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溝
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どぶ
ふりがな文庫
“
溝
(
どぶ
)” の例文
猫は頻りにないて、道と田との間の
溝
(
どぶ
)
に後足を踏み込みそうになった。溝の水は澱んで腐り、泥の中からは棒振りが尾を出していた。
「紋」
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
「さあ、はや参ろう。残っておる者は、われらばかりじゃ」といい捨てたまま、小さい
溝
(
どぶ
)
を飛び越えて
畦道
(
あぜみち
)
を跡をも見ずに、急いだ。
恩を返す話
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
今夜の雨を幸いに、外記はおはぐろ
溝
(
どぶ
)
の外に待っていた。宵の口の混雑にまぎれて、綾衣は
櫺子
(
れんじ
)
窓を破って屋根伝いに抜け出した。
箕輪心中
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
「うそだ、うそだ。坊は、さっき
溝
(
どぶ
)
へ落ちて、着るものが無くなったから、こうして寝かされて、着物のかわくのを待っているのだ。」
新釈諸国噺
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
露地の出口の
溝
(
どぶ
)
の中、さして深くもない中に、横倒れに
陥
(
はま
)
って死んでいたのは
茶缶婆
(
ちゃかんばばあ
)
で、胸に
突疵
(
つききず
)
がある。さては赤熊が片附けた。
日本橋
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
何ら誇張もなくありのままを言えば、この
溝
(
どぶ
)
の中の天使は時としてシャツを持ってることもあるが、それもただ一枚きりである。
レ・ミゼラブル:06 第三部 マリユス
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
溝
(
どぶ
)
ツ川のくろい水面に、フツリフツリと浮いてでるメタン瓦斯の泡をみつめながら、私は思ひかへすのであつた。これは私の迷ひなんだ。
光をかかぐる人々
(旧字旧仮名)
/
徳永直
(著)
キャラコさんは、老人にも馬にも見えないように、後手で人参の束を地面へずりおとすと、靴の
踵
(
かかと
)
でそっと
溝
(
どぶ
)
の中へ押し落としてやった。
キャラコさん:10 馬と老人
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
其処
(
そこ
)
へ
七
(
なな
)
、
八
(
や
)
ツになる子供が
喧嘩
(
けんか
)
をして
溝
(
どぶ
)
へ落ちたとやら、
衣服
(
きもの
)
を
溝泥
(
どぶどろ
)
だらけにして泣きわめきながら帰って来る。小言がその方へ移る。
監獄署の裏
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
顧みる暇のないほど多忙に搾取され、その
溝
(
どぶ
)
だまりに投げ込まれるが、監獄では、ただじっとそれを見詰めるというだけのものだ
海に生くる人々
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
彼を割下水の
溝
(
どぶ
)
の中へ打込み、半殺しにしたは実に大逆非道な奴で、捨置かれぬと云う其の癇癖を
耐
(
こら
)
え/\て六月の
晦日
(
みそか
)
まで待ちました。
業平文治漂流奇談
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
愛宕下
(
あたごした
)
の通りを横切り、櫻川町の大きな
溝
(
どぶ
)
わきを歩いてる時、物好きにその中の黒い水たまりを人の門燈の光にのぞいて見た。
泡鳴五部作:02 毒薬を飲む女
(旧字旧仮名)
/
岩野泡鳴
(著)
「東から西へ抜ける路地だから、乾くのは真夏の一と月か二た月だけ——この通り
溝
(
どぶ
)
は腐って、ふくれて、甘酒のようになって居りますよ」
銭形平次捕物控:242 腰抜け彌八
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
その
廓
(
くるわ
)
を取りまいているおはぐろ
溝
(
どぶ
)
のふちに添って、頭巾のお綱はうつむき加減に、お獅子の二人は
後先
(
あとさき
)
に、トボトボ歩いてゆくのである。
鳴門秘帖:02 江戸の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
同じ悪夢が、
夜毎
(
よごと
)
、氾濫した
溝
(
どぶ
)
のやうに枕の下を流れて通る。酷い日は白つぽいドロドロの夜を、同じ悪夢で二度に三度に区切られてしまふ。
海の霧
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
初めは、自分の古い生活の影と共に一挙に
溝
(
どぶ
)
に投ずるつもりのその金が、ひどく惜しまれた。金が無くなることは、彼女と別れることである。
溺るるもの
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
石油は強い殺虫剤です。下水や
溝
(
どぶ
)
へ流しておくと
孑孑
(
ぼうふら
)
が死にますから蚊が発生しません。稲の害虫をムラという悪い石油で殺す事もあります。
食道楽:秋の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
と大地に坐って眺め入っている中に
睡気
(
ねむけ
)
を催して横になった。直ぐ側が
溝
(
どぶ
)
だ。片岡君はもう少しのところまで漕ぎつけた。
一年の計
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
あれは、
一
(
ひと
)
ツ
木
(
ぎ
)
の縁日へいった時、米屋の横の、
溝
(
どぶ
)
っぷちに捨てられていたのを拾ってやったのだが、また宿なしになってしまやしないかしら。
遠藤(岩野)清子
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
それに、裏長屋の軒並から——大江戸の隅の隅のどぶという、
溝
(
どぶ
)
の近所から、急に
発生
(
わ
)
き出した、毒虫のように、
雲霞
(
うんか
)
のように飛び出して来た。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
溝
(
どぶ
)
の匂ひと、
汚物
(
をぶつ
)
の臭氣と、腐つた人肉の匂ひともいふべき惡臭とがもつれ合つて吹き流れてゐる、六尺幅の
路地
(
ろぢ
)
々々。
天国の記録
(旧字旧仮名)
/
下村千秋
(著)
溝
(
どぶ
)
や川へ落ちないため、鈴は伯母さんが眼がかすんで遠くが見えないので、もしやはぐれたときにその音をききつけて捜しにこようといふのである。
銀の匙
(新字旧仮名)
/
中勘助
(著)
その家はちょうど廓の外郭に沿って流れているお
歯
(
は
)
ぐろ
溝
(
どぶ
)
に接していたので、外との往来には便利だったのである。私も通学の際はそこを利用した。
桜林
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
私は又更に、あの深い黒
溝
(
どぶ
)
の中に飛込んで見たのだが、矢張、それでも死ぬことが出来なかった。併し、これは、私に取っては決して幸福ではない。
三稜鏡:(笠松博士の奇怪な外科手術)
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
何處からと無く
腥
(
なまぐさ
)
いやうな
溝
(
どぶ
)
泥臭
(
どろくさ
)
いやうな一種
嫌
(
いや
)
な臭が通ツて來て
微
(
かすか
)
に鼻を
撲
(
う
)
つ……風早學士は、此の臭を人間の生活が
醗酵
(
はつかう
)
する惡臭だと謂ツてゐた。
解剖室
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
河岸縁
(
かしっぷち
)
の
蟹
(
かに
)
と喧嘩したり、子供の喧嘩を仲裁したり、
溝
(
どぶ
)
に落ちたトラックを抱え上げてやったりしているうちに或日の事、大学校の構内へ迷い込んだ。
超人鬚野博士
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
「ようござんす、そう言いましょう。おっと危ない危ない、突き当ると
溝
(
どぶ
)
ですぜ、板囲いについて真直ぐにおいでなさいまし、広い通りへ出ますから」
大菩薩峠:18 安房の国の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
千日前の大阪劇場の楽屋の裏の
溝
(
どぶ
)
板の中から、ある朝若い娘の屍体が発見された。検屍の結果、他殺暴行の形跡があり、犯行後四日を経ていると判明した。
世相
(新字新仮名)
/
織田作之助
(著)
路に沿った長い汚ない
溝
(
どぶ
)
には、
藻
(
も
)
や
藺
(
い
)
や
葦
(
あし
)
の新芽や
沢瀉
(
おもだか
)
がごたごたと
生
(
は
)
えて、
淡竹
(
またけ
)
の雨をおびた
藪
(
やぶ
)
がその上におおいかぶさった。
雨滴
(
あまだ
)
れがばらばら落ちた。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
「君に逢ったら、いつか言って置こうと思ったが、ここには大きな
溝
(
どぶ
)
に石を並べて
蓋
(
ふた
)
をした処があるがなあ。」
鶏
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
が、やがて、
菜
(
な
)
もゆだったので、湯から揚げて水に
浸
(
ひた
)
した。それから、鍋を持ちあげて
井戸端
(
いどばた
)
の
溝
(
どぶ
)
のところまでもって行き、溝に煮え湯をこぼそうとした。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
「すり
鉢
(
ばち
)
にうえて色つく唐がらし」少し逆もどりして別の巻「
溝
(
どぶ
)
汲
(
く
)
むかざの隣いぶせき」の五句のごときも
連句雑俎
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
おらあな、一本の足を千住の
溝
(
どぶ
)
の中へ、一本の足を公園の
瓢箪池
(
ひょうたんいけ
)
の中へ、一本の手を——呉服店の陳列場へ、一本の手をある家へ小包にして送ってやったあ。
一寸法師
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
鞠がころころと転げて、一つは
溝
(
どぶ
)
へ落ち、青い方のが反対側へはづんでどんの腹の下へ転げて行つたのを僕は見た。口惜し紛れに力一杯叩きつけたのだつたらう。
肉桂樹
(新字旧仮名)
/
牧野信一
(著)
溝
(
どぶ
)
の匂が、蒸し蒸しする薄暮の暑気に交つて流れてくる中に、かぼそい薄煙を漂はせてゐるのである。
薄暮の貌
(新字旧仮名)
/
飯田蛇笏
(著)
炭火は赤く爐に燃え、燭は煙つてだらだらと蝋を流し、皿の中からは春さきの
溝
(
どぶ
)
のやうな
臭
(
にほひ
)
が立つ。
サバトの門立
(旧字旧仮名)
/
ルイ・ベルトラン
(著)
通り過ぎる時、極端に淫猥な顏付で自分達の方を見て笑ひながら舌を出した、五六間先の道端の柳の下で、
溝
(
どぶ
)
の中に悠々と立小便をした後で日盛りの町を遠ざかつた。
貝殻追放:016 女人崇拝
(旧字旧仮名)
/
水上滝太郎
(著)
だいぶ酔うとりましてな、足がフラフラで、いまそこの
溝
(
どぶ
)
に足をつっこんで、ひっくりかえりましてん。怪我しとりますが、医者がどこにあるやら分らしめへんねン。
深夜の市長
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
石鹸
(
シャボン
)
玉
泡沫
(
ほうまつ
)
夢幻
(
むげん
)
の世に楽を
為
(
せ
)
では損と帳場の金を
攫
(
つか
)
み出して
御歯涅
(
おはぐろ
)
溝
(
どぶ
)
の水と流す息子なりしとかや。
風流仏
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
すると、
赤
(
あか
)
ちゃんの
憎
(
にく
)
らしく
思
(
おも
)
ったエプロンは、
溝
(
どぶ
)
の
中
(
なか
)
に
落
(
お
)
ちて、
水
(
みず
)
の
中
(
なか
)
にうずまっていました。
はてしなき世界
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
さなければ、近傍の
溝
(
どぶ
)
より腐敗せる水が流れ出して、水素ガスを発したのであろうとの説である。
おばけの正体
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
「僕が殺した、
溝
(
どぶ
)
をきれいにした……。こんな淫売の、一人や二人がどうしたってんだ。妙な顔をして疑っているくせに……オイ成戸君、
殺
(
や
)
ったのは、この僕なんだよ」
地虫
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
其時自分は捕まりさうにして、命がけで逃げた。草雙紙は置場所に困つて、
溝
(
どぶ
)
の中へ裂いて捨てた。もし
彼
(
あ
)
の時捕つたら、自分の生涯は
奈何
(
どん
)
な風に成つて行つたらう……
幼き日:(ある婦人に与ふる手紙)
(旧字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
もとより
溝
(
どぶ
)
も道路も判らぬのである。たちまち一頭は溝に落ちてますます狂い出す。一頭はひた走りに先に進む。自分は二頭の
手綱
(
たづな
)
を採って、ほとんど
制馭
(
せいぎょ
)
の道を失った。
水害雑録
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
腐
(
くさ
)
れた野菜と胡蘿葡の
汚
(
よ
)
ごれた
溝
(
どぶ
)
どろのそばに、粗末な蓆の小屋をかけて、柔かな羽蟲の
縺
(
もつ
)
れを
哀
(
かな
)
しみながら、ただひとり金紙に緋縅の鎧をつけ、鍬形のついた甲を戴き
思ひ出:抒情小曲集
(旧字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
闇の中に、ナイフが
閃
(
ひらめ
)
くと、源吉の躰は、くたくたと生首の上に
頽
(
たお
)
れ、
溝
(
どぶ
)
の中に転がり落ちた。
鉄路
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
「夏になって御覧なさい。大雨のあとで、あなたは
蒼蝿
(
うるさ
)
いほど
蝦蟇
(
がま
)
の叫びを聴き出すでしょう。あれは皆
溝
(
どぶ
)
の中に住んでいるのです。北京にはどこにも溝がありますからね」
鴨の喜劇
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
お歯ぐろ
溝
(
どぶ
)
の角より曲りて、いつも
行
(
ゆ
)
くなる細道をたどれば、運わるう大黒やの前まで来し時、さつと吹く風大黒傘の上を
抓
(
つか
)
みて、宙へ引あげるかと疑ふばかり
烈
(
はげ
)
しく吹けば
たけくらべ
(新字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
しかし僕の小学時代にはまだ「
大溝
(
おほどぶ
)
」に囲まれた、
雑木林
(
ざふきばやし
)
や竹藪の多い封建時代の「お竹倉」だつた。「大溝」とはその名の示す通り、少くとも一間半あまりの
溝
(
どぶ
)
のことである。
本所両国
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
稲の穂花の白く浮いた田の水が
溝
(
どぶ
)
川に落とされるころから、どじょうがよく捕れる。村ではどじょう
汁
(
じる
)
が秋の最上の味として夕食の卓にのぼった。私もよく
笊
(
ざる
)
と籠を持って出た。
かき・みかん・かに
(新字新仮名)
/
中島哀浪
(著)
“溝”の意味
《名詞》
(みぞ)水などを流す目的で、地面などを線状に掘ったもの。
(コウ)漢数字。1溝は1032を表す。穣の次で澗の前の位。
(出典:Wiktionary)
溝
常用漢字
中学
部首:⽔
13画
“溝”を含む語句
溝渠
溝川
溝鼠
大溝
溝埋
泥溝
溝際
溝溜
八溝山
溝板
溝泥
小溝
鉄漿溝
溝端
溝口
溝石
黒溝台
溝涜
溝洫
御溝
...