嘆息ためいき)” の例文
男ならば何人もしき感動の心にしむを感ぜずには読めないような、女ならば何人も嘆息ためいきなしには読めないような一節——であった。
豊吉は大川の流れを見ろしてわが故郷ふるさとの景色をしばし見とれていた、しばらくしてほっと嘆息ためいきをした、さもさもがっかりしたらしく。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「そよと吹く風の恋や、涙の恋や、嘆息ためいきの恋じゃありません。暴風雨あらしの恋、こよみにもっていない大暴雨おおあらしの恋。九寸五分の恋です」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
時々に鏡を見つめて悲しそうに嘆息ためいきをついていることがあるので、わたくしもなんだか可哀そうに思ったことも度々ありました。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
足もとからもり上った海嘯つなみのように、混雑は、急であった。変事を耳にした時から、殆ど、嘆息ためいきもさせてかないき方である。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人はちっとも争論いさかいをしなくなりました。その代り、何となく憂容うれいがおをして、時々ソッと嘆息ためいきをするようになりました。
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
すると其時、窓掛の蔭から、悲しそうな嘆息ためいきが聞えて来た。何者か其処に居るらしい。博士は寝台から飛び下りた。
木乃伊の耳飾 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『え、え、え。』と、はじめて此事このこと氣付きづいた吾等われらどうは、ほとん卒倒そつたうするばかりにおどろいた。大佐たいさふか嘆息ためいきもらして
「嫌な天氣だな。」と俊男は、奈何いかにもんじきツたていで、ツと嘆息ためいきする。「そりや此樣こんな不快を與へるのは自然の威力で、また權利でもあるかも知れん。 ...
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
だが、母の弱さにも嘆息ためいきした。母は合資ごうしの、倒れかけた紅葉館こうようかんを建て直して、もうけを新株にして、株式組織に固め、株主をよろこばせたうえで、追出おいだされた。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「逃げたのか、取られたのか、いなくなってしまった」と、見えなくなった顛末てんまつを語ってほっ嘆息ためいきいた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「ああ、」とおんなふか嘆息ためいきいて、まえながめているうちに、きゅう心細こころぼそくなって、こうった。「のようにあかく、ゆきのようにしろ小児こどもが、ひとりあったらねい!」
譬へばあの男が龍蓋寺の門へきました、五しゆ生死しやうじの繪に致しましても、夜更よふけて門の下を通りますと、天人の嘆息ためいきをつく音や啜り泣きをする聲が、聞えたと申す事でございます。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その辮髪は、支那人の背中の影で、いつも嘆息ためいき深く、閑雅に、憂鬱に沈思しながら、戦争の最中でさえも、阿片の夢のように逍遥さまよっていた。彼らの姿は、真に幻想的な詩題であった。
なるようにしかならんという状態から、やがて「自己のつくすだけをつくしていさぎよく運命に従おう」という心の状態になった。嘆息ためいきと涙とのあとに、静かなさびしいしかし甘い安静が来た。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
父が話しをやめ升た時、私は嘆息ためいきをつき
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
天人は深い/\嘆息ためいきいてをります。
子良の昇天 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
嘆息ためいきして、髯に掛けた指を忘れた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
老い朽ちたやうな嘆息ためいきの消えがたく
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
嘆息ためいきの音も悲しそうに
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
妻が自分を面白からず思い気味悪るう思い、そしてふさいでばかりいて、折り折りさも気の無さそうな嘆息ためいきもらすのも決して無理ではない。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
達磨だるま部屋の底に嘆息ためいきをついて、お家様への言い訳や、後で領主からどんな厳罰をくわされるかと、頭をなやめているわけだった。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女はやゝしばらく三四郎を眺めたのち聞兼ききかねる程の嘆息ためいきをかすかにらした。やがて細い手を濃い眉のうへに加へて、云つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
でも此様こんはずでは無かツたがと、躍起やつきとなツて、とこまでツてる、我慢がまんで行ツて見る。仍且やツぱり駄目だめだ。てん調子てうしが出て來ない。揚句あげく草臥くたびれて了ツて、悲観ひくわん嘆息ためいきだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
たとへばあの男が龍蓋寺りゆうがいじの門へ描きました、五趣生死ごしゆしやうじの絵に致しましても、夜更よふけて門の下を通りますと、天人の嘆息ためいきをつく音や啜り泣きをする声が、聞えたと申す事でございます。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「そうかなあ。」と、彼は嘆息ためいきいた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ふとことば絶え、嘆息ためいきして
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
清三は嘆息ためいきをした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
嘆息ためいきはほろびず
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
「どうしよう」当惑した顔が被衣かずきのうちで嘆息ためいきをつく。このまま空しく帰るとしたら姫の泣き沈む姿を見なければならない。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日は全く暮れて四囲あたりは真暗になったけれど、少しも気がつかず、ただ腕組して折り折り嘆息ためいきもらすばかり、ひたすら物思に沈んでいたのである。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
すべての変るものを見た時、心の底でそっと嘆息ためいきいた。ああ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やがて、そのひとみを、足もとから城太郎の顔へ上げ、もいちど、改めて彼の姿をつぶさに見直しながら嘆息ためいきのようにたずねた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
... 涼炉しちりんで燃しているようなものサ。土竈どがまだって堅炭かたずみだってみんな去年の倍と言っても可い位だからね」とお徳は嘆息ためいきまじりに「真実ほんとにやりきれや仕ない」
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
その嘆息ためいきを聞けば、無理もない。火をくわえている鳥と、慈母の珠とを、この男は、取り替えてしまったのである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜はふけ月さえぬれど、そよ吹く風さえなければムッとして蒸し熱き晩なり。吉次は投げるように身を横にして手荒く団扇うちわを使いホッとつく嘆息ためいきを紛らせばお絹
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
という嘆息ためいきが、敵の山からも、味方の山からも、思わず揚がって、湖の水までが、どうと岸辺にうごいて来た。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すすけし壁の四隅は光届きかねつ心ありて見れば、人あるに似たり。源叔父は顔を両手に埋め深き嘆息ためいきせり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「成程そうですねェ、真実ほんとに私は困まッちまッたねエ、五週間! もう其様そんなになったろうか、」と主人の少女は嘆息ためいきをして、「それで平岡さんが何とか言って?」
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
返辞というより、嘆息ためいきに似た声を洩らした。忽然こつぜんと、強敵のあらわれた感じである。何よりも先に、犬千代のすぐれた背丈せたけが、気もちの上に、のしかかって来た。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大空仰げば降るともなしに降りくるは雪の二片三片ふたひらみひらなり、今一度乞食のゆきしかたを見て太き嘆息ためいきせり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
嘆息ためいきといっしょに腕を組んで触札ふれふだを睨みつけていたが、もう意地もなく気をくじいてしまったように
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不吉ばかり予感されて、いたずらに、嘆息ためいきと嘆息が、よけい家族の憂いを深くさせるのみであった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ああこのごろ、年若き男の嘆息ためいきつきてこの木立ちを当てもなく行き来せしこと幾たびぞ。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
油皿の燈芯とうしんが、ジ、ジ、ジと戦慄せんりつしている。大きな嘆息ためいきにふくらむたびに肺は肋骨あばらおされていたむ。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
されどまた七日の後には再び来たりておもむろに告別いとまごいせんと青年は嘆息ためいきつきて深く物を思えるさまなり、翁ははたとち、しからばいよいよ遠く西に行きたもうこととなりしか。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しょくを寄せて、読みかえしていたが、やがて、吉光の前は、ほっと嘆息ためいきをもらして、つぶやいた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
源叔父は嘆息ためいきつきつつ小橋の上まで来しが、火影落ちしところに足跡あり。今踏みしようなり。紀州ならで誰かこの雪を跣足すあしのまま歩まんや。おきなは小走りに足跡向きしかたへとせぬ。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
こんな子供にと思っても、朱実には、こんな嘆息ためいきを、ほかに聞いてもらう人はなかった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青年ので行きし後、翁は庭の中をかなたこなたと歩み、めでたしめでたしと繰り返して独言ひとりごちしが、ふと足を止め、まなこを閉じ、ややありて、されど哀れの君よと深き嘆息ためいきをもらしぬ。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)