ねら)” の例文
ヘルマン・バアルが旧い文芸のねらい処としている、急劇で、豊富で、変化のある行為の緊張なんというものと、差別はないではないか。
あそび (新字新仮名) / 森鴎外(著)
此の選み出す辞句には見当違けんたうちがひもないと同時に、亦まぐれ当りもない。ねらひを定めて幻影の金的の只中を射通す名手の矢先きにも等しい。
谷崎潤一郎氏の作品 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
我軍のタンクを草むらの中からねらっている野砲があったので、一人の勇士がタンクを乗り捨てて手擲弾しゅてきだんでその野砲を退治してみたところが
兵士と女優 (新字新仮名) / 渡辺温オン・ワタナベ(著)
ある夏の事、御多分に洩れぬ幸堂得知かうだうとくち氏が夫人の不在るすねらつて無駄話に尻を腐らせてゐると、表を鰯売が通つた。幸堂氏は急に話をめた。
「偶然だなんて皆嘘なんです。私が停車場で省線電車を降りた時から、私の後をねらって来たんです。そして探偵だの刑事などと云って……」
偽刑事 (新字新仮名) / 川田功(著)
じりツとさををのばして、ねらつてるのに、頬白ほゝじろなんにもらないで、チ、チ、チツチツてツて、おもしろさうに、なにかいつてしやべつてました。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
家内うちればわたしそばばつかりねらふて、ほんに/\かゝつてなりませぬ、何故なぜ彼樣あんな御座ござりませうとひかけておもしのなみだむねのなかみなぎるやうに
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼は私を探偵だと思わず、彼と同じく金包をねらっているものと思込んでいたのでした。そこで彼は私を車外へ誘い出し山分けの相談を持ちかけました。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
幸徳秋水の家の前と後に巡査が二三人ずつ昼夜張番をしている。一時は天幕テントを張って、その中からねらっていた。秋水が外出すると、巡査が後を付ける。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただ、戸波博士の研究所がねらわれていること、研究所襲撃の手段として、坑道を掘り、地下から、爆破しようという計画のあるのを、知ることが出来たのです。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
勘次かんじ監督かんとくつぼみ成長せいちやうとゞめるひやゝかな空氣くうきで、さうしてこれねらふものを防遏ばうあつする堅固けんご牆壁しやうへきである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
と突掛けて来ますると、ねらたがわず奧州屋新助の脇腹へ合口を突き通すという一時いちじに手違いになりますお話でございます、一寸ちょっと一息継ぎましてあとを申上げましょう。
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
二人はさながら猫の鼠をねらうように、息を凝らし、足音を忍ばせてその音のする方に這い寄った。
月世界競争探検 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
ついでに加えて述べたきことは、与一よいちの場合にも彼がおうぎねらうあいだには、必ず彼の失敗を祈ったものがあったであろう。しかもそれは平家方へいけがたのみでなかったであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「見られよ、向こうの林の中に、あるいは傀儡師かいらいし売茶郎ばいさろう、念仏僧などに身をやつして、十数人の人影が此方こなたを眺めておろうがの。あれこそすなわち山賊ども、拙者をねらう敵なのじゃ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そうして空気銃を肩にあてがって、何にもいやしないのに、そこに小鳥でも見つけたかのように、一本の木のこずえねらって、引金を引いた。乾いた銃声があたりのしっとりとした沈黙を破った。
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「清水の坂のぼり行く日傘哉か。子規しきはやっぱり巧いところをねらったよ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
自己をねらう九人目の男がある事を知りつつ、その悠然落ち付き払っておる剛胆、傲岸、沈着、普通人の出来ない芸当で、すべてこれ歴々たる勝算あるもののごとき態度は、強力ごうりき、不屈、剛気、闊達
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
椽の下からあらわいでたる八百八狐はっぴゃくやぎつね付添つきそいおれかかとねらうから、此奴こやつたまらぬと迯出にげだうしろから諏訪法性すわほっしょうかぶとだか、あわ八升も入る紙袋かんぶくろだかをスポリとかぶせられ、方角さらに分らねばしきりと眼玉を溌々ぱちぱちしたらば
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
なんでもアメリカの森の中でジヤグアルが物をねらつてゐるのはこんな按排だらうと、わたしは思ひました。その時刻には散歩に出る人なんぞは殆無いのです。わたしは震えながら腰を掛けてゐました。
(新字旧仮名) / グスターフ・ウィード(著)
劫盜は旅人をねらふのみにて、牧者の家などへは來ることなしとぞ。食は葱、麺包パンなどなり。皆うまし。されど一間にのみ籠り居らんこと物憂きに堪へねば、媼は我を慰めんとて、戸の前に小溝を掘りたり。
ここなんぞはあいつ等のねらって来そうな所だ。
「姉の命は、誰かにねらわれて居るんです」
踊る美人像 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
小鳥をねらふ蛇の子の
枯草 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
明るくの入つた市街まちには、自分の頭をかばひ立てるやうにして、尻目に他人ひとの帽子をねらつてゐる人達がうようよしてゐた。
ねらってるのに、頬白は何にも知らないで、チ、チ、チッチッてッて、おもしろそうに、何かいってしゃべっていました。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家内うちに居れば私の傍ばつかりねらふて、ほんにほんに手が懸つて成ませぬ、何故なぜあんなで御座りませうと言ひかけて思ひ出しの涙むねの中にみなぎるやうに
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いや。夏が好くもないね。今時分はもやが一ぱい立ちめて、明りをねらって虫が飛んで来て為様しようがないからね。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼の仲間に私の探偵をどこかへおびき出させ、私に不安を感じさせて金包を改めさそうと云うのだ。そうしてその隙をねらって奪おうと云うのだろう。そのに乗るものか。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
これから新たに文壇に顔を出そうと機をねらっている人、もしくはすでに打って出た人のうちで、今までのものとは径路を同じゅうする事を好まない事がないとも限らない。
文壇の趨勢 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
の頭巾をズタ/\に突き破り、國俊の小脇差を持ち直してわが腹へ突立てようとする処へ、何時か忍び込んだ山田藤六が障子越しに、小三郎を突殺そうとねらっておりまするが
つけつねらいつしていましたが姿は一向見当りません。
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私は探偵に注意しようと思って、そっと彼の方を見ると、彼は相変らず頭をうしろの板に押つけていたが、眼をほっそり開けて、老人の方をねらっていた。彼も気がついているのだ!
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
想像は忽ちひるがへつて、医学博士磯貝きよし君の目が心に浮ぶ。若いやうな年寄つたやうな、蒼白あをじろしわのある顔から、細い鋭い目が、何か物をねらふやうな表情を以て、爛々らんらんとしてかゞやく。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ある日近侍きんじの小姓がゑさを呉れようとする時、隙をねらつて鸚哥は籠の外へ飛び出した。
惣兵衞は一歩退しりぞいてチャリ/\と受け止め、チャ/\/\と二三ごう合せ、少しの隙をねらって惣兵衞が庭へ飛び下り、パタ/\/\と駈けてまいり、生垣を飛び越えて土手の方へ逃げ出す。
無き余りの無分別に人のふところでもねらうやうにならば、恥は我が一代にとどまらず、重しといふとも身代は二の次、親兄弟に恥を見するな、貴様にいふとも甲斐かひは無けれど尋常なみなみならば山村の若旦那とて
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
幸徳秋水のいへまへうしろに巡査が二三人づゝ昼夜張番はりばんをしてゐる。一時は天幕てんとを張つて、其なかからねらつてゐた。秋水が外出すると、巡査があとを付ける。万一見失ひでもしやうものなら非常な事件になる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
南無三、同時に轟然一発、こうべねらって打出す短銃ピストル
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
変なところをねらってる様子は全く盲目に違いありませんから、お手討は余りお情ない……コレ謝まれ、全体手前が宜しくない、盲目滅法界に人さまのお身柄も分らんから無闇なことを申して
頭も尻尾しっぽもないような物だった。その頃は新聞に雑録というものがあった。朝野ちょうや新聞は成島柳北なるしまりゅうほく先生の雑録で売れたものだ。真面目な考証に洒落しゃれが交る。論の奇抜を心掛ける。句の警束をねらう。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あまりの無分別むふんべつひとふところでもねらうやうにならば、はぢが一だいにとゞまらず、おもしといふとも身代しんだいは二のつぎ親兄弟おやけうだいはぢするな、貴樣きさまにいふとも甲斐かひけれど尋常なみ/\ならば山村やまむら若旦那わかだんなとて
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
▲「私だってねらっているのさ、本当にあの座敷は延喜えんぎがいゝからねえ、瀬川さんだってあの座敷から身請されたのだし、今度の花里さんだって矢ッ張りなのだから、それに二人とも海軍の方だものねえ」