たま)” の例文
貴嬢きみまなこを閉じて掌を口に当て、わずかに仰ぎたまいし宝丹はげにたまみ髄にとおりて毒薬の力よりも深く貴嬢の命を刺しつらん。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
今若し自身も、千部に満たずにしまふやうなことがあつたら、たまは何になるやら。やつぱり鳥にでも生れて、せつなく鳴き続けることであらう。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
ままならぬ世に候えば、何も不運と存じたれも恨み申さずこのままに身は土と朽ち果て候うともたまなが御側おんそばに付き添い——
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
きょうは盆の十三日で、亡き人のたまがこの世に迷って来るという日である。亡き魂と死と、こんなことを考えるとお時の心はいよいよ暗くなった。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「うむ、あいつ、なんにも知らんなあ、今に大きくなつて、おやぢの過去を知つたらおつたまげるだらう…………」
父の帰宅 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
たまぎるような悲鳴です。月明つきあかり谿々たにだにに、響きわたるさまは、何というか、いと物すさまじいの場の光景でした。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
し又我を慕ふたまのかへり来りてかたりぬるものか。一二〇思ひし事の露たがはざりしよと、更に涙さへ出でず。
この世はつかの夢なり。あの世に到らんには、アヌンチヤタも我もきよたまにて、淨き魂は必ず相愛し相憐み、手に手を取りて神のみまへに飛び行かむ。
たまえるものの話におののきて、眠らぬ耳に鶏の声をうれしと起き出でた事もある。去れど恐ろしきも苦しきも、皆われ安かれと願う心の反響に過ぎず。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たまあがる時、巫子は、くうを探って、何もない所から、ゆんづるにかかった三筋ばかりの、長い黒髪を、お稲の記念かたみぞとて授けたのを、とやせんとばかりでまよいちまた
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、むろんそれがたがいゆるったたまたまとのきよ関係かんけいであることは、あらためて申上もうしあげるまでもないとぞんじます。
今も向こうで聞いておれば、白萩様をむごたらしい松葉いぶしになされるとか。松葉燻しもよいけれど、もしもその時白萩様のたまが切れたらどうなされます。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
き御両親様、此の身が此の世に出でし幼き時より、朝夕の艱難苦労かんなんくろうあそばしてお育て下さりました甲斐もなく、無事で亡きたまをおとむらい申すこともかないませず
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さて、燈火のもとで、はじめて、天女のありさま、かお、かたちを見ることができたとき、その目覚ましい美しさに、大納言はたまも消ゆる思いがしたのであった。
紫大納言 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ちちのみの父のみ身、ははそばの母のみたま、老いませば、常無けばあはれ。風花かざばな天城あまぎの杉を、うらら日を、何とはなくて吹きちらふその影にかも、心は寄する。
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そのとき曹丕のうしろにあわただしい跫音が聞え、たまげるような老女の泣き声が彼の足もとへすがった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……あれはたまごいの験者げんじゃどもが、どこぞの山へ、山籠やまごもりの行に出掛けて行くのだ。誰やら神隠しにでもうた人々のあくがれ迷う魂を尋ねて、山へ呼ばいに行くところなのだ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
身もたまも捧げて彼を愛すと誓へる神前の祈祷いのり、嬉しき心、つらおもひ、千万無量の感慨は胸臆三寸の間にあふれて、父なる神の御声みこえ、天にます亡母はゝの幻あり/\と見えつ、聞えつ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
高村氏は死の直前にたま能く千里を行って遠近の諸方へ訣別にまわっていたものと見える。
幽香嬰女伝 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
油紙のついえ二両ばかり、農具の価家具の料二両ばかり、薪炭等壱両余、夫婦衣服子女の料ともまた一両二分余、春を迎え歳を送りたま祭り年忌ねんき仏事の入用二両余、日雇賃一両二分余
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
人聞かばたまぬべきすごく無慘の詞を殘して我れは流石に終焉みだれず、合唱すべき佛もなしとや嘲けるが如き笑みを唇に止めて、行衞は何方いづくぞ地獄天堂、三寸息たえて萬事休みぬ
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
我が恋ふ人のたまをこゝに呼び出すべきかをりにてもなければ、要もなし、気まぐれものゝ蝙蝠かうもり風勢ふぜいが我が寂寥せきれうの調を破らんとてもぐり入ることもあれど、捉へんには竿なし、し捉ふるとも
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
むぐら刈る利鎌とがまのかまのやきがまのつかのまも見むたまあひの友 (和田嚴足)
愛国歌小観 (旧字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
鬼怒きぬの水源なる絹沼といへる湖水なりと聞きて、そゞろに神往きたま飛ぶに堪へざりしが、其の後日光山志を繙き、栗山郷を記するの條に至り、此地窮谷の間にありて、耕すべきの地極めて少く
日光山の奥 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
落ちしける落葉おちばにはなほいのちありてたまゆらのまにたまよばひあへず
閉戸閑詠 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
尋ね行くまぼろしもがなつてにてもたまのありかをそこと知るべく
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
海はなが身の鏡にて、はてなき浪の蕩揺たゆたひに、なれはながたま打眺む
海の詩:――人と海―― (新字旧仮名) / 中原中也(著)
であつたところへ、「何をたまひなたま不吉怖鳥ふきつこはどり古鳥ふるどり
たまの緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることの弱りもぞする
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
亡きたまよ、ここに来りて、諸共に、幾千代かけて駒を守らん。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
遍歴へめぐりていづくにか行くわがたまぞはやも三十みそぢに近しといふを
和歌でない歌 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
君もなく我が身もなくてたま二つ静かにはるのひかりのなかに
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
われとわが惱めるたまの黒髮を撫づるとごとく酒は飮むなり
我、久しきより羅馬の民は、気高けだかたまを持てると信ぜり
春の夜の夢のみたまとわがたまと逢ふ家らしき野のひとつ家
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
わがたまわれそむきておも見せず昨日きのうも今日も寂しき日かな
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
あはれ、こは少女がたまのぬけ出でたるにはあらずや。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「ああ、たまげてしまった。実に剛気なもんですね。」
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
さあれ、わが世の踴躍ゆやくをば今日こそ見つれ、わがたま
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
武夫もののふたまとむらふや音たてゝ枯草山にひたしぶく雨
城山のことなど (旧字旧仮名) / 桜間中庸(著)
落日は巨人のたまかわが魂か炎のごとく血汐の如し
六甲山上の夏 (新字新仮名) / 九条武子(著)
たまを憐み御心にかけさせたまへ、ゆくりなく
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
十族 たまの 暗き月にる有り
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わがたまいかにか迷ひけらし。
わなゝき (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
たまよせじゃ、魂よせじゃ」
竇氏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あくがれ出でて我がたま
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
墓のあなたに我たま
天地有情 (旧字旧仮名) / 土井晩翠(著)
たまをもとめる——
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
たまるる夜や
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
もう/\軽はずみな咒術おこなひは思ひとまることにしよう。かうしてたまを失はれた処の近くにさへ居れば、何時かは、元のお身になり戻り遊されることだらう。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)