きたな)” の例文
侵寇の目的は、地球をその資源庫の一つとするにあり、殊に人類の家畜化というきたない欲望を有している。地球防衛軍は大苦戦に陥る。
予報省告示 (新字新仮名) / 海野十三(著)
きたなきアルピーエこゝにその巣を作れり、こは末凶なりとの悲報をもてトロイアびとをストロファーデより追へるものなり 一〇—一二
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
黄ばんだ竹の林、まだ枯々とした柿、すもも、その他眼にある木立の幹も枝も、皆な雨に濡れて、黒々ときたな寝恍顔ねぼけがおをしていない物は無い。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
美しく見せている自分たちのきたない生活の裏を、ちょっとでも他人に覗かれたのが、こんな小さい禿にも腹立たしかったのであろう。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
友は往手ゆくてを指ざしていふやう。かしこなるが我が懷かしききたなきイトリの小都會なり。汝は故里の我が居る町をいかなる處とかおもへる。
所が此奴こいつきたないとも臭いともいようのない女で、着物はボロ/\、髪はボウ/\、その髪にしらみがウヤ/\して居るのが見える。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
死して後までも威を残す! 将たるものの心掛けじゃ! ……今は所詮逃がれぬところ、きたなき振る舞い行のうて、敵に嘲けられ笑わるな!
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
りや大層たいそう大事だいじにしてあるな」醫者いしやきたな手拭てぬぐひをとつて勘次かんじひぢた。てつ火箸ひばしつたあとゆびごとくほのかにふくれてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ギリシヤの海を遊び場所とせずにきたない家鴨と混り、ある時は鵞鳥の仲間の如く自ら振舞つて居ると作者は自身の悲みを述べて居るのである。
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
だって女の人に眼がなかったとも、言えばいえるわよ、幾らきたない恰好していたって若さが物言うじゃないの。若い男ってどんな不恰好な顔を
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
窓に当る西日にしびは白い窓掛に遮られていたが、それでもへやの中を妙に明るくなしていた。そしてその明るみで室の中が一層狭苦しくきたなく見えた。
生あらば (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
イザナギの命は黄泉よみの國からお還りになつて、「わたしは隨分いやきたない國に行つたことだつた。わたしはみそぎをしようと思う」
第一日は何の気なしに、唯きたならしい人だぐらゐに思つて通り過ぎた。然しその男の姿は、次の日も同じ場所に見出された。
水と砂 (新字旧仮名) / 神西清(著)
泥まぶれのきたない姿をしていたが、その容貌きりょうは目立って美しいので、主人の鄭は自分の家へ引き取ってしょうにしようと思った。
きたない醜いものを見ると、平三は時としては癪に触つて叩き倒すかぶちつけるかしたい気がする、それと同じ心持が、この時お桐に対して起つた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
私もそれを眺めていたわけである、やがて印半纏しるしばんてんを着た男が何かガンガンとたたいて、さアこれより海女の飛込とびこみと号令した、するときたない女が二
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
「斯ういう処にいてかせぎに出るのかなあ!」と、私は、きたないような、浅間しいような気がして、暫時しばらく戸外そとに立ったまゝそっと内の様子を見ていた。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それから風呂へ入るとき、風呂桶のフチや洗桶やをよくよく気をつけ、きたならしいバチルスを目になど入れぬよう、本当に気をおつけになって下さい。
職員室には、十人ばかりの男女をとこをんな——何れもきたな扮装みなりをした百姓達が、物におびえた様にキヨロ/\してゐる尋常科の新入生を、一人づゝ伴れて来てゐた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
すこぶる唐突に、何の前後の関聯かんれんも無く「埋木」という小説の中の哀しい一行が、胸に浮かんだ。「恋とは」「美しき事を夢みて、きたなわざをするものぞ」
「あれ、まア」と、東北辯の押しつまつた口調で驚きあわてて、裾の端折はしよりをおろす。それで、義雄が第一にきたならしいと思つた白の腰卷きが隱れる。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
奈良朝になると、髪の毛をきたな佐保川さほがわ髑髏どくろに入れて、「まじもの」せる不逞ふていの者などあった。これは咒詛調伏じゅそちょうぶくで、厭魅えんみである、悪い意味のものだ。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
むこうの鰻屋でバタ/\と鰻を焼く音がすると、あゝれを食いたいものだと思うと、意地のきたない雲が出て来る、それを気が付けば元のようになるが
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
出雲松平家の茶道さどうに、岸玄知げんちといふ坊主が居た。ある時、松江の市街まちはづれをぶらついてゐると、きたなしやうの垣根に花を持つた梅の樹が目についた。
「洪を殺しても又洪が出来る。リュウなくしてもまた代りが出来る。まるできたないものにうじがわくようなものだ。昔から幾度そんなことを繰り返して来たか」
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
如何に野陣場でもこれはまた余りにきたないので驚いた。ここで高瀬への下り路を見出すのにまた一時間余りを費した。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
兵蔵は十年一日の如く、きたない狭い店の片隅で、ぶつりぶつりと蝋を煮て造り上げた大中小の蝋燭を別々の箱の中に納めて、赤、白との二種ふたいろを造っている。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
僕も相当、落ちぶれたおぼえはあるが、奈良原の落ちぶれようには負けた。アンマリきたないので上りかねているのを無理に引っぱり上げた奈良原は大喜びだ。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
由って在英中得も知れぬきたない店どもへ多く入りて鰻汁を命じ、注意してたが最早そんな事はせぬらしかった。
きたない眼鏡を鼻の先きに掛け、ひげも剃らず、頭髪を蓬々としていれば学者だといい、その上傲然として構えていれば、いよいよ以てエライ学者だというように
教育の目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
お春どんが来てからは女中部屋の押入に汚れ物が一杯たまるようになって、きたなくて仕様がない、自分ではどうしても洗わないので、私達が洗ってやろうと思って
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
従来のようなきたないことをおやりにならないように、これだけは御免を蒙る、いよいよそれをやるならば政府はみずから人民に、竹槍蓆旗に訴えよ、軍さを起せよ
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
その森を控えて、一軒の廃屋に近い農家が相変らず立ち、その前に一匹のきたない犬がうずくまっていた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
冬になれば頑固な石の暖炉シユミネへ今でも荒木あらきを投げ込むので何処どこを眺めても煤光すゝびかりきたなく光つてゐる中へ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「お邸内と申しても裏門の方は誠にきたなうございまして、御覧あそばすやうな所はございませんです」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
画なんてちっとも売れない画かきばかりの、こんなきたない小屋に、私もう半年の余も通っていてよ。よほどありがたく思っていいわけだわ。それを人の気も知らないで……
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
子供はみじめなきたない姿で、その頬には饑餓きがの色がただよい、その眼には恐怖の色が浮かんでいた。
かならずかのきたな予美よみの国にくことなれば、世の中に死ぬるほどかなしきことはなきものなり。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
それからまた向うから渡って来て、この橋を越して場末のきたない町を通り過ぎると、野原へ出る。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
巨万の富を蓄えたなら、第一こんなきたない家に入って居はしない。土地家屋などはどんな手続きで買うものか、それさえ知らない。此家だって自分の家では無い。借家である。
と言うのは、その話ってのが、そもそも私の過去に致命的な打撃を与えた、苦しい思い出だからなんです……さあ、このきたならしい手紙なんですが……どうぞ、ご覧下さい……
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「絵によく似ている。こんな所に住めば人間のきたない感情などは起こしようがないだろう」
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それにはS先生としてはあの位のことが何でもないことであることやもつと大人と云ふものはきたない心を沢山もつてゐることや自分でも心の中にはずつとそれよりも汚い悪いことを
労働に疲れ雨にうたれて渋を塗ったような見苦しい私の掌には、ランプの油煙と、機械油とが染み込んでいかにも見苦しい、こんなきたない手で私は高谷さんの絵葉書を持ったのか。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
彼はこうした場面を想像で頭の中に描いて見ると、どんなに金になっても、豚をほうることは厭だった。血まみれになって働くきたなさよりも、あの無邪気な生き物を殺すのが厭だった。
首を失った蜻蛉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
乞食らしいきたな扮装みなりではございません。銅版画どうばんえなんぞで見るような古風な着物を着ているのでございます。そしてそのじいっと坐っている様子の気味の悪い事ったらございません。
真夏の日の日盛りに下等な牛をつけてのろのろと行くきたない車や、年老いた乞食や、身なりの悪い下種女げすおんなの子をえる姿や、黒くきたない小さい板屋の雨に濡れた光景などをあげた。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
同じ金盥で下湯しもゆを使う。足を洗う。人がきたないと云うと、己の体は清潔だと云っている。湯をバケツに棄てる。水をその跡に取って手拭を洗う。水を棄てる。手拭を絞って金盥をく。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
「易州なら私の帰るところだ、きたない馬でかまわなければ、乗せて往ってあげよう」
老狐の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一人の青年がおおよそ五六十ヤードばかり離れた視界の内を通り過ぎる修道僧たちのきたならしい行列に敬意を表するために雨中にひざまずかなかったからといって、その青年の両手を切り取り