あずま)” の例文
眼鏡めがねをかけているのが、有田ありたくんのおかあさん、ひくいちぢれがみのが、あずまくんのおかあさん、ふとっているのは、小原おばらくんのおかあさんさ。
生きぬく力 (新字新仮名) / 小川未明(著)
(風呂が沸いた)で竹法螺たけぼら吹くも同然だが、あずまへ上って、箱根の山のどてっぱらへ手がかかると、もう、な、江戸の鼓が響くから
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
上総かずさかみだった父に伴なわれて、姉や継母などと一しょにあずまに下っていた少女が、京に帰って来たのは、まだ十三の秋だった。
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
本格的な支那しな高麗こうらい楽よりもあずま遊びの音楽のほうがこんな時にはぴったりと、人の心にも波の音にも合っているようであった。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
其身は弥勒の仏像を負ひて呉家の系図をふところにし、六美女の手を引きて、あくる日の昧爽まだきに浜崎を立ち出で、あずまの方を志す。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一首の意は、天皇(聖武)の御代は永遠に栄える瑞象ずいしょうとしてこのたびあずまの陸奥の山から黄金が出た、というので、それを金の花が咲いたと云った。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
御儒者衆、堀玄昌の三男で、江戸にいればやすやすと御番入ごばんいりもできる御家人並の身分だが、のどかすぎる気質なので、荒けたあずまの風が肌にあわない。
奥の海 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「そこのほどは分りませぬが、上杉殿には、おいどのが立帰ったら、すぐにも旅支度して、あずまへ帰れとの仰せなので」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
業平なりひら朝臣あそん実方さねかたの朝臣、——皆大同小異ではないか? ああ云う都人もおれのように、あずま陸奥みちのくくだった事は、思いのほか楽しい旅だったかも知れぬ。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
向島からは遠くて通われないというので、その頃神田小川町に住まっておられた、お父様の先輩のあずま先生という方の内に置いて貰って、そこから通った。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「目ざした先はまさしくあずまじゃ。今より急いで追わばどこぞの宿しゅくで会うやも知れぬが、いずれの藩士共かな」
ことに、源三郎こんどのあずまくだりは、ただの旅ではない。はやりものの武者修行とも、もとより違う。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
過ぐる未年ひつじどし才牛さいぎゅう市川団十郎が、日本随市川のかまびすしい名声をにのうて、あずまからはるばると、都の早雲長吉座はやぐもちょうきちざに上って来た時も、藤十郎の自信はビクともしなかった。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼はまた青春の頃にナン・ロンドランのチョッキをつけてたことがあって、そのことを心ゆくばかり語っていた。「私は日の出るあずまのトルコ人のような服を着ていた、」
泊り泊りの宿を重ねてとりが鳴くあずまの空と来やがる、くなそねむな、おや抜きゃがったな、抜いたな、お抜きなすったな、あいてッ、あ痛ッ、斬ったな、うぬ、斬りゃがったな
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
貴方あなたさまが、一決心なされました、お持米もちまいとやらを、あずまにおまわしになりませば、大したことになるであろう——と、いうようなことを、しきりに仰有おっしゃってござりました
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
自分はあずまの田舎大尽だいじんごとくすべて鷹揚おうように最上等の宿舎に泊り、毎日のんきに京の見物、日頃ひごろけちくさくため込んだのも今日この日のためらしく、惜しげも無く金銀をまき散らし
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
御子みこは十月三日御元服し給ひて、久明の親王と聞こゆめり。同じき十日の日、院よりやがて六波羅の北の方、さきざきも宮の渡り給ひし所へおはして、それよりぞあずまに赴かせ給ふ。
武士を夷ということの考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
とりが鳴いてあずまの国の夜は開けかけた。翁はきょうこそ見ゆれと旅路の草のふすまから起上がった。きょうもまた漠々たる雲の幕は空から地平に厚く垂れ下り、行く手の陸の見晴しを妨げた。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
緋裏のいわゆる「あずまコート」は、なくてならない、全盛のものとなった。
ハイカラ考 (新字新仮名) / 木村荘八(著)
昔、在原業平が遠く都を離れてあずまへ来た時に、都鳥を見て読んだ
山の声 (新字新仮名) / 宮城道雄(著)
大きなたらいのようなものを乗せて、太鼓をたたいているが、畳つきの下駄を穿いた、キザな着物をあずまからげにして、題目太鼓の柄にメリンスの赤いのや青いきれを、ふんだんに飾りにしている、ドギツい
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
節蔵が脱走した後でもって、脱走艦は追々函館はこだていって、れから古川ふるかわの長崎丸と一処いっしょまた此方こっちへ侵しに来た、とうのは官軍方のあずま艦、すなわち私などが亜米利加アメリカからもって来た東艦が官軍の船になって居る
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「他殺か、自殺か、奇怪極まるあずま伯爵夫人の怪死」
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
「もうじき、珍しいあずま男がご覧になれます」
「よし。」といって、鉛筆えんぴつ孝二こうじあたえられました。いつも、首席しゅせきあらそあずま小原おばらは、まだませんでした。つづいてたのは有田ありたです。
生きぬく力 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それがまた主人が常陸介ひたちのすけになっていっしょにあずまへまいりましたが、それきり消息をだれも聞かなかったのでございます。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
小法師の姿はあずまの空へ、星の中に法衣ころもそで掻込かいこんで、うつむいて、すつと立つ、早走はやばしりと云つたのが、身動きもしないやうに、次第々々に高くあがる。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おさない頃多くの夢を小さい胸に抱いてあずまから上って来たことのある逢坂の山を、女は二十年後に再び越えて往った。
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
行祐ぎょうゆう宥源ゆうげんの二僧を先に、あずま六右衛門やその他の従者をしりえに、光秀もまた高い石段を上っていた。そして少し平地を歩むかと思うとまた次の高い石段があった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
但、この程度まで来るとあながちに職業婦人に限ったわけでなく、又震災後に限ったわけでもない。昔からあずまにあり来りで、それが最近に到って急にふえたまでのことである。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
あの時代に、あずまはてなる香取鹿島あたりまで旅をしたことが有るかないかということです。
「この広海屋が、男なら、上方西国の手持ちの米を、思い切ってあずまに呼び、江戸市中の米価を引き下げ一時の損をして、未来の得を取るべきだ——と、つまりはそんなことをいわれていたのだな?」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
宣房の中納言御使にてあずまに下る。
武士を夷ということの考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
あずまさんというのは、たいそうおできになるのだね。」と、父兄会ふけいかいからかえっていらしたおかあさんが、いわれました。
生きぬく力 (新字新仮名) / 小川未明(著)
男の子ならばむろ唐船からふねへ売りわたし、眉目みめよい女子おなごだと京の人々が、千里もあるように考えているあずまの国から那須野なすのの原をさらに越えて、陸奥みちのくのあらえびすどもが
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは、上方かみがたからあずまへ下るほどの人に、「行きかふ人に近江路や」は悪くないとしても、これから、「いつかわが身のをはりなる」という辻占つじうらがよろしくないというわけです。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
喰い飢えた東京人、女にかわいたあずまの男は、滅多無性に安い食物と安い女を求めた。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
これはあずまの銭なしが、一年ひととせ思いたつよしして、参宮を志し、かすみとともに立出でて、いそじあまりを三河国みかわのくに、そのから衣、ささおりの、安弁当のいわしの名に、紫はありながら、杜若かきつばたには似もつかぬ
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「今頃お父う様はどこいらを旅なすっていらっしゃるだろう」と、穉い頃あずまから上ってきた遠い記憶を辿たどりながら、その佗びしい道すじの事を浮かべていると、父恋しさは一層まさるばかりだった。
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
清涼寺せいりょうじを過ぎ、北嵯峨の松尾神社の前まで来たとき、彼は近衆きんじゅのうちのあずま六右衛門をよび出して
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上古はかしこくも天武天皇が大友皇子の乱を避けてあずまに下り給いし時、伊勢より尾張へこの海を渡られたが、岸の遠きを思いわび給い、間遠なりと仰せられたところから、この名が起ったという。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あずまの方に久しくはべりて、ひたすら武士もののふの道にたずさわりつつ、征東将軍の宣旨せんじなど下されしも、思いのほかなるように覚えてはべりし——と仰せられて、お詠みになった歌
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幾度か養父の病気を見舞わんがためにあずまへ下ることを願ったが聞き入れられない、今のところ、この京都のお膝元から、近藤に離れられたのでは代るものがない、たとえ親の病気といえども
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それよりも、九州の果て、長崎の文明、また新しい都府と聞くあずまの江戸、陸奥みちのく大山たいざん大川たいせんなど——遠い方にばかり遊心が動いています。生れながら私には、放浪癖があるのかもわかりません
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「所はあずまの多摩川だが、これや見ン事、釜のふたの大負けだったな」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こよいは、そちや菊王も交じえて、心ゆくまで、別杯をもうよ。小右京に琴をひかせ、わしは琵琶を弾じよう。その支度、清々すがすがとしておけや。夜明けなば、あずま立ち、やかにここを立ち出でたい」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この檻車は、あずまを指してゆくのだぞ。日出ひいずあずまの果てを指して——。俺は、伊豆にながされてゆく。だが、そこから必ず窮民の曙光しょこうが、遠からぬうちに、さし昇って、この世の妖雲をはらうだろう」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
座敷の隅に、小机を抱えていた明智家の士、あずま六右衛門が
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、手土産の金一封を置いてあずまへ帰ったということである。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)