かうむ)” の例文
肩先を斬られたまゝ逃れ、隣家の庭前に監視してゐた、桑藩士本間某を斬り、黒川某に重傷をかうむらせ、馳せて河原町の藩邸に向つた。
そのうちに御馳走ごちそうがすむと、彼れの妻は立ちあがつて、彼女のかうむつた屈辱をおほやけにした。のみならず、熱烈に、夫にかう云つた。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
千の苦艱くげんもとよりしたるを、なかなかかかるゆたかなる信用と、かかるあたたか憐愍れんみんとをかうむらんは、羝羊ていようを得んとよりも彼は望まざりしなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この一口話の事をば、われ唯だ一の例として、かくつぶさにはしるしゝなり。これより後も、日としてこれに似たるはづかしめかうむらざることなかりき。
そして是がたかの自ら薦めた故であつたらしいと云つた。しかしたかの此の如き揶揄をかうむつたには、猶別に原因があるらしい。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
下敷したじきになつたひとたすすことは震災しんさい防止上ぼうしじようもつと大切たいせつなことである。なんとなれば震災しんさいかうむ對象物中たいしようぶつちゆう人命じんめいほど貴重きちようなものはないからである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
しばらくも安らかなることなし、一度ひとたび梟身けうしんを尽して、又あらたに梟身を得。つまびらかに諸の苦患をかうむりて、又尽くることなし。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
この點を突きとめさへすればもうお鳥との手切れ條件の一つなる治療條件は御免をかうむらうと云ふ下心があつた。
月夜つきよなんざ、つゆにもいろそまるやうに綺麗きれいです……おかげかうむつて、いゝ保養ほやうをしますのは、手前てまへども。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しかし太古たいこにおける日本にほん世態せたいけつしてこれがためだいなる慘害さんがいかうむらなかつたことは明瞭めいれうである。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
じんの崖上わづかに一条のささたのみてぢし所あり、或は左右両岸の大岩すであしみ、前面の危石まさに頭上にきたらんとする所あり、一行おおむね多少の負傷をかうむらざるはなし。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
「ところで、御子息數馬殿不慮の御災難をかうむられたとうけたまはつたが、御遺骸は?」
その他の自殺をはかつた者等が釋迦の彈呵だんかかうむつたことは記録に明らかである。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
既ち小石川柳町こいしかはやなぎちやう小流こながれの如き、本郷ほんがうなる本妙寺坂下ほんめうじさかした溝川みぞかはの如き、団子坂下だんござかしたから根津ねづに通ずる藍染川あゐそめがはの如き、かゝる溝川みぞかはながるゝ裏町は大雨たいうの降るをりと云へばかなら雨潦うれうの氾濫に災害をかうむる処である。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
自分じぶんおしずしなるものを一つつまんでたがぎてとてもへぬのでおめにしてさら辨當べんたうの一ぐうはしけてたがポロ/\めし病人びやうにん大毒だいどくさとり、これも御免ごめんかうむり、元來ぐわんらい小食せうしよく自分じぶん
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
その憚られ、畏れられし点を除きては、彼は他の憚られ、畏れられざる子よりも多く愛をかうむりき。生きてこそ争ひし父よ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しばらくも安らかなるなし、一度ひとたび梟身けうしんを尽して、又あらたに梟身をつまびらかに諸の苦患くげんかうむりて、又つくることなし。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
このやま近時きんじ淺間山あさまやま交代こうたい活動かつどうするかたむきをつてゐるが、降灰こうはひのために時々とき/″\災害さいがい桑園そうえんおよぼし、養蠶上ようさんじよう損害そんがいかうむらしめるので、土地とちひと迷惑めいわくがられてゐる。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
つき當つたところが豐平川で、それを札幌から豐平町へ渡す鐵橋は、昨年のおほ水——札幌も半ば浸水し、石狩川の沿岸はすべて大害をかうむつた——の時、大破損をした。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
それの歳多紀茝庭たきさいていの発会の日に、蘭軒の嫡子榛軒は酒をかうむつて人と争つた。柏軒はこれを聞いて、霊枢れいすう一巻を手にして兄の前に進み、諫めて云つた。人には気血動くの年がある。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
日本の女は、何よりも、不名誉をぢるものである。屈辱くつじよくかうむつたために自殺した女の話は、枚挙まいきよし難いといつてもよい。しもの物語は、かういふ事実を立証するに足るものである。——
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
某縣に於ける時代に、二人が共謀して校長排斥を企ててゐるといふ寃罪ゑんざいかうむつたこと。などを語つた間に、燗徳利は二三度自在鍵でつるした鐵瓶を出たり、這入つたりする。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
次に壽阿彌は微官とは云ひながら公儀の務をしてゐて、頻繁に劇場に出入し、俳優と親しく交り、種々の奇行があつても、かつとがめかうむつたことを聞かない。これも其類例が少からう。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
継起してつひをはることなし。昼は則ち日光をおそれ、又人および諸の強鳥を恐る。心しばらくも安らかなることなし。一度ひとたび梟身けうしんを尽して、又あらたに梟身を得、つまびらかに諸の患難をかうむりて、又尽くることなし。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
けれども、彼の妻は凌辱りようじよくかうむつたことはおほやけにしても、誰が凌辱を加へたかといふことは、公にしなかつた。そのために、凌辱を加へた貴族は、夫や客の騒いでゐるあひだにそつと露台の階段をくだつた。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
後に伊達安芸が重罪をかうむつたもの百二十人の名を挙げてゐるのを見ても、渡辺等の横暴を察することが出来る。其中で最も際立つて見えるのは、伊東釆女いとううねめが事と、伊達安芸が事とである。
椙原品 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
嘉永五年に池辺啓太いけべけいたが熊本で和蘭おらんだの砲術を教へた時、横井は門人をつて伝習させた。池辺は長崎の高島秋帆たかしましうはんの弟子で、高島が嫌疑をかうむつて江戸に召し寄せられた時、一しよに拘禁せられた男である。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
大阪は全国の生産物の融通分配を行つてゐる土地なので、どの地方に凶歉きようけんがあつても、すぐに大影響をかうむる。市内の賤民が飢饉に苦むのに、官吏や富豪が奢侈をほしいまゝにしてゐる。平八郎はそれをいきどほつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)