七歳ななつ)” の例文
父は天保十三年の生れ、七歳ななつの時といえば嘉永元年だ。外国船がしきりに渡来して、世の中は刻々にむずかしくなっていたころだと思う。
それまでも、彼はすでに、鞍馬寺の預け人という表面になっていたが、いよいよ身を鞍馬へ持って行かれたのは、明けて七歳ななつの春だった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当時まだ六つか七歳ななつで御座いました継子のお熊を手に入れて揉むほど可愛がり始めた処は、まことに見上げたものと言う評判で御座いました
「おお、おおそんな事もござんした。その時私は六歳むっつ七歳ななつ。そうしてお前は十歳とおか十一……ああ、あの頃は罪がなかった」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
七歳ななつになるまでの間にセエラの気がかりになっていたことは、いつかれて行かれる「あそこ」のことだけでありました。
それは生来うまれつきの低脳者で、七歳ななつになる時に燐寸マツチもてあそんで、自分のうちに火をつけて、ドン/\燃え出すのを手を打つて喜んでゐたといふ児ですが
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
父が亡くなった時が七歳ななつでしたから、連続した記憶はありませんが、それでもちょいちょいしたことは覚えております。
薬指の曲り (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
多分そのうち七歳ななつになる男のがあったが、それの行為しわざだろうと、ある時その児を紐で、母親に附着くっつけておいたそうだけれども、悪戯いたずらは依然止まぬ。
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私が七歳ななつ八歳やっつの頃、叔父に連れられて一度その二階にのぼったことがある。火鉢に大きな薬缶やかんが掛けてあって、そのそばには菓子の箱がならべてある。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
……ひいふうみいよう、もう七歳ななつになる。もう五年したら。白いヴェールをかぶらせ、透き編みの靴下をはかせよう。一人前の娘さんのようになるだろう。
源が歌う声えまさりつ。かくて若き夫婦のたのしき月日は夢よりも淡く過ぎたり。独子ひとりご幸助こうすけ七歳ななつの時、妻ゆりは二度目の産重くしてついにみまかりぬ。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
七歳ななつのお美夜ちゃん……稚児輪ちごわって、派手な元禄袖げんろくそでのひとえものを着て、眼のぱっちりしたかわいい顔だ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私あれに控へてをりまして、様子は大方存じてをります。七歳ななつ八歳やつの子供ぢや御座いません、それ位の事は誰にだつてぢきに解りませうでは御座いませんか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「浩二は悧巧だ。目から鼻へ抜けるというのはあの子のことだろう。とて七歳ななつ八歳やっつの智慧じゃない」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
主人あるじは東に向い一拝して香をき、再拝して退さがった。妻がつゞいて再拝して香を焚き、三拝して退いた。七歳ななつの鶴子も焼香しょうこうした。最後におんなも香を焚いて、東を拝した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
勤め大事に骨さへ折らば御気に入らぬ事も無きはづと定めて、かかる鬼のしゆうをも持つぞかし、目見えの済みて三日ののち七歳ななつになる嬢さま踊りのさらひに午後よりとある
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
生籬いけがきの間より衣の影ちらちら見えて、やがてで来し二十七八の婦人、目を赤うして、水兵服の七歳ななつばかりの男児おのこの手を引きたるが、海軍士官と行きすりて、五六歩過ぎし時
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
なおりましたら七歳ななつまでにお庭の土を踏ませましょうと申しておきながら、ついなにかにかまけてお礼参りもいたさせなかったその御罰か、丈夫にはなりましたがあの通りの無鉄砲
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
うするとその主人は私にみずから新塾に出張して監督をして貰いたいと云う意があるように見える。私の家にはそのとき男子が二人、娘が一人あって、兄が七歳ななつに弟が五歳いつつぐらい。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
美くしい小さな Gonshan. 忘れもせぬ七歳ななつの日の水祭みづまつりに初めてその兒を
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
「へえ、七歳ななつかい。ちいさいじゃあないか。おそ生れなんだろう。」
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
私の七歳ななつ八歳やつつぐらゐの時に、私の母の両親は極く近い所にある私の家の借家を隠居所にして居ました。龍源の叔母はよくおさやんをれてその隠居所へ来て居ました。私もよく其処そこへ行つて居ました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
七歳ななつの時、手をひかれて、初めて洲股すのまたの城へ母と共に頼ってゆき、小姓として仕えてから九年、虎之助ももう十五になっていた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……七歳ななつばかりの男の子を連れた、五十近い親仁おやじで、加賀の金石の港から、その日漁船の便で、海上十六七里——当所まで。これさえ可なり冒険で。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
 (重兵衛は笑いながら、かみのかたの障子をあけると、七歳ななつの太吉が寝床から這い出して来る。)
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その子供らはこの人のよい叔父にすっかり、なついてしまった。兄貫一の子は三人あって、お花というが十五歳で、その次がさきの源造、末がいさむという七歳ななつのかあいいである。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
私が七歳ななつであったころに、四十位な年配ねんぱいで、小笠原の浪人加賀美暁之助かがみぎょうのすけという人だった。
見よう見まねで、静子の二人の妹——十三の春子に十一の芳子、まだ七歳ななつにしかならぬ三男の雄三といふのまで、祖父母や昌作、その姉で年中病床とこについてゐるお千世ちせなどを軽蔑する。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
今この子が七歳ななつ五歳いつつだとうけれども、モウ十年てば仕度したくをしなければならぬ、ドウもソレまでに金が出来ればいがと、人に話して居ると、誰かこの話を例の豪商にも告げた者があるか
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
七歳ななつのとしに父親てておや得意場とくいば蔵普請くらぶしんに、足場を昇りてなかぬりの泥鏝こてを持ちながら、下なるやつこに物いひつけんと振向く途端、暦に黒ぼしの仏滅とでも言ふ日で有しか、年来れたる足場をあやまりて
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
第一大変きれいな手をしていますでしょうよ。でも一歳ひとつの時にはそれはおかしな手をしていました。ええそうですよ。——今では大きくなってるでしょう。もう七歳ななつですもの、りっぱな娘ですわ。
廣澄ひろすみぬ。——七歳ななつの我は
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
「何せい、七歳ななつぐらいからあの居酒屋へ奉公しておりますので、馬方やら、この辺の紙漉かみすきやら、旅の衆に、人中ひとなかまれておりますでな」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、実際むつ七歳ななつぐらいの時に覚えている。母親の雛を思うと、遥かに竜宮の、幻のような気がしてならぬ。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おなじ長屋に住んでいる鋳掛いかけ錠前直しの職人の女房が七歳ななつになる女の児をつれて、神明のお宮へ参詣に行って、四ツ(午後十時)少し前に帰って来ると、その晩は月が冴えて
半七捕物帳:12 猫騒動 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「われもよくは知らず、十六七とかいえり。うみの母ならでさだかに知るものあらんや、哀れとおぼさずや」翁はとしより夫婦が連れし七歳ななつばかりの孫とも思わるるを見かえりつついえり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
くさ双紙ぞうしの、合巻ごうかんかきでは、江戸で第一の人だったけれど、貧乏も貧乏で、しまいは肺病で死んだ。やっぱり七歳ななつぐらいから絵をおしえてくれた。その時分三十五、六だったろう。
然し今はただ一色ひといろよごれはてた、肩揚のある綿入を着て、グル/\巻にした髪には、よく七歳ななつ八歳やつの女の児の用ゐる赤い塗櫛をチヨイと揷して、二十はたちの上を一つ二つ、頸筋は垢で真黒だが
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
七歳ななつたな長松ちやうまつさへも
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そのうちに、藤吉郎はふと、片隅の方に、ちょこなんと坐っている七歳ななつばかりの男の児と、その側にある貧しげな後家風ごけふうの女に気がついて
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まあ待て、先方さき七歳ななつの時から仏蘭西で育ったんなら、手前どものは六歳むッつ年紀としから仲之町なかのちょうで育ったんです、もっとも唯今ただいま数寄屋町すきやちょうりますがね。」
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お久はお菊よりも七歳ななつの年上で、この店に十年も長年ちょうねんしている小賢こざかしげな女であった。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
家族は六十七八になる極く丈夫な老母、二十九になる細君、細君の妹のおきよ七歳ななつになる娘の礼ちゃんこれに五六年前から居るお徳という女中、以上五人に主人あるじの真蔵を加えて都合六人であった。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
七歳ななつたなの長松さへも
緑の種子 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それも七歳ななつのこと。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
後はみなしごなる女の年紀とし七歳ななつばかりなるが、大人の穿切はききらしたる草履を引摺ひきずり、ばたばたとけて来て、小石につまずき、前へのめり、しばらくは起きも上らず。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて、生信房は、法衣ころものすそもたもとこがされた姿で、三歳みっつばかりの幼子おさなごを引っ抱えて駈け戻ってきた。その上に彼はまた、ほかの七歳ななつばかりの子を背中に負い
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
七歳ななつの頃から今川家の質子ちしとはなったが、臨済寺りんざいじ寒室かんしつで、雪斎和尚せっさいおしょうについて、学問をうけた家康は、その点、秀吉とは、比較にならない高等教育をうけている。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それだけにまた儕輩せいはいに群を抜いて、上流の貴婦人に、師のごとく、姉のごとく、敬いたっとばれている名誉を思え、七歳ななつ年紀としから仏蘭西フランスへ行って先方むこうの学校で育ったんだ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
七歳ななつの日吉と、十歳とおになる姉と、わずか二人に過ぎなかったが、どっちもまだ何の働きに出せる年でもないし——良人おっと弥右衛門やえもんは、夏でも炉ばたに坐ったきりで
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)