ふる)” の例文
旧字:
かるが故に、新たなる啓示が出現した時には、もって、ふるい啓示の上に築き上げられた迷信の大部分を掃蕩そうとうするの必要に迫られる。
新人が立ち、旧人はわれ、ふるい機構は、局部的にこわされてゆく。そしてまた局部的に、新しい城国が建ち、文化がはじめられて来た。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし今日……デモクラシーの今日においてなお英雄を崇拝するものあらばそれは個人の生存権利を知らないふるい頭の持ち主であります
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
その家は旧士族しぞくふるい家柄の家であった。そこには帝国文庫だの、それに類した本が十冊近くもあって、それがあこがれの的であった。
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
だがまだまだ、新鋭的尖端がようやふるき古色と雅味を追い出そうとする折から、新日本の新尖端的滋味雅趣を求める事は無理だろう。
ゆえにふるくからこれにて用いている梓の字はこのアズサから取り除かねばならぬのである。つまりアズサは梓ではないのである。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
郷里とは言っても、岸本があの谿谷たにの間の道を歩いて見たことは数えるほどしか無かった。通る度毎たびごとふるい駅路の跡は変っていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そういう保守的逆潮に対して微力の許す限り不承認の意向を述べた私などは大分いやな批難をふるい人たちから受けたようでしたが
婦人改造と高等教育 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
「あの皆川半之丞という、浪人者が教えてくれるかと思うと、大将は四五人のふるい弟子と奥の一と間に閉め切って立てこもり——」
そしてふるいのがあればみんな貸してほしいと言った。娘さんはその後一年分ほどの雑誌を持って来て、祖母たちの前で私に貸してくれた。
なおしからざるを申せば、帝ふるき事を語りたまいて、なんじ亮にあらずというや、とおおす。亮胸ふさがりて答うるあたわず、こくして地に伏す。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
でも、あんまりなお話でございますからね……。まあ、ふるいことといふだけが、幾分、お聴きづらくなく、聴いていたゞけるかと存じます。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
噴出の年代からいうと西雲仙火山がふるく、東雲仙火山は新たに噴出したものである。西雲仙火山の範囲は大きく、東雲仙火山の範囲は狭い。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
こんないきもらしながら、大伴氏のふるい習しを守って、どこまでも、宮廷守護の為の武道の伝襲に、努める外はない家持だったのである。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
ふるい記憶がこうのようにしみこんだそれらの物を見ると、葉子の心はわれにもなくふとぐらつきかけたが、涙もさそわずに淡く消えて行った。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
巴里パリイのルウヴル博物館はふるい王宮だけに壮麗であるが、始めから倫敦ロンドンの様に博物館として建てられたので無い為に不充分な所が多い様である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「いやその旗はふるくなったものだから棄てたので、かけ代え此処に在り」と云って新しい大文字の旗を掲げると逃げ出した。
長篠合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
夫人はふるい日本の婦人たちがこれまで少し行きづまるといつもすぐ決行したような安易な死を選ばずとも、もっと力強い積極的な態度をもって
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
で、住宅なども四囲に際立きわだって宏壮なものである。多くはふるくからの家柄で、邸の内外には数百年の老樹が繁っているのを見受けるのである。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
ふるいことを思い出してみても最初行きつけのお茶屋から彼女をぶには並み大抵の骨折りではおいそれと来てくれなかった。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
弁護士出の政治家でなければ、政事の実際が判らないもののやうに思ふのは、ふるい時代の習慣にとらはれた人達の事である。
きょうの果汁は西洋梨子なし。在来の日本の果物にはない繊細なかおりである。ふるい時代の人はこういう匂いを薬臭いといって嫌いもしたであろう。
胆石 (新字新仮名) / 中勘助(著)
金色の仏具に反映する柔かな光芒、感激に息を呑む聴衆、一堂の場景は何か尊厳な、ふるびたフィルムの様だった。藤本の論点は白東会に及んだ。
十姉妹 (新字新仮名) / 山本勝治(著)
ただただ九〇ふるあたをわすれ給うて、浄土じやうどにかへらせ給はんこそ、ねがはまほしき叡慮みこころなれと、はばかることなくまをしける。
そういっても、震災前の旧東京には、まだ昼席にふさわしい、ふるびた木づくりと、ちょっと小意気で古風な庭とをもったいろものの寄席があった。
随筆 寄席風俗 (新字新仮名) / 正岡容(著)
前者は服従性の減少した新しい人々には我慢ができず、後者は服従性になお富んでいるふるい人々にはとても気に入らぬ。
我らの哲学 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
「あんなふるいものは見殺しにするほどの度胸がなければ、新しいものを創生する大業は仕了しおわせられるものではない。」
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
また新たに進んで来たものは、ふるくゐるものをきまつて押しのけやうとしたがる。そこに、いやな争闘が起つて来る。
批評 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
それ故に一朝利害の標準の変るに従い、ふるき会盟を破って新しき会盟を結び、新しき与国の力を借りて旧き与国を伐つくらいの事は何でも無かった。
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
伊東とお玉とは長い知り合いで、そもそも伊東がこの町に土地をったことからして、お玉の周旋であった。お玉は伊東のふるい友人宝沢たからざわ従妹いとこである。
暴風雨に終わった一日 (新字新仮名) / 松本泰(著)
わが邦にてはふるきよしみある人をとて、御使おんつかいえらばるるやうなるためしなく、かかる任に当るには、別に履歴なうてはかなはぬことを、知ろしめさぬなるべし。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
一日がかりで東京から行かれるかなり有名なその温泉場の記憶は、津田にとってもそれほどふるいものではなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鉄馬創業てつばそうげふさい大通おほどほりの営業別えいげふべつ調しらべたるに、新橋浅草間しんばしあさくさかん湯屋ゆや一軒いつけんなりしと、ふるけれどこれも其老人そのらうじん話也はなしなり
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
ドイツでは極めてふるい(中世に迄溯った)小地方都市の歴史小説などが代表作となっているのは面白いことです。
ふるい本で絶版になりて手にいりにくい。著者のベンス、ジョンスという人は王立協会の秘書役をしていた人で、そのため材料を多く集められたのである。
大和民族の優勢を論ずるものは逆上のぼせぬよう、冷静なる学術上の研究に土台をえてかからねば、いたずらに国のふるきを誇ると同じように、威張った甲斐なく
民族優勢説の危険 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
尤も吉原では暖簾のふるい店でもあり、ほかにも地所や家作かさくなどをもっているので、まず相当に店を張っている。
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ふるい指導者は没落しても、新しい指導者がそれに代るだけのことで、大衆そのものが指導者になるのではない。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
その佗びしさを紛らすために二人はほとんど二日置きぐらいに連れ立って神戸へ出て、ふるい映画や新しい映画をあさって見、どうかすれば日に二つも見て歩いた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ふるいお馴染なじみださうで御座いますが、あの恰好かつこうは、商売人ではなし、万更の素人しろうとでもないやうな、貴方も余程よつぽど不思議な物をお好み遊ばすでは御座いませんか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ふるく正旦より七日に至る間鶏を食うを忌む。故に歳首ただ新菜を食い、二日人鶏に福施すとありて、正月二日の御祝儀として特に人と鶏に御馳走をしたのだ。
ふるき宗教を維持せんとするの結果、フランス国が失いし多くのもののなかに、かの国にとり最大の損失と称すべきものはユグノー党の外国脱出でありました。
学問の趣意を記してふるく交わりたる同郷の友人へ示さんがため一冊を綴りしかば、或る人これを見ていわく
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
家の中では、ふるい書生たちまで集って来て悦びをいいます。祖母は気丈な人でしたけれど、お辞儀をしただけで、涙ばかりいて、物はいわれませんかった。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
時はふるき暦の五月さつきにさへあれば、おのが時たゞいまと心いさみて、それよりのな/\目もあはず、いかで聞きもらさじとまちわたるに、はかなくて一夜ひとよは過ぎぬ。
すゞろごと (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
新らしく這入はいって来た男女のおかしみなどを咏じたもの等があるが、主としてこの句のように出て行くふる傭人やといにんの方のあわれを叙したものが最も多いのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
重大なるお尋ね者である半次は、天には勝てず、ふるい友達のバラックに潜伏しているところをとらえられた。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
丸髷まるまげ姿のふるい型の一人の女性しか知らず、センセイショナルな世間の恋愛事件をも冷やかに看過して来た不幸な一人の老作家を、浮気な悪戯心いたずらごころにせよ打算にせよ
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
大名の住めりしやしきなれば、壁と見せて忍び戸をこしらえ置き、それより間道への抜穴など、ふるき建物にはあることなり。人形のうしろの小座敷もこれと同じきものなるべし。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふるき代の富貴ふうき栄耀えようの日ごとにこぼたれ焼かれて参るのを見るにつけ、一掬いっきく哀惜の涙をとどめえぬそのひまには、おのずからこの無慚むざんな乱れをべる底の力が見きわめたい
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)