さか)” の例文
梅は白きこそよけれ紅なるは好ましからずなんどさかしげにいふ人は、心ざまむげに賤し。花は彼此をくらべて甲乙をいふべきものかは。
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
されば我若し行くを肯はゞその行くこと恐らくはこれ狂へるわざならん、汝はさかし、よくわがことばの盡さゞるところをさとる 三四—三六
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そう思えば、あるじの僧は見るところ柔和にゅうわさかしげであるが、その青ざめた顔になんとなく一種の暗い影をおびているようにも見られる。
くろん坊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それから、グレプニツキーは、土人小屋に収容されたが、さかしい紅琴は、早くもただならない、二人の気配を悟ることができた。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
さかし気にこの風潮に乗ずるが如き奇観を呈するに至つて、遂に文芸家と商人とは何の選ぶところもないことになつてしまつた。
文芸家の生活を論ず (新字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
さかしらの才能というものに魅力を感ずる季節にある彼。彼は僕の言い廻しの幼さと、感傷性を発見して、自尊心を傷つけられないですんだ。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
あのさかしさで、いつまでこの退屈な山里に、私と一しょに、水仕事をしたり、読書したり、鳥の声のみ聞いていましょうか……
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鮮やかな印象に残っているともえの、美しくさかしげな姿を掻き消そうとでもするように、正四郎は顔をしかめながら強く首を振るのであった。
その木戸を通って (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
にまのあたりに見奉りしは、二四紫宸ししん清涼せいりやう御座みくら朝政おほまつりごときこしめさせ給ふを、もも官人つかさは、かくさかしき君ぞとて、みことかしこみてつかへまつりし。
清少納言こそ、したり顔にいみじうはべりける人。さばかりさかしだち、まなかきちらして侍るほども、よく見れば、まだいと堪へぬことおほかり。
母のことを思い出して書いて行くうちに、右の「女さかシウシテ牛売リ損ネル」につき当って、その解釈に当惑したという次第なのでありました。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ジャックリーヌは茶の支度をしていたが、びっくりして茶碗ちゃわんを取り落としかけた。自分の後ろで、二人がさかしい微笑をかわしてるような気がした。
最も姫の心にかなひしはララなり。姫の宜給ふやう。アヌンチヤタは美しくもありしなるべく、さかしくもありしなるべし。
さかしい智識からこれと深められた目色は見えぬが、ただの農民の妻だったに過ぎぬが、いかにもお人よしの隔てのない愛敬がその顔にも表れていた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
明るき智慧ちえも、神の前にはなお暗いであろう。さかしさもその前には愚かなるに過ぎぬ。「それ智慧多ければ憂い多し」と『伝道の書』には嘆じてある。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
もう、世の人の心はさかしくなり過ぎて居た。独り語りの物語りなどに、しんをうちこんで聴く者のある筈はなかった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
それだけで安心はできないのであるが、さかしげにしいてそれを実現させてくれとも言えなかった。山の僧都は
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その不可思議な眼は、彼の手の中でとてもぎらぎらと光って、さかしげに彼の顔を見上げて、上下うえしたまぶたさえあれば、ぱちくりとでもやりそうな様子に見えました。
またしてもさかしげに女の分際で少しの文字を鼻に掛くるかと、一口にいひ消してしまふ様になりました。
こわれ指環 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
あなみにくさかしらをすとさけまぬ人をよくればさるにかもる(よく見ば猿にかも似む) (同・三四四)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
と私はハッキリ言って退けた。昨夕逢ったばかりのあのさかしげな口許、眼、眉を凝視みつめていると違うどころか! それは私の気持をますます底なしの恐怖に陥れてくる。
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
台察児タイチャル なに、嫂上がお帰りになったと? 兄上の気持ちも察せずに、さかしら立てに勝手なことをして、一夜を敵将の陣営に送り、ちぇっ! どんな顔をして戻って来るか。
そのさかしい童児は実は神様の化現けげんであったなどというのを見ると、単なる民間文芸の趣向ではなしに、或いはもとみちばたに出て旅の参詣者さんけいしゃに呼びかけるような宗教的の職業に
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そのわざとらしい造り声の中にかすかな親しみをこめて見せた言葉も、肉感的に厚みを帯びた、それでいてさかしげに締まりのいい二つの口びるにふさわしいものとなっていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
猫が鼠をとるようにとは、かくさえすればずれっこはござらぬと云う意味である。女さかしゅうしてと云う諺はあるが猫さかしゅうして鼠そこなうと云う格言はまだ無いはずだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
姉は今年十五になり、弟は十三になっているが、女は早くおとなびて、その上物にかれたように、さとさかしくなっているので、厨子王は姉の詞にそむくことが出来ぬのである。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかるを愚図々々ぐづ/\さかしらだちてのゝしるは隣家となりのおかずかんがへる独身者ひとりもの繰言くりごとなんえらまん。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
「さようなご深慮ともわきまえず、さかしらだって諫言かんげんつかまつり今さら恥ずかしく存じまする」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
(七) 子夏しか曰く、さかしきをとうと(尊)び、色をあなど(軽易)り、父母につかえてく其の力をつくし、君につかえて能く其の身をささげ、朋友と交わりものいいてまことあらば、未だ学ばずというといえど
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
また百濟の國に仰せたまひて、「もしさかし人あらば貢れ」とのりたまひき。かれ命を受けて貢れる人、名は和邇吉師わにきし、すなはち論語十卷とまき、千字文一卷、并はせて十一卷とをまりひとまきを、この人に付けて貢りき。
徘徊たもとほる象の細目ほそめさか諦觀あきらめの色ものうげに見ゆ
河馬 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
汝を敵に戰はば我はさかしと曰はるまじ
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
さかしき長虫ながむし通力立つうりきだてらばもの
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さかし教に智慧ちゑ種子たねきそめしより
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
さかしきおよびもて、われ縒りぬ。
大学を出ていとさか
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
漁子すなどりのいとさかしらに
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
さかしきこゝろきよなり
花枕 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
たとひさかしらに
不可能 (旧字旧仮名) / エミール・ヴェルハーレン(著)
しょせんは彼らを誅伐するにしても、今しばらく堪忍しておもむろに時機を待つ方が安全であろうと、彼女はさかしげに忠告した。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかもわが春日山の留守には、なお二万の兵と、一年の矢玉は蓄えてある。何の何の、あのさかしらの信玄が、左様な目先の見えぬことをするものか
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの頑固がんこな三河武士が、そんな大した通人に出来上ってしまったということが、やがて徳川の亡びた理由であると、さかしげに説いている人もありましたが
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
人を恐れぬ気質は客の多い家庭に育ったことにもよるだろうが、生得の敏さ、さかしさ、そして明るくすなおなところ、すべてが際立った個性を示している。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「行動することは、ばかであることの証明である」さかしげな現代人が自分を許すために用いる、この言葉を、僕は自分を許さないための金言としてもっている。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
八千矛の神のみことは、とほ/″\し、高志こしの国に、くわをありと聞かして、さかをありときこして……
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
我が国は天照すおほん神の開闢はつぐにしろしめししより、日嗣ひつぎ大王きみゆる事なきを、かく口さかしきをしへを伝へなば、末の世に八二神孫しんそんを奪うてつみなしといふあたも出づべしと
妾の虫には受け取れませぬ、なんなら妾が一走りのっそりめのところに行って、重々恐れ入りましたと思い切らせて謝罪あやまらせて両手を突かせて来ましょうか、と女さかしき夫思い。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
黙然もだりてさかしらするはさけみて酔泣ゑひなきするになほかずけり (同・三五〇)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「姉えさん。まだなかなかかれはしないよ」弟はさかしげに答えた。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
姫がやさしさ、さかしさ、姫が藝術のすぐれたるをこそ慕へ。これに戀せんなどとは、われ實に夢にだにおもひしことなし。彼。汝が眞面目なるおも持こそをかしけれ。好し/\、我は汝が言を信ぜん。