奇蹟きせき)” の例文
悪魔は、妖魔学校の校長をしていましたが、この学校にかよっている生徒たちは、みんな、奇蹟きせきが起った、と、言いふらしました。
今日もし肩書や就職を全然度外視して、四千人はおろか、四十人の門下生でも集め得る教育者があったら、それは一つの奇蹟きせきであろう。
淡窓先生の教育 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
素人だけで、こんな汽船を動かせたら、それこそ奇蹟きせきだろう。が、運転室におさまってみると、急に緊張し、さすがに責任を痛感した。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
家柄だけに、笛の奇蹟きせきを信じ度いことは山々でせうが、娘一人を殺した相手が、鬼神や魔神の仕業しわざでは、親心が承知しなかつたのです。
そらにあるつきちたりけたりするたびに、それと呼吸こきゅうわせるような、奇蹟きせきでない奇蹟きせきは、まだ袖子そでこにはよくみこめなかった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
呼吸をめていた、兵さんは、ウンとうなりながら、ほとんど奇蹟きせき的な力で腰をきった。が、石は肩に乗り切らないで背後うしろに、すべった。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
一体人間の上で罪である事は、二人の間でも罪であるに違いないではないか。それとも愛情が奇蹟きせきをする事が出来るのではあるまいか。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
「あの女」のか弱い身体からだは、その頃の暑さでもどうかこうか持ちこたえていた。三沢と自分はそれをほとんど奇蹟きせきのごとくに語り合った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「これが普通の恋愛だったら、誰も何とも言やしないんだわ。年のちがった二人がったという偶然が奇蹟きせきでなくて何でしょう。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その田舎へひとりでは行くことが出来ずに、私は都会のまん中で、一つの奇蹟きせきの起るのを待っていた。それは無駄むだではなかった。
麦藁帽子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
人間にんげんが一にして、おけらになったというようなことは、ひとりかみだけがり、またこうした奇蹟きせきは、かみだけがよくなしることでした。
おけらになった話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
もう、こゝまでひ出して来た以上は、奇蹟きせきはない。だが、ひよつとしたら、此の女も案外こゝで死亡するかも知れない。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
小説家としての私の愚見も、あるいは、ひょっとしたら、ひとりの勇敢な映画人に依って支持せられるというような奇蹟きせきが無いものでもあるまい。
芸術ぎらい (新字新仮名) / 太宰治(著)
奇蹟きせきや、効験あらたかな祈祷師きとうしうわさなどが、そのいくらか茶色っぽいかみの毛を油けなしでひっ詰め髪に結った頭の中で、せめぎあっていたのだ。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そのころから王の周囲には一種の神秘的な影がつきまとっていて不思議な幻を見たり、さまざまな奇蹟きせきを現わしている。
春寒 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
角鹿つるがの浦から十六、七里、足羽御厨あすわみくりやきたしょう(今の福井市ふくいし)の城下に、ふたりの偽伴天連にせバテレンがあらわれて、さかんに奇蹟きせきや説教をふりまわしていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほとんど奇蹟きせきにも等しい努力を始めて陶冶とうやに陶冶を重ね、八ヶ年の努力の後、ようやく目的のものを得られたという。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
子供の健気けなげな道心というものは、しばしば大人の世界に奇蹟きせきを生み出すものである。次郎は一夜にして、お浜の盲目的な愛情に理性の輝きを与えた。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「何もむずかしいことはないのです。唯神を信じ、神の子の基督キリストを信じ、基督の行った奇蹟きせきを信じさえすれば……」
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
このものは、考えれば考えるほど、おそろしい正体しょうたいを持っていると思われてくるのです。まさに二十世紀がわれわれに、おきみやげをする奇蹟きせきである。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
尾瀬大納言が通行された時に仏陀の奇蹟きせきのあった所と伝えられている、標高が約七百米突であって、枝折峠の嶺上から約四時間を要する、高橋農場から二
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
爆心地で罹災りさいして毛髪がすっかり脱けた親戚しんせきの男は、田舎いなかの奥で奇蹟きせき的に健康をとり戻し、惨劇の年がまだ明けないうちに、田舎から新しい細君をめとった。
火の唇 (新字新仮名) / 原民喜(著)
ゆゑに吾が不学ふがくをもわすれて越雪ゑつせつ奇状きぢやう奇蹟きせきを記して後来こうらいしめし、且越地ゑつちかゝりし事はしばらのせ好事かうず話柄わへいとす。
「これはお前のまやかしでもなければ、お前の妖術でもない。自然のたことだ。自然が目覺めてたゞその最上のさくを——奇蹟きせきではない——おこなつたのだ。」
思惟像の微笑は、それを刻んだ仏師にとっては奇蹟きせきであったろう。しかし奇蹟とは職業的なものだ。長い歳月の、正確に熟達した修練のみがよく奇蹟を生む。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
それは神秘な神の力によって「奇蹟きせき」が行われることを信じ、ひたすらに神仏に祈念することを重視する。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
これをそっくり鵜呑うのみにするには奇蹟きせきを信じる精神がいる。小学校の六年生と思いこんでいたのである。
篠笹の陰の顔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
その不思議さは彼女にとって行くほど複雑な、さまざまの心理と行為の奇蹟きせきのようなものであった。
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
双六すごろくたしかにあり。天工てんこう奇蹟きせきゆゑに、四五六しごろくまた双六谷すごろくだに其処そことなへ、温泉をんせんこえに、双六すごろくはするが、たにきはめて、盤石ばんじやくたものはむかしからだれい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
が、間もなく一つの奇蹟きせきが行はれはじめてゐた。不具の故に伊曾は劉子にかれるのを感じはじめたのである。劉子の場合、その性的不具は一つの完成のやうに見えた。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
が、父の手文庫の中に奇蹟きせきのように見出みいだされた、三万円以上の、巨額な紙幣に対する、瑠璃子るりこの心の新しい不安は、日のつに連れても、容易には薄れて行かなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
何か奇蹟きせき的なことが起って、リリーと彼女とがすっかり仲好なかよしになっていたとしたら、———もしほんとうにそんな光景を見せられたら、焼餅やきもちを焼かずにいられるだろうか。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
可哀かわいそうな彼女は、明智がこのような目にあっているとも知らず、檻の中で、くらい熊の毛皮の中で、一日千秋の思いをして、名探偵の奇蹟きせき的な出現を待ち望んでいるのだ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
 お事のお云いやった神の奇蹟きせきの現わるるのを信じ得ぬわしは待ちこがれて居るのじゃ。
胚胎 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それがかえって拘束に終らなかった場合がどれだけあろうか。個性よりも伝統がさらに自由な奇蹟きせきを示すのである。私たちは自己よりさらに偉大なもののあることを信じてよい。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しかしその上に霊的価値をむものとならなくてはならない。奇蹟きせきを官能の病で説明しようとしてはならない。人生に霊とたいとの二つの部分があって、それが鎔合ようごうせられている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
なよたけはこの世の奇蹟きせきだ! 月の世界から送られて来た清らかな魂の使者だ! 俺はなよたけがこの世に生きていると云うことを思うだけで、この上もない甲斐がいを感ずるんだ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
……そこで翌日、私は、奇蹟きせきを見たような顔をつくり、まったくそのとおりだったと報告する。大チャンは相好そうごうをくずし、茶色い顔をてかてかにかがやかせてうなずくのだ。そしていう。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
万に一つ治る奇蹟きせきがあるのだろうかと、寺田は希望を捨てず、日頃ひごろけちくさい男だのに新聞広告で見た高価な短波治療機ちりょうきを取り寄せたり、枇杷びわの葉療法の機械を神戸こうべまで買いに行ったりした。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
奇蹟きせき! 七菩提分しちぼだいぶん八聖道分はっしょうどうぶん、涼しい鳥の鳴き声がする……園林おんりん堂閣のたたずまい……きれいな浴池よくちだな。金色こんじきの髪を洗っていられる。皆くつをぬがれた。あの素足の美しいこと。お手を合わされた。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
そういう奇蹟きせきもあることではないかしら……でも、だめだわ……
私にとっては、まったく一つの奇蹟きせきであった。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
不思議の奇蹟きせきがかれの心の周囲をめぐつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
この奇蹟きせき! この妙技みょうぎ
国際射的大競技 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
それにもたる奇蹟きせきかな
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
奇蹟きせき
貧しき信徒 (新字新仮名) / 八木重吉(著)
天佑か、奇蹟きせきか、大きな麻袋は、大きくふくらみ、空へ飛翔せんとて暴れ廻る。その口を固く結んで、縄を船橋ブリッジの柱へ縛りつけた。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
失意のドン底に投げ込まれながら、温泉場に送られたヘンデルは、なんという奇蹟きせき、秋の末には回復して、再び闘いの場へ登場したのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
「手段なんか、ないね。奇蹟きせきでも現われるなら、知らぬ事だ。ところが奇蹟なんぞは現われまい。そこで僕はかくどこへか行こうと思う。」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
彼は健全に生きていながら、この生きているという大丈夫な事実を、ほとんど奇蹟きせきごと僥倖ぎょうこうとのみ自覚し出す事さえある。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)