こん)” の例文
旧字:
「で、今夜は、それがしが一夕いっせきこいを遂げた訳。ご迷惑でも、どうか一こんお過ごしあって、存分、わがままをいってもらいたいのじゃ」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
楠殿が高時のさけこんさかなしゆを用ゆるを聞いて驕奢おごりの甚だしいのを慨嘆したといふは、失敬ながら田舎侍の野暮な過言いひすぎだ子。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
ある時鴻池の主人が好者すきしやの友達二三人と一緒に生玉いくたまへ花見に出掛けた事があつた。一こんまうといふ事になつて、皆はそこにある料理屋に入つた。
青磁の皿 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
「嬢様から一こん申し上げますが何もございません、ほんの田舎料理でございますが御緩ごゆるりと召上り相変らず貴方あなたの御冗談をうかゞいたいとおっしゃいます」
三宝さんぽう利益りやく四方しほう大慶たいけい。太夫様にお祝儀を申上げ、われらとても心祝こころいわひに、此の鯉魚こいさかなに、祝うて一こん、心ばかりの粗酒そしゅ差上さしあげたう存じまする。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「何はなくともまず一こん、お過ごしなされてくださりませ。やがて主人もご挨拶に罷り出でますでござりましょう」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
客は宿役人の仲間の衆。それに組頭くみがしら一同。当日はわざと粗酒一こん。そんな相談をおまんにするのも、この清助だ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
膳部は安芸みずからの献立によるもので、まえの夜から膳番に支度が命ぜられ、二じゅう七菜に酒二こんであった。
「なあに! 相手は優男に乞食ひとり、何ほどのことやある。これだけの人数をもって押しかけ参らばそれこそ一揉みに揉みつぶすは必定! さ、前祝いに一こん……」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「お楽、——今日は御微行おしのびだから、何も御修業だとおっしゃる。地酒を一こん差上げてはどうじゃ」
掃守かもりかたはらはべりて、ももの大なるをひつつ三一えき手段しゆだんを見る。漁父が大魚まなたづさへ来るをよろこびて、三二高杯たかつきりたる桃をあたへ、又さかづきを給うて三三こん飲ましめ給ふ。
さて神使へ烟盆たばこぼん茶吸物膳部をいだし、数献すこんをすゝむ。あらためてむこに盃をあたふ、(三方かはらけ)肴をはさむ、献酬とりやりこんをかぎる、盃ごとに祝義の小うたひをうたふ。ことをはりて神使じんしる。
持て來し國土産くにみやげと心もあつ紙袋かみぶくろ蕎麥粉そばこ饂飩粉うどんこ取揃とりそろへ長庵の前へ差出せば然もうれしげに禮をのべの中にあつらおきさけさかな居間ゐまならべサア寛々ゆる/\と久しぶりにて何は無とも一こんくまんと弟十兵衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「酒は三こんというところでおさめ、用談のすみ次第、ゆるりとさしあげるつもり」
無惨やな (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
平馬は首をひねりひねり二三こんした。上酒と見えていつの間にか陶然となった。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
読み直してみたが、しかしそれには、てまえごときもの、とうていお対手は出来申さず候、おちかづきのしるしに粗酒一こんさしあげたく、拙邸までお越し下さらば云々と書いてあるばかりなのです。
せりの香に、良雪はふと膳へ顔を向ける。さかづきを取って一こんという余裕を相手に見せたが、それを内蔵助の考えこんでいる顔の前へ出して
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある時鴻池の主人が好者すきしやの友達二三人と一緒に生玉いくたまへ花見に出掛けた事があつた。一こんまうといふ事になつて、皆はそこにある料理屋に入つた。
五郎蔵の賭場で、百二十五両の金を強請ゆすり、場外へ出ると、賭場で、五郎蔵の側にいたお浦という女が、追っかけて来て、親分の吩咐いいつけで、一こん献じたいといった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
弟子の勧めるまま、半蔵は格子越しにそれをうけて、ほんの一、二こんしか盃を重ねなかったが、しかし彼はさもうまそうにそのわずかな冷酒を飲みほした。甘露かんろ、甘露というふうに。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ことなれたるをどりのけいご、かの水とりらもそのほどを見てむこに三こんいははせ、かの手桶の水を二人して左右よりむこかしらたきのごとくあぶせかくる。これを見て衆人みな/\抃躍てをうちてめでたし/\といはふ。
何かちょっと尾頭附おかしらつきで一こん差上げたいが、まアお聞き下さい、此の通り手狭ですからお座敷を別にする事も出来ませんから、孝助殿も此処こゝへ一緒にいたし、今日は無礼講ぶれいこうで御家来でなく
「おいッ! 源十、源的、源の字、ああいや、鈴川源十郎殿ッ! 一こん参ろう」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「てまえごときもの、とうてい、お対手は出来申さず候。ついてはおわび旁々かたがた、おちかづきのしるしに、粗酒一こんさしあげたく候間、拙邸せっていまでおこし下さらば腰本治右衛門、ありがたきしあわせと存じ奉りあげ候」
「なかなか陛下のような美音ではございませぬが、大杯で一こんいただけば、あるいは、お耳をけがすぐらいには吟じられるかもしれません」
別嬪に一こん差上げたいから来て下さいと云われたのでありますから、治平は是から急に髪を刈込み、ひげを剃り、お湯に這入り、着物を着替え、大装飾おおめかしで正面の新座敷へ参り、次の間から
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わずらわした訳じゃ。ママ何はなくとも一こん……
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「折角の珍客ちんかくやさかい、一こんやりまほか。」
「おいらん、一こん汲むか」
光秀は、二、三こんすごしたそれを、手近な光廉入道にわたすと、光廉はそれを、傍らにいるおいの明智次右衛門光忠にわたした。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どういたしまして。今日、処刑してきた悪党もお蔭さまで捕まったようなもんでさ。……ひとつ、そこらで御酒ごしゅでも一こん
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武蔵が、一、二こん飲んだだけで後は辞退しているところから、紹由老人の——これは度々発表している持論らしい酒談義がはじまったのである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……先日は乾分こぶんどもの悪戯わるさ。なんとも、お見それ申しやして」と、いとも神妙に、三拝九拝して、一こん差し上げたいという申しいでなのである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこへ、おさいノ局と小女房が、銚子をもって来た。酒は、なみなみと銀盌ぎんわんがせ、三こんほど、息もつかずに傾けて
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうぞ、食べるのが仕事と思って、御遠慮なく、あれをくれ、これを食わせろと仰っしゃって下さい。さ、御一こん
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうだ、こんな縁を、かりそめごとにしてはすまん。どうだ、茶ではつまらん。どこぞで一こんあげたいと思うが」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしとうぶん、人穴城ひとあなじょう日和見ひよりみでいるがいい、さいわいに、可児才蔵かにさいぞうどのも、これにあることだから、伊那丸がたがみじんになるまで、一こんむといたそう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宮は一たん、蔵王堂へひっ返して、蔵王桜に張りめぐらした大幕の蔭へ入り「別れの宴だ」と、有り合う杯をとって左右の武者と、三こんまで酒をくみ交わした。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
禅家には、御承知のとおり葷酒くんしゅ山門さんもんに入るを許さず——という厳則がござりますが、各〻方もおつかれの御様子故、ただ今、粗酒を一こんいいつけておきました。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『酒席へ来て、立ち話しのまま、一こんまずに、別れるという法はない。まず坐れ。……おんなさかずき、杯』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
では、時刻を待つとて、油幕ゆまくを張り、枯柴を隠し、宴席の準備をした。そして韓遂を中心に、まず前祝いに一こん酌み交わして、手筈をささやいていると、そこへ突然
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あすは断罪の日野殿へ、最後の身清めと一こんをゆるし与えるぐらいな寛度は、武士の情けだ。人みなはばかっている様子。余人がおいやなら、高氏がしてやろうと存ずる」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『まだ早い、ついでに拙宅へお寄りなさらんか。せがれも好きな方じゃ、夜長に一こんみ交そうで』
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あ、竹刀しないと、皆伝の目録か、確かに拙者が、お里のうちから持ち帰っている。——まあ、一こん
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、杯を洗って、これからの夜を心ゆくまで楽しもうとするもののように、慇懃いんぎんに一こん向ける。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「寺へ来い。そちの母がつくったという野菜など煮させて、一こん酌みながら、なお熟議じゅくぎしよう」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうきまれば——何もかも水に流して、一こんみ交わして戴きたい。——みつっ、光っ」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ともあれこの乱世を、どちらも健在でまずはめでたい。すね法師、久々で一こんまいろう」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「江戸の男は、怖くないが、江戸女には、降参じゃ。……坊主、一こん親懇ちかづきに参ろう」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『お話を承れば、まことに涙ぐましい御母堂のお心づかい。その慈愛の杖を失われては、折角お招きいたしても、話が浮きませぬ。すぐ取り寄せますから、それの参る迄、もう一こん
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)