難有ありがた)” の例文
若いものは若い同士、本家の方へお連れ申して、土用正月、歌留多うたがるたでも取って遊ぶがい、嫁もさぞ喜ぼう、と難有ありがたいは、親でのう。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
純一は日本での enアン miniatureミニアチュウル 自然主義運動を回顧して、どんなに贔屓目ひいきめに見ても、さ程難有ありがたくもないように思った。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
友だち く方も、尋かれる方も、あんまり難有ありがたい事ぢやないからね。もつとも君がいよいよいいと云へば、私も度胸を据ゑて、承る事にするが。
世之助の話 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
をかく人々、字をかく人々に告ぐ。お金を払つて買つて下さるは、まことに難有ありがたいお方なり。しかしながら大抵は、わからぬ奴なり。
青眼白頭 (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
『お早くから難有ありがたう御座いました。留守の子供達もいろいろお世話になりまして難有ありがたう御座いました。御親切はきもに銘じてります。』
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
高時殿はどうせ家を滅ぼす奴だから難有ありがたい人物ではなからうけれど、一族二百人枕を並べて自殺した最期は心あるものの涙をそゝぐ種だ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
ええ、又唯今程は格別に御茶料をくだし置れまして、はなはだ恐入りました儀で、難有ありがたう存じまして、厚く御礼を申上げまするで御座います。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
今まではあんなに世話になって別段難有ありがたいとも思わなかったが、こうして、一人で遠国へ来てみると、始めてあの親切がわかる。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたくしやま修行場しゅぎょうじょうりながら、うやら竜宮界りゅうぐうかい模様もようすこしづつわかりかけたのも、まったくこの難有ありがた神社じんじゃ参拝さんぱいたまものでございました。
萬歳ばんざい難有ありがたいが、おにともまんず荒男あらくれをとこが、前後左右ぜんごさゆうからヤンヤヤンヤと揉上もみあげるので、そのくるしさ、わたくし呼吸いきまるかとおもつた。
猪子蓮太郎との関係だつても左様さうでせう。彼様あんな病的な思想家ばかり難有ありがたく思はないだつて、他にいくらも有さうなものぢや有ませんか。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
いふまでもなく村井建築技師から來たもので、わたしも大いに嬉しくなり、それまでの腹案をば捨てて、難有ありがたい、一切頼むと返事しました。
金比羅参り (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
実はただ直りそうな様子を見て、難有ありがたく感じていただけではあるまいか。そうして見れば何も深く自分を罪するには及ばない。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
実に難有ありがた目出めでたい次第であるが、その目出たかろうと云うことが私には始めから測量が出来ずに、ただその時に現れた実の有様にを付けて
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
難有ありがたう……」Bはわざと外国風にSの手を握つて、「それよりも、君の私用も何んな私用だかあやしいもんだね。うまい私用ではないかね?」
時子 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
「どうも色々難有ありがたう、それで安心しました。然し今も其小屋に居て呉れゝば可いが。始終居所が変るので其れで道庁でも知れなかつたのだから。」
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
して一般の低地は商人街あきんどまちである。王宮は立派な近年の建築であるが、さびの附いて居ない白い石造いしづくりには難有ありがた味が乏しい。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
... しめて来たまえ(大)夫や実に難有ありがた畢生ひっせい鴻恩こうおんだ」谷間田は卓子ていぶるの上の団扇うちわを取り徐々しず/\と煽ぎながら少し声を低くして
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
これはこれかたじけなくも難有ありがたくも日本文明の一原素ともなるべき新主義と時代おくれの旧主義と衝突をするところ、よくお眼を止めて御覧あられましょう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
私はその境界きょうがいがいかに尊く難有ありがたきものであるかをかすかながらもうかがうことが出来た。そしてその醍醐味だいごみの前後にはその境に到り得ない生活の連続がある。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
養母おつかさん、わたしを食つた其鬼が、お前の難有ありがたがる大臣サ、総理大臣の伊藤ツて人鬼サ、——私もネ、其れまでは世間なみの温順おとなしむすめだつたことを覚えてますよ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ああ、おれはもう自由な体になって、こんな難有ありがたいことはない。何処へでも勝手に出歩くことが出来るのだ。
ピストルの蠱惑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「おう/\俺達は後から行くさかいな、先に行つて待つてございの、死ぬのではない、生れ代らして貰ふのやさかい、難有ありがたいと思うてお念仏申さつしやい。」
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
この珍らしい立派な鳥が二羽も并でいるのが今日謂うところの友である。一羽でも珍らしいのに二羽も集ってくれるので難有ありがたさは二倍三倍百倍するに相違ない。
イエスキリストの友誼 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
(娘の顔の甚しき失望を表わせるに心付きてことば急に。)うむ。うむ。お前の掃除をしてくれたのも思いかけない事には相違ないのだ。よくやってくれた。難有ありがたいよ。
その手早いのには乃公も喫驚びっくりしたくらいだ。そして「あら、歌さんの肩に松葉がついててよ」と言いながら、二人で二階へ上って行った。難有ありがたいとも言いはしない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それを読んだ石田はもしもあの時会計の臼木さんが居なかったなら、自分もとんだ目に遇わされたかも知れなかったと、難有ありがたいやら懐しいやらで、臼木へ手紙を出したのであった。
老人 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
難有ありがた迷惑な次第には違ひ無いが、たとへ斷るにしても叮嚀に斷るべき筋合であらう。
難有ありがたいと、それをかばんれてると、ふるひかひつて女土方をんなどかたが、ちいさなこゑで。
難有ありがたうございます。」と口の中で言ひながら、改まつてお辞儀をした。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
然し若し此時、かの藻外と二人であつたなら、屹度外見みえはばからずに何か詩的な立𢌞たちまはりを始めたに違ひない。兎角人間は孤獨の時に心弱いものである。此變遷は、自分には毫も難有ありがたくない變遷である。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
始の程こそ屡〻我感情をそこなふこともありつれ、遭難の後病弱の身となりては、親族にも稀なるべき人々の看護の難有ありがたさ身にしみて、羅馬へ伴ひ行かんと云はるゝが嬉しとおもはるゝやうになりぬ。
禁裏の御用もたくさんあるので、実隆にとってはすこぶる難有ありがた迷惑に感じたのであるけれど、何にせよ武命で違背し難く、これを承諾した。その用向というのはほかでもない。源氏の打聞きであった。
退屈させて、お負にそれを難有ありがたがらせようと云うのか。3265
「たびたびどうも、複製をお送り下すつて難有ありがたう」
散歩生活 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
その難有ありがたいお慈悲じひわからぬか!
おや、まあ、いつそ難有ありがた
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
いわれを聞けば難有ありがたい。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
お世辞をいって紅白の縮緬ちりめんでも拝領しようという気はなしに、師匠が華族様を煽がせたといって、やけに腹を立てた柳屋のも難有ありがたい。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
測定器の正確を否定するか、彼等の作物の価値を否定するか、どっちにしても、難有ありがたい話じゃありません。——が、これは風説ですよ。
Mensura Zoili (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私は今まで口には出さなかつたけれど、心の内ぢや、狭山さん、嬉いなんぞと謂ふのは通り越して、実に難有ありがたいと思つてゐました。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
否、胆力とは両立し得ないで、しかも胆力以上に難有ありがたがって然るべき能力が沢山ある様に考えられる。御父さんから又胆力の講釈を聞いた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小皿には好物の納豆も附いた。其時丑松は膳に向ひ乍ら、かくも斯うして生きながらへ来た今日迄こんにちまでを不思議に難有ありがたく考へた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
病人は女の髪の上に、祝福をするように、手をひろげて載せて、小声で、「お前のこれまでの親切は難有ありがたかったよ」と云った。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
衣食さえ出来れば大願成就とおもって居た処に、またはからずも王政維新、いよ/\日本国をひらいて本当の開国となったのは難有ありがたい。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
東京とうきやう仕事しごと如何どうです。新聞しんぶん毎々まい/\難有ありがたう、續々ぞく/\面白おもしろ議論ぎろんますなア』と先生せんせいぼくかほるやくちひらきました。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
何しろ難有ありがたかつた。この大降りに女連れではあるし、田舍道の若し遠くでもあられては眞實困るところであつたのだ。
鳳来寺紀行 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
馬琴の作が考証精覈せいかくで歴史上または地理上の調査が行届いてるなぞと感服するのは贔屓ひいきの引倒しで、馬琴に取ってはこの上もない難有ありがた迷惑であろう。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
例のとおりお父様の声色こわいろである。この男は少しも僕を保護してはくれなんだ。しかし僕は構わぬのが難有ありがたかった。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
難有ありがたい、さうおつしやつて下さる人は、貴郎ばかり。決して……決して」と重右衛門は言葉を涙につかへさせながら
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)