父母ちちはは)” の例文
これに前の七十銭五厘を加えて総計四円七十八銭也と書いて、そしてこの金をつくるについて、父母ちちははの苦心したことを思い出した。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
天香具山あめのかぐやまをあれだと考えた時、あの下が、若い父母ちちははの育った、其から、叔父叔母、又一族の人々の、行き来した、藤原の里なのだ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
私は今まで叔父まかせにしておいた家の財産について、詳しい知識を得なければ、死んだ父母ちちははに対して済まないという気を起したのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
学童を愛する点に於いては、学童たちの父母ちちははに及びもつかぬし、子供の遊び相手、として見ても、幼稚園の保姆ほぼにはるかに劣る。
春の枯葉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
が、炎天、人影も絶えた折から、父母ちちははの昼寝の夢を抜出した、神官のであろうと紫玉はた。ちらちら廻りつつ、廻りつつ、あちこちする。……
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
姫君はさう云ふ父母ちちははと一しよに、六の宮のほとりにある、木高こだか屋形やかたに住まつてゐた。六の宮の姫君と云ふのは、その土地の名前につたのだつた。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その語は極めて解きやすし、もし人ありて慈悲心をもて父母ちちはは乃至ないし世の病人なんどに水を施さば、仮令たといそのかさ少くしてわずかてのひらむすびたるほどなりとも
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
しかし仏菩薩ぶつぼさつもなくてただ天人のみなる月の都、老いもせず、思うこともなく、しかも「父母ちちはは」というもののある常世とこよの国、それは仏教的な空想ではない。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
今となっては如何どうやら一日位は延ばしてもいような心持になっているうちに、支度はズンズン出来て、さて改まって父母ちちははと別れのさかずきの真似事をした時には
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
いつだったか父母ちちははが旅中お祖母ばあ様とお留守居の御褒美ごほうびに西洋木馬を買っていただいたのもその家であった。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
おせきが初めて影を踏まれたのは去年の十三夜の前夜で、行者のいふ百日目があたかも満一年目の当日であるといふことが、彼女かれ父母ちちははの胸に一種の暗い影を投げた。
それから半歳ばかりと云うものは、死んだ父母ちちははのことが忘れられず、ただ悲しみのうちに日がたった。
初雪 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
珍らしく家内うち中との触れに成けり、このお供をうれしがるは平常つねのこと、父母ちちははなきのちは唯一人の大切な人が、病ひの床に見舞ふ事もせで、物見遊山ゆさんに歩くべき身ならず
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
妻はさきに一人家に帰り、すでに父母ちちははとよろしからず。七月我更に父母のもとに帰り、またわが妻とよろしからず。我は貧し、貧しけれども、我をしてかく貧しからしめしは誰ぞ。
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
大君おほきみみことかしこみいそ海原うのはらわたる父母ちちははきて 〔巻二十・四三二八〕 防人
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
おしずは、ちいさい時分じぶんに、父母ちちははわかれて、叔母おばうちそだてられた孤児みなしごでありました。そして、十七、八のころ、むらのあるうち奉公ほうこうしたのであります。そのうちひとたちは、なさけある人々ひとびとでした。
愛は不思議なもの (新字新仮名) / 小川未明(著)
文吉は十一の時に父母ちちははに死なれて、隻身せきしん世の中の辛酸を甞めた。
愛か (新字新仮名) / 李光洙(著)
やがて憐れにもその娘も父母ちちははの後を追いました。
かれは、生まれながらにして、父母ちちははを知らない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
力もつきはて 父母ちちはは
七里ヶ浜の哀歌 (新字新仮名) / 三角錫子(著)
蝶よ花よと父母ちちはは
枯草 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
朧々おぼろおぼろ父母ちちはは
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
父母ちちはは
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
父母ちちははのことがひしひしと思い出された。幼いころは兄弟も多かった。そのころ父は足利あしかがで呉服屋をしていた。財産もかなり豊かであった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
喜いちゃんには父母ちちははがないようだったが、小供の私には、それがいっこう不思議とも思われなかった。おそらくいて見た事もなかったろう。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、炎天、人影も絶えた折から、父母ちちははの昼寝の夢を抜出ぬけだした、神官のであらうと紫玉はた。ちら/\廻りつゝ、廻りつゝ、彼方此方あちこちする。……
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
やはり浦上の山里村やまざとむらに、おぎんと云う童女が住んでいた。おぎんの父母ちちはは大阪おおさかから、はるばる長崎へ流浪るろうして来た。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お浪もこのはや父母ちちははを失った不幸の児がむご叔母おばくるしめられるはなしを前々から聞いて知っている上に、しかも今のような話を聞いたのでいささかなみだぐんで茫然ぼうぜんとして
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そして、ジャンのほうでも、生みの父母ちちははを探していたのだったが、何せ、覚えているのは、「お父ッさんのピエール」と「おッ母さんのジャンヌ」という二つの名前ばかりである。
親ごころ (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
祖母の死後数年すねん父母ちちははも其跡を追うて此墓のしたうずまってから既に幾星霜を経ている。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「聞けば独り寝の別れの歌を披露しようとて参ったとか。堂上どうじょうでも地下じげでも身分は論ぜぬ。ただい歌を奉ればよいのじゃ。名は藻とか聞いたが、父母ちちはははいずこの何という者じゃな」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その時私は七つであつたれどうちうちの様子、父母ちちははの心をも知れてあるにお米は途中で落しましたとからの味噌こしさげて家には帰られず、たつてしばらく泣いていたれどどうしたと問ふてくれる人もなく
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
我は心よりおそれ、妻は心よりたはる。我父母の為に泣き、妻はわが父母ちちははそしる。行道ぎやうだう念々ねんねん、我高きにのぼらむと欲すれども妻は蒼穹さうきうの遥かなるを知らず。我深く涙垂るれども妻は地上の悲しみを知らず。
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
父母ちちははの恩重きこと
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父母ちちははさまを
極楽とんぼ (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
かばねとなって野に横たわる苦痛、その身になったら、名誉でもなんでもないだろう。父母ちちははが恋しいだろう。祖国が恋しいだろう。故郷ふるさとが恋しいだろう。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「この男の父母ちちははは、畜生道に落ちてゐる筈だから、早速ここへ引き立てて来い。」と、一匹の鬼に云ひつけました。
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その不満が、何か事さえあると、とかく彼女を京都にいる父母ちちははの味方にしたがった。彼女はそれでもなるべく兄と衝突する機会を避けるようにしていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
道学先生の世迷言よまいごとのように思って、鼻であしらっていた男だが、不思議な事には、此時此手紙を読んで吃驚びっくりすると同時に、今夜こそはといきり立っていた気が忽ちえて、父母ちちははしきりに懐かしく
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
むかしむかし棄老国とばれたる国ありて、其国そこに住めるものは、自己おの父母ちちははの老い衰へて物の役にも立たずなれば、老人としよりは国の費えなりとて遠き山の奥野の末なんどに駆りつるを恒例つねとし
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
父母ちちははの寂しき閨の御目ざめは茶をたぎらせて待つべかりけり
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
父母ちちははさまを
雨情民謡百篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
「この男の父母ちちははは、畜生道ちくしょうどうに落ちている筈だから、早速ここへ引き立てて来い」と、一匹の鬼に言いつけました。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
こうとすれば訊こうとするほど、継子の返事が曖昧あいまいになってくるように思われたので、お延はそれぎり口を閉じた。継子は前に行く父母ちちははに遠慮があるのかも知れなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
父母ちちははの枕にちかく目ざめゐて湖にかんのとほり来る聴く
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
学年の終りに、私はまた行李こうりからげて、親の墓のある田舎いなかへ帰って来ました。そうして去年と同じように、父母ちちははのいたわがいえの中で、また叔父おじ夫婦とその子供の変らない顔を見ました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
父母ちちはは寿詞よごとまうさくとしあした仰ぎまみえむ視力早や無し
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
久しぶりに父母ちちははの顔を見に帰ったお延は、着いてから二三日にさんちして、父に使を頼まれた。一通の封書と一帙いっちつ唐本とうほんを持って、彼女は五六町へだたった津田のうちまで行かなければならなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これは万一の事がある場合でなければ、容易に父母ちちははの顔を見る自由のかない男であった。妹は他国へとついだ。これも急場の間に合うように、おいそれと呼び寄せられる女ではなかった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
善も投げ悪も投げ、父母ちちははの生れない先の姿も投げ、いっさいを放下ほうげし尽してしまったのです。それからある閑寂かんじゃくな所を選んで小さないおりを建てる気になりました。彼はそこにある草をりました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)