんなにうまい物を喰べたのは生れて初めてで、喰べながら涙が出てしようがなかった。
へちまの木 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)