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しお
ふりがな文庫
“
萎
(
しお
)” の例文
散って
萎
(
しお
)
れる末の世のかなしみの気配をば、まだこればかりも見せぬ元禄時代の、さる年の晩春初夏に、この長物語ははじまります。
艶容万年若衆
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
お組の声はすっかり
萎
(
しお
)
れて居ります。お園と張合って、一寸も退けを取らなかったお組にしては、それは思いも寄らぬ
挫
(
くじ
)
けようです。
銭形平次捕物控:236 夕立の女
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
女らしいと云う点からも、美しい器量からも、私は到底彼女の競争者ではなく、月の前の星のように
果敢
(
はか
)
なく
萎
(
しお
)
れて了うのであった。
秘密
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
いつか散歩のついでに町の花屋で買って来たサイネリヤが、雑誌や手紙や原稿紙の散らばった
卓子
(
テイブル
)
の
隅
(
すみ
)
に、
侘
(
わび
)
しく
萎
(
しお
)
れかかっていた。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
確められて文三急に
萎
(
しお
)
れかけた……が、ふと気をかえて、「ヘ、ヘ、ヘ、御膳も召上らずに……今に
鍋焼饂飩
(
なべやきうどん
)
でも
喰
(
くい
)
たくなるだろう」
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
▼ もっと見る
樹
(
き
)
の揺れる音が風のように聞えて来た。月のない暗い花園の中を一人の年とった看護婦が憂鬱に歩いていた。彼は身も心も
萎
(
しお
)
れていた。
花園の思想
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
そういう彼女の打ち
萎
(
しお
)
れたような様子は私にはたまらないほどいじらしく見えた。
突然
(
とつぜん
)
、
後悔
(
こうかい
)
のようなもので私の胸は一ぱいになった。
美しい村
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
記者は玉子色の外套の
隠袖
(
かくし
)
へ両手を入れたまま、
反返
(
そりかえ
)
って笑った。やがて、すこし
萎
(
しお
)
れて、
前曲
(
まえこご
)
みに西の方を
覗
(
のぞ
)
くようにしながら
家:01 (上)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
菊の花は既に
萎
(
しお
)
れ
山茶花
(
さざんか
)
も大方は散って、曇った日の夕方など、急に吹起る風の音がいかにも
木枯
(
こがらし
)
らしく思われてくる頃である。
枇杷の花
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
乱れて咲いた欄干の
撓
(
たわわ
)
な枝と、初咲のまま
萎
(
しお
)
れんとする葉がくれの一輪を、
上下
(
うえした
)
に、中の青柳は雨を含んで、霞んだ
袂
(
たもと
)
を扇に伏せた。——
日本橋
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
去年の冬、袱紗包みを持ってたずねてきたときは、枯葉のように
萎
(
しお
)
れていたが、きょうは咲きほころびた春の花のように生々としていた。
あなたも私も
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
又正しく彼女を取り扱うことの出来ないものが、
仮初
(
かりそめ
)
にも彼女に近づけば、彼女は見る見るそのやさしい存在から
萎
(
しお
)
れて行く。
惜みなく愛は奪う
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
萎
(
しお
)
れた草花が水を吸い上げて生気を得たごとく、省作は新たなる血潮が全身にみなぎるを覚えて、命が確実になった心持ちがするのである。
春の潮
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
と熊の
頭
(
つむり
)
を撫でて暫く
有難涙
(
ありがたなみだ
)
にくれて居りますると、熊も聞分けてか、
悄然
(
しょうぜん
)
と
萎
(
しお
)
れ返って居りまする。お町は涙を払いながら
後の業平文治
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
そうして、その露にぬれた花がもう
萎
(
しお
)
れかかっているのを見たとき、なんとも言われない恐怖の戦慄が彼の全身をめぐった。
世界怪談名作集:08 ラッパチーニの娘 アウペパンの作から
(新字新仮名)
/
ナサニエル・ホーソーン
(著)
暗くじめじめした、かなり広い土間に、
茣蓙
(
ござ
)
を敷いた腰掛が並び、壁によせて、
萎
(
しお
)
れた菊や、
樒
(
しきみ
)
や、
阿迦桶
(
あかおけ
)
などが見える。
夕靄の中
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
その枕元には
萎
(
しお
)
れた秋草の花束と、二三冊の絵本と、
明日
(
あす
)
のおめざらしい西洋菓子が二つ、白紙に包んで置いてあった。
白菊
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
と言って、ぐんにゃりと
萎
(
しお
)
れたのは少しく意外で、お角がかえって力抜けがしました。そこで極めて
温和
(
おとな
)
しく、いったん抜いた刀をも
鞘
(
さや
)
へ納めて
大菩薩峠:17 黒業白業の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
そうしてその力が私にお前は何をする資格もない男だと
抑
(
おさ
)
え付けるようにいって聞かせます。すると私はその
一言
(
いちげん
)
で
直
(
すぐ
)
ぐたりと
萎
(
しお
)
れてしまいます。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
上方一と言われた女も、
手活
(
ていけ
)
の花として
眺
(
なが
)
めると、三日
経
(
た
)
てば
萎
(
しお
)
れる。いまじゃ、長屋の、かかになって、ひとつき
風呂
(
ふろ
)
へ行かなくても平気でいる。
新釈諸国噺
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
雪のような落花が散りかかるのを見上げて、
萎
(
しお
)
れた枝を少し手に折った大将は、
階段
(
きざはし
)
の中ほどへすわって休息をした。衛門督が続いて休みに来ながら
源氏物語:34 若菜(上)
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
「あなたこそ……」と、妻は打ち
萎
(
しお
)
れて「旅では、食べ物にも、お気をつけてくださいね。そして一日もおはやく」
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
少し
萎
(
しお
)
れかかって花弁の縁が褐色に
褪
(
あ
)
せているが、中部の枝には満開の生き生きした花が群がり、四月下旬の午後になったばかりの精悍な太陽の光線が
春:――二つの連作――
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
花立ての花もきょうはもう
萎
(
しお
)
れて、桔梗も女郎花も乾いた葉を垂れていた。弥三郎はじっとそれを見つめているうちに、彼の
睫毛
(
まつげ
)
はいつかうるんで来た。
半七捕物帳:05 お化け師匠
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
4 夜が更けて僕が眼覚めたとき、かたわらには腐敗しかかった売笑婦の肉体が
萎
(
しお
)
れた花のように残っていた。
戦争のファンタジイ
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
この数日間不安に湧き立った青春がふたたび元の位置にひきもどされて小さい生活の中に
萎
(
しお
)
れてゆくのをまざまざと見せつけられるような哀感に襲われた。
菎蒻
(新字新仮名)
/
尾崎士郎
(著)
お敏は頬の涙の
痕
(
あと
)
をそっと濡手拭で拭きながら、無言のまま悲しそうに頷きましたが、さて悄々根府川石から立上って、これも
萎
(
しお
)
れ切った新蔵と一しょに
妖婆
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
花は二三日で
萎
(
しお
)
れた。鉢の上には
袂屑
(
たもとくず
)
のような室内の
塵
(
ちり
)
が一面に
被
(
かぶ
)
さった。私は久しく目にも留めずにいた。
サフラン
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
心持
俯向
(
うつむ
)
いていらっしゃるお顔の
品
(
ひん
)
の好さ! しかし奥様がどことなく
萎
(
しお
)
れていらしって
恍惚
(
うっとり
)
なすった御様子は、トント
嬉
(
うれし
)
かった昔を忍ぶとでもいいそうで
忘れ形見
(新字新仮名)
/
若松賤子
(著)
見ると紳士の顔にもしたたか泥が付いて、恐ろしい
争闘
(
いさかい
)
でもした跡のよう、顔は
青褪
(
あおざ
)
めて、唇には血の気の色もない、俯向いてきまりが悪そうに
萎
(
しお
)
れている。
駅夫日記
(新字新仮名)
/
白柳秀湖
(著)
下田の金さん
宅
(
とこ
)
では、去年は
兄貴
(
あにき
)
が抽籤で
免
(
のが
)
れたが、今年は稲公が
彼
(
あの
)
体格
(
たいかく
)
で、砲兵にとられることになった。当人は
勇
(
いさ
)
んで居るが、
阿母
(
おふくろ
)
が今から
萎
(
しお
)
れて居る。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
彼は自分の姓名を非常に嫌うという奇癖の持主で、うっかりその名を呼ばれると時と場所の差別もなく真赤になって、あわや泣き出しそうに
萎
(
しお
)
れるのであった。
鬼涙村
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
女の
唇
(
くちびる
)
は
堅
(
かた
)
く結ばれ、その眼は重々しく静かに
据
(
すわ
)
り、その
姿勢
(
なり
)
はきっと正され、その面は深く沈める必死の勇気に
満
(
みた
)
されたり。男は
萎
(
しお
)
れきったる様子になりて
貧乏
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
皮肉変色
憔悴
(
やせ
)
萎
(
しお
)
れ黄ばんだので、仏
目蓮
(
もくれん
)
をして二竜を調伏せしめた(『根本説一切有部毘奈耶』四四)。
十二支考:03 田原藤太竜宮入りの話
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
ぼく達の自動車は、助手席の
処
(
ところ
)
にぼく、うしろに三番の沢村さん、二番の虎さんなんかが乗っていた。あなたはその日、朝からずうっと
萎
(
しお
)
れどおしのようでした。
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
花が
萎
(
しお
)
れていないのは、刈られてまだ間もないのであろう。虎杖やアカソも算を乱して倒れていた。
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
型の如く菊を抜いてその傍に番をしながら、もとの人になるのを待っていたが時間がたってから葉がますます
萎
(
しお
)
れてきた。馬はひどく
懼
(
おそ
)
れて、はじめて黄英に知らした。
黄英
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
書いたものもまた色も香も
艶
(
つや
)
も生気もない
萎
(
しお
)
れた花の
憐
(
あわ
)
れさを思わせるようなものばかりだった。
美妙斎美妙
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
「そうだ。」私は
萎
(
しお
)
れて答えた。何がそうだと答えたのか? 勿論両方の話し、即ち私が何うしても苛酷な事と、火事の方角が病院の近くである事の二つに対してである。
職工と微笑
(新字新仮名)
/
松永延造
(著)
王はそれから食事が次第に多くなって、日に日に
癒
(
なお
)
っていった。そして思いだしては枕の底を探して
彼
(
か
)
の梅の花を出した。花は
萎
(
しお
)
れていたけれどもまだ散っていなかった。
嬰寧
(新字新仮名)
/
蒲 松齢
(著)
阿園は言うべき語を知らず
手拭
(
てぬぐい
)
を顔にあて
俯向
(
うつむ
)
いてただよよと泣くのみ、勇蔵もうち
萎
(
しお
)
れて
悄然
(
しょうぜん
)
として面を伏したり、身を投げてよりすがる阿園が
頬
(
ほお
)
より落つる熱き涙は
空家
(新字新仮名)
/
宮崎湖処子
(著)
お神さんは、それで花束をこしらえる。なぜなら、この「ふるえ草」は、
萎
(
しお
)
れることがない。
ぶどう畑のぶどう作り
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
そしてその後すぐ
萎
(
しお
)
れていってしまったような歌は、実は次のような一群の歌であったのだ。
中世の文学伝統
(新字新仮名)
/
風巻景次郎
(著)
「わたし病気よ」と、
猫
(
ねこ
)
のようにやさしい声を出して、そうっと
萎
(
しお
)
れかけて見せた。私は
うつり香
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
吾平爺がその翌日、警察から釈放されてきたときには、荷車の上の野菜は残暑の
陽
(
ひ
)
に
灼
(
や
)
かれてすっかり
萎
(
しお
)
れていた。爺はしかし、それをそのまま捨ててしまう気にはなれなかった。
或る嬰児殺しの動機
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
詛言
(
のろいごと
)
を言つて、「この竹の葉の青いように、この竹の葉の
萎
(
しお
)
れるように、青くなつて萎れよ。またこの鹽の
盈
(
み
)
ちたり
乾
(
ひ
)
たりするように盈ち乾よ。またこの石の沈むように沈み伏せ」
古事記:03 現代語訳 古事記
(旧字新仮名)
/
太安万侶
、
稗田阿礼
(著)
一つは日射病のようなもので鶏冠が黒くなって
萎
(
しお
)
れて急に弱って半日位で
仆
(
たお
)
れますが何でも夏は平生鶏冠に注意して少しでも色が黒くなりかけたら
唐辛子
(
とうがらし
)
の粉を口へ割り込んで水を
食道楽:冬の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
一体
(
いったい
)
夏菊という花は、そう
中々
(
なかなか
)
萎
(
しお
)
れるものでない、それが、ものの二時間も
経
(
へ
)
ぬ
間
(
あいだ
)
にかかる
有様
(
ありさま
)
となったので、私も何だか一種いやな
心持
(
こころもち
)
がして、その日はそれなり
何処
(
どこ
)
へも出ず
過
(
すご
)
した
鬼無菊
(新字新仮名)
/
北村四海
(著)
スカートも、上衣も、ネクタイも、夏の頃は晴やかに微笑したものであっただろうが、今はすべてが灰色のうすら寒い
四辺
(
あたり
)
の色に対照すると、いやに寂しくうち
萎
(
しお
)
れて見えるのであった。
碧眼
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
私はその
萎
(
しお
)
れきった様子を見て、てっきり銀行の方がだめなのだと察した。
世間師
(新字新仮名)
/
小栗風葉
(著)
萎
常用漢字
中学
部首:⾋
11画
“萎”を含む語句
萎縮
萎靡
萎々
打萎
足萎
萎氣
濡萎
萎微
萎気
気萎
萎枯
萎縮腎
凋萎
萎黄病
萎靡凋落
萎靡因循
萎靡振
身萎
萎靡沈滞
萎靡沈衰
...