じじ)” の例文
じじから笛を受け取るととうとう耳までつんぼになって、どっちが西やら東やら、自分がどこに居るのやら、全く解からなくなってしまった。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
私たちがたずねたいこころは、お三輪もよく知っている。くらがり坂以来、気になるそれが、じじともばばとも判別みわけが着かんじゃないか。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おじじよ、お爺よ、何刻なんどきもこの世に居らぬものを、なにをのどかに暇どっていなさる……早う、お斎の仕度をせんけれゃ」
生霊 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
陣幕の中央に床几しょうぎがある。天草時行が腰かけている。なんの武装もしていない。例によってきたないじじいである。さけたみつ口から歯が見える。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ここへ来る人は、私よりもずっと年の多い、毎日歌を教えに来る助八すけはちさんという、この人は自分のことを「おじじ」と云っています。おじいさんです。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「あのじじい、なかなかずるい奴ですよ。崋山かざん偽物にせものを持って来て押付おっつけようとしやがるから、今叱りつけてやったんです」
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
じじしきりに嘆願しているが、馬車屋はがんとして応ぜぬ。事情を聞けば、草津行の乗合馬車には赤馬車と称する会社があって、すこぶる専横を極めている。
長吉はとにかく思案しあんをしなおすつもりで、折から近所の子供を得意にする粟餅屋あわもちやじじがカラカラカラときねをならして来る向うの横町よこちょうほうへととおざかった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
東京では今年生まれたハゼを「デキ」といい、きょねんから年を越したのを「シネハゼ」または「ばばハゼ」というが、上方では「フルセ」、「じじハゼ」という。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
このばばとこのじじを連れにして、毎日こう歩いてばかりいるのは、彼としてかなりの我慢らしく見える。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と七蔵じじいきりきって門口から我鳴がなれば、十兵衛聞くより身を起して、なにあの、上人様のお召しなさるとか、七蔵殿それは真実まことでござりまするか、ああなさけない
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
土地の習慣として焼たての芋焼餅いもやきもちに大根おろしを添えて、その息の出るやつをフウフウ言って食い、夜に成れば顔のほてるような火をいて、百姓のじじ草履ぞうりを作りながら
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一面に灰色がかった雪の原野で、彼方に徳兵衛じじの家の頭ばかりが見えた。また彼方に正善寺の杉林が黒くなって見える。二人はとぼとぼと雪道を歩いて町の方へ出かけた。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
、半年の間に、一両ちけえ利息を絞られましたぜ。十手や捕縄をとも思わないじじイでしたよ
すると意外なことに、そこにはスチームに汗ばんた窓硝子まどガラスに、怖ろしくじじくさい、こけたほおの、へこんだ眼がキラついている顔が映った。それはまるで他人のように見えた。——
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
国にいた時、或るじじいが己に、牛の角と耳とは、どちらが上で、どちらが下に附いておりますかと問うた。それ位の事は己も知っていたから、直ぐに答えたら、爺いが云った。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
馬糧用達ようたしの西田のじじいから、不断ここの世話になっている、小作人に至るまで、お島では随分助かっている連中も、お島が一切を取仕切る時の来るのを待設けているらしくも思われた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そういえば、湯灌場買いだけあって、じじいめ食えない面をしていたよ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
何もそう云う人をりに選って夫に持たないでもよいには違いないし、それより何より、写真の顔が四十六歳と云う年よりも非常にけていて、じじむさく、五十歳以上の老人に見えると云うこと
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その犬語るやう、此処を去ること南の方一里ばかりに、木賊とくさが原といふ処ありて、其処に朱目あかめおきなとて、とうとき兎住めり。この翁若き時は、彼の柴刈しばかりのじじがために、仇敵かたきたぬきを海に沈めしことありしが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
じじい、うるせい爺いだわなあ、おかやちゃん」
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「そんならじじい、梨の実を取って来い。」
梨の実 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
かまどのところから、じじが、顔を出して
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
といいかけて、かむとしたる、山番のじじはわれらが庵を五六町隔てたる山寺の下に、小屋かけてただ一人住みたるなり。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「魂があってさえいやだったのに、魂のなくなったじじい玉なんかに、何がいったいどうしたってんだヨーッ」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
じじというのは、木工助もくのすけ家貞である。父に次いで、清盛がけむたいのは、この忠誠な家来であった。
悠々然とのみ衣服なり垢穢きたなじじもあり、道具捜しにまごつく小童わっぱ、しきりに木をく日傭取り、人さまざまの骨折り気遣い、汗かき息張るその中に、総棟梁ののっそり十兵衛
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「おじじ、お爺、早よ出てござんせ……弥之助のお精霊が蝙蝠こうもり傘をついて戻り来した」
生霊 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
蓬々ほうほうとした髪の毛の白くなったさまは灰か砂でも浴びたようにじじむさく、以前ぱっちりしていただけ、落窪おちくぼんだ眼は薄気味のわるいほどぎょろりとして、何か物でも見詰めるように輝いている。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今までこのへやには藍丸王唯一人しか居なかった筈なのに、今見ると最前の森の中に居た四人の化け物——じじと、女と、赤んとクリクリ坊主とが、四ツの椅子に向い合って、ちゃんと腰を掛けていた。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
今度の和田さんの後始末にだけはこのじじいも手をやきましたよ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
帰宅かえって因果を含めたのさ」「え、誰にだえ、お父っつぁんにか?」「じじく玉なんかが役立つかい。可愛い可愛い女房にさ」「殺生な野郎だ、叩き売ったな」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ひとりごとをもらしながら、若いのかじじいなのか、わからぬような顔をちょっとしかめていると
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
容顔が美麗なで、気後きおくれをするげな、この痴気たわけおやじと、媼はニヤリ、「鼻をそげそげ、思切って。ええ、それでのうては、こなじじい、人殺しの解死人げしにんのがれぬぞ、」とおどす。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは誰しもはずかしければ其様そのようにまぎらす者なれど、何もまぎらすにも及ばず、じじが身に覚あってチャンと心得てあなたの思わく図星の外れぬ様致せばおとなしくまちなされと何やら独呑込ひとりのみこみの様子
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
甘酒屋あまざけやじじがいつかこの木蔭こかげに赤く塗った荷をおろしていた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「藪医者の青眼じじ
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
両脇に一つずつ抱いて空へ飛び上がる術じゃろう。そんなこと何んでもないことじゃ……おじじそれではお前に訊くが……オヤオヤ変だぞ! これは変だ! 誰か私らを
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
のあたりに拝して、このじじは、思いも千々ちぢに、むかし懐かしゅう存じあげておりますものを
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こンじじい、てめえだな、楽書をしやがるのは、八百半の料理がまずいとは何だ、やい。」
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小児こども飴菓子あめがしを売って一手ひとて踊ったり、唄ったり、と同じ格で、ものは違っても家業の愛想——盛場さかりばの吉原にさえ、茶屋小屋のおかっぱお莨盆たばこぼんに飴を売って、じじやあっち、ばばやこっち
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(そんなお気の弱いことで、何う遊ばすか。何事もこのじじめにおまかせあれ)
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ほん、ほん。こなたは、これ。(や、じじい……その鮒をば俺に譲れ。)と、ねえさんと二人して、潟に放いて、放生会ほうじょうえをさっしゃりたそうな人相じゃがいの、ほん、ほん。おはは。」
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「やい、やいっ。家司の臣賀おみがは、どこにいやるぞ。臣賀じじ、急いで来うっ」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「黒いのは精霊蜻蛉ともいいますわ。幽霊だなんのって、あのじじい。」
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの猫背の歯抜けじじを、堺から召し呼んで、とぎしゅうに加えおく物好きと、将軍家になりたいというわしの物好きと、いずれ劣らぬ愚とはおもうが——菊亭どの、笑うてくれい、秀吉は、是が非でも
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで、この男の旅姿を見た時から、ちゃんと心づもりをしたそうで、深切しんせつな宰八じじいは、夜のものと一所に、机を背負しょって来てくれたけれども、それは使わないで、床の間の隅に、ほこりは据えず差置いた。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あれは、むさじじを相手にする遊戯あそびではない」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はははは、別荘おしもやしき穴籠あなごもりじじめが、土用干でございますてや。」
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
じじい。」
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)