ろく)” の例文
旧字:祿
私の父は保持忠太夫ほじちゅうだゆうといって藩の奉行評定所の書役元締を勤めていた。席は寄合組で、おろくはそのころ二百石あまりだったと思う。
日本婦道記:桃の井戸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「遠くは近江おうみの佐々木が一族と聞いておりますなれど、室町殿滅亡後、母方の里へひそみました由で、吉川家のろくんでおりませぬ」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この役はろくもそう多くないし、位もそう高くない。しかし、諸司諸職に関係のないものはないくらいだから、きわめて権威がある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
自分も同じお公儀のろくをはむ者であるという見識を示して、堂々その禁を破り、堂々と官職姓名を名のって主人に面会を申し込みました。
源平二氏の争った頃には平家に仕えてろくんだが、もうこの時代から次第に衰え、宗家出雲氏の家系なども全く乱れて解らなくなった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
十万の浄土も荘厳しょうごんなにぞと尋ぬれば、みなみな黄金ずくめなり、孔子も老子も道をかたりひろめし中には、今日のろくを第一に述べられしなり。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
豊雄は元より願うところであるが、「親兄弟おやはらからに仕うる身の、おのが物とては爪髪そうはつの外なし、何をろくに迎えん便たよりもなければ」
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
貴人九二古語ふることかれこれわきまへ給ふに、つばらに答へたてまつるを、いといとでさせ給うて、九三かれろくとらせよとの給ふ。
ハテ品川しながは益田孝君ますだかうくんさ、一あたまが三じやくのびたといふがたちまふくろく益田君ますだくんと人のあたまにるとはじつ見上みあげたひとです、こと大茶人だいちやじん書巻しよくわんを愛してゐられます
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
子羔。しかし、もう無駄ですよ。かえって難に遭うこともないとは限らぬし。子路が声をらげて言う。孔家のろくむ身ではないか。何のために難を避ける?
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
だが、なぜそうならそうと訳を聞かせておいてから、手に懸けようとはしてくださらぬ。身分こそいやしけれ、わたしも浅野家のろくんだものの娘でござんす。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
物穀ぶっこく商人、さては、扶持ふち取りろく高とりのお武家衆のみが、遊蕩ゆうとうの、遊楽のと、のんきでいるのは、天地に済まないこと——広海屋は、幸い、豊作の上方、西国に
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
いまさら徳川のろくんで、その爪牙そうがとなるわけにはいかぬ、新撰隊そのものが、そういうふうに変化した以上は、我々の隊に留まるべき大義名分は消滅したのだから
「おれのひとりごとを聞いて、お前のほうでもどってきたのではないか。天知る地知る人知る……両刀を帯して徳川のろくむ者が、白昼追い落としを働くとは驚いたな」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
内侍所ないしどころに召されて、ろくおもきものにてそうろうにと申したりければ、とても人数ひとかずなれば、ただ舞はせよとおおせ下されければ、静が舞ひたりけるに、しんむしやうの曲と言ふ白拍子しらびょうしを、——
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
筆者の祖先は代々黒田藩のろくんでいた者だから黒田様の事はあまり云いたくない。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今こそ狩人になっているが、おれも昔は武家のろくんだ者、今度の狼はどうでも我手で仕留めねばならぬと、日頃から云い暮らしていられたから、きょうも山奥へ踏み込んで……。
人狼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
が、筋は、——女の名はおろく——武家の娘で本当はろくと書くのだが——、少女時代にさらわれて道中胡麻の蠅の手先になり、ついうかうかと娘盛りの二十歳はたちを越してしまったというのです。
刀を挿したくば出でて仕えよという命令を受けたのであるから、ここに一門相談の上、温厚なる総領は家に残り、活気のある二三男は奉公をして、ろくを稼いだということになったのである。
家の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それはあの方が何時になくいろいろとあの子の御面倒を見て下さって、今度の大嘗会だいじょうえには何かろくを給わらせよう、それから元服もさせようなどと、おっしゃり出しているのでも分かるのだった。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
芸術倶楽部の一室に、九曜の星の定紋のついた陣笠がおいてあった。幕府の倒壊と共に主とろくに離れた亡父も江戸に出て町人になったが、れぬ士族の商法に財産も空しくして故山にえった。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
第七 窖蔵こうぞうノ氷雪夏月鳥魚諸肉ノ敗餒はいだいヲ防ギ水漿すいしょうヲ冷ヤシテ収儲しゅうちょときクコトヲ得イハユル氷雪冬時コレヲ蔵シ夏時コレヲ開キ食肉ノろく喪祭賓客用ヒザルコト無シコレまた輔相調爕ちょうしょうノ一事トコレナリ
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
さむらいたちが、ろくを金にかえてもらった時分には、黄金の洪水がこの廓にも流れこんで、その近くにある山のうえに、すばらしい劇場が立ったり、ふもとにお茶屋ができたりして、絃歌げんかの声が絶えなかった。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
入っては、従四位上少将、高家こうけの筆頭、でてはすなわち一代の名君、ろくわずかに四千二百石ではあっても、江戸城内における彼の権勢と、領地における実収入は優に四五万石の大名を凌駕りょうがしていた。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
日頃は名もなきともがらといわれていたのが、血を以てする奉公の一日には、ろくへだてにも官位の高さにも劣らぬことを無言で示した。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ろくは少ないが、いわゆるお庭番と称された江戸幕府独特の密偵隊みっていたい同様、役目がなかなかに重大な役目であるから、いずれも心きいた者ばかり。
それにしても私や常陸様など縁も由縁ゆかりもない人達が、花村様からろくいただき、一緒に仕官みやづかえ致そうなどとは、何んという不思議でございましょう。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
が、その甲斐あって、慶応三年という頃になると、長男源介は、すでに二十歳に達してろく十九石をむ一人前の武士となり、長女アサも十八歳の娘盛りになった。
御萩と七種粥 (新字新仮名) / 河上肇(著)
一一四やがての御こたへもせぬは、親兄に仕ふる身の、おのが物とては爪髪つめかみの外なし。何を一一五ろくに迎へまゐらせん便もなければ、身の一一六徳なきをくゆるばかりなり。
それらの人たちはまた、閲歴も同じくはないし、旧幕時代の役の位もちがい、ろくも多かったものとすくなかったものとあるが、大きな瓦解がかいの悲惨に直面したことは似ていた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
れはうなくてはならない、孝助殿の思うにはなんぼ自分が怜悧りこうでも器量があるにしたところが、すけなくもろくのある所へ養子にくるのだから土産みやげがなくてはおかしいと云うので
内侍所ないしどころに召されて、ろくおもきものにて候にと申したりければ、とても人数ひとかずなれば、ただ舞わせよと仰せ下されければ、静が舞いたりけるに、しんむしょうの曲という白拍子を、——
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
主翁ていしゅ、わしの腰に何があるか見てくれ、わしも天下の御連枝ごれんし紀州侯きしゅうこうろくをはんでいるものじゃ、天狗や木精がいると云うて、武士が一度云いだしたことが、あと退かれるか、お前が恐ければ
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
源之丞という人は自分のために死んだんじゃあない、あの親御さんはろく
金五十両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それを撃ち殺されたとあっては、不問に付しておくわけにゆかない。ろくんでいる人間が二名もこの犬の係としてついているのでもある。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今はろくに離れまして、この近くに浪人住まいをいたしておりますが、家内の者同様に、ときおり屋敷へも参り、よく気心もわかった善人でおじゃりますゆえ
あの寒い橋のたもとでこれを売って其の日を送るまでさ、旧時むかしは少々たりともろくんだものが、時節とは云いながら、残念に心得て居ります、処へ君にめぐり逢っておおきに力を得た
驚いたのは伊集院、「何を云われる、不届き千万! ここら辺りの地廻りに、負けたとあっては面目が立たぬ、引いたが最後、太郎丸殿に申し、貴殿方のろくを引っ剥ぎますぞ!」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
陸奧むつの国蒲生氏郷がまふうぢさとの家に、岡左内といふ武士もののふあり。ろくおもく、ほまれたかく、丈夫ますらをの名を関の東にふるふ。此のいと偏固かたはなる事あり。富貴をねがふ心、常の武扁ぶへんにひとしからず。
八円じゃ高くない、ろく盗人とはいわれない、まことにりっぱな八円様だ
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
およそ安政、万延のころに井伊大老を手本とし、その人の家の子郎党として出世した諸有司の多くは政治の舞台から退却し始めた。あるものはほう一万石を削られ、あるものはろく二千石を削られた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「この男の将来では、まあ百貫のろくでも取られたら関のやま。生涯、妻に不幸な目は見せぬ、などと云いおるが疑わしい」
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
隠宅というとふた間か三間の小さな家にきこえるが、法眼ほうげんといえば位は最上、ろくは百五十石、はぶりをきかした大奥仕えのお鍼医はりいの未亡人がこの世を忍ぶ住まいです。
俺は俺の取柄をもって、妻は妻の取柄をもって、ろくを得て命をつなごうと。……妻は諸大名のめかけとなり、俺は諸大名の奥方や、側室そばめに体をまかせることにした。そうしてこれは成功した。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
上屋敷は、八重洲河岸やえすがしの川ぞいにある。ろくは四万石、そして、彼はまだ若かった。時勢の新人で、俊才で、未来の老中をもって嘱目しょくもくされていた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はっ。下手人はやはり生駒家がお取りつぶしになるまでろくをはんでいたやつにござりまするぞ」
武家方のろくむかして、生存しなければならなかったのであるが、あの夜幸い館にいずに、桂子のもとへ来ていたので、そのどちらの身の上ともならず、こうして桂子の一党として
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ひどいもんだな今の役署は。いやおれも官のろくんでいるその中の一人だが、こうまで腐ッているとは思わなかった」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同じお上のろくをはむ仲間どうしにそんな不了見者はあってはならないはずでしたが、やはり人の心は一重裏をのぞくと、まことに外面如菩薩内心如夜叉げめんにょぼさつないしんにょやしゃであるとみえまして
上州甘楽郡かんらぐん小幡こはたの城主、織田美濃守信邦のぶくに様と申せば、ろくはわずかに二万石ながら、北畠内府常真きたばたけないふつねさね様のお子、兵部大輔信良ひょうぶだいすけのぶよし様の後胤こういん、織田一統の貴族として、国持ち城持ちのお身柄でもないのに
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)