帰依きえ)” の例文
旧字:歸依
島原方の農民一揆勢は天草方と合流し籠城してのちに自然に宗門に帰依きえしたもので、その信仰は行きがかりのにわかづくりであったし
安吾史譚:01 天草四郎 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
今の三一阿闍梨あじやり何某なにがし殿の三二猶子いうじにて、ことに三三篤学修行の聞えめでたく、此の国の人は三四香燭かうしよくをはこびて帰依きえしたてまつる。
「そうれみろ。庶民から上層の女まで、念仏に帰依きえした女性というものはたいへんな数だ。内裏だいりの女官のうちにも、公卿くげの家庭にも」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
予は即座に自殺を決心したれども、予が性来の怯懦けふだと、留学中帰依きえしたる基督教キリストけうの信仰とは、不幸にして予が手を麻痺まひせしめしを如何いかん
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
つくられたものは、つくりぬしの計画のなかに自分の運命を見いださねばならぬのだ。その心をまかすというのだ。帰依きえというのだ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
大衆 ——御教に帰依きえし奉る。誓って御教の如く解し行じ持ち、またあまねく一切に施さん。南無生命体。南無生命相。南無生命用。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
たとい伯父を信仰に帰依きえさせることができないまでも——(もとよりいよいよの場合にはそうしてやるとみずから誓っていたが)
用を離れる限り、美は約束されておらぬ。正しく仕える器のみが、正しき美の持主である。帰依きえなくば宗教に生活がないのと同じである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
戦争の最中、僕は宗教的帰依きえ心について考えっづけてきた。唯一者への全き帰依——この情熱が遺憾ながら僕にあっては不安定なのである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
「成程、人出は銀座や日本橋以上だ。この筋だね、榊原君の親父さんが若い時夏帽子を買って翻然ほんぜん基督教キリストきょう帰依きえしたのは?」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
仏の道に帰依きえしたくせに、人をうらむなんてと思いながら、やっぱり若くてお美しい貴女の面影が心を悩ましていたんです。
不思議にもアーメン嫌いな小父さんの家の親戚には、基督教に帰依きえした人達があって、しかもそれらの人達は皆貧しかった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
恵林寺が夢窓国師むそうこくしの開山であって、信玄の帰依きえの寺であり、柳沢甲斐守の菩提寺ぼだいじであるということ、信長がこの寺を焼いた時、例の快川国師かいせんこくし
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
乾徳山けんとくざん恵林寺えりんじの住職、大通智勝国師快川は、信玄帰依きえの名僧であって、信玄は就いて禅法を学びまた就いて兵法を修めた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
愛せらるべき、わが資格に、帰依きえこうべを下げながら、二心ふたごころの背を軽薄のちまたに向けて、何のやしろの鈴を鳴らす。牛頭ごず馬骨ばこつ、祭るは人の勝手である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これはかねて私に帰依きえしてゐる或る町家ちやうかの一人娘が亡くなつたので、その親達から何かのしろにと言つて寄進して参つたから、娘の菩提ぼだいのためと思つて
或は利得の故に教会に結び、或は逆遇に苦しみて教理に帰依きえす、かくの如きは今日の教会にめづらしからぬ実状なり。
各人心宮内の秘宮 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
されど十二月まで瓢枯れず取るに随って多くなったから、皆人『法花経』のすぐれるを知って法蓮に帰依きえしたと記す。
天平五年、和尚四十六歳のころには、淮南江左わいなんこうさに和尚より秀でた戒師なく、道俗これに帰依きえして授戒大師と呼んだ。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
顧み「わがツァーラン村に居る間親切にしてくれた人々がますます仏道に帰依きえして永く幸福を受けらるるように」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
此の外にも敦忠中納言の子右兵衛佐佐理すけまさ、その子の岩倉の菩提房文慶等があり、これらはいずれも佛道に帰依きえしたお蔭で禍を免れることが出来たのであるが
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それよりも、仏道に帰依きえし、衆生済度しゅじょうさいどのために、身命を捨てて人々を救うと共に、汝自身を救うのが肝心じゃ
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
三昧の夢の法界に、生死を繰り返す無尽性に、固定を通ずる無礙性むげせいに、その真実性に、われらは帰依きえし奉る。
家康が千代田城を政権の府とした頃、半蔵門の近くに観智国師という高僧がいおりを結んでいた。家康はその徳に帰依きえして、国師に増上寺の造営を嘱したのである。
増上寺物語 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
かれの心がこの門に引かれたと同じやうに、かれの読経の声に心も魂も帰依きえせずにはゐられないやうな女が其処に一人ゐたのであつた。それはかの女であつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
その恐ろしい病からのがれしめたいとひそかに切支丹きりしたん帰依きえして、神様にお祈りをしたので御座います。
血友病 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
しかしおもに、そしてきわめてうれしい規則正しさで、なぎさの午前が、あのかわいい姿に帰依きえと研究とをささげる長い機会を、かれに提供してくれた。そうだ。
「どうか知らん。独身でいるのさえ変なのに、おまけに三宝に帰依きえしていると来るから、溜まらない。」
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
宗教は絶対の神仏に帰依きえし、完全に自己を否定することによって、救いと安心立命あんじんりゅうめいを得ようとする。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
民心をその法刑主義に帰依きえせしめたものであって、その機智感ずべきものがないではないが、かくの如き児戯をもって法令をもてあそぶは、吾人の取らざるところであって
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
何がさて南蛮キリシタン国は広大富貴ふうきの国なれば、投薬の報謝、門徒の布施は一せつ受けぬ。かえつて宗門に帰依きえする者には、毎日一人あて米一しょう、銀八分をば加配する。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
一家が帰依きえしている学識のある僧侶そうりょに相談して、町の人がその問題に興味をもちはじめたのを防いだが、相続人だから千円のお金を附けたということを、町ではうわさした。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
私の家では代々の法華宗ほっけしゅうで、ことにも私の代になりましてから、深く日蓮にちれん様に帰依きえつかまつって、朝夕南無妙法蓮華経なむみょうほうれんげきょうのお題目を怠らず、娘にもそのように仕込んでありますので
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
信仰のむくいとして来世における永遠の生命を把握はあくしようとするならば、今後すみやかに悔い改めて神に帰依きえし、努めて悪をなさず、善をおこなおうと心がけなければならない。
この志一上人はもとより邪天道法成就の人なる上、近頃鎌倉にて諸人奇特きとくおもいをなし、帰依きえ浅からざる上、畠山入道はたけやまにゅうどう諸事深く信仰頼入たのみいりて、関東にても不思議ども現じける人なり」
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
で、芸術以外に宗教にも趣味を持って、殊にその内でも空也くうやは若い頃本山から吉阿弥の号をもらって、ひさごを叩いては「なアもうだ/\」を唱えていた位に帰依きえしていたのでありました。
我が宗教観 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
媚態と「諦め」との結合は、自由への帰依きえが運命によって強要され、可能性の措定そていが必然性によって規定されたことを意味している。すなわち、そこには否定による肯定が見られる。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
それからまた荘園の諸役、公文くもんとか案主あんじゅとかの給与せられた田畠、鎮守・菩提寺の帰依きえ尊信を意味する寄附地・除地・免地なども、多くは地名になってその当時の状況をうかがわしめる。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
平素深く仏教に帰依きえして、仏前の勤め怠ることなく、暇さえあれば御寺に参詣さんけいして説教を聴聞し、殺生戒をたもちて、のみまでも殺さぬほどの信者でありしゆえ、近所近辺にては
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
其の頃向島の白髭に蟠竜軒という尼寺がございまして、それに美惠比丘尼という人が有りまして、能く人の未来の吉凶禍福を示しますので、これに帰依きえする信者も多分にございます。
ひいじいさんかが、切支丹キリシタンの邪宗に帰依きえしていたことがあって、古めかしい横文字の書物や、マリヤさまの像や、基督キリストさまのはりつけの絵などが、葛籠つづらの底に一杯しまってあるのですが
鏡地獄 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
桂昌院の帰依きえを得た僧隆光の為に、元禄元年三月、神田橋外の地を相して建てた七堂伽藍で、その結構は眼を驚かすばかり、徳川最盛時の財力を傾けて建立こんりゅうしただけに、本堂の如きは
斯う噂をして居たが、和上に帰依きえして居る信者しんじやなかに、きやう室町錦小路むろまちにしきのこうぢ老舗しにせの呉服屋夫婦がたいした法義者はふぎしやで、十七に成る容色きりやうの好い姉娘あねむすめ是非ぜひ道珍和上どうちんわじやう奥方おくがた差上さしあいと言出いひだした。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
我国本土のうちでも中国の如き、人口稠密ちうみつの地に成長して山をも野をも人間の力でたひらげ尽したる光景を見慣れたる余にありては、東北の原野すら既に我自然に帰依きえしたるの情を動かしたるに
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
宗教に入つて、すくなくも朝と夕方に、帰依きえする気持があれば、謙譲は持続しやすく、さうであれば、詩的恍惚もミツチリと感じられ、漸次に味の深いものが、生れるやうになる筈だと思つた。
詩壇への抱負 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
その頃、桜井家の一人娘で小町とうたわれたのがあって聖人に帰依きえして、親鸞常陸を去るにのぞんで召連れられんことを懇願したがゆるされない。そこで板敷山の麓の池に身を投げて死んだ。
加波山 (新字新仮名) / 服部之総(著)
我々はかかる場合において、深く己の無力なるを知り、己を棄てて絶大の力に帰依きえする時、後悔の念は転じて懺悔ざんげの念となり、心は重荷をおろした如く、自ら救い、また死者に詫びることができる。
我が子の死 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
神通は連山をまたいで慟哭どうこくし「黒い魔術」は帰依きえ者を抱いて大鹹湖だいかんこへ投身した。空は一度、すんでのことで地に接吻せっぷんしそうに近づき、それから、こんどはいっそう高く遠く、悠々ゆうゆうと満ち広がった。
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
その次にはセルギウスを信じてゐる、宗教心の深い母親が、大学教授をしてゐて、信仰のまるでない、若い息子を連れて来て、出来る事なら帰依きえさせて貰はうとした。此対話はひどく骨が折れた。
不埓の所業仕候段慚愧ざんきに堪えず候間、重なるわが罪悔悟かいごのしるしに、出家遁世仏門しゅっけとんせいぶつもん帰依きえ致し候条、何とぞ御憐憫ごれんびんを以て、家名家督その他の御計らい、御寛大の御処置に預り度、右謹んで奉願上候。