おと)” の例文
旧字:
遅いにも程があるが、猛火のさかんな真夜半まよなか頃となって、恐怖と狼狽の底におとされた叡山の代表者は、信長の陣へ使いをたてて
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十万年に一度あらわるる怖ろしい化生けしょうの者じゃ。この天竺の仏法をほろぼして、大千だいせん世界を魔界の暗闇におとそうとくわだつる悪魔の精じゃ。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
たとえば仁義じんぎのために死するとか、国家の責任を双肩そうけんになって立つとか、邦家ほうかのためには一身をかえりみず、知遇ちぐうのためにはいのちおとすとか
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
誰だったか独逸人を地獄へおとしたら、屹度きつと地獄と伯林ベルリンとの比較研究を始めて、地獄の道にも伯林の大通おほどほりのやうに菩提樹の並樹なみきを植付けたい。
一般の善男善女の前には生仏いきぼとけと渇仰される生仏だから、仏の一種に相違あるまい、その仏を迷わせて地獄におとしたのが、今のあの手弱女たおやめだ。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その部屋を祖母たちは、陰で「女中部屋」とよんでいた。まことに私は、とうとう本ものの女中にまでおとされてしまったのだ。
これきたりてもって建文の位をゆずれるに涙をおとし、燕棣えんていの国を奪えるに歯をくいしばり、慷慨こうがい悲憤して以て回天の業をさんとするの女英雄じょえいゆうとなす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
鳶すなわち飛び下って薯をつかみ、空を飛び舞いて地へおとすを、他の鳶が拾うて空を飛び廻ってまた落すと、薯二つに割れた。
思い切って物を言い掛けるからは、あの方の足が留められぬ筈が無い。わたしは卑しい妾に身をおとしている。しかも高利貸の妾になっている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
一方王におとされた金大用きんたいようは、板片いたきれにすがりつくことができたので死ななかった。そして流れてわいへいったところで、小舟に救いあげられた。
庚娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
飢え凍えようとする妻子のことよりも、おのれの乏しい詩業の方を気にかけているような男だから、こんな獣に身をおとすのだ。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「騙されるということは、気のつかない間は男に媚びているみたいなものよ、気がつくと、がたっと何処かに突きおとされた気がしてしまうんです。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
なさけ深い父上が、しんからおとがめになるでしょう——そなたの名はださず、わたしは、町家に身をおとしてしまいましょう
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
霧の深いあるれ方、赤ん坊を抱いた百姓のおかみさんが、汚れた野良着のままで自動車に乗って駈けつけて来た。赤ん坊を便所へおとしたんだという。
浅間山麓 (新字新仮名) / 若杉鳥子(著)
傲慢ごうまんでありまた種々の理由から傲慢であり得るこのユダヤ女、銀行家マンハイムの、知力すぐれ人を軽蔑けいべつしがちなこの娘は、身をおとしたがっていたし
なる程催眠剤は私を浅いけれど眠りにおとしてくれました。けれどそれもほんの僅かの間でしかも不規則な眠りは却て恐ろしい夢をもたらすに過ぎないのでした。
歪んだ夢 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
それを私が今日こんにち始めて知つたのではない、知つて身をおとしたのは、私は当時敵手さきを殺して自分も死にたかつたくらゐ無念きはまる失望をした事があつたからです。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
同時に又クリストも死ななかつた。神はコンクリイトの壁に苔の生える限り、いつも我々の上に臨んでゐるであらう。ダンテはフランチエスカを地獄におとした。
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
善は天で悪は地獄と庸之助には思われている——善をあまり有難く見すぎ、悪をあまりおとしめすぎていた。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
人界におとされし血吸けっきゅう童子! わが法術を破らんものはこの人界にはよもあるまじ! 笑止笑止、老耄おいぼれめが
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私のいたらぬ心から旦那様を罪におおとし申しあげたことが悲しく、いらっしゃる所をさがしもとめて、くわしく事情もおはなしし、御安心していただこうと思って
さればといって自分の品位もおとさず、しかるべき人情味のある処置と言葉がありそうなものです。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ド・スキュデリー嬢からバルテルミー・アドー夫人におとし、ド・ラファイエット夫人からブールノン・マラルム夫人へ堕し、そしてパリーの饒舌おしゃべりな女の恋情を焼き立て
甲賀三郎の物語などと近く、三人ある兄弟の末の弟が兄に憎まれて、地の底へ押しおとされる。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
カペエ四重奏団のモーツァルトが出ることによって、レナーははなはだしくその声価をおとした。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
水草の裾模様すそもようをつけた空色そらいろのお馨さんは、同行の若い婦人と信濃丸の甲板から笑みて一同を見て居た。彼女は涙をおとし得なかった。其心はとく米国に飛んで居るのであった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
さうだ、この日の自分は明らかに校長閣下の一言によつて、極楽へ行く途中から、正確なるべき時間迄が娑婆の時計と一時間も相違のある此の蒸し熱き地獄におとされたのである。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
政吉 そ、その口前くちまえだ。俺を地獄へ突きおとすのか。くそっ、もうだましには乗らねえぞ。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
そんな危なっかしい妃を迎えて生命いのちおとすような事があっても、根がお話しだからちっとも差し支えはない。そののちのちの事までもすっかりわかる。妃の素性もわかるに違いない。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「その服屋はたやむねをうがちて、あめ斑馬ふちこま逆剥さかはぎにぎておとし入るる時にうんぬん」
神話と地球物理学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
旅廻りの浪花節なにわぶし語りにまで身をおとしていたが、そのうち再び落語家の小かつさんに拾われ、それからは心をいれかえて一しょう懸命に高座を勤めていたので、小かつさんにも可愛がられ
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ところが漢口ハンカオでは大いに信用をおとしたよ。主人公が頻りに首を傾げているから通訳に訊いて見ると、この間来た日本の大官もこの詩を書いて行ったというのさ。悪いことは出来ないもんだね。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
かえって罪におとすことに自分は携わってしまったと僧都は煩悶はんもんした。
源氏物語:56 夢の浮橋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「七度を七十倍するまで赦せ」と教えた耶蘇ヤソは「一つの目汝を罪におとさば抜き出して捨てよ」といましめた同じ人である。「罪の価は死なり」とあるごとく、罪を犯せば魂は必ず一度は死なねばならぬ。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
その後、法にして侯を失い現在の地位におとされて西辺を守っている。年齢からいっても、李陵とは父子ほどに違う。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
昨夕罪のない清さんを罪におとさなかつたのは兼吉だ、よしや兼吉が心から罪に堕すまいと思つてではないにしても
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
もっと辛辣しんらつによ、あの娘を、堕落するところまで引っぱりおとして、それから、高瀬のやつに吠えづらをかかせてやるという話なんじゃねえか、それを……
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
結構な心掛で、詩人ダンテがその傑作のなかで、因業いんごふな家主を地獄におとした事を考へると、岡野氏が馬の顔を士官に似せたのは思ひ切つた優遇である。
鳥何か言い掛けると蛇をくちばしからおとす。その頭をプレ神踏まえて鳥に虎を追わしめた。蛇の頭ふくれたるはプレ神に踏まれたからで鳥についばまれた頸へ斑が出来た。
それは千金の価があった。王はそれを出して当路とうろの者に賄賂に贈ろうとしていた。小翠はそれが好きで平生いじっていたが、ある日それを取りおとして砕いてしまった。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
葉子を「死」にまでおとし込んでしまい、そして、その冷えて行く美しき死骸に、熱い熱い接吻をした。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
とてものことに、現世ながら、魂を地獄におとし、悪鬼羅刹らせつ権化ごんげとなり、目に物見せてつかわそう——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それからそれへと禍いの種をまき散らして、やがてはこの日本を魔界の暗黒におとそうと企てているのである。——こう話してきて、泰親は一段とその声をおごそかにした。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
幇間というものは自分から身分を一段おとした人間だ。素人衆の無垢な惚れ方に対しては神仏のような慎しみを持たなければならない。そうでないといつかは罰が当るのだぞ。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その死をとどめんの一念よりあらぬ貫一なれば、かくと見るより心も空に、足は地を踏むいとまもあらず、唯遅れじと思ふばかりよ、壑間たにまあらしの誘ふにまかせて、驀直ましぐらに身をおとせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
二二四おのが心より罪におとし奉る事の悲しさに、御有家ありかもとめて、事の由縁ゆゑをもかたり、二二五御心放みこころやりせさせ奉らんとて、御住家尋ねまゐらせしに、かひありてあひ見奉る事のうれしさよ。
と言いながら眼をげて源三が眼の行くかたを見て、同じく禽の飛ぶのを見たお浪は、たちまちにそのこころさとって、えられなくなったか泫然げんぜんとして涙をおとした。そして源三が肩先かたさきとらえて
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
よい気になって長陣していたら、敵は、退口のきぐちを断って、所々の味方とつなぎを取り、われらを重囲におとしてから、本相をあらわして戦い出したにちがいない。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ギョオテは詩人で同時に自然学者だ。それにファウスト第二部で悪魔が地の下におとされて、苦しまぎれに上からも下からも臭い瓦斯ガスを出したと云う処に、硫酸を
訳本ファウストについて (新字新仮名) / 森鴎外(著)
夫雀哀しんで自ら羽を抜き丸裸になってピパル樹にとまく、ピパル樹訳を聞いて貰い泣きし葉をことごとく落す、水牛来て訳を聞いて角ふたおとし川へ水飲みに往くと