ざま)” の例文
何故に私たちは私たちの罪を素直にそのまま受け容れることをしないで、それを見苦しいざまをしながら弁解しようなどとするのだろう。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
そのざまは何のことぞ。それにても一朝事ある時は、上将軍家の御旗本を固むる公儀御自慢の八万騎と申されるかッ。笑止者めがッ。
「お延、貴様の好いたいい男もこうなっては、ざまがあるまい。脳天から鼻筋かけて、真ッ二つにして見せるから小六の腕を見物しろ!」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「見ろや、錢形とか何とか言つたつて、あのざまは何だい。石原の親分が病氣でなきア、あんな馬鹿なことを默つて見ちや居めえ」
この恐ろしい不思議な死にざまを見た紅矢の両親は、足の裏が床板に粘り付いたように身動き一つ出来ず、涙さえ一滴も落ちませんでした。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「一体これは何というざまだ!」とイワン・ドミートリッチはそろそろだだをねはじめた、「一歩あるけば、きっと紙屑かみくずを踏んづけるんだ。 ...
富籤 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
こま/\した幾つかの小さな畑に区劃くくわくされ、豆やら大根やらきびやらうりやら——様々なものがごつちやに、ふうざまもなく無闇むやみに仕付けられた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
だが、僕等は犯人を少し買被かいかぶっていたようだね。パーフェクト・クライムだなんて大きなことを云って、あのざまは何だろう。
「アイゴ! こんげ怨めしいことがあるだか、一体何が悪えだよ。わたしにこんな乞食ざまをさせるのあ一体何処どこ何奴どいつだよ……アイゴオオオ」
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
あいちやんは其處そこ彼等かれらまはるのをて、偶々たま/\自分じぶん以前まへしうに、數多あまた金魚鉢きんぎよばちくりかへしたときざまおもおこしました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
四年にもなる今日迄、まだこんなざまをして居りますと云はなければならない女の苦痛は、決してなみ大抵ではあるまい。
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
机を捧げさせられたり、線香を持たされたり、ざまはない。これが癪に障った。此方は何処までも侍の子だという頭がある
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「バンザーイ」「ざまを見ろ!」「労働者フレーフレー」などといいながら扉の外の火夫たちは、ドヤドヤと立ち去った。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
若い男は、彼の手を離れて、コンクリートの床の上に叩きつけられたが、二た眼と見られたざまじゃなかった。旦那どのは、別にとがめられもしなかった
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「うん。……五郎蔵め、よく出しおった。旧悪ある身の引け目、ざまア見ろだ。……お浦、いうことを諾いたら、金をくれるぞ。十両でも二十両でも」
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
やい、このざまはどうしたのだ。と口なる手拭退けてやれば、お録はごほんとき入りて、「はい、難有ありがとうございます。 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仰向けざまに泡を吹いて顛落し、其の儘意識を失い、其の夜は肝心の疑惑を晴らす事が不可能に終ったのであります。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
ざまを見な! そんな真似をさせちゃ置かないんだよ。他処の者に働かせて、たった一人の血を分けた弟を追っぱらおうたって、そうは行かないんだ!」
その左官が黒のよごれた詰襟の洋服と、破れ靴で流れ歩いているんだが、それは全く二目と見られたざまではない!
放浪の宿 (新字新仮名) / 里村欣三(著)
町人にしては濶達ないい気性の男だッたが、惜しい男を死なせてしまった。お前がこんなざまで死んだと聞いたら、お種さんは涙の壺を涸らすこッたろう。
こと日間ひるまは昨夜の花があか凋萎しおたれて、如何にも思切りわるくだらりとみきに付いたざまは、見られたものではない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「あんまり人にれ過ぎるからそんなざまを見るんだ」といいつつ二階に駆け上って、函を置いて降りて来ると
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
こんな友誼なら掬摸児キンチャクキリなどにも能くある。一杯飲んで怪しからぬざまをしてこうだああだと喋り出しては喧嘩になる。がまた感心なことにはぐ仲直りをする。
イエスキリストの友誼 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
これを悪く言う者は乞食釣こじきづりなんぞと言う位で、魚が通ってくれなければ仕様がない、みじめなざまだからです。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
好いざまだ、その間に俺達はゆつくりと酒でも楽しまうぢやないか……そんな太平楽を並べながら悦に入つてゐる雲奴に見えて来る! といふんだから堪らない
円卓子での話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
こんなざまにしたなあ誰だ、素っ堅気のお店者たなもの、これっぽっちも世間の汚れを知らなかった者を、だまし放題に騙しゃあがって、大恩ある主人の金を持ち逃げさせ
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「死ね、死ね。お前も一旦棄てた男なら、今更みつとも無いざまを為ずに何為なぜ死ぬまで立派に棄て通さんのだ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
濃艶な寝間着姿の女が血のしたゝる剃刀かみそりを口にくわえ、虚空こくうを掴んで足許に斃れて居る男の死にざまをじろりと眺めて、「ざまを見やがれ」と云いながら立って居る。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
草原くさっぱらの中へ土下座をしたが、あのざまは何うか、実に憎むべき所業である、さア手前のような奴を助け置かば衆人の害になる、なれども、己は盗賊を斬る役でもなし
なぜあれ程惨酷な殺しざまをしなくてはならなかつたかと云ふ動機がどうしても見付からないからだ。
「このざまあ見てくんな。」さう、チェレヸークはグルイツィコの方へ向きなほつて言葉をつづけた。
この現実するところの世界は、彼等にとって不満であり、欠点であり、悪と虚偽とに充たされている。実に有るべきところの人生は、決してこんなざまであってはならない。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
「どういう御用か知らねえが、お旗本のお使いならなおのこと、こんなざまじゃお目に掛れねえ。——御無礼でござんすが、ふせっておりますからと申上げて、お断りしねえ」
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
生めよやせよだなんて言ってるが、ろくでもない奴を生んで殖やしたこの世のざまはどうだ。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
不図ふと、俺は気がついた、何といふ坐りざまだ、まるでおまへ肉体からだは白痴の女見たいにぶくぶくだねえ、だらしのない、どんなに暑くたつて、もつとチヤンと坐つておゐでなさい。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
からだは今朝から長いあいだ、窮屈なざまをしているので、方々が痛い。——その疲れた目を、力なく後に残り続いて行く道の上に落とした。見るとなしに道が目にはいっていた。
月見草 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
いつも車が衝突しても電車から人が落ちても極めて冷淡に見向きもしない先生さへ餘りに激しい轉びざまに、覺えず「あぶない」と叫んで手づから扶起たすけおこさうとするらしく寄添つたが
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
「どうしたんです、この道路みちざまは。東京にはまる道路みちらしい道路みちはないんですね。」
そのざまは! 男のつら汚し! 片棒担いでくれ、栄耀栄華えいようえいがは思いのままだ、俺は国王陛下の弟だ、と年中大口たたいてたのは、どこの誰だい! 女たらしのカタリ犬め! よくもよくも
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
彼奴あいつや、村の奴等のために、おれはもう少しで狂気きちがいにされるところだった……が、もう大丈夫だ……お前はおれと一緒になったときは、キャラコの襦袢じゅばん一枚しか持たないようなざまだったが
生さぬ児 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「女将、すると明日の晩は、僕か君かということになるね。なにも、そんなに顫えることはないだろうよ。七つの海を股にかけたお勢ともあろうものが、このに及んで、なんというざまだ」
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
殊に科学者はておき哲学者といふ奴は多くは先哲の蓄音器である。少し毛色が違つたかと思つて能く/\聞くと妄想組織が脳に生じたのを白状してゐるざまだ。今の学者は例へば競売せりうり屋だ子。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
吾妻のワナ/\とふるへるかほを、川地課長はひややかにながめて「其のざまは何だ、吾妻、貴様も年の若いに似合はず役に立つ男と思つて居たが、案外の臆病だナ、其れでも警察の飯を食つて居るのか」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「なんだ、その面で。宿場の飯盛めしもりぢやあるまい、この部屋のざまは何だ。」
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
その身体のことも忘れて了つて、一日も休まずに社会と戦つて居るなんて——何といふ狂人きちがひざまだらう。あゝ、開化した高尚な人は、あらかじめ金牌を胸に掛ける積りで、教育事業なぞに従事して居る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「何や、そのざまは! そんな行儀がおすかいな!」と厳しく叱られた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
僧一 ——何という呆れたざまだ。僧が女の手を執り合って泣いて居る。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
何だこのざまは! さっきからいくら玄関で呶鳴ったって、下駄がちゃんと脱いであるのに、返事をしやがらねえ、変だと思っているうちに奥の方でドタンバタンと音がするから来て見ればこの体だ。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「男がしきりに、離縁しようとしながら、このざまはなんです」
青蛙神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「表じゃ、何んとか、かんとか偉いこと云ってこのざまなんだ」
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)