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硯
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すずり
ふりがな文庫
“
硯
(
すずり
)” の例文
そうしてそのあいだに、食卓岩の上に一枚の板を置き、筆や
硯
(
すずり
)
や、紙や、それから叔父の遺品をとりひろげて、自分の覚書をとった。
山彦乙女
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
硯
(
すずり
)
の水が
凍
(
こお
)
った時に、酒をそそいでその水をとかしたので、それから酒を硯水というなどと、ありもしない
故事
(
こじ
)
を引用した者もある。
母の手毬歌
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
建礼門院は、主上の御
入水
(
じゅすい
)
を見届けると、今はこれまでと覚悟して、
硯
(
すずり
)
と
温石
(
おんじゃく
)
を左右の懐に入れると、そのまま海に身を躍らせた。
現代語訳 平家物語:11 第十一巻
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
この人はかなりのインテリらしく、むつかしい本が幾十冊と、机の上には、よい紙、よい墨、よい筆、よい
硯
(
すずり
)
などを取揃えてあります。
銭形平次捕物控:098 紅筆願文
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
と急がわしく
硯
(
すずり
)
を引き寄せ、手早く
認
(
したた
)
めたる電信三通、
婢
(
おんな
)
を呼び立ててすぐにと
鞭打
(
むちう
)
たぬばかりに追いやり、
煙管
(
きせる
)
も取らず茶も飲まず
書記官
(新字新仮名)
/
川上眉山
(著)
▼ もっと見る
劉は太守の前にある筆や
硯
(
すずり
)
を借りて、なにかの
御符
(
おふだ
)
をかいた。そうして、机を一つ叩くと、忽ちそこへ五、六人の鬼があらわれた。
中国怪奇小説集:03 捜神記(六朝)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
きょうも僧正は、何か、世間への悪態を絵筆にいわせて描いていたが、途中、客があって、
反古
(
ほご
)
も
硯
(
すずり
)
も、そっち
退
(
の
)
けになっていた。
新・平家物語:02 ちげぐさの巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
今日のうちに昨日の手紙の返事をすら自分は送ることができなかったのであると思って、何でもないふうに
硯
(
すずり
)
の墨をすりながら
源氏物語:39 夕霧一
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
その翌日になると、果して鶴寿堂が、原本はもとより、紙も、墨も、筆も、
硯
(
すずり
)
まで整えてお雪ちゃんのところへ持って来ました。
大菩薩峠:32 弁信の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
私は先生遺愛の
硯
(
すずり
)
を乞い受け、今でも坐右に置いている。また大学で同じ植物学を専攻している中村浩君は先生の次男である。
牧野富太郎自叙伝:01 第一部 牧野富太郎自叙伝
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
例えば、
硯
(
すずり
)
箱をアタリ箱といい、すりこぎをアタリギといい、すりばちをアタリバチといい、
鯣
(
するめ
)
をアタリメというの類である。
迷信と宗教
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
誰かが大字でも書くと
硯
(
すずり
)
の墨はすぐ無くなるので、あかまんやの女将までが、墨磨りだけにでも一人前の役割を
有
(
も
)
っていた。
御萩と七種粥
(新字新仮名)
/
河上肇
(著)
役人溜りでは、
夜詰
(
よづめ
)
の同心がちょうど手紙を書きだしたところで、
巻紙
(
まきがみ
)
に「
拝啓
(
はいけい
)
、
陳者
(
のぶれば
)
……」と書きかけ、その
硯
(
すずり
)
の水もまだ乾いていない……
顎十郎捕物帳:13 遠島船
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
白木
(
しらき
)
の
桐
(
きり
)
の机から、その上に掛けてある赤い
毛氈
(
もうせん
)
、古い
硯
(
すずり
)
までが待っているような、その自分の居間の畳の上に、彼は長々と足腰を延ばした。
夜明け前:03 第二部上
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
しかし郵便を出してくれると聞いて、自分も起き直って、ようよう
硯
(
すずり
)
など取り出し、東京へやる電報を手紙の中へ封じてある人に頼んでやった。
病
(新字新仮名)
/
正岡子規
(著)
なるほどフライパンの上でラードを磨るような手触りとは、こういうのを言うのだと感心した。墨は
軟
(
やわらか
)
くしかも
硯
(
すずり
)
の
面
(
おもて
)
に吸いつくように動いた。
南画を描く話
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
武太夫が出て往くと、権兵衛は一枚の半紙を取って筆を走らせ、それを封筒に容れて表に
津寺方丈
(
つでらほうじょう
)
御房
(
ごぼう
)
と書き、そして、それを
硯
(
すずり
)
の下へ敷いた。
海神に祈る
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
出来
(
しゅったい
)
の上で、と辞して
肯
(
がえん
)
ぜぬのを、平にと納めさすと、きちょうめんに、
硯
(
すずり
)
に直って、ごしごしと墨をあたって、席書をするように、受取を——
夫人利生記
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
私は座敷に落付くや否や
其処
(
そこ
)
の
硯
(
すずり
)
を取り寄せて一本の手紙を書いた。それは少し以前から此の地に来ているはずの漱石氏に
宛
(
あ
)
てたものであった。
漱石氏と私
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
眺めまわすと、カラカラに、墨のかすがこびりついた
硯
(
すずり
)
と、ちび筆がはいっている木箱が棚に載っているのが目についた。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
御形見の
硯
(
すずり
)
に何かお文のようなものを押し巻いて入れて、それからまた黙って出て往かれたようだったが、私はそれをすら見ようともせずにいた。
かげろうの日記
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
「諄うのうてどうしょうぞ。月次総登城とあらば、諸侯に対馬の動かぬ決心告げるに
丁度
(
ちょうど
)
よい都合じゃ——
硯
(
すずり
)
を持てい」
老中の眼鏡
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
幸子はふと、姉の取り出した箱の中から
端渓
(
たんけい
)
の
硯
(
すずり
)
が現れたのを見ると、父がそれを買わされた時の情景を思い浮かべた。
細雪:01 上巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
「あれがお父さんの性分なのさ。何しろお父さんはあたしにさえ『この
硯
(
すずり
)
はどうだ?』などと言う人なんだからね。」
玄鶴山房
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
「こんな所にはいっていたのか」と思いながら、自分は茶をのんでしばらく座敷を見回していたが、やがて
硯
(
すずり
)
を借りて、重吉の所へやる手紙を書いた。
手紙
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
と、急に生きかえったようにはきはきなって、上等のシナ墨を
眼
(
がん
)
の三つまではいったまんまるい
硯
(
すずり
)
にすりおろした。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
そこには、
硯
(
すずり
)
や色々の
壜
(
びん
)
が入っておりましたが、そのうち特に俊夫君の興味をひいたものがありました。それはビタミンAという薬剤の入った壜でした。
自殺か他殺か
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
唯継は近頃彼の
専
(
もつぱ
)
ら手習すと聞きて、その善き
行
(
おこなひ
)
を感ずる
余
(
あまり
)
に、良き墨、良き筆、良き
硯
(
すずり
)
、良き手本まで自ら求め来ては、この
難有
(
ありがた
)
き心掛の妻に
遣
(
おく
)
りぬ。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
その祖母は、かけ
硯
(
すずり
)
のひき出しから横とじの帖面を出しては、かたまった筆のさきをかんで、しよゆ一升、とふ二丁と小づかい帖をつけているひとだった。
道標
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
坐舗の
一隅
(
いちぐう
)
を顧みると古びた机が一脚
据
(
す
)
え付けてあッて、筆、ペン、
楊枝
(
ようじ
)
などを
掴挿
(
つかみざ
)
しにした筆立一個に、
歯磨
(
はみがき
)
の
函
(
はこ
)
と肩を
比
(
なら
)
べた
赤間
(
あかま
)
の
硯
(
すずり
)
が一面載せてある。
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
墨を
摺
(
す
)
って、細筆を幾たび
濡
(
ぬ
)
らしても、筆さきも
硯
(
すずり
)
の岡も、
乾
(
かわ
)
いて、墨がピカピカ光ってしまうだけだった。
田沢稲船
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
明
(
あけ
)
ぬれば月は空に
還
(
かへ
)
りて
名残
(
なごり
)
もとゞめぬを、
硯
(
すずり
)
はいかさまに
成
(
なり
)
ぬらん、
夜
(
よ
)
な/\影や
待
(
まち
)
とるらんと
憐
(
あはれ
)
なり。
月の夜
(新字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
「今日はよきものを持ち来ぬ」とて寡婦の前に卸したり、その黒染めの古板と欠けたる両脚は、牧家数代の古机にして、角潰れ海に
蜘蛛
(
くも
)
の網かけたる
荒砥
(
あらと
)
の
硯
(
すずり
)
は
空家
(新字新仮名)
/
宮崎湖処子
(著)
安積
(
あさか
)
の
爺
(
じい
)
、そち大急ぎで、林念寺前の上屋敷へこの旨を伝えに行ってくれぬか。それから、大八、
硯
(
すずり
)
と
墨
(
すみ
)
を持ってまいれ。もう一度、峰丹波に笹の便りをやるのだ
丹下左膳:03 日光の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
雷門から円タクを
傭
(
やと
)
って家に帰ると、いつものように顔を洗い髪を掻直した後、すぐさま
硯
(
すずり
)
の
傍
(
そば
)
の
香炉
(
こうろ
)
に香を焚いた。そして中絶した草稿の末節をよみ返して見る。
濹東綺譚
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
男の子全部——六人の三つの机の上にはキチンと、
硯
(
すずり
)
と筆と習字手本と草紙とが置かれたまゝです。
先生と生徒
(新字旧仮名)
/
槙本楠郎
(著)
「そら、これでしょう。」すぐ眼の前で、
可愛
(
かあい
)
い子どもの声がした。象が頭を上げて見ると、赤い着物の童子が立って、
硯
(
すずり
)
と紙を
捧
(
ささ
)
げていた。象は早速手紙を書いた。
オツベルと象
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
硯
(
すずり
)
と巻き紙とを呼んで、僕は飲みながら、先輩の某氏に当てて、金の工面を頼む手紙を書いた。
耽溺
(新字新仮名)
/
岩野泡鳴
(著)
筆、紙、
硯
(
すずり
)
、墨を文房の四友といいますが、これも吾々の生活に交ることの深いものだけに、それぞれに技を示します。中でも筆と墨とにおいて京都は今も客を引きます。
手仕事の日本
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
硯
(
すずり
)
の水を筆にしめして、掌の文字を洗ってやると、雪上の蔭間を
縫
(
ぬ
)
い、闇の奥へ消え去った。
閑山
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
書と云ふものこの外になし。新作の詩数篇、我ならでは読まれぬ様に書き散らしたるが、その
儘
(
まま
)
浄書もせずにあり。
硯
(
すずり
)
は
赤間石
(
あかまがせき
)
のチヨイとしたるのなれど、墨は
丁子
(
ちやうじ
)
墨なり。
閑天地
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
壁に「菊軒」の額を懸けた四畳半の書斎に納まって、今しも
硯
(
すずり
)
に水を移したところだった。
曲亭馬琴
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
五色の色紙の短冊のついた笹は見る見る流れに
嚥
(
の
)
まれて行く。つい一昨日この川で
硯
(
すずり
)
を洗って、「七夕の天の川」とか、「彦星と織姫さま」とか一生懸命書いたばかりなのに。
光り合ういのち
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
私とその友だちとが交互に隠し役に廻り、たとえば一枚の名刺を、机の上のどこかへ隠すのである。机の上には本や
硯
(
すずり
)
や煙草や灰皿やその他雑多の品がゴタゴタと並んでいる。
探偵小説の「謎」
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
こう前置をして、小平太は指先で畳の上に図を描いてみせながら、はいって行った時から出てくるまでの
顛末
(
てんまつ
)
を仔細に述べはじめた。勘平はそばから
硯
(
すずり
)
に料紙を取って渡した。
四十八人目
(新字新仮名)
/
森田草平
(著)
震災で破壊された東京の史蹟のその中で最も
惜
(
おし
)
まれる一つは
馬琴
(
ばきん
)
の
硯
(
すずり
)
の水の井戸である。
硯友社の勃興と道程:――尾崎紅葉――
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
母家
(
おもや
)
で藤さんと呼ぶ。はいと言い言い、あらあらかしくと書きおさめて、
硯
(
すずり
)
の蓋を重しに置いて出て行く。——自分が藤さんなら、こんな時にはぜひとも何とか書き残しておく。
千鳥
(新字新仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
ベッタリ坐ると
硯
(
すずり
)
を引き寄せ、筆を執るのももどかしく、何か懐紙へサラサラと書いた。
剣侠受難
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
一枚、
鍾馗
(
しょうき
)
を描いてやったら、大変喜んでいたがの。——ちょっと、
硯
(
すずり
)
を貸してくれ。
再度生老人
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
旅行用の小
硯
(
すずり
)
をとり出して、御灯明の光をたよりにこの句を書きつけ、もう一声聞きたいものだと耳をすますと、思いがけず遠く寺院の方から、先ばらいの声がいかめしく聞こえ
雨月物語:02 現代語訳 雨月物語
(新字新仮名)
/
上田秋成
(著)
“硯”の解説
硯(すずり)は、墨を水で磨るために使う、石・瓦等で作った文房具。中国では紙・筆・墨と共に文房四宝の一つとされる。硯及び附属する道具を収める箱を硯箱という。硯には唐硯(中国産)と和硯(国産)のほか、韓国・北朝鮮、台湾製などがある。硯を作る職人を製硯師という。
(出典:Wikipedia)
硯
漢検準1級
部首:⽯
12画
“硯”を含む語句
硯箱
硯友社
筆硯
硯屏
硯筥
掛硯
朱硯
硯々
旅硯
硯石
硯蓋
名硯
大硯
小硯
懐中硯
硯海
懸硯
硯水
料紙硯
硯机
...