祇園ぎおん)” の例文
祇園ぎおん清水きよみず知恩院ちおんいん金閣寺きんかくじ拝見がいやなら西陣にしじんへ行って、帯か三まいがさねでも見立てるさ。どうだ、あいた口に牡丹餅ぼたもちよりうまい話だろう。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
お米さんにまけない美人をと言って、若主人は、祇園ぎおん芸妓げいしゃをひかして女房にしていたそうでありますが、それも亡くなりました。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浜の女の前掛が四幅も六幅もあるのをいぶかる者も、やはり日本人が奈良朝から、祇園ぎおんの仲居のごとくであったと思う輩で話にならぬ。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
祇園ぎおんの夜桜といふやうな景色を画いた麁画の上に、前にいふた「公達に狐化けたり」の句を賛として書くなればそれは面白いであらう。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そこの専用らしい橋に立って、たそがれを忘れてたたずむ。六甲、摩耶などの山つづきである。麓に、祇園ぎおん神社があるわけもうなずかれる。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寺町では寺に降り、三条では橋に降り、祇園ぎおんでは桜に降り、金閣寺では松に降る。宿の二階では甲野さんと宗近君に降っている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひととせ上方見物に来て祇園ぎおんの茶屋で舞妓まいこの舞いを見た折のこと、久しぶりに又その唄を聞くことが出来ていいしれぬなつかしさを覚えた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
すなわち灰屋はいや三郎兵衛に身受けされた二代目芳野の頃を全盛の時とすれば、祇園ぎおんの頭を持ち上げた時が、ようよう島原の押されて行く時であろう。
今やすでに、現代の若者が祇園ぎおん舞妓まいこ数名を連れて歩いているのを見てさえ、忠臣蔵の舞台へ会社員が迷い込んだ位の情ない不調和さを私は感じるのである。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
親鸞 祇園ぎおん清水きよみず知恩院ちおんいん嵐山あらしやまの紅葉ももう色づきはじめましょう。なんなら案内をさせてあげますよ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
しかしいまだかつて京都祇園ぎおんの名桜「枝垂桜しだれざくら」にも増して美しいものを見た覚えはない。数年来は春になれば必ず見ているが、見れば見るほど限りもなく美しい。
祇園の枝垂桜 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
祇園ぎおん町に美声と智謀を謳われる身分となるのは、一面前出宍戸九郎兵衛、周布政之助すふまさのすけ桂小五郎かつらこごろうといった一連の近代的政策力をもつ建設派新官僚の支持によるが
志士と経済 (新字新仮名) / 服部之総(著)
四、五年前に京都から来て内幸町の貞奴の家へ草鞋わらじをぬいだ、祇園ぎおんのある老妓はこう言ったことがある。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
僕は祇園ぎおん舞妓まいこいのししだとウッカリ答えてしまったのだが——まったくウッカリ答えたのである。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
京都の遊里として名高いのは島原ですが、島原は三代将軍家光の時分に出来、別に祇園ぎおん町の茶屋というのが丁度此の時分に出来て、モダンな遊里として市中に噂が高かった。
茶屋知らず物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その当時、京の土地で公認の色町と認められているのは六条柳町やなぎちょうの遊女屋ばかりで、その他の祇園ぎおん、西石垣、縄手、五条坂、北野のたぐいは、すべて無免許の隠し売女ばいじょであった。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
島原しまばら祇園ぎおんの花見のえんも、苦肉の計に耽っている彼には、苦しかったのに相違ない。……
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
京の祇園ぎおんから呼びよせただらりの帯の舞い子が四、五人、柳橋の江戸まえのねえさんたちが四、五人、西洋道化師に扮装ふんそうした幇間ほうかんが四、五人、キャバレーの盛装美人が七、八人
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
祇園ぎおんで遊んでいた大石クラノスケの故智にならって、世間の眼をくらますためだろうか。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
はなしかの柳家なにがしらとお成道なりみちなる祇園ぎおん演芸場へ出演せしが席への途次みちすがら今年ことしの干支なる羊或は雪達磨の形せる狸に破れ傘あしらひたるなど、いとおほいなる雪人形をみいでたり。
滝野川貧寒 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
京都きょうとった時分にもあった、四年ばかり前だったが、冬の事で、ちらちら小雪が降っていた真暗まっくらな晩だ、夜、祇園ぎおん中村楼なかむらろうで宴会があって、もう茶屋を出たのが十二時すぎだった
狸問答 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
和尚さんの行った時は、ちょうど四月の休暇のころで、祇園ぎおん嵐山あらしやまの桜はさかりであった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
神田明神は祇園ぎおん三社、その牛頭ごず天王祭のお神輿みこしが、今日は南伝馬町の旅所から還御になろうという日の朝まだき、秋元但馬守あきもとたじまのかみの下屋敷で徹宵酒肴てっしょうしゅこうの馳走に預かった合点長屋の釘抜藤吉は
姉様あねさまこれほどの御病気、殊更ことさら御幼少おちいさいのもあるを他人任せにして置きまして祇園ぎおん清水きよみず金銀閣見たりとて何の面白かるべき、わたしこれより御傍おそばさらず御看病致しましょとえば七蔵つらふくらかし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そのうちに、花が咲いたと云う消息が、都の人々の心を騒がし始めた。祇園ぎおん清水きよみず東山ひがしやま一帯の花がず開く、嵯峨さが北山きたやまの花がこれに続く。こうして都の春は、愈々いよいよ爛熟らんじゅくの色をすのであった。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
京都の祇園ぎおん祭、大阪の天満祭、江戸の山王祭、これを日本の三大祭という。
小心な律義者りちぎもので、病毒に感染することをおそれたのと遊興費がしくて、宮川町へも祇園ぎおんへも行ったことがないというくらいだから、まして教師の分際で競馬遊びなぞ出来るような男ではなかった
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
彼が十歳のとき甘木の祇園ぎおんの縁日に買い来しものなり、雨に湿みて色変りところどころ虫いたる中折半紙に、御家流おいえりゅう文字を書きたるは、とらの年の吉書の手本、台所のゆがめる窓よりぎ来たれる
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
従来、祇園ぎおんの社も牛頭ごず天王と呼ばれ、八幡宮はちまんぐうも大菩薩と称され、大社小祠しょうしは事実上仏教の一付属たるに過ぎなかったが、天海僧正てんかいそうじょう以来の僧侶の勢力も神仏混淆こんこう禁止令によって根からくつがえされたのである。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と三輪さんも魂はもう祇園ぎおんの空へ飛んでいる。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
祇園ぎおん左阿弥さあみの晩句会に臨む。
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
祇園ぎおん祭が、来た。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
祇園ぎおんの女御
まさか今さら祇園ぎおんや銀閣寺へひっ張り廻しはしませんから安心していらっしゃいともいうのだ。こちらも信頼しないわけでは万々ない。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも著者なかま、私の友だち、境辻三によって話された、この年ごろの女というのは、祇園ぎおん名妓めいぎだそうである。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今やすでに、現代の若者が祇園ぎおん舞妓まいこ数名を連れて歩いているのを見てさえ、忠臣蔵の舞台へ会社員が迷い込んだ位の情ない不調和さを私は感じるのである。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
祇園ぎおんから八坂やさかの塔の眠れるように、清水きよみずより大谷へ、けむりとも霧ともつかぬ柔らかな夜の水蒸気が、ふうわりと棚曳たなびいて、天上の美人が甘い眠りに落ちて行くような気持に
四月は京都のもっともたのしい季節で、祇園ぎおんの桜も咲き、都踊りも始まります。あなたも一度は京にお越しなされませ。天香さんにもお絹さんにもお引きあわせ申します。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
京都では孤堂こどう先生の世話になった。先生からかすりの着物をこしらえて貰った。年に二十円の月謝も出して貰った。書物も時々教わった。祇園ぎおんの桜をぐるぐるまわる事を知った。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
南禅寺の瓢亭ひょうていで早めに夜食をしたため、これも毎年欠かしたことのない都踊を見物してから帰りに祇園ぎおんの夜桜を見、その晩は麩屋町ふやちょうの旅館に泊って、明くる日嵯峨さがから嵐山あらしやまへ行き
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
京都祇園ぎおんの歌舞の世界は、美しいにはちがいないが、お人形式の色彩だったから、お雪はあんまり明澄すぎる自然に打たれると、かえって、めているのかうつつかわからない気がして
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
武塔天神は今の京都の八坂神社、俗に祇園ぎおんさんという疫病えきびょう大神おおかみであったという。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
学生時代に、友人に連れられて祇園ぎおんのお茶屋に行ったときなど、彼はそこに来た二十四五になる美しい名妓めいぎから、一目惚れされた。彼女は、彼を追って階下へ降りると、彼の耳にささやいた。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
顔の色を林間の紅葉もみじに争いて酒に暖めらるゝ風流の仲間にもらず、硝子ガラス越しの雪見に昆布こんぶ蒲団ふとんにしての湯豆腐をすいがる徒党にも加わらねば、まして島原しまばら祇園ぎおん艶色えんしょくには横眼よこめつかトつせず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
祇園ぎおんの八坂のやしろの東南のあたりに後白河法皇の寵姫が隠れていた。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
今川焼の隣は手品の種明たねあかし、行灯あんどんの中がぐるぐる廻るのは走馬灯まわりあんどで、虫売の屋台の赤い行灯にも鈴虫、松虫、くつわ虫の絵が描かれ、虫売りの隣の蜜垂みたらし屋では蜜を掛けた祇園ぎおんだんごを売っており
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
十三日の祇園ぎおん
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
院のお住居は、三条西ノ洞院とういんにあったが、そこからおりおり——きまって夜、加茂をわたって、祇園ぎおんまで、おしのびになった。
明治の清少せいしょうといひ、女西鶴さいかくといひ、祇園ぎおん百合ゆりがおもかげをしたふとさけび小万茶屋がむかしをうたふもあめり、何事ぞや身は小官吏の乙娘おとむすめに生まれて手芸つたはらず文学に縁とほく
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
所が此小坊主がどうしたとか、こうしたとか云うよりも祇園ぎおんの茶屋で歌をうたったり、酒を飲んだり、仲居なかい前垂まえだれを掛けて居たり、舞子が京都風に帯を結んで居たりするのが眼につく。
高浜虚子著『鶏頭』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)