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怒濤
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どとう
ふりがな文庫
“
怒濤
(
どとう
)” の例文
男は大股に、私の方から逃げてゆく。心のなかでは、疾風
怒濤
(
どとう
)
が吹きつけていながら、生きて境界のちがう差異が私には判って来る。
新版 放浪記
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
唯々衝突が、岩に当る
怒濤
(
どとう
)
のように繰返された。彼等は息が切れた。声をも立てられなかったのに、其処には劇しい騒音があった。
決闘場
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
市
(
まち
)
の人々は、涙ながらに少年たちの
追善
(
ついぜん
)
をやっているとき、富士男はサクラ号のふなばたに立って、きっと
泡
(
あわ
)
だつ
怒濤
(
どとう
)
をみつめていた。
少年連盟
(新字新仮名)
/
佐藤紅緑
(著)
耳
(
みゝ
)
を
傾
(
かたむ
)
けると、
何處
(
いづく
)
ともなく
鼕々
(
とう/\
)
と
浪
(
なみ
)
の
音
(
おと
)
の
聽
(
きこ
)
ゆるのは、
此
(
この
)
削壁
(
かべ
)
の
外
(
そと
)
は、
怒濤
(
どとう
)
逆卷
(
さかま
)
く
荒海
(
あらうみ
)
で、
此處
(
こゝ
)
は
確
(
たしか
)
に
海底
(
かいてい
)
數十
(
すうじふ
)
尺
(
しやく
)
の
底
(
そこ
)
であらう。
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
津幡
(
つばた
)
を留守していた城中の将士は、末森方面から、にわかに逆転して来た佐々勢の
怒濤
(
どとう
)
を認め、すわと、
洪水
(
こうずい
)
を見たように騒ぎたった。
新書太閤記:11 第十一分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
▼ もっと見る
万寿丸はデッキまで沈んだその船体を、太平洋の
怒濤
(
どとう
)
の中へこわごわのぞけて見た。そして思い切って、乗り出したのであった。
海に生くる人々
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
またあるときは、ひくい
暗雲
(
あんうん
)
の下に、帆柱のうえにまでとどく荒れ狂う
怒濤
(
どとう
)
をかぶりながら、もみくちゃになってただようこともあった。
恐竜島
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
そのころは風も吹きつのるばかりだし、雨も
凄
(
すご
)
いような降りかたで、屋敷ぜんたいが
怒濤
(
どとう
)
に
揉
(
も
)
まれてでもいるような感じだった。
榎物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
いったい私たちの年代の者は、過去二十年間、ひでえめにばかり
遭
(
あ
)
って来た。それこそ
怒濤
(
どとう
)
の葉っぱだった。めちゃ苦茶だった。
十五年間
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
村人は総出になったが、火はふくれ拡がり、深く野の
胴腹
(
どうばら
)
を
抉
(
えぐ
)
って山麓の方に、
怒濤
(
どとう
)
状の起伏を音響のある火風になって押し寄せて行った。
野に臥す者
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
音に聞えた昔の海賊村上流の水軍でも、又、山のような
怒濤
(
どとう
)
をものともしなかったバイキング海賊でも、この水門だけは乗り切れないだろう。
昭和遊撃隊
(新字新仮名)
/
平田晋策
(著)
但し、環礁の外は相変らず
怒濤
(
どとう
)
の
飛沫
(
しぶき
)
が白く立っているらしい。耳をすませば、確かに其の音が地鳴のように聞えて来る。
光と風と夢
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
と叫んだときに、彼の生れつき低い声が
怒濤
(
どとう
)
のように高まってブルブルとふるえた。弁護人のいかなる言葉も及ばない悲痛なプロテストであった。
被告席の感情
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
そこへ、山のような
怒濤
(
どとう
)
が、ざぶっ、とやって来た。ただひとのみ。あっというまに、伝馬船も人も、見えなくなった。
無人島に生きる十六人
(新字新仮名)
/
須川邦彦
(著)
ただ貞之助の場合にはその海を東の岸から展望したのであるが、妙子はその海の殆ど真ん中に立って、四方を取り巻く
怒濤
(
どとう
)
を見渡した訳であった。
細雪:02 中巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
それなればこそ、
撫
(
な
)
でるような、柔らかな、
霰
(
あられ
)
のたばしるような、
怒濤
(
どとう
)
のくるような響き——あの幽玄さはちょっと、再び耳にし得ない
音色
(
ねいろ
)
だった。
朱絃舎浜子
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
巨大な壁が真っ二つに崩れ落ちるのを見たとき、私の頭はぐらぐらとした。——幾千の
怒濤
(
どとう
)
のひびきのような、長い、
轟々
(
ごうごう
)
たる、叫ぶような音が起った。
アッシャー家の崩壊
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
これはお話が余事に
外
(
そ
)
れ恐れ入りましたが、左様な御気象をお持ち遊ばす方々で
在
(
いら
)
せられますから、ナニ暴風
怒濤
(
どとう
)
なんぞにビクとも為さる気遣いはない
根岸お行の松 因果塚の由来
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
始めから終わりまで繰り返さるる
怒濤
(
どとう
)
の実写も実に印象の強く深い見ものである。波の音もなかなかよく
撮
(
と
)
れていて、いつまでも耳に残るような気がした。
映画雑感(Ⅳ)
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
その感情の波は共鳴作用によって、見る見る振幅を増し、あたりの大気をブルブルと震わせ、果ては
怒濤
(
どとう
)
のごとき力をもって二人を圧倒し去るのであった。
偉大なる夢
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
年代
茫々
(
ぼうぼう
)
たり、暦日茫々たり、高天茫々たり、海洋茫々たり、山岳茫々たる時に、鹿島灘の
怒濤
(
どとう
)
の土を踏んで、
経津主
(
ふつぬし
)
、
武甕槌
(
たけみかずち
)
の両神がこの国に現われた。
大菩薩峠:28 Oceanの巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
壮
(
わか
)
い漁師は、赤い
手柄
(
てがら
)
をかけた女房を引っ抱えるようにして裏口に出たが、白い
牙
(
きば
)
を
剥
(
む
)
き出して飛びかかって来た
怒濤
(
どとう
)
に
捲
(
ま
)
き込まれて、今度気が
注
(
つ
)
いた時には
月光の下
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
(だが、彼の力の絶したところに、やはり死守すべきものがあることだけは疑えなかった)生計の不安や激変の世の姿が今
怒濤
(
どとう
)
となって身辺にあれ狂っていた。
冬日記
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
万里の海風が
颯々
(
さっさつ
)
として、ここに立っていても
怒濤
(
どとう
)
の
飛沫
(
しぶき
)
でからだから、
雫
(
しずく
)
が滴り落ちそうな気がします。
墓が呼んでいる
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
伊東は
苛々
(
いらいら
)
しながら裏の小窓を開けて、雨の吹き込む中に
闇
(
やみ
)
を透かしたり、また表側に回っていって、
怒濤
(
どとう
)
の荒れ狂う暗い海の中に見えないボートを捜し求めた。
暴風雨に終わった一日
(新字新仮名)
/
松本泰
(著)
百雷の様な
吶喊
(
とっかん
)
の声、暗夜の磯の
怒濤
(
どとう
)
の様な
闘錚
(
とうじょう
)
の声を、遠く聞きながら無難に過ぎることが出来た。
東京市騒擾中の釣
(新字旧仮名)
/
石井研堂
(著)
宝貝の需要がさまで痛切ならず、人がそのために身命を
賭
(
と
)
し、
怒濤
(
どとう
)
を乗り切るまでの大きな
刺戟
(
しげき
)
がなくなったのは、
徐福
(
じょふく
)
のローマンスよりもさらに前のことであろう。
海上の道
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
椴松帯
(
とどまつたい
)
が向うに見えた。
凡
(
すべ
)
ての
樹
(
き
)
が裸かになった中に、この樹だけは
幽鬱
(
ゆううつ
)
な暗緑の葉色をあらためなかった。真直な幹が見渡す限り天を
衝
(
つ
)
いて、
怒濤
(
どとう
)
のような風の音を
籠
(
こ
)
めていた。
カインの末裔
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
もし大洋が堤防を築くとするならば、おそらくかかる
防寨
(
ぼうさい
)
を築くであろう。狂猛な
怒濤
(
どとう
)
の跡はその
畸形
(
きけい
)
な堆積の上に印せられていた。しかもその怒濤は、下層の群集だったのである。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
宮田が悲鳴をあげたとき、二人の身体は、そこで一回転すると、もつれ合ったまま、四間に近い断崖を、折りしも砕け散った
怒濤
(
どとう
)
のしぶきの中へ、烈しい水音を立てながら転落した。
第二の接吻
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
草の花が、どっと
怒濤
(
どとう
)
の寄せるように咲き出して、山全体が花原見たようになって行く。里の麦は刈り急がれ、田の原は一様に青みわたって、もうこんなに伸びたか、と驚くほどになる。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
狂乱に近い画家の精神が一種の自爆性を帯びて激しく発散する。いかなる
怒濤
(
どとう
)
にも
滅
(
ほろぼ
)
されまいとする情意の熱がそこに
眩
(
まばゆ
)
いばかりの
耀
(
かがや
)
きを放って、この海景の気分をまとめようとあせる。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
大風
(
たいふう
)
の
颯々
(
さっさつ
)
たる、
怒濤
(
どとう
)
の
澎湃
(
ほうはい
)
たる、
飛瀑
(
ひばく
)
の
※々
(
かくかく
)
たる、あるいは洪水天に
滔
(
とう
)
して
邑里
(
ゆうり
)
を
蕩流
(
とうりゅう
)
し、あるいは両軍相接して弾丸
雨注
(
うちゅう
)
し、
艨艟
(
もうどう
)
相交りて水雷海を
湧
(
わ
)
かすが如き、皆雄渾ならざるはなし。
俳諧大要
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
聞きとれぬくらい低い声で、どっと押しよせて来る言葉の
怒濤
(
どとう
)
をくぐりぬけ、けろッとした表情であった。彼は来訪者のうえに
漠
(
ばく
)
とした視線を置いたが、注意がそこにあるとは見えないのだ。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
生れ落ちると
怒濤
(
どとう
)
の声を聞き、山なす激浪を眺め、長ずれば
梶
(
かじ
)
も取り
櫓
(
ろ
)
も漕ぎ、あるいは深海に飛込んで魚貝を
漁
(
あさ
)
って生活しているので、
自
(
おのずか
)
ら意志が強固になり、独立自存の気象に富んでいる。
平塚・山川・山田三女史に答う
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
無言! とはいえ
磅礴
(
ほうはく
)
とした殺気!
怒濤
(
どとう
)
! 藪を背に切り込んで来た。
血煙天明陣
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
数百尺の大
断崖
(
だんがい
)
から落ちて、湧き返る
怒濤
(
どとう
)
の中に押し流され、それっきり死骸も上がらなかったという事件は、当時神田日本橋かけての噂になったことを、平次はまざまざと記憶していたのです。
銭形平次捕物控:056 地獄から来た男
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
まぐろのいろの
狂爛
(
きょうらん
)
のかげにたぎり立つ油の音の
怒濤
(
どとう
)
である。——が、かつてそこは、入るとすぐおもてに
粗
(
あら
)
い格子を入れて左官の親方が住んでいた。その隣に「きくもと」という待合があった。
雷門以北
(新字新仮名)
/
久保田万太郎
(著)
二人
(
ふたり
)
はあの
怖
(
おそ
)
ろしいあらしの
夜
(
よ
)
を
怒濤
(
どとう
)
にもまれて、
真
(
ま
)
っ
暗
(
くら
)
な
中
(
なか
)
を
漂
(
ただよ
)
っていたこと、また、
夜
(
よ
)
が
明
(
あ
)
けると、
青
(
あお
)
い、
青
(
あお
)
い、はてしもない
海
(
うみ
)
の
上
(
うえ
)
を、
幾日
(
いくにち
)
も、
幾日
(
いくにち
)
も
漂
(
ただよ
)
っていたこと、そしてそのあげくに
幸福に暮らした二人
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
怒濤
(
どとう
)
岩を
噛
(
か
)
む我を神かと
朧
(
おぼろ
)
の
夜
(
よ
)
五百句
(新字旧仮名)
/
高浜虚子
(著)
怒濤
(
どとう
)
……。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
と、一戦に備えたが、稲富伊賀が変心して、一方の門を敵方に
委
(
ゆだ
)
ねたので、三成の兵は、
怒濤
(
どとう
)
のように門内へなだれこんで来た。
日本名婦伝:細川ガラシヤ夫人
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
富士男のことばがおわるかおわらないうちに、大山のごとき
怒濤
(
どとう
)
が、もくもくとおしよせたかと見るまに、どしんと
甲板
(
かんぱん
)
の上に落ちかかった。
少年連盟
(新字新仮名)
/
佐藤紅緑
(著)
馳駆
(
ちく
)
する騎馬、討合う軍兵、敵も味方も入乱れて、
雄叫
(
おたけ
)
びと
鬨
(
とき
)
の声と、さながら荒れ狂う
怒濤
(
どとう
)
のような白兵戦になった。
蒲生鶴千代
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
難破船は、薄やみの中に、
暴
(
あ
)
れ狂う
怒濤
(
どとう
)
の中に、伝奇小説の中で語られた悲しき運命の船のごとくに、とり残された。
海に生くる人々
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
こういっているうちにも、船はよく走って、陰気な岩山も、
怒濤
(
どとう
)
のひびきも、いつか後方はるか、水平線のかなたに、だんだん小さくなっていった。
無人島に生きる十六人
(新字新仮名)
/
須川邦彦
(著)
たのみにおもう無電はきかず、愛機は雨と風とにたたきつけられ、ともすれば車輪がざざーっと
怒濤
(
どとう
)
に洗われます。
怪塔王
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
泣
(
な
)
く
聲
(
こゑ
)
、
喚
(
わめ
)
く
聲
(
こえ
)
、
哀
(
あはれ
)
に
救助
(
たすけ
)
を
求
(
もと
)
むる
聲
(
こゑ
)
は、
悽
(
すさ
)
まじき
怒濤
(
どとう
)
の
音
(
おと
)
と
打交
(
うちまじ
)
つて、
地獄
(
ぢごく
)
の
光景
(
ありさま
)
もかくやと
思
(
おも
)
はるゝばかり。
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
これが実現した暁には北西の空からあらゆる波長の電磁波の
怒濤
(
どとう
)
が
澎湃
(
ほうはい
)
としてわが国土に襲来するであろう。
北氷洋の氷の割れる音
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
恋の身投をするならば、よし死にきれずとも、そのこがれた胸のおもいが消えうせるという迷信を信じ、リュウカディアの岬から
怒濤
(
どとう
)
めがけて身をおどらせた。
葉
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
“怒濤”の意味
《名詞》
怒濤(どとう)
荒れ狂う大きな波。
はげしい勢いで押し寄せたり、押し進んだりするさま。
(出典:Wiktionary)
怒
常用漢字
中学
部首:⼼
9画
濤
漢検準1級
部首:⽔
17画
“怒濤”で始まる語句
怒濤澎湃
怒濤重畳