小路こみち)” の例文
かかる折から、柳、桜、緋桃ひもも小路こみちを、うららかな日にそっと通る、とかすみいろど日光ひざしうちに、何処どこともなく雛の影、人形の影が徜徉さまよう、……
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
騎馬の兵士が大久保柏木かしわぎ小路こみちを隊をなしてせ廻るのは、はなは五月蠅うるさいものである。いな五月蠅いではないしゃくにさわる。
ひるまだと、この公園のつるつるしたけわしい小路こみちを、大ぜいの人たちが、しょっちゅう散歩さんぽしては、谷間を流れるはげしい流れをながめるのです。
お庄はごちゃごちゃした裏通りの小路こみちを、そっちへゆきこっちへ脱けしているうちに、観音堂前の広場へ出て来た。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
左右が柴垣しばがきになっている小路こみちを通り、浅い流れも踏み越えて行く馬の足音なども忍ばせているのであるが、薫の身についた芳香を風が吹き散らすために
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その様子が傷心のあまり今にも発狂しそうなので、華大媽は見かねて身を起し、小路こみちを跨いで老女にささやいた。
(新字新仮名) / 魯迅(著)
この呑気のんきな長蔵さんと、さらに呑気な小僧に赤毛布あかげっとと、それから見様見真似みようみまねで、大いに呑気になりかけた自分と、都合四人で橋向うの小路こみちを左へ切れた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いやでもおうでも菜の花の咲いている景色をそのままに写さねばなるまい。菜の花畑の間に細い小路こみちがあるのが面白ければ、その小路も写さなければなるまい。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
どくなれど此處こゝれて眞直まつすぐゆきしゝと小路こみちりぬ、なんこと此路このみち突當つきあたり、ほかまがらんみちえねば、モシおたくはどのへんでと覺束おぼつかなげにとはんとするとき
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
各〻、三千騎をひきい、武功山の小路こみちれ。魏軍を見ても、これを討つな。ただとどろかせ喊声かんせいを張れ。敵おのずから走るであろうが、なお追うな、また討つな。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藪の小路こみちを出ると墓地がある。古墳累々と崖の小高いところに並んで、月の光を受けて白く見える。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
この寺は谷あいのやや高みに、杉の森などがあって屋の端が見え、それから下りてくる小路こみち三辻みつつじになったあたりを、在所の者とは見えぬ女性が四五人で通っている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私達わたくしたち辿たど小路こみちのすぐした薄暗うすぐら谿谷たにになってて、樹叢しげみなかをくぐる水音みずおとが、かすかにさらさらとひびいていましたが、せいか、その水音みずおとまでがなんとなくしずんできこえました。
空家と見ると片っぱじからさぐってみたり、袋町という袋町に踏み込んだり、ゴミゴミした小路こみちをうかがったり、結局とんでもないところに出てしまう曲り路に這入りこんだりした。
以前もとの文芸協会のあった方に建って、古いお住居や、お庭や、畑の方は荘田家で買いとり、小路こみちも新しくついていたが、まだ、先生のおうちと朱絃舎の間には、空地あきちがあって、大きなが二
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
池の北側の小路こみちなぎさについて七、八町まわれば養安寺村である。追いつ追われつ、草花を採ったり小石を拾って投げたり、蛇がいたと言っては三人がしがみ合ったりして、池の岸を廻ってゆく。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
女伴は小さな漁師町の間を通って傾斜のある小路こみちを登って往った。芳郎は女伴に怪しまれないようにと思って、よほど距離を置いて歩いた。女伴は時どき笑い声をたてたが背後うしろは向かなかった。
赤い花 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
どん/\/\/\林の小路こみちへ駈上りました事でございますから、山之助は盗賊どろぼう……勾引かどわかし……と呼んで跣足はだし追掛おっかけると山之助は典藏に胸をどんと突かれましたから、田の中へ仰向あおむけに転がり落ちます。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
朝いまだ小路こみちの暗し青玉の耳輪をしたる娘住めども
どんよりした小路こみちに沿うてぶら/″\歩いた。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
うは神無備かみなびもり小路こみち
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
素早すばや横手よこて小路こみちをどらせた
夕まぐれ、森の小路こみち四辻よつつじ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
赤い小路こみちを君とき。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
館の前をおおうようにそびえている蒼黒あおぐろい一本の松の木を右に見て、綺麗きれい小路こみちをのそのそ歩いた。それでも肝心かんじんの用事について、父は一言ひとことも云わなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その墓と小栓の墓は小路こみちを隔てて一文字いちもんじに並んでいた。華大媽は見ていると、老女は四皿のおさいと一碗の飯を並べ、立ちながらしばらく泣いて銀紙を焚いた。
(新字新仮名) / 魯迅(著)
あたりを見るとかしこここの山の尾の小路こみちをのどかな鈴の音夕陽を帯びて人馬いくつとなくふもとをさして帰りゆくのが数えられる、馬はどれもみな枯れ草を着けている。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
女房、娘、若衆わかいしゅたち、とある横町の土塀の小路こみちから、ぞろぞろと湧いて出た。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……黄いろな夕陽の光が松原の外にあったが春の日のように空気が湿っていて、顔や手端てさきの皮膚がとろとろとして眠いような日であった。彼は松原に沿うた櫟林くぬぎばやしの中を縫うている小路こみちを抜けて往った。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夕まぐれ、森の小路こみち四辻よつつじ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
森の小路こみち
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
品質から云うと赤毛布あかげっとよりもずっと上製である。自分らが三人並んで橋向うの小路こみちふさいでいるのを、とんと苦にならない様子で通り抜けようとする。すこぶる平気な態度であった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ちょうどいまの曲角まがりかどの二階家あたりに、屋根の七八ななやっかさなったのが、この村の中心で、それからかいの方へ飛々とびとびにまばらになり、海手うみてと二、三ちょうあいだ人家じんか途絶とだえて、かえって折曲おれまがったこの小路こみちの両側へ
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小路こみちの上にまた一人、女が来た。
(新字新仮名) / 魯迅(著)
ああ小路こみち
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
近常さんは、御自分の町を隔てた、雪の小路こみちを、遠廻りして、あの川。
かれくら小路こみちに立つて、世界がいまよるに支配されつゝある事を私かによろこんだ。しかも五月雨さみだれの重い空気にとざされて、あるけばあるく程、窒息ちつそくする様な心持がした。神楽坂上かぐらざかうへた時、急にがぎら/\した。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)