)” の例文
春庵は年をゆるに及ばずして京都より還つた。そして丸山の伊沢の家を訪うた。背後には大いなる水盤をいた人夫が附いて来た。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
梶井という人物の偶然の物わかりよさで納まってゆく範囲をえたものとして力づよく率直に読者の実感に訴えてよいのだと思われた。
然るに孔子さえも七十になって始めてこの域に達したので、五十、六十まではまだ心の欲する通り行うこと、のりえたであろう。
デモクラシーの要素 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
四十にしてまどわず。五十にして天命を知る。六十にして耳したがう。七十にして心の欲する所に従えどものりえずと。——為政篇——
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
いまだ一三高野山を見ず、いざとて、夏のはじめ青葉のしげみをわけつつ、一四てんの川といふよりえて、一五摩尼まにの御山にいたる。
しんずい王莾おうもうや、晋宋しんそう斉梁せいりょうや、則天そくてん符堅ふけんや、これ皆これをして天下を有せしむる数百年にゆといえども、正統とすからずとす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その翌日は非常にきつい坂で三途さんずのがれ坂というのをえねばならん。ところが幹事は誠に親切な人でヤクを貸して上げましょうという。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
私とナオミとの間にはガラスの壁が立っていて、どんなに接近したように見えても、実は到底えることの出来ない隔たりがある。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この垣よりも大いなる穴がある。呑舟どんしゅうの魚をもらすべき大穴がある。彼は垣はゆべきものにあらずとの仮定から出立している。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二、三丈もある独立の大岩が斜面に突立っているのは珍しいと思った。小高い瘤をえて池のある鞍部に下り着く。やや急な上りが始まる。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
ベアトリチエとのきよき戀、戰爭の間の苦、逐客ちくかくとなりてアルピイ山をえし旅の憂さ、異郷の鬼となりし哀さ、皆我詩中のものとなりぬ。
仲御徒町三丁目は上野広小路三橋みはしより少しく南に下った処から東に入って、俚俗摩利支天りぞくまりしてん横町を行尽し、鉄道線路をえたあたりである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼らが今から上り三里下り三里の峠をえて半島の南端の港へ十一里の道をゆく自動車であることが一目で知れるのであった。
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
しかし、私と友との間にはどれほど友情の本質に関する寂寞と煩悶とが続いたことだろう。今もなおそのえがたき溝渠こうきょを思えば暗然とする。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
六十にして耳順したがい、七十にして心の欲する所に従ってのりえずと言った、老るに従って益々識高く徳進んだのである。
死生 (新字新仮名) / 幸徳秋水(著)
その本宮は、中世実に日本国現世の神都のごとく尊崇され、諸帝みな京都より往復二十日ばかり山また山をえて、一歩三礼して御参拝ありし。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
自分は太早計だいそうけいにもここを上州の尾瀬平と思い込んだが、それにしても只見川をえたはずがない、小一時間もうろついてようよう見当が附いた
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
ほとんど同時に、院長のなにがしは年四十をえたるに、先年その妻をうしなひしをもて再び彼をめとらんとて、ひそかに一室に招きて切なる心を打明かせし事あり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そこで日々の勤めは否定されねばならない。その最後の一線はどうしてえるか。ここで逡巡することは許されない。
大抵は皆成ろう事ならうちに寝ていたい連中れんじゅうであるけれど、それでも善くしたもので、所謂いわゆる決死連の己達おれたちと同じように従軍して、山をえ川を
北西の一峰をえたことを記憶している、そこに何があったかと言えば、白花の石楠花しゃくなげがあったことだけが答えられる。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
オイソレと逃げる訳にも参らず、とうとう牛に曳かれて八溝山やみぞやまの天険をえ、九尾の狐の化けた那須野なすのはらまで、テクテクお伴をする事に相成った。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
播磨風土記はりまふどき』の多可郡の条にも巨人が南海から北海に歩んだと伝えて、そのゆる迹処あとどころ数々あまた沼を成すと記してある。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
大なるかな心や、天の高き極むべからず。しかして心は天の上に出ず。地の厚き測るべからず。しかして心は地の下に出ず。日月の光はゆべからず。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
富坂時代から貧乏線は度々えて借金学も一と通り卒業して来たから、如何に家族を抱えていても死ぬほど窮苦に堪えられなかったとは想像されない。
ただのりえざる段階のみは常人の生涯に適用せられない。そうしてその適用せられないことにも深い味がある。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
そこで太平洋汽船会社の別の船に乗替えてパナマに行って蒸汽車に乗てあの地峡をえて向側に出てまた船にのっ丁度ちょうど三月十九日にニューヨークに着き……
咸臨丸その他 (新字新仮名) / 服部之総(著)
し其をしてばうに至らしめば、則ち其の神明はかられざること、おもふに當に何如たるべきぞや。凡そ孔子を學ぶ者は、宜しく孔子の志を以て志と爲すべし。
こうして心ならずも小泉の家の世話になっているうちに、月をえて梅雨つゆに打込むの時となりました。昨日も今日も雨であります。明けても暮れても雨であります。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
蒸気車にのってあの地峡ちきょうえて、向側むこうがわに出て又船に乗て、丁度三月十九日に紐育ニューヨークに着き、華聖頓ワシントン落付おちついて、取敢とりあえず亜米利加の国務卿にうて例の金の話を始めた。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
伊賀國は小國であるけれども、この國に入るには何方からゆくにも相應に深い山をえねばならぬ。
伊賀国 (旧字旧仮名) / 近松秋江(著)
その卦兆の辭を見るに「魚の疲れ病み、赤尾を曳きて流に横たはり、水邊を迷ふが如し。大國これを滅ぼし、將に亡びんとす。城門と水門とを閉ぢ、乃ち後よりえん」
盈虚 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
ロミオ あの石垣いしがきは、こひかるつばさえた。如何いか鐵壁てっぺきこひさへぎることは出來できぬ。こひほっすれば如何樣どのやうことをもあへてするもの。そもじうち人達ひとたちとてもわしとゞむるちからたぬ。
申砬は最初の大言に似ず、日本軍連勝の報に恐れをなして、忠州を出動して南下し、鳥嶺の嶮をえる時に行方不明になった。大将が居なくては陣中騒擾そうじょうするのは当然である。
碧蹄館の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
一言ひとこと……今一言の言葉の関を、えれば先は妹背山いもせやま蘆垣あしがきの間近き人を恋いめてより、昼は終日ひねもす夜は終夜よもすがら、唯その人の面影おもかげ而已のみ常に眼前めさきにちらついて、きぬたに映る軒の月の
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
(二人は山の中腹をえて前に出で、谷間の陣を望む。鼓、その他の軍楽下より聞ゆ。)
落合おちあひ驛を過ぎて、路二つにわかる。一は新道にして木曾川の流に沿ひ、一は馬籠峠まごめたうげえて妻籠つまごる。われは其路のわかるゝ一角に立ちて、久しくその撰擇に苦しまざるを得ざりき。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
あるいは山を谿たにがわに沿いあるいは吹き通しの涼しき酒亭に御馳走を食べたなどと書いてあるのを見ると、いくらか自分も暑さを忘れると同時にまたそのうらやましさはいうまでもない。
徒歩旅行を読む (新字新仮名) / 正岡子規(著)
十一娘は止めてもいないということを知ったので、一人の侍女に垣をえて送らした。半路ばかりもいったところで、三娘は侍女に礼をいって別れていった。侍女はそこで帰って来た。
封三娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
答うもののあらざるを見て、遠山金之助こらえかねたか、してずッと入った。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あら玉」といっただけで、すぐに新年の意味になる。必ずしも「新玉」という字を当てるからではない。枕詞まくらことばなどという約束をえて、自由に活動するのは俳諧得意のところである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
だいだいの実十余個を取って堂下にころがして置いて、二人は堂にのぼって酒を飲んでいると、夜も二更にこうに及ぶころ、ひとりの男が垣をえて忍び込んで来たが、彼は堂下をぐるぐる廻りして
(七尺の屏風も躍らばよもえざらん。綾羅の袂も曳かばなどか絶えざらん)
軽女 (新字新仮名) / 上村松園(著)
天道はみつるをきて謙にし、地道は盈るを変へて謙にながし、鬼神は盈るを害して謙にさいはひし、人道は盈るを悪みて謙を好む。謙は尊くして光り、いやしくしてゆべからず。君子の終りなり。
地山謙 (新字旧仮名) / 片山広子(著)
きりりと締つて或るのりえない実際家的な肌合が、そこに現はれてゐる。
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
或は百をえる年なのかも知れない。明治時代の海軍の軍医である。その頃の軍艦といふものは、いかめしくはあるが同時に美しいもので、それはただ平和を保障する象徴のやうな時代であつた。
菓子の譜 (新字旧仮名) / 岩本素白(著)
東隣の男がそれを聞いて、垣をえてそっと往って窺いた。桑と美人が向きあって話していた。東隣の男はいきなり入って往った。女はひどくあわてていたが、そのまに見えなくなってしまった。
蓮香 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
孔子は「心の欲する所に従うてのりえず」といわれたのである。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
蜀郡の許靖きょせいまでが城をえたと聞いて、劉璋は
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わが心、ほどえて
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)