内儀かみ)” の例文
夜遊びにふけった朝はいつまでも寝ていて、内儀かみさんにぶつぶつ小言を言われたが、夫婦で寝坊をしていることもめずらしくなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それから數日間すうじつかん主人しゆじんうち姿すがたせなかつた。内儀かみさんは傭人やとひにん惡戯いたづらいてむしあはれになつてまたこちらから仕事しごと吩咐いひつけてやつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ねえ、お内儀かみさん、私はなにも人様の讒訴ざんそをするわけではございませんが……あの方の人相をごらんなさい。昨晩も夢を見ましたよ。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼女かのぢよ小使部屋こづかひべやまへとほりかゝつたときおほきな炭火すみびめうあかえる薄暗うすくらなかから、子供こどもをおぶつた内儀かみさんがあわてゝこゑをかけた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
「なにしろお内儀かみさん、ぴんぴん生きた牝豚の目方をはかろうって言うんでございますよ、はい、エカテリーナ・イリヴォーヴナ」
何となく気がつまりましたから、裏口から這入ってお内儀かみさんにお目通りを致しましたが、坊ちゃんは大層大きくおんなさいましたな
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「お内儀かみさん! 大丈夫だぞう! 妹さんは助かったぞう! 気をしっかり持ちなせえよう! 大丈夫だからしっかりしなせえよう!」
生不動 (新字新仮名) / 橘外男(著)
町人といっても、人形町にんぎょうちょうの三河屋という大きい金物問屋で、そこのお内儀かみさんがとかく病身のために橋場はしばの寮に出養生をしている。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
店員女中ばかりでなく、主婦をお内儀かみさんと呼ばせることまで受けつぎました。いったい小売商人の家内を誰も奥さんとはいいません。
「なるほど、それであなた方はここの内儀かみさんからその場所をかぎ出そうと思って、あの仲間らしく思わせようとしたんですね。」
「なんという気さくなんでしょう。わたし、 あんなおじいさんのお内儀かみさんになってみたい……だからね、いいものをやっちまった」
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
うん、でも、あんなことをして、かえってあの子があとでひどい目にあいやしないかしら、いま内儀かみさんたちもそう言ってたよ。
夏の夜の冒険 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
縛るつもりで来たのじゃない、——三輪の兄哥あにきが縛ったのは何かの間違いだろう。お内儀かみさんに、あまり心配しないようにって言うんだよ
時々、内儀かみさんは櫛巻くしまきにした病人らしい頭をすこしもたげて、種々雑多な物音、町を通る人の話声、遠い電車の響までも聞いた。
死の床 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
『なかった? ふむ。ないものをあると言うからには、何か知られくない事情があったんだな。お内儀かみさん、心当りは御座居ませんか?』
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
(自分をあざけるように)きょう、まつのお内儀かみに、泥棒猫どろぼうねこだとののしられました。私の小指ほどの価もないあの鬼ばばに!
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
それだのに、あのお民ってお内儀かみさんに、そこんとこを見分ける眼がなかったから、いっそのこと、あたいが出たまでのことさ
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかし彼女はあまり目をかけられてるやうでもなく、内儀かみさん風なので、そんな考へは受入れることは出來ない。「だけど、」私は考へた。
今夜は、客間をつかって、大きなお膳を中央に並べ、お内儀かみのお妻と姉娘のみどりが腕をふるった御馳走が、所も狭いほど並べられてあった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お祖母さんは、事の成行しだいでは、自分で店に出て打って、春月亭のお内儀かみと一太刀交える肚になり、半ば腰を浮かしてさえいたのである。
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
模様を見て来た彼はまた彼で、こぶとりの身体に丸い顔をほころばしていた。お内儀かみさんの云うことを単純に信じて来た彼は屈托くったくなげに云った。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
熊さんのお内儀かみさんは、馬鹿ばか正直なかわりに疑い深いたちでした。このごろ熊さんの帰りがおそいのに腹をたてていました。
慶三は気まりの悪い事も何も彼も打忘うちわすれて、曲角の酒屋でそれとなく引越先を聞くと、四十ばかりの内儀かみさんが訳もなく
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして眼を覚ました僕の枕元に座って、さめざめと泣くのです。堺屋のお内儀かみさんに満座の中で恥をかかされて、居たたまれなかったと云います
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
不幸のあった米本の筋向うに、赤ペンキを生々しく塗ったポストがある。その陰で肥満ふとった荒物屋のお内儀かみさんが近所の人達としきりにしゃべっていた。
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
亭主は、こはだのすしを売りに歩いている、階下したには、内儀かみさんが、小僧相手に、こはだの小骨を、毛抜きで抜いていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
如何いかにも不審な事には、お内儀かみさんが出て来て座敷に坐り込んでしきりに客の取持とりもちをすると、御亭主が周旋奔走して居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ことにここのお内儀かみはひどい女で、主人がいない時よそから電話がかかって来ると、かならずおれに出させる。そしておれが変な応対をすると、手を
狂い凧 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
すると天和堂のお内儀かみさんはかねて知合いと見えて、さっそく椅子を指してどうかお掛け下さいと言ってしょうじたです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
長崎の小曽根で一日宿の主人等と花見に行く時お内儀かみさんが、今日はいのを御召しなさいと云つたけれど、私は平生着ふだんぎの次ぎのをて行きましたが
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
正太しようたふでやのみせこしをかけて、のつれ/″\にしの戀路こひぢ小聲こゞゑにうたへば、あれ由斷ゆだんがならぬと内儀かみさまにわらはれて、なにがなしにみゝあかく
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
近所のお内儀かみさんなどが通りがかりに児をあやすと、嬉しそうな色が父親の柔和な顔に漲る。女房は店で団扇うちわをつかいながら楽しげにこの様を見ている。
やもり物語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
探し出して、くっつければ、結構使えるのだからと、そのお内儀かみさんはそう言って、家の裏のごみ捨場や、その側の竹藪まで、子供たちを探しにやった。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
今朝、ここのお内儀かみが、お由利さんの死んでるのを見て騒ぎ出した時、駈けつけた旦那の気がついたのア、縁側の雨戸が二寸ばかり、開いてたってことだ。
それで電話をかけるにしても階下の内儀かみさんを裝つて欲しいと千登世に其意を仄めかした時の慘酷さ辛さが新にひしと胸につかへて、食物が咽喉を通らなかつた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
千種は、彼にお内儀かみさんがあると聞いて、何かお土産にやりたいと思つた。土人の女が悦びさうなものを僅かな荷物のなかから探し出すことは困難であつた。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
ナゼというのに大原は三度の食事を我々の三、四倍も食う。大きな飯櫃めしびつを一人でからにして汁なんぞは五、六杯もおかわりをする。家の内儀かみさんがこぼすまいことか。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
そのうちに階下したから呼ばれて降りて行ったがまた上って来て、此家の旦那は根が遊人だけによく解っているがお内儀かみさんは芸者上りの癖にちっともわけが解らず
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
けれども、其の後だん/\内儀かみさんは狂ひ出して、手のつけやうのない程暴れ出すやうになりました。
白痴の母 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
桔梗屋のお内儀かみに教えてもらった文子の住居を、芝の白金三光町に探しあてたのは、その日の夜更け。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
内儀かみさんが大きなお尻だけ見せて、彼方あちら向いて事もあらうに座敷の中でパツと紺蛇目じやのめ傘を拡げる。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
中村家のお内儀かみさんは病身でしたから台所のことなどは二人の女中が切つてまはして居るのでした。
月夜 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
と言つてる所へ、家の中から四十五六の汚らしいなりをした、内儀かみさんが出て來て、信吾が先刻寄つて呉れた禮を諄々くど/\と述べて、夫もモウ歸る時分だから是非上れと言ふ。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
民さんは植木屋の夏がれどきに八百屋やおやをやり、貸シが多くなりもだもだのあげく、長屋のお内儀かみさんの顔をぶんなぐり、その場で巡査じゅんさにつかまって留置場にほうり込まれた。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
綾麻呂 文麻呂!……ほら、聞いてみろ! 衛門がお内儀かみさんと一緒に唄をうとうとる……。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
そして近所の同じ貧乏な、お内儀かみさんたちを呼んで来て、それをけたり、売ったりした。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
一室には、もと、相当なお店のお内儀かみさんだったという品のよい女がおりました。
なおも木之助がすすめると、風呂の下をいていた松次郎のお内儀かみさんがいった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
掠取かすめとるなどと云者一人もなし家業は此上もなきいやしき一文もらひなれども心まで其樣に卑賤いやしくはならず餘りと云ば馬鹿々々しい是内儀かみさん私し共まで文右衞門樣の連累まきぞひくつた樣な者此通り宅番を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
薬種屋の赫然堂かくぜんどうあって、いまなおあたまの禿げた主人が、家伝の薬をねっている。餅屋の太田屋あって、むかしながらのふとった内儀かみさんがいつもたすきがけのがせいな恰好をみせている。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)