達磨だるま)” の例文
しかし糸瓜へちまのように巨大な胡瓜きうり、雪達磨だるまのような化物の西瓜すいか南瓜かぼちゃ、さては今にも破裂しそうな風船玉を思わせる茄子なす——そういった
火星の魔術師 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
真赤まっか達磨だるま逆斛斗さかとんぼを打った、忙がしい世の麺麭屋パンやの看板さえ、遠い鎮守の鳥居めく、田圃道たんぼみちでも通る思いで、江東橋の停留所に着く。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それがですね、塩田大尉」と、小浜こはまという姓の兵曹長が、達磨だるまのように頬ひげをったあとの青々しいたくましい顔をあげていいました。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ここにこし達磨だるまのことも言い添えておくべきでしょうか。木型きがたを用い、紙で作ります。この県の唯一の窯場かまば深谷ふかやであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
達磨だるまはそれぎり話題わだいのぼらなかつたが、これがいとくちになつて、三にんめしまで無邪氣むじやき長閑のどかはなしをつゞけた。仕舞しまひ小六ころくへて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
拝啓昨今御病床六尺の記二、三寸にすぎすこぶる不穏に存候間ぞんじそうろうあいだ御見舞申上候達磨だるま儀も盆頃より引籠り縄鉢巻なわはちまきにてかけひの滝に荒行中御無音致候ごぶいんいたしそうろう
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
方丈には、あの隠居和尚が六年もながめ暮らしたような古い壁もあって、そこには達磨だるまの画像が帰参の新住職を迎え顔に掛かっていた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
尻喰けつくらえ観音である。こうなると人格も技養もない。日面仏。月面仏。達磨だるまさん。ちょとコチ向かしゃんせである。更にす。看よ。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ちと異なことを尋ぬるがな。そなたはこの廓五町内のうちで、達磨だるまのおもちゃとか、達磨の紋様を特別に好む花魁衆おいらんしゅうを知ってはいぬか」
達磨だるま部屋の底に嘆息ためいきをついて、お家様への言い訳や、後で領主からどんな厳罰をくわされるかと、頭をなやめているわけだった。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駄々をこねあげくに後ろにどうとひっくりかえるとその緋のはかまがそのまま赤いころもとなってグロテスクな達磨だるまと変じヒョコ/\とおどり出す。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
現に彼等の或ものは、——達磨だるまと言ふ諢名のある英語の教師は「生意気である」と言ふ為に度たび信輔に体刑を課した。
伊兵衛が庭のほうから覗くと、彼は弟と一緒に雪まみれになって、おそろしく大きな雪達磨だるまを拵えているところだった。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そのほか達磨だるまと称する、一輪はずっと大きく後輪は小さいこれも二輪車、よく乗れたものだと我々はただ感心して見物、いつも三輪車で我慢した。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
夜になると底冷えがするので、もう小さな達磨だるまストーブを入れた酒場では、今夜もまた女の愚痴話がはじまっていた。
動かぬ鯨群 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
朝夕朗々とした声で祈祷きとうをあげる、そして原っぱへ出ては号令と共に体操をする、御嶽教会の老人が大きな雪達磨だるまを作った。傍に立札が立ててある。
雪後 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
遊びに行くと、よく二時か三時頃まで腰を据えて、そして達磨だるまの話やら鳥窠和尚ちょうかおしょうの話やらをやたら沢山聞いて来た。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「オホヽヽヽ、奥さまもナカ/\お口がお悪いのね。宅の女中は、火吹ひふ達磨だるまに生き写しだと申して居りましたよ」
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
壮士荻野六郎は達磨だるまのように赤黒く、毛虫まゆで、いがくり頭で、デップリとふとって、見てくれの強そうな、胸をふくらましてヨレヨレのはかま穿いていた。
余、かつて達磨だるまの像を用いてこれを試みたることあるに、呪文を用うるとその結果同一なるを見たり。また、きつねの石像を用いたるときも同結果を得たり。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
ひどくひっかかりそうなのは好まないので、木魚もくぎょなどは多くもない採集の中にも三つ四つあったでしょう。その他達磨だるまは、堆朱ついしゅのも根来塗ねごろぬりのもありました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
柏軒の四女やすは保さんの姉水木みきと長唄の「老松おいまつ」を歌った。柴田常庵しばたじょうあんという肥え太った医師は、越中褌えっちゅうふんどし一つを身に着けたばかりで、「棚の達磨だるま」を踊った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
両国辺の人たちが大山おおやま参りに出かけると、その途中の達磨だるま茶屋のような店で、お米によく似た女を見かけたと云うのですが、江戸末期のごたごたの際ですから
細川侯ほそかわこうの御殿には雪村せっそんの描いた有名な達磨だるまがあったが、その御殿が、守りの侍の怠慢から火災にかかった。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
それを取り圍む形でやゝ遠く左寄りに眞城さなぎ達磨だるまの山脈があり、近く右手に箱根連山があり、その中にも城山、寢釋迦山、鳶の巣山、徳倉山とくらやま等の低きが相交はり
「いつまで足腰のたたねえ達磨だるま様みてえに、そうしてぷかりぷかり煙草ばかりふかしているんだか。」
おびとき (新字新仮名) / 犬田卯(著)
もう一人は背嚢代りにカバンを下げた三人中の小男で、黒のマントに包まれて鬚だらけの顔を出している様子は、どう見ても悟りのひらけない達磨だるまの出来損いである。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「全身血達磨だるま! どうしたことかと思ったに、勘兵衛めに嬲り殺し⁉ ……どこで? どうして?」
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
裾をまくって頭からかぶった御免安、達磨だるまに足が生えたような恰好かっこうで、野田屋の店をとび出した。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
達磨だるま百題、犬百題、その他何十題、何五十題といふが如き、あるいは瓦当がとうその他の模様の意匠の如き、いよいよ出でていよいよ奇に、滾々こんこんとしてその趣向のきざるを見て
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ト云ッて、宛然さながら達磨だるまが日の眼にッて解けるように、グズグズと崩れながらに坐に着いた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
私はそっと取り出して達磨だるまの如くころがして、起上るのを楽しんでしかられたこともあった。
大きな雪の峰が重なり重なってちょうど数多あまたの雪達磨だるまが坐禅をして居るように見えるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
達磨だるまがある時門人たちに向かって、「時まさに至らむとす、何ぞ所得を言はざるや」と言った。門人道副どうふくは、「文字に執せず文字を離れずして道用を為す」と答える。達磨いう
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
私はその小女から、帆柱を横たえた和船型の大きな船を五大力ということだの、木履ぽっくりのように膨れて黒いのは達磨だるまぶねということだの、伝馬船てんません荷足にたぶねの区別をも教えて貰った。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかし、さあ達磨だるまを描け、花鳥を描け、虎を描けと、居催促いざいそくをされるんじゃ、わしは、いよいよ食えなくなっても書かんのじゃ。わしは、気が向いた時に、気の向いたものを描く。
再度生老人 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「血達磨だるま」の芝居で、土蔵の中で猛火に包まれた主人公が、お家の宝物の一軸を救うために、切腹して自分のはらわたの中に押しこむという着想は「隠す」ためではないけれども
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
達磨だるまなどの多い、飲食店のなかからは、煮物の煙などが、薄白く寒い風になびいていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
達磨だるま玉兎たまうさぎに狸のくそなどというきたない菓子に塩煎餅がありまするが、田舎のは塩を入れまするから、見た処では色が白くて旨そうだが、矢張やはりこっくり黒い焼方の方が旨いようです。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
甘泉堂かんせんどう(菓子屋)、五条の天神、今の達磨だるまは元岡村(料理店)それから山下は、今の上野停車場と、その隣りの山ノ手線停留場と、その脇の坂本へ行く道が、元は、下寺したでらの通用門で
くるりと床の間の方を向いて、達磨だるまの絵にむかつて泥棒や泥棒やと叫びながら、ヒーヒーと青い声を絞りだしてゐる楢雄の変な素振りを、さすがに母親の寿枝はをかしいと思つたのだ。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
達磨だるまを集め、甚だしきは蜜柑の皮を蒐集するがごとき、これらは必ずしも時代の新旧とは関係はないが、珍しいものを集めて自ら楽しみ人に誇るという点はやはり骨董趣味と共通である。
ともかくもこんなふうで、私が病院の退屈な日々を送っている間に、一歩外へ出れば浮世の風に吹きまくられて噂が噂を生み、それが雪達磨だるまのようにますます大きくなっていたのである。
軽焼が疱瘡痲疹の病人向きとして珍重されるので、疱瘡痲疹のまじないとなってる張子はりこの赤い木兎ずくや赤い達磨だるまを一緒に売出した。店頭には四尺ばかりの大きな赤達磨を飾りつけて目標めじるしとした。
横町も表も揃ひは同じ真岡まおか木綿に町名くづしを、去歳こぞよりはからぬかたとつぶやくも有りし、口なし染の麻だすきなるほど太きを好みて、十四五より以下なるは、達磨だるま木兎みみづく、犬はり子
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「そんな物で身受けが出来る代物しろものなら、お前はそこらあたりの達磨だるまも同前だア」
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
むっくりと頭を持ちあげている達磨だるまの姿に似た飄然ひょうぜんたる峰を見出すであろう。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
古い達磨だるまの軸物、銀鍍金メッキの時計の鎖、襟垢えりあかの着いた女の半纏はんてん、玩具の汽車、蚊帳かや、ペンキ絵、碁石、かんな、子供の産衣うぶぎまで、十七銭だ、二十銭だと言って笑いもせずに売り買いするのでした。
老ハイデルベルヒ (新字新仮名) / 太宰治(著)
書き損ねの達磨だるまのような髯面ひげづらゆがめて、銅六はニヤリニヤリと笑うのです。
滔々たる世界名奔利走めいほんりそうの人に向かってストイックの哲学家たるを求め、これに望むに雪山苦行の釈尊をもってし、これに責むるに面壁九年の達磨だるまをもってする、迂濶うかつにして苛酷なる空論のみ。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)