貴郎あなた)” の例文
「あら、貴郎あなたも新聞を読んだくせに。先晩劇場しばいの幕間にあんなに詳しく読んだではありませんか。それに今朝だって発つ前にも……」
「さあそいつは……そいつはどうも……それより一体貴郎あなた様は、どうして何のために彼女を訪ねて、わざわざおいでなすったんで?」
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかし松山さん、先方から改めてびて来た場合には、貴郎あなたの方でも綺麗きれいさつぱりと秋子さんを円満に青木家に渡して下さるのでせうね
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
「先生、何です御わかりになりませぬ——まア驚いたこと——先生、貴郎あなたを教会からひ出す相談のあるのをだ御存知ないのですか」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「まア、今日はお小言こごとデーなのね、おじいさん。ちとほかのことでも言いなすったらどう? 貴郎あなたの五十回目のお誕生日じゃありませんか」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もっとも、小松原とも立二りゅうじとも、我が姓、我がめいを呼ばれたのでもなければ、聞馴ききなれた声で、貴郎あなた、と言われた次第でもない。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たとえば一家の主人が黙って物を考えて何か浮かない顔をしていたら妻君が心配して貴郎あなたどうかなさいましたかと尋ねるだろう。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
貴郎あなた、そんな身装みなりをしてお隣家となりへ往つてらしたんですか。襟飾ネクタイもつけないで、何てまあ礼儀を知らない方なんでせう。」
「変なことおうかがいするようですけど……貴郎あなたは兄と北川さんとのことで、何か思っていらっしゃることはなくって?」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「人違いだって? 私はグヰンと永い間一緒に住んでいたのですよ。私は貴郎あなたが思う程、頭脳あたまが悪くはない積りです」
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
つまり天下の大才子は「貴郎あなただわ。」天下の美人は「お前だよ。」と、以心伝心に極ってしまう、そこで僕が前途の抱負を述べると、愚妻は殊勝にも
空想としての新婚旅行 (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
『ほんとにわたしは、こんなことが貴郎あなたに言はれた義理ぢアないんですけれど、手紙で申し上げたやうなわけで……』
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
うかしたかと氣遣きづかひてへば、にはか氣分きぶんすぐれませぬ、わたし向島むかふじまくのはめて、此處こゝからぐにかへりたいとおもひます、貴郎あなたはゆるりと御覽ごらんなりませ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
真女児は貴郎あなたが時どきここへ来ていっしょにいてくれるならいいと云って、金銀こがねしろがねを餝った太刀を出して来て、これはさきの夫の帯びていたものだと云ってくれた。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
私はねえ、もう愛だの恋だの、貴郎あなたに惚れました、一生捨てないでねなんて馬鹿らしい事は真平だよ。こんな世の中でお前さん、そんな約束なんて何もなりはしないよ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「これでも一子相伝ですが、貴郎あなたにですから伝授しましょう。併し昼間はどんな事が有っても授けられぬと、ちゃんと禁じて有りますから、真夜中に教えて上げましょう」
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「ほうら。ありましたがな、こんな処に。矢つ張り貴郎あなたが御自分でおしまひになつたんですわ。」
では行っておでなさいまし、貴郎あなたのお留守中は確かにお引き受けしました、どうか、にしきを着て故郷へお帰りなさるよう、私は三年を楽しみにして待っておりますとの事に
貴郎あなた、青ちやんは、百日咳に取りつかれたんぢやなくつて。どうもさうらしいわ。
泥鰌 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
貴郎あなた、そんなものを私に見せて一体如何しろとおっしゃるんですの」と唸いた。
頸飾り (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
おそひそか腰元こしもとお竹に頼みしかば吉三郎があと追駈おつかけ來りしなりさてお竹は吉三郎にむかひお菊樣が貴郎あなたに是非お逢成あひなされ度との事成ば先々此方こなたへ來り給へと手を取引戻ひきもどすゆゑ吉三郎さては娘の心は變らず我を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
貴郎あなた、今日は大層遲かつたぢやございませんか?』
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
今日まで彼の要望のぞみを延ばし、切刃詰まった今日になって、貴郎あなた様に討っていただきましたことも、ご縁があったからでござりましょう
弓道中祖伝 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あア其れですかどころぢや有りませんよ、先生、貴郎あなた厳乎しつかりして下ださらねば、永阪教会も廿五年の御祝で死んで仕舞ひます
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「アラいやアね。また始まった。一体貴郎あなたは幾度疑って、幾度信じ直せば気がすむんでしょ。……すこし気の毒になってきたわ」
(新字新仮名) / 海野十三(著)
就中なかんずく、銑太郎などは、自分釣棹をねだって、貴郎あなたが何です、と一言のもと叔母御おばごに拒絶されたうらみがあるから、そのたたり容易ならずと可知矣しるべし
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それだのに、貴郎あなたは裁判官にわたしの放免を願って下さったのね。そして今もこんなに優しくして下さるんですもの。
暗中の接吻 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
おいらんも残念がっていましたけれど、しかたがなしに、貴郎あなたが来たらよく言ってくれッてな——それにこれを渡してくれッておいて行きましたから
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
助けてやったのは貴郎あなたですってね。本統にお若いのに感心です。怪我はしていないようですが、あの女は大分お酒を
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
貴郎あなた、今日お登和さんがいらしって色々のお料理をなさいましたから先ずこれを召上ってそれから大原さんのお話を
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「だつてをかしいわ。」と夫人は不機嫌さうにぼやいた。「御覧なさいよ、来る人も来る人もが黒ん坊ばかしよ。貴郎あなたこゝは黒ん坊の教会ぢやなくつて。」
恭助あるじいたつかれて禮服れいふくぬぎもへずよこるを、あれ貴郎あなた召物めしものだけはおあそばせ、れではいけませぬと羽織はをりをぬがせて、おびをもおくさまづからきて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私を虐待して追いだしました、私はこのことを洞庭の方へ言ってやりたいと思いますが、路が遠いので困っております、貴郎あなたは呉にお帰りのようでございますが
柳毅伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
貴郎あなた、青ちやんは、百日咳に取りつかれたんぢやなくつて。どうもさうらしいわ。
小熊秀雄全集-15:小説 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
貴郎あなたわたしのおねがひかなへて下すつて。』と言はれて気がき、銀之助は停止たちどまつた。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
れたならば市之丞が折角のこゝろざしも通りまた貴郎あなたの御義心もつらぬくと申もの双方さうはうの御趣意も立て宜く候まゝ是非々々然樣さやうなされよと申ければ文右衞門は暫時しばらく考へしが成程是は其方そなたの申通り一時の融通ゆうづうに此金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「毒蛇を投げたのは貴郎あなたを殺したい為で御座んした」
壁の眼の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
貴郎あなた今日こんちは大層遅かつたぢやございませんか?』
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
どうぞご安心下さいまし。お杉は貴郎あなたを忘れはしません。妾は喜こんで貴郎のために、かつえ死にするつもりでございます。思う心を
柳営秘録かつえ蔵 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
貴郎あなたに手伝ってもらって取返すのよ。そしてあたしは、どうしても貴郎から離れないようになるのよ。さあ行ってよ、早く——
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
良久しばらくありて、梅子は目をしばたゝきつ、「剛さん、軽卒めつたなことを仰しやつてはなりません、貴郎あなたは篠田さんを誤解して居なさるから——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
串戯じょうだんではなくってよ。貴郎あなたが持って来て、あそこへ据えてから、玄関のかたなんぞも、この間中種々いろんな事を言ってるんですよ。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小山の心の動きたるは妻君のこの上もなきよろこびなり「そんなら貴郎あなた真鍮鍋しんちゅうなべ青銅鍋からかねなべを廃して西洋鍋を買って下さいますか」小山「ウム買いましょう」妻君
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
貴郎あなた呉々くれ/″\も言つておきますが、日曜日には忘れないやうに屹度教会へ往らつしやいよ、ね、よくつて。」
「マンドリンを弾くのが聞えたなんて、それは貴郎あなたのお気のせいよ。衣川さんはいつもマンドリンを弾いていらっしゃるけれども、昨夜はお不在るすのようでしたわ」
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
「いいでしょう、めしあがれ、貴郎あなたは、私をあまり御存じないでしょうが、私はよく存じておりますわ」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
うもなんともはれぬ氣持きもちなりました、貴郎あなたにはわらはれて、かられるやうこと御座ござりましよとしたいておはするに、ればなみだつゆたまひざにこぼれてあやしうおもはれぬ。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「いやよ、小畑さん、貴郎あなたは昔から私をいじめるのねえ、覚えていてよ」と打つ真似まねをした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
廊下で何だか蹌踉よろけるような跫音あしおとがして、間もなく『戸を開けて、戸を開けて』という声がするものですから、きっと貴郎あなたが御気分でもおわるいかと思って、戸を開けますと
犬舎 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
知りて付込れなば如何なる變事へんじの出來んも知れずいづれにも又々明日馬喰町へ行きて尋ね當り次第市之丞へ渡す迄ははなはだ以て心遣ひなりと云に女房も御道理ごもつともなり今日は終日ひねもす尋ねあぐまれさぞかし御勞おつかれならんにより貴郎あなたよひうち御臥おやすみありて夜陰よはよりは御心だけもねむり給は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)