あやま)” の例文
目付の侍はあわてて出て来て、怠慢のかどをあやまりぬいた。閣老などのお耳に入らぬようにと、それも、沢庵へ繰返して頼むのだった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれは親方や兄弟子に袋叩きにされて、それから自身番へ引き摺って行ってさんざんあやまらせられたが、権太郎は素直に白状しなかった。
半七捕物帳:06 半鐘の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして彼をかばうどころか、彼女もまた訳も分らない先から彼を打ち始め、あやまらせようとした。彼は怒って言うことをきかなかった。
母が佃にあやまれるわけはない。佃が、自分の夫となったというだけの因縁で、このような屈辱を堪えるわけはない、と伸子は思った。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
いじめたから。……またあなたもみっちりおかせぎなさい。そうしたらお雪さんが、此度は向から頭を下げてあやまって来るから。……
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
案内状を送った人たちがみんな集まってきたら、どうあやまったものか、——名前を借りたTにもすまないしと、私は寿命が縮まる想いだった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
「黙つて居ろ。卑屈な奴だ、あやまる事はない。犬が悪いのぢやないぞ。この男が臆病なんだ。子供や泥棒ぢやあるまいし……」
「何も今更あやまることは無いよ。一体今度の事はをぢさんをばさんの意から出たのか、又はお前さんも得心であるのか、それを聞けばいのだから」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
すると珪次は案外に立ち勝った私の迎え方に有頂天になって、私の肩を抱えて、「御免、ね」と子供のようにあやまりました。
扉の彼方へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
どんなことか知らんが、子分がしたことなら、おれがあやまる。すまん。いずれ、正式に挨拶はするが、勘弁してくれ
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
清水さんは帽子をかぶっていながら帽子を探したり、お花さんの裾を踏んであやまったり、右の手に左の手袋がまらなかったりした。随分そそっかしい人だ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかし、女中に用事もの一つ言いつけるにも、まずかんにんどっせとあやまるように言ってからという登勢の腰の低さには、どんなあらくれも暖簾のれんに腕押しであった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
あたしンところへ持っていらっしゃい。いいこと。あたしから丘田さんにうまくあやまって置いてあげますからネ
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ただあやまるだけで済めばいが、酒を五しょうにわとりと魚か何かをもって来て、それで手をうって塾中でおおいに飲みました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
して見損じのなき樣に商賣に身をいれよ馬鹿な奴だと笑ひけるに曲者くせものたゞ平謝ひらあやまりにあやまり居るゆゑ又半四郎はかれを見て汝は命をとるべき奴なれども今日の處は慈悲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「そんなことをいうもんでない。しんぼうしなくては人間にんげんになれない。あやまってかえらなければならない。」
海へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
平生へいぜいからきみがよせといつたのをきけばよかつた。これはわたし失敗しっぱいはなはだすみませんでした。あやまります
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
わたしくかろうと此子このこめんじていてくだされ、あやまりますとていてけども、イヤうしてもかれぬとて其後そのごものはずかべむかひておはつ言葉ことばみゝらぬてい
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
雪子ははうきと塵取とを持つて来てくれ、私は熱灰あつばひを塵取の中に握り込むやうなことをしたが、畳の上にあちこち黒焦げが残つた。私は真赤に顔を染めて雪子の父にあやまつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
あやまらなくたつていゝ、——ところで、その主人を呼んだ時隣の部屋にあかりが點いて居たのかい」
そしてたしかに心の底には、何となくあやまりたい気持ち——対社会へではない、鎌子に謝りたい心持ちがいていたに違いないと思われる。それはあからさまに示されていた。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
彼は怪しまれて騒がれないうちに、こっちから声をかけて事情を話してあやまろうと思った。
指環 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あやまッた謝ッた。これから真面目まじめに聴く。よし、見ると赤飯こわめしだ。それはわかッた。」
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これはいきなりあやまってしまうに限る、とコン吉は、まだ椅子にもすわらぬうちに
「おれにあやまる必要はない」銀之丞は笑ったが、「どうだ鼓賊、儲かるかな?」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
飯「それは己が悪かった、此の通り板の間へ手を突いてあやまるから行ってやれ」
思ひ切つて小花さんに立派にあやまぶんのこと、清さんに限つて小花さんをわたしに見変へるといふはずはなけれど、さうなれば私は命も何もりませぬ、それぢや命掛といふのだね、すごい話になつて来た
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
彼は誰にでもあやまりたかった。そうしてまた、誰をでもゆるしたかった。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
新子は、こんなときには、あっさりとあやまった方がいいと思ったので
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「さ、老役ふけやくには持ってこいだ。な、よろしくあやまってやれ」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「御免なさい。ねえ、私あやまるから……。」
変な男 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「分りました、ツイ目の前に、捕物がブラ下がったので、うっかり手が出てしまいましたんで……」万吉は一も二もなくあやまって
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ねえ、巳之さん。わたしはどんなにでもあやまるから、まあひと通りの話を聴いて下さいよ。ねえ、もし、巳之さん……」
半七捕物帳:52 妖狐伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
クリストフは憤然と立ち上がった。しかしまさに口を出そうとすると、老人はようよう起き上がって、不平を言うどころか、やたらにあやまってばかりいた。
「太郎さん、下りてください。あやまる。謝るから此方こっちへ来て被下ください。君にはとてもかなわない。謝る。もう決してしないから、さあ、太郎さん、此方へ来て被下」
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いささかおどけたかおになつて、たたみをついてあやまつたが、一ぽう犯人逮捕はんにんたいほだい一の殊勲者しゅくんしゃ平松刑事ひらまつけいじは、あるのこと、金魚屋きんぎょやさん笹山大作ささやまだいさくの、おもいがけぬ訪問ほうもんをうけた。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
少し注意致したらかろうと、真面目まじめになって忠告したから、私はその時少しもあやまらない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
長吉ちようきちづれが草履ざうりどろひたいにぬられてはまれたもおなじだからとて、そむけるかほのいとをしく、本當ほんと堪忍かんにんしておくれ、みんなれがるい、だからあやまる、機嫌きげんなほしてれないか
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私はそれが何か末弘春吉のせいみたいにも思われ「パイ一は、どこでやります。あいているところあるかしら」とひどく突慳貪つっけんどんに言い、言ってから、ごめんごめんと弱気にあやまる気持で
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
「だつて貴方がかう云ふ場になつて迷惑さうな事を言ふから、私は情無くなつて、どうしたら可からうと思つたんでさね。ぢや私が悪かつたんだからあやまります。ねえ、狭山さん、ちよいと」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
小児こども一人犠牲にえにして、毒薬なんぞ装らないでも、坊主になってあやまんねえな。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いや、これはあやまった。……そりゃそうと、なぜ外へでて揚げないのだ」
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
おそらくはも一人べつに彼女というものがあって、専念それらの手紙や会見の申込みに一々気の毒そうな顔をして断りをいったり書いたり、あやまったり、悦んだりしていなければならないであろう。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
彼は、アンに対し、それを口に出して、あやまりたくて仕方がなかった。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「わたし惡うございました」と彼女は一度はあやまりはしたが
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
「違つたらあやまるが、お前さんは、お樂といやしないか」
「わかった。わかった。あやまる」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「何といわれても、伺候しこうを怠った罪は、親には不孝、女房には無情、申しわけもなし。かくの如く、あやまり入り奉る」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうなったらあやまるのほかはないので、由兵衛は早くあやまれと万力に注意して、自分も口を添えて詫びた。万力も幾たびか頭を下げて平謝りにあやまった。
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何かに気をとられたようなふうをして微笑ほほえんでいた。そのぼんやりしてることを人に注意されると、やさしくあやまるのだった。また時とすると自分のことを三人称で話した。