身体からだ)” の例文
旧字:身體
「さあ、早く行つて、かみそりを買つておいで! 身体からだの毛をそるんだ。そしたら、立派なおヒゲが、もつともつと目に立つから。」
風邪をひいたお猫さん (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
彼女はトランプが大好きでしたから、わたしたちはたびたびゲームを行い、負けた者には顔なり身体からだなりへ墨を塗ることにしました。
メデューサの首 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「へえ。……なるほど、そう言われて見れば、顔も身体からだも、ぽっと桜色をしておりましてね。とんと死んでいるようには見えません」
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼は身体からだを横にして、そぞろ歩いている人々の肩の間を駈け抜けた。が、五六歩ほど飛んだとき、自動車は爆音をあげて走り出した。
指と指環 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
照国の誠一は、愛嬌のいい顔を出しこわばらせ、小さい身体からだをまりのようにはずませながら、テーブルの上をドンと叩いた時でした。
九つの鍵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
もしそのあいだ身体からだの楽に出来る日曜が来たなら、ぐたりと疲れ切った四肢ししを畳の上に横たえて半日の安息をむさぼるに過ぎなかったろう。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……それ、十六七とばかり御承知で……肥満こえふとって身体からだおおきいから、小按摩一人肩の上で寝た処で、蟷螂かまぎっちょが留まったほどにも思わない。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
N氏の言によると、今まで朝寝をした癖で、急に早く起きたのでは、自分の身体からだのような気がしなくてどうも気が乗らぬのだそうだ。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
それにあの人は身体からだのどこにも傷を受けてはいなかったもんですから、私は殺されたんじゃなくて死んだのだろうと思っていました。
アパートの殺人 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
このとき木俣の身体からだがひらりとおどりでて右足高く鹿毛の横腹に飛ぶよと見るまもあらず、巌のこぶしが早く木俣のえりにかかった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「でも君、あれを書いてるのは僕なんだものね。」法律家は身体からだをテエブルの上にのり出すやうにして、わざと声をひくめて言つた。
久しく身体からだを使わなかったせいか、僅かばかりの散歩のうちに非常に疲れてしまったらしい。私は思わずグッスリと眠ってしまった。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私は深い心に泣き乍ら幻想のかげに弱つた身体からだを労つてゆく、しめつた霧がそこにもここにも重い層をなして私の身辺を圧へつける。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
御所へ水を入れるところのせきの蔭から、物をも言わずおどり出でた三人の男がある。大業物おおわざものを手にして、かお身体からだも真黒で包んでいた。
玉江さん暑い時分に唐辛とうがらしのような刺戟物がるのは暑くなると人の身体からだは皮膚へ熱の刺撃を受て内部の血液が皮膚の方へあつまります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
彼女の衰えた身体からだは、正太の祝言を済ました頃から、臥床とこの上によこたわり勝で、とかく頭脳あたまの具合が悪かったり、手足が痛んだりした。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
勝平は、しかり付けるように怒鳴ると、丁度勝彦の身体からだが、多勢の力で車体から引き離されたのをさいわいに、運転手に発車の合図を与えた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼は門を入って格子戸こうしどの方へ進んだが動悸どうきはいよいよ早まり身体からだはブルブルとふるえた。雨戸は閉って四方は死のごとく静かである。
愛か (新字新仮名) / 李光洙(著)
今どきこの湯つぼへ下りて来る人はあるまいと、千浪は安心して、惜気おしげもなくその身体からだを湯になぶらせて、上ることも忘れたふうだった。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
野良着をつけると、善ニョムさんの身体からだはシャンとして来た。ゆるんだタガが、キッチリしまって、頬冠ほおかむりした顔が若やいで見えた。
麦の芽 (新字新仮名) / 徳永直(著)
戸を開けようとしましたが、外からじょうがおりています。窓の所へ行ってみましたが、太い鉄棒の格子こうしがついていて、身体からだが通りません。
泥坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
鮮血は二人の身体からだから出たものでなく、また天井から落ちたものでもないとすれば、空中から飛んで来たものとほか思う事は出来ない。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
そこで、丁度、こちらの注文どほり、熊先生、自分の身体からだの重さで、自分の胸をぶす/\と刺して、たあいもなく参つてしまひました。
熊捕り競争 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
細身ほそみ造りの大小、羽織はかまの盛装に、意気な何時いつもの着流しよりもぐっとせいの高く見える痩立やせだち身体からだあやういまでに前の方にかがまっていた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
女三の宮は弱いお身体からだで恐ろしい大役の出産をあそばしたあとであったから、まだ米湯おもゆなどさえお取りになることができなかった。
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そして今度はどこというあてもなく、フラフラと街から街を彷徨さまよった。どこまで逃げても、たった五尺の身体からだを隠す場所がなかった。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「無限とは、ただ物質的にじゃ」と小さい方の僧侶が彼の身体からだを廻して言った。「真理の法則をのがれると言う意味の無限ではないて」
いやいやここで腕立てなどしたら、師匠の迷惑は言うまでもなく、殊更、自分は、大望ある身体からだ、千丈のつつみありの一穴。辛抱だ——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
表の戸は二寸ばかり細目にけてあるのを、音のせぬように開けて、身体からだを半分出して四辺あたりを見まわすようであったが、ツと外に出た。
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
彼らの身体からだに、そのときあつい血がきあがって来た。じかれたようにとび出したのは阿賀妻であった。彼は流れの中に駈けこんだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
罵声ばせいが子路に向って飛び、無数の石や棒が子路の身体からだに当った。敵のほこ尖端さきほおかすめた。えい(冠のひも)がれて、冠が落ちかかる。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
若い女達は彼の大きな棍棒と、彼の着ているもじゃもじゃの獅子の皮と、それからいかにも勇士らしい彼の手足や身体からだつきを見ました。
一方牧師の身体からだは、四肢が氷壁に支えられてそのまま氷上に残ってしまい、やがて雨中の水面には氷が張り詰められてゆきました。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その様子を見るとまた身体からだでも良くないと思われて、真白い顔が少し面窶おもやつれがして、櫛巻くしまきにった頭髪あたまがほっそりとして見える。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
千浪の身体からだは、たちまち、真ッ黒な荒くれどもの中に埋まってしまう。額平は一刀を抜きしごいて、重蔵の後ろから不意に斬りつけた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
西郷隆盛さいごうたかもりのそばにいると心地ここちよくおう身体からだから後光ごこうでも出ているように人は感じ、おうは近づくとえりを正さねばならぬほど威厳いげんがあった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
身体からだは弱いけれども、精神こころの強い人はある。しかし霊性たましいの強い人は少ないものである。私たちの子供らをこの三つの力の強い人にしたい。
たましいの教育 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
実際妻が身体からだを壊す迄働いて月々わづかる参拾伍六円の収入が無かつたなら眞田の親子六人はくに養育院へでも送られて居たであらう。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
私のようにこんなに弱いもので子供のときから身体からだよおうございましたが、こういうような弱い身体であって別に社会に立つ位置もなし
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
僕の名前で硯箱だの時計だのを、君に上げたのかい。実はね、僕は身体からだがよわくて、学習院の中学部で、二度も落第したんだぜ。
硯箱と時計 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
それ所ではなく、小猿がみんな歯をむいて楢夫に走って来て、みんな小さな綱を出して、すばやくきりきり身体からだ中をしばってしまいました。
さるのこしかけ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
井戸端で、みんなが身体からだを洗ってしまってからも、私は何時までも、そこに愚図々々していた。ただ、私の母から隠れていたいばかりに。
麦藁帽子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
短遮等より投げたる球を攫み得て第一基をむこと(もしくは身体からだの一部をるること)走者より早くば走者は除外となるなり。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
榮子と云ふ順に気にかゝるとは何時いつも鏡子が良人をつとに云つて居た事で、瑞木は双子ふたごの妹になつて居るのであるが、身体からだも大きいし
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
身体からだに附いてるものは押える事が出来ないッてから、今度はピカピカ光る指環ゆびわを三つも四つも穿めて見せびらかしてやろう、」
左様さよう御在ございます。身体からだは病後ですけれども、今歳ことしの春大層たいそう御厄介になりましたその時の事はモウ覚えませぬ。元の通り丈夫になりました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
悧巧りこうな娘かも知れないわ。だがあたしはもうこんな靴はごめんよ、もうどうしたっていやよ。第一身体からだに悪いし、その上みっともないわ。
「お叱んなさるも、あれの身の為めだから、いいけれども、只まだ婚嫁前よめいりまえこってすから、あんなもんでもね、あんま身体からだきずの……」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ぼくの姓は坂本ですが、七番の坂本さんと間違まちがやすいので、いつも身体からだの大きいぼくは、侮蔑ぶべつ的な意味もふくめて、大坂ダイハンと呼ばれていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
と、背後うしろから、声をかけた。和田は、小径を中心に、左右の草叢へ、森の中へ、出たり、入ったりしていたが、暫く、身体からだが見えなくなると
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)